◇春宵
いなばRANAさま作


 暦の上ではもう四月。開け放した窓から吹く風はどことなく柔らかい。軟風、とか薫風という言葉がしっくりくるような暖かで優しい春の息吹・・・夕闇が覆い初めても、まだ窓を閉めたくない気持ちにさせる。


「もうすっかり、春だな・・・」
 窓辺に立つ一人の少女。薄明りの中でもほのかに輝くような美しい顔立ち。ショートカットの髪が夕風にしなやかに揺れ、つややかな紅い唇から誰に話しかけるでもない言葉が滑り出す。
 天道あかね、17歳。花ならば八分咲きというところ。このところ急速にしっとりとした美しさが内よりあふれ出し、今まさに娘盛りを迎えようとしている。
 その大きく澄んだ瞳には深いとも浅いとも知れぬゆらめく光・・・妖しく惑う輝きがあふれる。・・・それは恋の陥穽に落ちてしまった者だけが持つ、この世で最も甘く切ない惑乱。気丈で勝気なあかねとて、例外ではない。


「お父さん達、まだ花見をしているのかな・・・」
 桜は今真っ盛り。あかねを除く天道家と乱馬を除く早乙女家一同は、家から程遠からぬ公園で花見をしていた。一旦は付いて行ったものの、適当な口実を設けて、あかねは一人家に戻ってきていた。どうしても浮かれ騒ぐ気にはなれなかったのだ。

  乱馬・・・まだ山にこもっているのかな・・・

 胸元で握り締めていた手を緩める。淡い薔薇色の輝きを放つペンダント。これを贈られた日から、ろくろく顔を見ず、話もしていない。高校が春休みに入るやいなや、逃げるように乱馬は山へ修行に行ってしまった。取り残された形になったあかね。以前の彼女なら、こんな状況は耐え難かったかもしれない。人前では意地を張って空元気を装い続けられても。ちょうど、二月の始めからあの日までがそうだったように。

  今、思い出しても惨めでつらかったな・・・今年の二月は

 二人の共通の友人である響良牙と雲竜あかり、をめぐるつまらぬ誤解を発端に、喧嘩、行き違い、そして仲直りのチャンスかと思われたバレンタインは決定的な喧嘩の舞台に。傍目から見ていてもおかしくなっていく二人の仲に、チャンスとばかりに乗じてくるライバル達。焼きもちを焼くことすら意地になって出来ず、顔ではポーカーフェースを装えても、心の中は涙すら凍りつくような散々な日々。乱馬の母のどかのそれとない心遣いが無ければ、本当にどうにかなってしまったかもしれない。

「あかねちゃん、大丈夫よ。」まるで実の娘に話し掛けるかのように優しく、思いやりにあふれたのどかの声。
「どんなに意地を張って背を向けても、乱馬の気持ちがどちらを向いているかはわかっていますからね。男の子は思うようにいかないことがあると、拗ねて遠くに飛び出すこともあるけど、結局はすごすご戻ってくるの・・・自分の気持ちを置いてきた場所へ。」
 淋しげな微笑を浮かべてうなづくあかねの手を優しく取ると、のどかは力づけるようにうなずき返す。
「少し、焦らしてあげるといいわ。こうなった責任の半分は乱馬にもありますからね。今度は乱馬の動く番ですよ。」
 その後、のどかと乱馬の間にどんなやり取りがあったかは、あかねにはわからない。ただ九能帯刀にプロムのパートナーにと執拗に迫られた時に身代わりになろうとしたり、ホワイトデーのお返しを真面目に用意したことからして、のどかにかなり痛いところをつかれたのかもしれない。乱馬自身にもあかねと仲直りしたい気持ちが強かったのは勿論のことだとしても。

 実のところ、プロムでの騒ぎ・・・乱馬が猫化してしまったこと・・に対して、あかねはそれほど腹を立てた訳ではない。乱馬自身にも被害者的要素があることに加え、猫化した乱馬は普段からは想像できないくらい素直にあかねに懐いてくる。膝の上にちょこんと乗っかって思い切り甘えてくる猫的乱馬・・・少し重いことを別にすれば、可愛いことこの上ない。当人には猫化した時の記憶はまるで残っていないというが、無意識の反映はあるのかもしれない。あかねとの絶交状態の反動とばかりに身を寄せ、のどを鳴らし、世にも幸せそうに全身全霊であかねを慕ってくる猫的乱馬を見ていると、今までの喧嘩を全て帳消しにしてもいいように思えてくる。猫化がなかなか解けず、帰り道に近所の猫達・・既に恋の季節に突入してこちらも気が荒い・・に片っ端から喧嘩を仕掛ける乱馬にあかねは呆れ果て、仲直りは果たせなかったのだが。
 その後はバスケ部の助っ人として、練習と試合に明け暮れる乱馬とすれ違いの日々が続いてしまった・・・あの日、ホワイトデーまで。

『約束する・・・これだけは絶対に忘れない・・・』
 誓いのように響く言葉・・・それぞれの耳と胸に宿るお揃いの輝き・・・空からの白い贈り物に包まれて初めてちゃんと交わした口づけ。


 その時のことを考えるだけで胸に甘い痛みが走り、全身の血管が収縮し、次の瞬間ものすごい勢いで体中を血がかけめぐる。


 その日以来、お互いにまともに顔を見ることも、口を利くこともできなくなってしまった。そんな二人の様子をいよいよ絶交かと慌てふためく天道家の男性陣。対照的に女性陣は静観の構え・・・のどかとなびきには思い当たる節があり、かすみはかわいい妹の心情を見誤っていない・・・何も口に出しては言わないものの。


 乱馬が修行に出かけて、あかねは取り残された淋しさを感じるより、自分の気持ちを整理する時間を持てたことにほっとした。ただしそれは決して楽なことではない。自分の気持ちと向き合うこと、それは今まで無意識のうちに避けていたことだから。でも・・・

  もう認めないわけにはいかない

  もう自分の気持ちを誤魔化せない

  私は・・・あいつのこと・・・

 あかねはぎゅっとペンダントを握り占める。

  お願い、勇気をちょうだい  ・・・あいつが帰ってきても、顔、見られるように

  このままでは私、どんどん弱くなってしまいそう・・・それは嫌なの
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 あかねは深いため息をついた。結局のところ、気持ちの堂堂巡りが続いている。今乱馬が帰ってきたところで、とても普通に接する自信は無い。もう2、3日のうちに乱馬は帰ってくるに違いない。それまでに・・・

「しっかりしなくちゃ」
 しゃんと背を伸ばし、気丈な言葉を口にする。空元気も元気のうちとばかり。いい加減部屋の中が暗くなってきたので、あかねは電気を点けようと窓に背を向け、スイッチの方へ向かった。その背に・・・

「よ、あかね」

  !! ・・・心臓が冷たい手で握られたよう。体がきん、と凍りつく。

「・・あ、あ・・・」

  頑張れ、私

「・・あんたねーっ、どっから入ってくるのよっ」
 気力を振り絞って振り向く。開け放した窓枠に腰掛けているのは、紛れもなく乱馬だった。


「んなこと言ったって一階は全部鍵かかってるし、俺、鍵持って出なかったから・・・そいでお前の部屋の窓が開いてるのが見えてさ。」
 有難いことに乱馬の顔は逆光でよく見えない。
「そ、そう・・・最近この辺にこそ泥が出てるっていうから、玄関閉めとくようにしているの。でも、連絡くれたら良かったじゃない。」
「したさ・・・誰も電話に出なかったぞ。」
「あ、きっとみんなでお花見に出てた時にかかってきたんだ。」
「お花見?」
「うん、皆まだ川向こうの公園で花見してるよ。行ってみたら。」
「行ってみたらって・・・お前はここで何してんだよ?」

  その質問には・・・答えにくい。

「ちょ、ちょっとね。人出に当てられちゃって。」
「そっか、そりゃわかる気がするな。桜はきれーだけど、桜の下はさいてーだからな。・・をーし」
 乱馬は何か思い付いたように手を打ち合わせると、担いでいた荷物を部屋の中に置いた。
「ちょっくら花見に行かないか。桜だけ、酔っ払い無し。」
「え?」
「穴場ってやつさ。靴、あるか?電気は点けるなよ。さっき自転車に乗った知り合いをやり過ごしたばかりなんだからな。」
 それが誰かは聞くまでも無い。
「うん、確か買ったばかりのローヒールがあった・・・あ、これこれ」
「もうちょっとしっかりした靴の方がいいんだけどな。まあいいさ、行くぞ。」

  花見というより、冒険の始まりみたい。


 意外なことに、乱馬が向かったのは桜で有名な近場の公園だった。どの桜の下も夜桜見物の花見客であふれ返っている。それを大回りして避けながら、乱馬はどんどん公園の奥に向かう。そっちの方は桜の無い雑木林になっており、花見客は行かないこともあって静まりかえっている。ちょっとした丘や窪地もあるので、小規模な森のようでもある。
「ねえ、本当に桜なんてあるの?」
 あかねは少し懐疑的になってきた。近所だけあってこの公園にはよく来るが、この辺りで桜を見かけた事は無い。
「へえ、地元のお前も知らねーんだ。こりゃほんっとーに穴場だぜ・・・お、ここだ。」
 乱馬が指したのは立ち入り禁止の札の奥。
「ちょっと・・・いいの?」
「堅いこと言うなって。その辺のがきんちょもよく遊んでるぜ。」
「・・・それって同じレベルってことじゃないの。」
「あーもう、先、行っちまうぞ。」
 あかねは仕方なく乱馬の後を追った。


 雑木林の中は真っ暗に感じられる。乱馬は夜目が利くらしく、気楽そうに歩いている。このあたり、幼い頃から各地を回って修行してきた賜物、だろう。
「今夜は十三夜だ。じきに月も出てくるし、慣れればそんなに歩きづらくないぜ。」
 都会育ちのあかねがろくに意識したことのないような月齢や、日の出、日の入りの時間、星の配置などにも乱馬は詳しい。驚いたことに潮の満ち干きなどもある程度知っていて、一度あかねは危ないところを助けられたことがある。
「そりゃ乱馬はそうかもしれなけど・・・あっ」
 あかねは木の根に足をとられかける。すかさず力強い腕があかねの体を支える。
「言ってるそばから・・・ま、都会っ子のお前には無理か。ほら、俺につかまって歩きな。」
「う、うん」
 ほとんど乱馬の腕にしがみつくようにつかまって歩く羽目になり、あかねは緊張で固くなる。乱馬に対する複雑な気持ちを抱えている今、一番避けたいシチュエーションだったかもしれない。

  桜、まだかな・・・こんな電燈も無い、人も来ないような所に・・・って!

 あかねは愕然とする。今さらながら。

  本当に桜、見に来たの??

「あ、あの、ね、あと、どのくらい、あ、歩くの?」
「何だ、もうへばったのか?根性ねーなぁ・・・ここ登りきったところだ。」
 あかねの動揺を他所に、乱馬の声は平静そのもの。足元はかなり急な上りになってきている。あかねの履いている靴では滑って歩きにくい。何度も足をとられそうになる。その度に何とか踏ん張ってこらえるものの、今度はその支点の足を滑らせた。
「おっと」バランスを完全に崩したあかねの体はすっぽりと腕の中に収まる。
「ちょ、ちょっと何するのよ!!あんた最初っからこーゆーつもりで・・・」真っ赤になって叫ぶあかね。
「何言ってんだ?あかね・・・ほら、着いたぞ。」「・・・え?」


 視界が開ける。どうやら二人が立っているのはちょっとした高台らしい。こんもりした林が眼下に広がる。丁度東南の方向に向いているらしく、月の出を間近に控えた空が、ほのかに白く輝く。
「下、見てみろよ。」
 乱馬にそう言われ、遠景に気を取られていたあかねは、視線を下に移す。
「あっ」
 足下に広がる淡い白さ・・・花をみっしりと枝に付けた桜の古木がひっそりとあった。
「これが乱馬の言っていた桜ね。」
「ああ、一本しかないけど、ちょっとしたもんだろ。ほら、月が出るぞ・・いいタイミングだ。」
 晧々とした光を放ちながら上る十三夜の月。春にしては珍しく冴えた月の光を浴びて、桜の木は静かな白い輝きに包まれる。澄み渡った月に磨かれ、花は夢幻の美しさをまとう。
「綺麗・・・とっても」
「来た甲斐、あっただろう?」
「うん・・・ありがとう、乱馬」
 しばし口を閉じて見入る月映えの風景。すっかり引き込まれてしまっているあかねの横顔が、月明かりにきらめくよう。乱馬には桜よりむしろ、こちらの方が心惹かれたかもしれない。


 ふとあかねは胸元に手をやる。引き出した銀の鎖の先には、淡い輝き。
「何だか、この輝きに似てるね。月と桜の色をここに閉じ込めたみたい。」
「そ、だな・・・まあ・・・・・・なあ、あかね。」
「なあに?」
「俺たち、今度3年になるわけだけど・・・お前、どう考えてる?・・・将来のこと」
「ぇ?」

  それって・・・いきなり核心??・・・

「そ、そんなこと、いきなり、言われても・・・わ、私・・・」

  そうよ、心の準備ってものがあるし、こんな、突然言われても・・・

「ま、まだ考えられないよ!」
「・・・お前、意外とのんびりしてんだなぁ」
「な、何よ、じゃあ乱馬はどうなの?」
「俺?俺はもう決めてるさ。今さら変える気はさらさら無いし。」
「!!」

  うそっ それじゃ、もうすっかりその気になっているの

  どうしよう、私、まだ決心なんてつかないよ・・・

「あれっ、そういやお前、一度言ってなかったっけ。推薦狙うって。」

  あ・・・やだ、私ったら

「う、うん、話はいくつか来てるんだけど、ま、まだどうするかは・・・」
 幸い、乱馬は月を見ていて、あかねの勘違い(?)には気づいていない。
「ま、お前の成績なら楽勝だけどな。」
「まだ進学するとは決めてないよ・・・お姉ちゃん達だって上の学校、行ってないし、うちの家計だって楽じゃないし・・・」
「奨学金とか、特待制度とか、いろいろあるだろ?やる前からあきらめてんじゃねーよ。」
「あきらめた訳じゃないわよ・・・ただ進学するにしても、そこで何をしたいかはまだわからないの。」
「ふーん、体育会系に行くって決めてんじゃないのか。そーいやお前、英語なんかはトップクラスの成績だしなあ。そっちの方に進むって手もありか。」
「ね、乱馬は・・・やっぱり修行に出るの?進路調査でそう書いてたでしょ。」
「・・・ああ、親父達はここにいても修行は出来る、って言うけどな・・・天道家に厄介になっている以上、どうしても甘えてるとこ、あるしな。実際未熟者なんだから、半人前扱いされてもしょーがないけど、いつまでもそーゆーわけにもいかねーからな。」
「そう・・・だね、じゃ随分長い修行の旅になりそうね。」胸に一抹の淋しさ。
「長いって10年も20年も行くつもりはねーよ。それこそおじさんが許してくれねーし。それに・・・」乱馬は頭を掻く。
「待ってらんねーだろ・・・お前だって」おしまいの方はそれこそ聞こえるか聞こえないか。
「わ、私のことは気にしないでいいからね。好きなだけ、修行に出てたらいいわ。」照れ隠しについ、片意地。
「・・・ま、おめーが進学するなら、勉強の邪魔にならねーよーに、どっかよそに行ってやるさ。」
「それは有難いわね。とーっても勉強がはかどるわ。」
「相っ変わらずかわいくねーこと言うな〜」
「そーでしょうとも」

 売り言葉に買い言葉、またいつもの喧嘩モードに突入、というところが・・・

ざあっ
 突然の風に吹き散らされた花びらが舞い上がり、二人に降り注ぐ。

「・・・」「・・・」
 時ならぬ花吹雪に、二人の意地も吹き散らされる。
「・・・ここじゃ喧嘩、するなってか。」可笑しそうな乱馬の声。
「そうかも。あきれられたかな、桜に。」
 顔を見合わせて笑う二人。
「そろそろ引き上げるか、腹も減ったし。」
「そうね、お父さん達も帰って来てるかも。」
「じゃ、ちょっとつかまれよ、近道すっから。」
 そう言うと、乱馬はあかねを両腕で抱え上げる。
「な、何・・!!」真っ赤になるあかね。
「行くぞっ」乱馬はそのまま地面を蹴る。一瞬の落下感。二人は桜の木の下にいた。


「普通に下から見ても綺麗だろ。」そっと乱馬はあかねを地面に降ろす。
「まるで・・・花のシャンデリアみたい。」
「ずっと見上げてると首が疲れるからな。先に上に回ったんだ。」
 たわわに咲く花が、月明かりに透けて、天蓋のように広がる。一面、桜色の世界に立つ二人。日常とは別の時間に切り離されたような不思議な感じさえ覚える。
「ほら、いつまで見てんだ。きりがねーぞ。」苦笑交じりの乱馬の声。
「うん・・・何だか見納めるのが勿体無くて・・・あっ」
 音も無く降りしきる無数の花びら。風が止んでも後から後から舞い降りる・・・雪のように。追憶に引き込まれるあかね。


「きゃっ」
 頭上から滝のように花びらが降ってくる。あわてて払い落とすあかねの視野に、笑い転げる乱馬の姿が目に入る。どうやら降ってくる花びらを集めて、あかねの上にいっぺんにかけたらしい。
「やったわねー!」
 負けじとあかねも舞い散る花を受け止めて乱馬にかけ返す。もっとも器用さの点では乱馬にかなわないあかねは分が悪かった。かけた倍以上の花を浴びせられ、バランスを崩して座り込む。
「どーだ、参ったか」やんちゃ坊主のように喜ぶ乱馬。
「もう、ムキになっちゃって子供みたいなんだから・・・あははは、あは、・・・あれ・・・」
 桜色に上気したあかねの頬に一筋の涙が伝う。
「お、おい、泣くなよ。こんなことで悔しがるなって。」
 あわてる乱馬にあかねはそっと首を振る。
「・・・ううん、違うの・・・違うの・・・とても楽しくて、今とても幸せで・・・だからまた来たいなって・・・でも」
 また一滴、涙がこぼれる。
「来年は・・・きっと一人っきり、乱馬と一緒に来れないかも・・・」
「そんな先のこと、気にしてどーする。」乱馬はそっとあかねを立ち上がらせた。
「心配しなくても、桜の木は逃げやしないし、俺だってちゃんと帰ってくる。だから、もう泣くな。」
 あかねは微かな笑顔でうなづくが、また一滴の涙が頬を流れる。
「あー、ったく・・・かまわね−から好きなだけ泣けよ。どうせ誰も見てないし。」
 ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、そっと差し伸べた腕が、あかねを優しく包む。
「いやでもまだ一年、一緒にいるんだから・・・もう、お前をほっぽらかして山には逃げない。」
 あかねはそっとうなづく。暖かく力強い、優しい腕の中で。

  少しだけこのままでいさせて

  そうしたらもっと強くなれるから

  私もしっかり考えてみる

  自分の将来のこと

  そして二人の未来のこと

  私も・・・もう逃げないから




  the end of the story ・・・ and the start of their last year in high schoool

  written by いなばRANA




作者さまより

拙筆者あとがき

  シリーズ化にぶっ飛び(けいこさま、本当に大胆・・)あわててプロットを考えたので、もうぐちゃぐちゃでお見苦しい
 限りです。作中あかねちゃんの惑乱ぶりは書いた人の混乱ぶりそのままで、本当にお恥ずかしいです。何だか作中人物と
 一緒に気持ちの整理をつけていたような気がします。でもおかげで何となく、方向性(?)が見えてきたような・・・

  春宵はまんま、春の宵のことです。ちなみに「しゅんしょう」と読みます。暖かい春の夜、月は朧で花は盛り、まさに
 千金にも勝るひとときです。タイトルからして煩悩ぐるぐる(爆)
  作中で使った月や花や風にちなんだ素敵な言葉達は、「空の名前」「宙の名前」という有名な写真集の記事より拝借しま
 した。こんな駄作文の中で使うのが勿体無いくらいの素敵な言葉が、素晴らしい写真と載っています。

  ここでちょっと注意事項を。ペローの説話みたいですが。
 
 ・作中公園のモデルになった練馬区の某公園にはこんな穴場はありません。(桜と花見客はいっぱいいます)
 ・立ち入り禁止の区画には入らないでください。(子供じゃないんだから・・・乱馬くん)
 ・女の子が暗くて人気の無い所にほいほい行ってはいけません。(あかねちゃん、行く前に気づいてね)

 ということで、二人の高3時代の始まりです。参加ご希望(?)の方はあかりちゃんのように広い心をお持ちください(謎)


 桜の風情が、ふわりと浮かんできます。
 桜咲けば心もそぞろ・・・なかなかゆっくりと桜鑑賞に出かけることも無くなった昨今。
 私の居住地は山間の田舎なのでヤマザクラがあちこちで咲いています。

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