◇5月の3日間  the second Day  Part1
いなばRANAさま作


「たあああっっ」

 日曜の静かな朝を破る気合の声が道場に響く。鋭く放った一撃は相手を捕らえたかに見えた。が・・・

「!?」

 繰り出した拳の勢いそのままに、あかねは前方に投げられた。

だんっ
 受身をとって体勢を立て直したあかねの目の前に、拳がぴたりと突きつけられる。

「勝負あったな。」

 拳を引っ込めると、おさげ髪の少女はにっと笑った。


「悔しい、今度こそ入ると思ったのに!」
「あかね、おめーの攻撃は単調で読みやすいんだ。せっかく技を出すスピードとタイミングがはまってきたんだ、もう少しクレバーな攻撃を組み立ててみろよ。フェイントだって立派な戦術だぜ。」
「だってフェイントやっても読まれちゃうし・・・」
「そりゃそーだ、おめーの気が『フェイントやります』ってばかりにさっと引くからな。バレバレだぜ。」
「何よそれ、あたしが単純だと言いたいの?」
「攻撃面ではな。まあ直線的な破壊力がおめーの持ち味なんだから、しょーがねーとこもあるけど。」

 臨機応変、多彩な技、空中戦のような立体的な動き・・・乱馬の受け継ぐ早乙女流は自由奔放な修行スタイルならではの特徴を持つ。同じ無差別格闘流とはいえ、地に足のついた鍛錬を重んじる天道流とは対照的である。異なる方向性を極めあった二つの流派が一つになる時、無差別格闘流は「最強」の名を冠するのかもしれない。双方の親たちの若い後継者たちへの期待は無理からぬものだろう。

「とにかくもう少し肩の力を抜いて場を読めよ。力もスピードも技も上げ調子なんだ、活かせなきゃ勿体ねーぞ。」
「上げ調子って、本当に?」
「あったりめーだろ、俺が相手してやってんだから。」
「しょっちゃって!」
 さっとあかねはファイティングポーズを取る。すかさず変身しているらんまも構える。女の姿とはいえ、その目の鋭い不敵な輝きは男の持つそれ。体格とパワーの差を縮めるために変身して稽古相手をつとめるようになってまだ一ヶ月ばかりだが、絶好の練習相手を得たあかねの上達ぶりはめざましい。迂闊な手加減はもう出来ない。

 もっと早くこうして相手してやりゃ良かったな

 あかねのラッシュを紙一重で避けながら、らんまは思わざるを得ない。女相手じゃ碌な稽古にならないと心のどこかで思いつづけていた二年間、良いライバルに恵まれたこともあって、あかねとの稽古は軽視してきた。強い相手と当たることばかり求めて気負っていた自分。肩の力を抜くべきはこちらだったかもしれない。そしてそれは稽古に限った話ではない・・・

「!!」
 わずかな隙にあかねに懐に飛び込まれ、思わずらんまは加減せずあかねを突き飛ばした。

だだんっ
 辛うじて受身は取ったものの、あかねは胸を押えて咳き込んだ。
「あ、あかねっ」
 あわててらんまは駆け寄り、あかねの背をさする。
「すまねえ、大丈夫か?」
「・・・うん」
 咳を収めてあかねはうなづく。
「隙だらけだったよ、何考えてたの?」
「いや、おめー強くなったな、なんて。」
「それだけ?」
 あかねに追求され、らんまはどぎまぎする。
「だ、だからもっと早くからこうして練習してりゃ・・・俺、何だかえらい遠回りしちまったようで・・・」
「今からでも遅くはないよ。」
 あかねは真っ直ぐな瞳を向ける。言わんとしていることは全てわかっているというように。
「そ、そうだよな・・・」
 思いがけず胸のたかまりを覚えて赤くなるらんま。そこには厳しい稽古相手の姿はなく、目の前の少女にやっと素直に心を開き始めた初恋真っ只中の少年がいる。外見上は女であるがその中に少年の魂を見て取るのは、深く静かな愛情を寄せる少女にとっては造作もないこと。
 一夜明け、朝の穏やかな光の中でも、潮風の中で認め合い、結んだ新たな絆は薄れるどころか互いの瞳の中に確かに息づいている。

「さ、もう上がるか。」
「うん、相手してくれてありがとう、乱馬。」
 いくら自分の変身体質を理解してくれてるとはいえ、やはりあかねの前では男の姿でいたい。早くお湯をもらって・・・
「きょ、今日の予定は?」
 何気に切り出すらんま。少々上ずり加減の声が、はやる気持ちを物語る。
「特にないけど・・・でもちょっと勉強しようかなって。」
「勉強〜?」
「中間テスト、目の前よ。」
「・・・そだな。」
 これはこれであかねの傍にゆっくりいられる、らんまはそう自分に言い聞かせる。
「見てあげるから、しっかり勉強しようね。」
 励ますように微笑みかけるあかね。この調子では勉強になるかどうか怪しいものかもしれないが。


「はーい、お二人さん。」
「なびき・・・」「お姉ちゃん・・・」

 道場を出たところで二人はなびきに呼び止められた。
「あら珍しいわね、変身しているのは。」
「そーいえばそーかもな。今日は仕事休みか?日曜だもんな。」
 なびきの着ている夏物のレモンイエローのワンピースが初夏の日差しに映える。
「日曜休むのも久々かな・・・あんたたちが稽古欠かさないのと一緒よ。まあ無理もしてないけどね。」
「お姉ちゃん、今日はうちにいてくれるの?」
「そうね・・・午後ちょっと出るけど。乱馬くん、いえらんまちゃん、今日の午後空いてる?ちょーっと付き合ってほしいんだけど。」
「何だよそれ、この姿でか?」
「そうじゃなきゃ意味が無いのよ。らんまちゃんにすごーく関わり合いのあることだし、立ち会ってもらわないと、ね。」
 意味深ななびきの発言。この場でこれ以上の説明をする気はないらしい。
「行ってくれば、乱馬。」
「しょーがねーな、わーったよ。」
 あかねの勧めにあっさりとうなづくらんま。なびきがおや、という表情を一瞬浮かべるが口には出さなかった。
「じゃここを二時に出るから。というか迎えが来るんだけどね。」
「迎えねえ・・・」
「ならそれまで試験勉強しましょ。」
「あ、そーんな時期なんだ。頑張ってね、あかね、乱馬くん。」
「・・・」


「あーあ、もうやってらんねー」
 あかねの部屋で教科書広げて30分足らず、既に投げやり気分の乱馬にあかねは苦笑する。
「そんなんじゃまた追試か補習よ。二度手間になったら時間の無駄でしょ、面白くないことだったら余計に一度で終わらせたくない?」
「んなことわーってるよ。けど・・・」
「いいわよ。乱馬が補習受けさせられてる間にゆーっくり遊ぼうっと。」
「あ〜、ひっでえ〜」
 いたずらっぽい笑みを浮かべるあかねだが、ややしてその笑顔を引っ込めた。
「ゆっくり遊ぶなんて嘘。そろそろ推薦の準備も本格的に始めなきゃならないし、のんびりもしていられなくなるわ。」
「そうか、推薦狙うんだな。」
「いろいろ考えたんだけど、家に負担かけないように特待制度のあるところを受けてみようかと思って。」
「厳しいんだろ。」
「まあね。でも狙うからにはしっかり頑張るつもり。」
 きっぱりと言い切るあかね。強い意志を秘めた澄んだ瞳に、乱馬はうなづいてみせると教科書を持って立ち上がった。
「乱馬?」
「これから自分の勉強くらい自分でやるよ。お前の足を引っ張るわけにはいかねーからな。」
「あら、殊勝な心掛けじゃない。最初っからそうなら良かったのに。」
「うるせー」
「待ちなさいよ。見てあげるのは今度の中間まで。期末からは自分で勉強してね。」
「けど・・・」
「だーかーら、今度の中間で稼いでおかないと、一学期は悲惨でしょ。さ、教科書広げて!」
「・・・」


「乱馬は進学する気、無いんでしょう。」
「ああ」
「それでも、ううん、だから高校はしっかり出てほしいの。・・・長い修行に出る前に。」
「あかね、俺は・・・」
「あたしは止めないから。お父さんたちが何と言おうと、乱馬が行くって決めてるならもう止めないから。」
 微かに震える声。頭ではわかっていても気持ちはまた別の話。
「そうだ、俺にはやらなきゃならないことがあるんだ。けど・・・」
 乱馬はあかねの目をじっと見る。ダークグレーの深く澄んだ色の瞳。
「必ず帰る。たとえお前が・・・待っててくれなくても。」
「ばかっ、何言ってるのよ!あたしは・・・」
「どれだけ時間がかかるかわからねーんだぞ!・・・待っててくれだなんて言えるかよ。」
「言われなくたって待てるわよ!」
「わからねー女だな、そーじゃなくて・・・」
「じゃあ何だっていうのよ!」
「お前の将来を勝手に決めるわけにはいかねーだろうが!」
 あかねがはっと口を押さえる。
「あ、いや、だから・・・俺にはそんな権利はねーし・・・」
「嘘つき」
「へ?」
「あたしの許婚でいたいって言ったじゃない。それって・・・そういうことでしょ。」
「・・・俺、先走りしちまったな。やるべきことやってから言う台詞だったぜ。」
「乱馬・・・まさか!」
「いや、取り消すつもりはねえ。そんな口先だけの逃げなんか何の意味もねえからな。俺が自分で決めたことなんだ。」
「それならあたしだって自分で決めたんだから。許婚のことだって、乱馬を待つことだって・・・」
「あかね・・・」
「でもぼけっと待ってるわけじゃない、稽古だって勉強だってバリバリやって、乱馬が驚くくらい頭と体を鍛えるんだからね。」

 目の前の少女が鮮やかな輝きを放ったように乱馬には見えた。自分の心がどうしようもなく魅せられているのが、はっきりとわかる。口では待っててくれなくてもいい、と言いながらも本当にそうなったらとても耐えられないことも。

 目的を果たして修行から戻ってきたら、その時こそ俺・・・

「・・・先走りしててもしょうがねーな。まず目の前の壁をぶっ壊さねーことには前にも進めねーよ。」
「そういうこと。出かけるまでにこの章終わらせちゃいましょ。」
「・・・本当に壁ぶち破る方がずっと楽だぜ・・・」


 お昼ご飯をはさんでみっちりとあかねの個人教授は続けられた。なびきが呼びに来た時、乱馬は心底ほっとした。
「もうそんな時間か。じゃ俺、行ってくるわ。」
「せいせいしたって顔ね。まあいいわ、予定のところまでは何とかいったし。お姉ちゃんと楽しんでらっしゃいな。」
「なびきとじゃ楽しむどころか、一瞬たりとも気が抜けねーぜ。」
「あーら、言ってくれるじゃないの。ともかく変身してから来てね。下で待ってるから。」
 なびきは念を押すと、部屋から出ていった。
「どうあっても女の姿で来いって感じだな。」
「いったいどんな用事なんだろう。・・・気をつけた方がいいわよ。」
「脅かすないっ」
「冗談よ、冗談・・・」
 あかねはくすくす笑うと手を振った。
「早く行ったら?お姉ちゃん待たせると後が怖いわよ。」
「へーへー」
 ドアのところで乱馬はもう一度振り返った。窓から差す初夏のような光を浴びて、花のような微笑みを浮かべているあかね。
「!?」

 気のせいか・・・一瞬、影がよぎったような・・・

「あかね」
「どうしたの?」
「いや、その・・・」
 自分でもよくわからない思いに突き動かされて、乱馬はあかねの側に戻った。
「どうせ勉強するなら、さゆりや大介たちも呼んでおけよ。その方がいいって。」
「いきなり何言ってるの?別に呼んでも構わないけど・・・でもなんで?」
「その、理由があるわけじゃねえけど、あかねを一人置いていくのが・・・嫌なんだ。」
「乱馬?」
 あかねは怪訝そうな顔をしたが、自分を見る乱馬の目に真剣な光を認めて立ち上がった。
「あたしを心配してくれるの・・・」
「いや、だから・・・何となくそんな気がするだけなんだ。」
「ありがとう、でも大丈夫だから。さゆりたちには電話してみるね。」
「ああ、そうしてくれ・・・絶対だぞ。」

 昨日からずっと感じつづけてきた幸福感が、一転して言い知れぬ不安へと変わっている。そういうものなのだろうか・・・誰かを心の底から好きになるというのは。

「そんな顔しないで・・・ね。」
 頬に温かく柔らかな感触。
「え゛・・・わわわっ」
 体中の血が上ったと思うくらいに赤くなる乱馬。
「おまじない・・・これでもう大丈夫。」
 いたずらっぽく、そして少し恥ずかしげに笑ってみせるあかね。
「早く行って早く帰って来てね。」


「お待たせ。」
「全くだわ。」
 女の姿で天道家を出てきたらんまに、なびきはちょっとキツい目をくれたが、すぐに意味ありげな笑みを浮かべた。
「あかねの引き止め?それとも・・・」
「あんだよっ」
「ま、いいわ。・・・乗って。」
 門の前に止まっているリムジンをなびきは指した。
「これ、ひょっとして・・・じゃあ行き先は・・・」
「そ。ほらほら早く。」
 なびきに急かされてらんまが乗り込み、リムジンは動き出した。
「いったい何の用だよ、俺、あの家に行く気はねーぞっ」
「立ち会って欲しいのよ・・・決着をつけるところにね。」
「決着って・・・果し合いか?」
「違うわ。それよりもっと大きな意味を持つことよ。・・・実際に見てもらった方が話しやすいわね。」
「ちぇっ、もったいぶりやがって。」
 らんまはむっとしたが、何となくなびきの態度がいつもと微妙に違う気がして、それ以上の追求は止めにした。

「ところで・・・昨夜は遅かったそうじゃない。」
「・・・」
「ということは、あかねと行くところまで行っちゃったわけ?」
「ち、ちがわいっっ!」
 真っ赤になって否定するらんまに、なびきは両掌を上げる。
「そうみたいね・・・あんたたち、本っ当に奥手ね。今時天然記念物ものだわ。」
「うるっせーやいっ」
 ぷい、と横を向くらんまを見るなびきの目には、しかしからかいの色ばかりではなかった。

 それでいいのかもね・・・

 近い将来、確実に弟と呼ぶことになる少年、外見は少女だが、を見ながらなびきはそっと口の中でつぶやく。最初は面白半分で見ていた・・・余りにも反発し合う二人を。けれどもいつの頃からだろう、散々儲けのタネにしながらも、二人がうまくいってほしいと思うようになったのは。
 普段はつまらない喧嘩、それも一種のコミュニケーションであろうが、を一歩離れたところで傍観を決め込んでいるなびきだったが、それが深刻なレベル、下手をしたら破局になりかねないようなところにまでこじれた時、思わず助け舟を出してしまった。二人の手前、たまたまいい儲け話があっただけ、という態度は取っていたものの。
 余りにも恋には純粋で無防備な心ゆえに、お互いへの思いを素直に表せない少年と少女。たくさんのトラブルとお邪魔虫たちに翻弄されながらも、それを乗り越えて徐々に築いていった目に見えない絆。それがなびきの目にははっきりと見えた。リアリストであるがゆえに他に惑わされないその目で。

 恋だの愛だのにうつつを抜かすのはとんだ時間と労力の無駄、とこれまでは思い続けてきた。周囲で一喜一憂するクラスメートが子供っぽく見えて仕方が無かった。自分にはもっと大きなやりがいのある目標があるのだからと。
 けれども、呆れ、苦笑いし、時としてうんざりしながら見守ってきた二人から次第に目が離せなくなってきた頃、なびきは気づかざるを得なくなってきた。ひょっとしたら彼らに羨ましさのようなものを感じてはいないかと。

 あんたたちがいなければ、あたしは今、こうしていることもなかったかもね・・・

 外の世界は欲得ずく、と完全に割り切ってきたなびきに、二人は真っ向からのアンチテーゼを出した。まるっきりの赤の他人と何かを共有し合えること、そしてそう出来ることが何よりの喜びとなること・・・
 自分たちの代のプロムの中で、犬化してしまった九能を手なずけ、その後もショックで再起不能寸前に陥った九能に、最初は計算づくで手を差し伸べているうちに、なびきは段々と自分の気持ちの中に九能の存在を受け入れるようになってきた。九能の方はといえば、長い夢から覚めて最初に見たなびきに、刷りこまれたように一気に惹かれていったのだが。

 考えもしなかった・・・損得抜きで誰かのことを常に気にかけることなど・・・

 周囲からすれば、利害の上の結びつきに見えるかもしれない。特になびきに関しては。けれどもそうでないことは、皮肉にも当人たちだけはよくわかっていた。自分に都合の良い見方しかしない九能が、なぜかなびきに関してだけは驚くほどの洞察力を示してきたのだ。

「天道なびき・・・君が利害だけで僕の側にいるわけでないことは、他ならぬ僕がよくわかっている。」

 その時は何言ってるやらとかわしてしまったなびきだが、心のずっと奥底では言いようの無い喜びがこみ上げてくるのを感じ取っていた。

 九能ちゃんも大人になってきたものだわ・・・

 そして自分も。世慣れているつもりで、ある意味自分も子供だったのかもしれない。そのために現実を見据える目を曇らすつもりはないが、自分自身の気持ちと向き合おう、そうなびきは決心した。今日はまずその第一歩のつもりだ。

 何があったかは知らないけど、あんたたちもかなり前進したみたいね。互いを見る目がまるで違う・・・手を差し伸べたくてたまらないのに出来ない、そんな意地と気持ちのせめぎ合いが今は跡形もない。代わりに・・・そう、そこにいるだけで、目に出来るだけで幸せを感じているような・・・最初はてっきり一線を越えたのかと思ったけれど、それは違う。ひょっとしたら・・・

 なびきはまだそっぽを向いているらんまをそっと見やる。

 恋は相手を乞い求めること、でも・・・

 ふぅ、っとなびきは息をついた。

 心が通じ合い始めたら・・・それは既に愛、と呼ぶべきなのかもね。



「あれ、今日は休みかよ。」

 猫飯店の前で、大介は残念そうにひろしに言った。
『本日臨時休業』
 素っ気無い札が店の正面にかかっている。
「へえ、日曜の昼はかき入れ時なのに・・・里帰りでもしたんじゃねーの?」
「しょうがない、他行こ、他。」
「そだな・・・あれ?」
 大介は目をこらした。
「やっぱそうだ・・・ゆか、とさゆりだ。」

「どうしたの、二人してこんなところで。」
「ちょっと外でメシ食おうと思ってさ。」
 店の前で顔を揃えた四人。
「あたしたち、あかねのところに行くの。もう中間の追い込みしないと。」
「そうだ、あんたたちも来ない?」
「うーん、いいけどさ、あかねはともかく乱馬がいると勉強が進まないんだよな。」
「そうそう、すーぐさぼりたがってあかねと喧嘩始めるし。」
「ご心配なく、乱馬くん留守だって。」
「まーたどっか飛び出してんのか?あいつ、余裕かまして大丈夫かよ。」
「人のこと心配出来るの?」
「そうよ、早く教科書取って来なさいよ・・・あたしたち先に行ってるから。」
「ほーい」

 四人が再び別れて去った後、店の中から低いいらえが聞こえた。

「そうか・・・今、乱馬はいないのか・・・」

 がたり、とドアが開く。

「気が進まぬ・・・おらは、こんなことをさせたくない・・・」

 からりと晴れた空に似つかわしくない憔悴した面持ちのムース。

「これもみんなお前が悪いだ・・・乱馬!!」

バシン
 悲鳴のような音を立ててドアは閉まった。



 to be continued・・・

 written by "いなばRANA"




 何やら事件の予感が・・・
 がんばれっ!乱馬っ!!
(一之瀬けいこ)


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