◆本当に大切なこと
satsukiさま作


  ゴ〜ン・・ご〜ん・・ゴ〜ン・・・
  また、一年が過ぎ、新年を迎えた・・
  
 「お父さん、おじさま。二階で寝てください。風邪をひきますよ・・。」
  一番上のお姉ちゃん、かすみお姉ちゃんがおソバの器とか、お酒の飲んだ後とかを一通り片付けてからお父さんたちを優しく
  揺すって起こしてる。
  それくらいじゃ、起きないのに・・お姉ちゃん優しいから・・
 「全く・・困ったわねぇ。乱馬、お願い。」
  おばさまも頬に片手を置いて、ふぅっとため息ついてる。
  ホント、2人とも今日はいつもの倍以上は飲んでたからな・・。無理もないか・・。
 「たくっ・・後のことも考えねーで、ぐーすか寝やがって。どーしよーもねぇ!正月ぐれー、人間に戻れってんだ。パンダおやじ!」
  新聞のテレビ番組を眺めてた乱馬が立ち上がって、すぐ横に転がってるおじさまを一度蹴っ飛ばした。
  乱馬の蹴りは普通の人とは比べ物にならないほど強いのは分かってるけど・・
  何も、襖破ってまで転がって行かなくても・・。本当に寝てるのかしら?おじさま。
 「けっ!!」
  捨て台詞を吐きながらも、ちゃんとおばさまの言うことを聞いてるのは流石だわ。
  ・・乱馬って意外とお母さんっ子よね・・
  背中に大の大人2人を背負っても、平然として歩きながらブチブチ文句を言ってる乱馬にちょっと私はカマをかけてみた。
 「乱馬のばか力も、たまには役に立つのね。」
 「何、言ってんでー!すぐそこの、怪力女にゃ、言われたくねーな。」
  ぶちっ!!
  ぬわんですってぇ〜〜!!
  まるで用意してたみたいに即答してっ!
  私は、お父さん達に当たらないように、乱馬の頭目掛けてコップを投げつけてやった。
  カ〜ンって心地良い音!もちろん命中!『凶暴!』ってぼそっと聞こえたからもう一発!!
  んもうっ!今年はあまり怒らないように努力しようと思ってたのに、たった5分で終わっちゃったじゃない!
  乱馬のバカッ!!
  
  結局、そのまま皆、部屋に戻って寝ちゃったんだよね。
  大掃除で走り回ってたし・・。
  明日・・じゃない、今日、乱馬一緒に初詣行ってくれるかな・・?

  −−AM8:30−−
  ふわっと欠伸して目を擦ってたら、部屋の外から甘い良い匂いが漂ってきた。
  あっ、おせち料理だ!
  私、伊達巻大好き!下行って、お手伝いしよう!
  そう思ってとりあえず服を着替えて、顔を洗ってから台所に入った。
 「おはようございます!おばさま。かすみお姉ちゃん。」
 「あらっ、おはよう。あかねちゃん。」「明けましておめでとう。あかねちゃん。」  
  おばさまも、かすみお姉ちゃんも笑顔で返してくれた。
  えへへっ!なんかいい事ありそうっ♪
  鼻歌交じりに料理をお盆に乗せて運んでたら、なびきお姉ちゃんも嬉しそうにテーブルの上を整えてた。
 「おはよう。なびきお姉ちゃん。なんかいい事あったの?」
  私なんかより数倍嬉しそうななびきお姉ちゃん・・。なんでだろ・・?
 「あっ、おはよう。あかね。いい事?ふふん♪今からあるのよ。あかね〜、あんたもちゃんとせがまないと貰い損ねちゃうわよ。
  早乙女のおじさまから。」
  あっ・・お年玉・・。でも、おじさまは・・やっぱ、無理じゃないかしら・・ι
 「あかねちゃ〜ん!乱馬達、起こして来てもらえる?」
 「あっ、はーい!!」
  お仕事、お仕事・・。
  何時の間にか、乱馬起こすの、習慣になっちゃったなぁ・・。

  −−AM9:15−−
 「乱馬っ!起きてっ!朝よっ!あ・さ!!」
  ばしゃーんって音と同時に水が全身にかかった。
 「ぶわっ!冷てーーーっ!!」
 「起きた?もうっ、お正月ぐらいちゃんと自分で起きなさいよ!あっ、おじさま、起こしといてね。よろしく〜」
  何が‘よろしく〜’だっ!
  あかねの奴、冬だってーのに、思いっきり水ぶっかけて、にこやかに去って行きやがった!
  たくっ、昨日・・んっ?今日か・・今日の2発といい、起こし方といい、色気がねぇ!!!
  なーんて口に出して言ったら、それこそ二の舞だから、俺は心の底で思いっきり文句をぶつけた。
  ついでに、憂さ晴らしにおやじにも水をぶっかっけて起こしてやった。
  起こしてやるだけでも、親切ってもんだろ?
 「ぱふぉ〜〜(何をするっ!怒)」
 「朝だとよ。飯、食いにいこーぜ。」
 「ぱふぉふぉふぉっ!(だからって、水をかけなくてもよかろう!バカもんっ!)」
  ばこっ!
 「いってーー!!何しやがるっ!くそおやじ」
  結局、朝っぱらからおやじと格闘することになった。

  −−AM10:00−−
  おやじと一喧嘩し終わる頃には、皆居間にそろっていた。(もちろん、俺の勝ちだ!)
  おじさんは俺達より一足先に起きて、あかねのかーさんに新年の挨拶をしてたらしい。
  そこら辺は、やっぱうちのすちゃらかおやじとはちげー、おじさんのしっかりしたところだよな。
  何時もすげーと思うし、尊敬も出来る。
  まっ、とりあえず置いといて、運動した後だから腹が減ったぜ。
  俺は足早に食事の席(つまり、あかねの隣だ)についた。
 「さぁ、皆そろったところで・・、明けましておめでとう!今年もよろしく頼むよ。はっはっは。」
  おじさんの言葉を合図に、全員で‘おめでとう’だの‘よろしく’だの言ってやがる。
  早く、飯が食いてーなっ・・って思ってた矢先・・
 「乱馬、今年もよろしくねっ!」
  あかねが、満面の笑顔で隣から覗きこみながら言ってきた。
 「おっ・・おう。」 
  なんとかそう返したが、俺の体中、ドギマギしてやがる。
  あかねの笑顔、嫌いじゃねーが、こう大勢の前だと、やっぱちょっと辛いもんがあるな。
  ・・特に、この家族の前はな・・
  そうこう思ってる内に、目の前の大量のおせち料理がすごい勢いでなくなっていく。
  顔が赤くなった瞬間を見られた気配は無さそうだから安心だけど、今の状況にゃ、納得いかねーな!
 「おいっ!おやじっ!そんなに数の子取んなよ!あ"ーっ! カマボコがねーっ!」
 「ぱふぉっ!(パンダはお腹が減るんだよ〜ん)」
 「だったら、人間に戻れってんだ!うっとおしい!パンダは大人しく笹を食えっ!」
  おやじとの第2戦開始だ。
 「全く、飽きもせず、正月早々、よくやるわね。」
 「ホント。」
 「いや、新年早々の格闘。多いに結構!これで無差別格闘流も安泰安泰。はっはっはっ」
 「乱馬君〜。おじさま〜。お雑煮が冷めますよ〜っ」
  なびきを始めに、あかね、おじさん、かすみさんが何か言ってたけど俺の耳には入らなくて、おやじと乱闘を続けてたけど、
  最後にお袋が日本刀を持ち出して、見事に沈下。
  ・・やっぱ、切腹はこえーよ・・
 
  −−PM12:00−−
  ドタバタした食事も、多量な食器も全てが片付いたのは11:30を回っていた。  
  やっと一段落ついたけど、これからどうやって乱馬を初詣に誘おうかな・・・
  って考えてたら、いきなりおばさまが私の事を部屋に呼んだ。なんだろう・・?
 「おばさま?入ってもいいですか?」
  一応、部屋の前で断ったら、すぐに「あかねちゃん!どうぞ。」って言葉が返ってきた。
  ・・なんか、とっても嬉しそうな声音・・ホント、なんだろう?
  す〜と襖を開けて中に入ってみて、驚いた。
  だって、床には着付けに使う紐とか帯とかが綺麗に並べられてたし、その中でも一番目を引いたのはその着物の本体。
  ・・オレンジや黄・黄緑・水色と淡い色の模様の入った、薄ピンク色の着物本体・・
 「おばさま・・これは・・?」
 「これはね、あかねちゃんへのプレゼント。おばさんお手製よ。」
 「そんなっ!こんな素晴らしい物・・私なんかより、ずっとおばさまの方がお似合いです!」
  本当に本心からそう思った。
  だけどおばさまは・・
 「そんなことないわ。あかねちゃんの方が、絶対似合うわ!だっておばさん、あかねちゃんが着てくれるの、とっても楽しみに
  しながら作ったんですもの。ねっ?着てくれるかしら?」
 「おばさま・・。有難うございます・・。本当になんと言ってよいか・・。」
 「どう致しまして。さっ、早速着てみてちょうだい!」
 「はいっ。」
  もう断る理由なんか無かった。
  こんなにおばさま嬉しそうなんだもの。・・‘お母さん’っていいなって、改めて思ったな・・  
  
  −−PM12:45−−
  二階で、なんかあかねとお袋がゴソゴソやってっから覗きに行ったら、部屋の前でなびきが立って待っていた。
 「乱馬君。やっと来たのね。これで、私もお役御免だわ。」
 「はぁ?何、言ってんだ?おめー。」 
 「まぁ、話は最後まで聞きなさいよ。今、この部屋にはあかねとおばさまがいる。いいわね?」
 「??何が?」
 「それを覗いたら、あんた間違いなく切腹ね。」
 「何でだよ。」
  なびきの言ってる事がさっぱり分からない。俺の頭の上には?マーク散乱中だ。
 「とにかく、覗いたら切腹っておばさまに言われてるのよ。あんたはこれを持って、大人しく公園で待ってればいいの。」
  なびきの言う事はともかく、お袋は間違いなくこの中にいるんだから‘覗いたら切腹’って可能性は高い。
  俺は、素直になびきの手渡す小さな袋を受け取った。    
 「なんだ?これ。」
  なびきに聞き返したが「おばさまからよ。上手く、使いなさい。」と言っただけで自分の部屋に入っていった。
  袋を開けると、1万円と1枚のメモ。
  そこにはお袋の文字で‘明けましておめでとう。乱馬。これはお年玉です。大切に使いなさい’って書いてあった。
 「ありがてぇけど・・なびきの言ってた『上手く使え』ってどーゆーことだ?」
  意味がさっぱり分かんねーけど、とりあえず言われた通りに公園で待つことにした。

  −−PM1:10−−
 「さっみぃ〜〜。たくっ、何だってこんなとこで、何を待ってんだ?俺は。」
  元旦早々、北風に吹かれてるなんてシャレにもなんねぇ・・って息を吐く度に白く舞い上がるのを見送りながら1人ベンチに
  座って20分前後。
  いい加減に痺れが出てきてイライラし始めた時、すぐ横から小さい声がかかった。
 「あっ・・あの・・乱馬?あの、待たせてゴメンネ・・」
  それが誰だかすぐ分かったから、俺は強い口調で返そうとしたけど、途中で止まっちまった。
 「おめー、何分待たせりゃ、気が・・・」
 「だからっ、謝ってんじゃない!って、乱馬?どーしたの?」
  どーしたも、こーしたもねーだろ?
 「おめー・・その服・・」
  俺は、情けないことにあかねの姿に目が釘付けになってしまった。
 「あっ・・うん。おばさまがね、作って下さったの。わざわざ私のために。・・似合う・・かなっ・・」
  そう言ってあかねはくるっと一回りしてみた。慣れない下駄に足を取られながらも。
  ここ最近、お袋が何か作ってたのは知ってたけど、まさかあかねのだったなんて・・
  似合わないはずがない。
  センスがあって、あかねの好みもよく知ってるお袋が作ったんだ。
  こいつに、似合わないはずが、ない・・
  けど、やっぱ口に出てくるのは、
 「かっ・・かっ・・かっ・・可愛くねぇ!でも、寸胴には和服が一番だな。うん。」
  それだけで、あかねの表情を歪めるのは十分だった。
 「乱馬なんか〜、大っキライ!!!」
  って思いっきり引っ叩いて、くるりと方向を変えて歩いていった。
  当たり前だよなぁ。
  俺が悪いのは明らかだけど、流石にすぐに謝るのはヤバイだろうと反射的に思って、こそっとあかねの後を追っかけていったのが
  更なる地雷を踏んでしまった。
 「あいやぁ、乱馬ぁ!私に会いに来たか?大歓喜!」
  と、まずシャンプーに抱きつかれ、それからは予想するまでもなく・・
 「うちの乱ちゃんに、なにすんねん!乱ちゃんはうちの許婚やでっ」
  と、うっちゃんが来て・・
 「乱馬様は私のモノですわ!ほ〜っほっほっほっほっ!!」
  と、小太刀がやって来る。
  たくっ、どこからやって来たかは知らねーが・・勘弁してくれよ・・
  と思ってあかねを追おうとしたが、その必要は無かった。
  あかねは50mくらい先からこっちを睨んでいた。
 「げっ!ちょっと、あかね、待て!おいっ!」
  そんな言葉であいつが待つ訳もなく、スタスタと何時の間に着いたのか神社の階段を登っていった。
 (そうか・・初詣・・)
  やっと何もかもが、繋がったような気がしたが、もう遅い。
  俺は、すでにあかねとケンカしちまったんだから。

  −−PM2:30−−
 「乱馬の、ばか。バカバカバカっ!ばかっ!!せっかくおばさまが作って下さったのに・・。あんな言い方、ないじゃない!
  口の外に出てくるのは怒りの言葉ばっかりだけど、だんだん目元が重く、熱くなっていくのが自分でもよく分かった。
 「私って・・そんなに魅力ないのかな・・」
  そう思うと腹が立つ以上に哀しくなった。
  あんな奴のせいで泣きたくなんかないのに、どうして涙って出てくるんだろう・・?
  私、乱馬が来てからホント、よく泣いてるよね。それも、乱馬のことばっかりで。
 「あぁ、どうしてなのよ!乱馬の方が悪いのに、なんで私が泣かなくちゃなんないのよ!」  
  ゴシゴシと手で目を擦った。・・なるべく、頂いた着物を涙なんかで汚さないようにゆっくりと・・
  せっかく神社に着たんだから、手を合わせてお参りに行った。
  乱馬とのことを頼みたかったけど、さっきのことがシャクに触ったから足り止め!
 (今年も一年、皆、健康で・・)
  パンパンと手を2回程叩いて、特に用事も無かったからとっとと帰ろう・・
  乱馬はどーせ今頃シャンプー達と仲良くやってるわよ!ふんっ!

  ヤキモチの後は後悔って何時も決まってるんだけど、今回は違った。
  神社の長い階段を下り終えた瞬間だった・・

  プッ!プーーーっ!
  すごい勢いでトラックが一台、横道(つまり神社の前の道)に入って来た。
  道行く人は迷惑そうに避けるか、小さな子を守るかしている。
  私も避ける方の一員だった。そこ・・道路の中央にクラクションに怯えて立ちすくんでしまった1人の子供を見つけるまでは・・
 「危ないっ!!」
  それ以後、私は必死だった。
  それこそ、おばさまが揃えてくれた着物も、下駄も、髪飾りも、そして薄く施してくれたお化粧も、その全てを忘れて飛び出した。
  トラックの運転手も年始の渋滞でかなりイラツいているらしく、子供がいようがお構い無し。スピードを落とそうとしない。
  人間として、最低だわ!
  私がその子を両手に抱きかかえてから、その距離5m。
  駆け出した勢いがあったのが、幸運だったみたい。
  そのまま、受け身を取って道路の端に転がり込んだ。
  私はただ、その子が頭をぶつけないように気を配るのが精一杯で、自分のことなんかさっぱり頭に無かった・・。
  思いっきり背中を壁にあててしまったけど、それは着物の膨らんだ後ろ帯がカバーしてくれた。
  再び、地に足をついた時。私の格好は・・凄かった・・
  おばさまには悪いと心の底から思ったけど、後悔はしていなかった。
  だって、その子・・小さな女の子が『ありがとう!』って泣きじゃくって腫れた目を一生懸命擦って、笑って言ってくれたから。
  でも、時間が過ぎるにつれて気が萎んでいくのもまた、事実だった。

  −−PM3:20−−
  やっとシャンプー達を巻いて、階段駆け上ってあかねを探したけど、人が多いはなんだで、俺の目もちっとも役に立ちやしねー。
  しょうがねーから、神社で売ってるお守りと、屋台で見つけたあかねが好きそうなぬいぐるみを、貰ったお年玉で買って
  帰ろうとした時、階下でものすごいクラクションの音がした。 
 「何だ?事故か?」
  そーいうのって、結構興味持つのが人ってもんだろ?
  俺も見物しようと階段を下りてたら、なんか知らねーが途中から胸騒ぎがして来やがった。
  ・・あそこで、立って、ガキに手を振ってんの、あかね、だよな・・?
 「あいつ・・」 
  だんだんあかねの姿が近くなって、その容姿もハッキリしてくる。
  2時間前とは、似ても似つかないぼろぼろな姿。
  着物は汚れ、帯は緩まり、手と顔を擦り剥き、髪を乱した、まぎれもない‘あかね’
  そんなになっても、あかねは「羞恥」などない満足げな表情をしているのは、俺じゃなくても分かるだろう。
  近くで見届けてたらしいばーさんが、あかねに近寄ってって、帯を締め直している。
  あかねはばーさんにお礼を言ってから、ゆっくり家に向かって歩き出した。
  着物が汚れて気落ちしたからゆっくり歩いてるんじゃねぇ・・確かにちっとはそれも、あるだろーけど・・
  あいつは、足のどこかを打って、痛めたんだ。
  これは、きっと俺にしか分かんねーことだろうな。
  だてに、何ヶ月も許婚やってねぇぜ?
  俺はひょいっと壁の上に上がり、あかねが人通りの少ない一本道に入ったのを見届けてから、あかねの前に飛び降りた。
 「よぉ。」
 「・・・・・。」
  あかねは俺がいたことに気付いていたのかいないのかは分からねーが、無言で俺の顔を見てから、やがて目をそらせた。
 「おめー、足、どっか痛めただろ?見せてみろよ。」
  至近距離で見ると、あかねの現状は・・さっきより更にヒドク見えた。
  横を向いた頬から、血が滲み出てるのが嫌でも目に入って痛痛しい・・。
  当のあかねは・・
 「いいから・・ほっといてよ・・。どうせ、私は・・頂いた物もたった一日で、ダメにしてしまう、お転婆で、可愛くないわよっ!」
  と捨て台詞。
  んっとに、可愛くねぇ! 
  それでも俺は、ほっとく気にはなれなかった。
  あかねが泣いているのは後ろからでも分かったし、3mも行かずに座り込んだからな。
 「たくっ、だから足見せろって・・っ!!」
  俺は手で押さえてる場所を見た瞬間に、あかねを怒鳴ってた。
  そこは、赤く腫れているを通り越して、青白く変色じみてきていた。
 「ばかやろうっ!!無理するのも大概にしやがれ!これは、ほっといていい怪我じゃねーだろが!せっかく、可愛かったのに、
  これじゃ、台無しじゃねーか!!」
 「えっ!?」
  はっっと気付いたのも、言った後。口を手で押さえても、後の祭りってわけだ・・。
  
  −−PM3:40−−
  私は耳を疑った。 
  だって、乱馬が私のこと‘可愛い’って・・言った・・の?
  しばらく思考が回らなくて、でも言いたい事が沢山あって、ほとんどクチパク状態だったけど、これだけは分かった。
  帽子の笠の先っぽを片手で摘んで俯いてる乱馬は、照れている事。
  それでもちゃんと確かめたかった私が一言「あのっ・・」と踏み出し直後に乱馬が、ヤケクソみたいに話し出した。
 「あ〜!うるせ〜!!」
  ・・まだ何も、言ってないんだけどな・・
  それからぽそっと、
 「いや・・その、悪かったよ・・」
  って言って私に、袋を2つ差し出した。
 「何?」
 「開けるのは後だ。とりあえず、東風先生のとこ行くぞ」
  ぶすっとした口調でも、私の足を気遣うようにそっと乱馬は背負ってくれた。
  大きくて広い背中に安心して身を任せながら、私は「ありがとう」と呟いた後、そのまま眠ってしまった。
 「悪かったな・・。今度は絶対守ってやっから・・」
  そんな乱馬の声が聞こえたけど、それは・・夢だったのかもしれない・・ 
   
  −−その後ーー
  東風先生の手当てで、やっと腫れも引いてきたけど、しばらくは入院らしい。
  何しろ、その腫れせいで熱が一時40度近くまで上がってしまったから、絶対安静って東風先生にキツク言われた。
  少し落ち着いてからすぐに、私は乱馬に頼んでおばさまを呼んでもらった。
  どうしても、着物のことを謝りたかったから・・。
  でも、おばさまはその時こう言ってくれた。
  普段の優しさからじゃない、一人の人間として。
 「あかねちゃん。私は、嬉しいの。だって、こんなに可愛い女の子なのに、自分の身も、衣服も構わずに1つの命を助けたのです
  もの。どんなにボロボロになっても、助けたかった子を必死に守ったあなたは立派な武道家ね。服なんて、手があればいくらでも
  作れるけれど、命は手で作り出すことは出来ないでしょ?誰も、あかねちゃんがした事が間違いだなんて責めませんよ。
  本当に大切なのは『心』でしょ?」
 「おばさま・・。本当にゴメンなさい・・。有難うございます・・。」
  私は言葉が詰まって、謝る事とお礼を言う事しか出来なかった。
  それほど、おばさまの言葉は私の胸の奥に深く刻まれる、価値のあるモノのように思えたから。
      
  おばさまの話には続きがまだあった。
  
 「あかねちゃん。私はね、あかねちゃんがそんな『心』を持っている子だから、嬉しいのよ。
  ・・そんな子が、乱馬の許婚でいてくれることが、嬉しいのよ・・
  ちょっとあの子には、勿体無いほどかしら・・ふふっ・・
  沢山、喧嘩もするかもしれない・・。だけど、困った時とか、辛い時は頼ってやってほしい。
  あなたを守る力、きっと持っているはずだから・・。
  逆の時は、側に居てやってほしい。
  あの子は、意地っ張りだけど、本当はそう思ってると思うの。
  そうすれば、なんでも1人で苦しまないで、2人で乗り越えられるでしょ?
  だから、ね・・」
 
 「私は、あかねちゃんが乱馬の許婚として巡り会えて、本当に良かったと思っているのよ・・・」

  私は、なんて言うか‘嬉しい’なんて形容詞が使えない程の・・そう『感動』に近いような衝撃を受けた。
  っと同時に涙が出てきた。
 (私、乱馬の許婚でいていいんだ・・。自信を持っていいんだ・・。)
  止まろうとしない私の涙を見て、おばさまが「あらあら、困ったわね・・」とハンカチを取り出そうとした時、ドアが開いた。
 「お袋っ、もー、入ってもいーか?って、なんで泣いてんだ?あかね。」
  乱馬が(途中から)不思議そうな顔して、ずかずかと入ってきた。
 「まぁ、丁度良かった。乱馬、またあかねちゃんのことよろしくね。」
 「お、おう。」
  少しどもった言い方でも、私には十分力強く聞こえた、ような気がした。
  おばさまもそう思ったのか、私ににっこり笑いかけてから病室を出て行った。
  し〜んとする病室。
  それを破ったのは私の方だった。まだ、あの時貰った物のお礼、言ってなかったし・・
 「乱馬、あの、さ、お守りとぬいぐるみ・・ありがとう。」
 「ああ、あれか。どーってことねーさ。」
  イスに腰掛けて、ほっとしたように乱馬も話し出した。
 「大切にするね。」
  って笑ったら、心なしか乱馬の顔が赤くなったような・・と思ったら、
 「ところで、おめー、もう足平気なのか?」
  あっ、話そらした。
 「うん、大丈夫。もうすぐ退院出来るって東風先生言ってたわ。」
 「そっか。」
  気がつけば、お互いで笑っていた。
  乱馬の心の中は、どうかは分からないけど、きっと私はまた同じ屋根の下で生活出来る事が、とても嬉しいんだ・・
  側にある貰ったお守り(銀色の馬の下に‘学業’‘健康’‘恋愛’の3つのプレートを横に並べた感じ)の『恋愛』の小さな
  プレートをそっと握って、こう願った。
 
 (前進、出来ますように、見守っていて下さい。私なりに頑張っていきたいと、思います。本当に大切なのは『心』だから・・
  でも、ちょっと素直になれますように・・)
 
  乱馬が、ホントは仲直りのために買ってきてくれたお守りとぬいぐるみ。
  今年最初の、私の宝物。








作者さまより

ふっと思いついた小説なので、話がまとまっていないかもしれませんι
しかも、初の乱馬君&あかねちゃん視線的小説。
読み辛かった方スミマセンでした・・


 なるほどこういう書き方もあるのかと、感銘しつつ読ませていただきました。
 二人の気持ちの流れがとてもスムーズに入ってきて、読みやすかったです。
 それにしても、あかねちゃんの健気さがたまりません!ああ、もう一回こんな恋愛したい!(こらこら)
(一之瀬けいこ)



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