◆Loveletter in sunset beach -- "プレリュードは茜色"
いなばRANAさま作


ざあっ
泡立つ波が俺のつま先すれすれで退却していく。
もう少し後ろに下がるか。今日は濡れるわけにはいかない、絶対に。

風が強くなってきた。春もまだ浅い海。少し肌寒い。
寒いって文句言うかな、あいつ。
・・・いけね、あいつのこと考えるから・・・静まれ心臓!
俺ってやっぱり意気地なしなのかな・・・

水平線が金色から銅(あかがね)色に、次第に赤みを増していく。
少なくても顔色だけはごまかせるかも。

辺りを見回す。人っ子一人いない。
そして足元に目をやる。もう何百回も。
あいつ、これ見たら何て言うかな・・・また鼓動が早くなる。

口下手で不器用な俺の代わりに、ちゃんと伝えてくれよな。
呪泉洞であいつに言ってやれなかった言葉。
俺の本当の思い。
あいつが来るまでに、寄せる波が消さなければ。

そう、これは賭けだ。この期に及んでの最後の意地張り。
もっとも俺、賭け事はてんで弱い。
今度も勝てないかも・・・
でもこう言われたっけ
「負けてもいい戦(いくさ)もあるのよ」って。

もうすぐ約束した時間・・・夕日がクライマックスを迎える時。
来るかな、あいつ。
照れ隠しに喧嘩吹っかけちゃったもんな。
まだ怒ってたりして・・・

そんなこと考えながらふと見ると、こちらに向かってくる・・人影?
・・・逆光気味でよく見えないが、短い髪の女性?・・・!!
思わず足元に目をやる。
砂の上の文面は、一字も欠けることなく残っている。

どっと頭に血が上る。そして次の瞬間・・・
「爆砕点穴ーーっっ!!」
砂浜に大穴が開く。
べ、便利な技だ・・・ち、違うっ、ああっもうっ・・・

キャンキャンッ
引きつった犬の鳴き声に、俺は我に帰る。
真っ白だった視界に、おびえた犬とその飼主が映る。
別人だ。
俺と目が合った途端、あわてて逃げ出す。

ちぇっ 紛らわしい真似しやがって

俺は気を取り直して新しい砂地に書き直しだした。
もう時間がない。
書いている姿は見られたくない・・・カッコ悪いから。
二通目の文面はシンプルなものになった。

手元が暗くて書きづらかったな・・・ん、暗い?
俺ははっとして顔を上げる。
まだ日が沈むには早いはず・・・
夕日は雲の中に隠れていた。
いつの間にか低い空にそこだけ雲がかかっていたのだ。

やれやれ、これじゃあもう読めやしない。
ま、こんなもんかもな、俺とあいつは。

「待たせてごめんね、乱馬」
澄んだ声が気抜けした俺の背中にかかる。
「おっせーんだよ」
なるべく落ち着いた声を出しながら俺は振り返った。
そこに立っているのは紛れも無く、あかねだった。

春物のワンピースにサンダル・・・
少しはおめかししてきてくれたのか。
砂浜は歩きづらかったのか、サンダルは手に持っていた。

辺りはほの暗いのに、あかねの周りだけは白い光が差しているよう
・・・まだ舞い上がってるのかな、俺。

「一人で抜け出すの、大変だったんだから」
ま、そんなところだろう。
「わーったよ、もういいって」
俺は鷹揚に答える。肩の力が抜けたせいか、憎まれ口を叩く気がしない。
「寒くねーか?もう日も傾いちまったし、のんびり帰るか。」
「・・・平気だけど、残念だな、きれいな夕日・・・」
本当に残念そうだ。その場から立ち去りがたい様子。
も少しいてもいいか。

「あれ、何?そこの大穴」
「ひ、暇つぶしだ」
「それに・・・何かこっちにも・・・」
「暇つぶしに落書きしてただけだって」
「ふーん・・悪口でも書いてたんじゃないの」
「そんなんじゃねーって!!」
「あやしーなぁ、ね、何書いてたの?」
言えるか、俺の口から。

こうなるとあかねの追求は終わりが無い。
俺はこの場を立ち去る手立てで頭がいっぱいになった。
「明日見に来りゃいーだろっ」
「波が消しちゃうわよ」
「あのなー」
俺は最後の手段に出ることにした。
「爆砕・・・」

その瞬間、あたりに金色の光が差しこめた。
雲間から夕日が最後の光を投げかけたのだ。

「あ・・・」

あかねの目前に、砂の文字がくっきりと現れる。

ぎしっ
技の途中で俺は石と化した。

あかねは静かだった。
やがて・・・永遠に思えた時間が流れた後、あかねは立ち上がった。

まだ石化している俺の顔を無言で見つめる。
何か・・・血の気が引いているようにように見える。
ひょっとして・・・怒っているのか?

その時、俺は見た。
あかねの目に見る見る涙が浮かび上がるのを。
夕日の残光に輝く金色の涙を。

ふわっ
まるでスローモーションでも見ているかのように
あかねは俺の胸に飛び込んできた。

「・・・」
もう俺もあかねも言葉が出なかった。

あかね・・・微かに肩が震えている。
急に何かが俺の中に溢れ出し、思わずその細い肩に手を回す。
はっとしたようにあかねが顔を上げる。

吸い込まれそうな瞳に、俺の姿が映っているのが見えた時、あかねはふっと目を閉じた。

寄せる波の音、風の声・・・腕の中の柔らかな感触・・・
「ん?・・・ちめてぇっ」
忘我の状態から俺は引き戻される。
あわてて飛びのいたが、既に変身は始まっていた。
波はいつの間にか足元に満ち、砂の上の字をあらかた流し去っていた。

あーあ、またこのパターンかよ・・・
ちらとあかねに目をやると、黙って立ち尽くす上半身が震えている。
や、やべえっ
俺は思わず構える。が、

「ふっ、くっ、あっ、あはは・・・」
あかねは笑っていた。ちょっと力の抜けた笑い・・・
ソーダ水がはじけるような泣き笑い・・・

「やっぱ、おかしいか・・・」
「ううん、そうじゃなくて・・・ああ、もう訳わかんなくなっちゃった。」
「でもね」あかねは涙をぬぐうと真っ直ぐに俺を見た。
「とても・・・嬉しかった・・・乱馬の気持ち、伝えてくれて・・・」
もう残照も消えかかり、辺りは本当に暗くなってきていたが、俺にはまぶしいような微笑みだった。

「さ、もう帰るか」俺は手を差し出した。「・・・この姿じゃいやか?」
「ううん、でもちょっと待ってね」
あかねはかがみ込むと、砂の上に指で字らしきものを書いている。
「何だ?」「お・へ・ん・じ」あかねはぱっぱっと手の砂をはらった。
砂地は薄闇に溶け込み、何が書かれているかまるでわからない。
「おい、何て書いたんだよ」
「さあね、明日来て見なさいよ」
「波が消しちゃうだろっ」
あれ、この会話、どこかで聞いたような・・・

「ここまでは波、来ないよ。見たかったら早起きするのね。じゃないと・・・」
あかねはくるっと身を翻す。「先に来て消しちゃうよ」
「こらっ待てよ・・何が早起きだ・・・え?」
これってもしかして・・・
「ほんっとうに鈍いんだから!」
楽しげな憎まれ口。俺は何か言い返そうとしたが、まるっきり言葉が浮かばなかった。
一本取られっ放しだな、俺。
いいのかもしれない、負けても。
くやしいけど、どうやら先に好きになったのは俺の方みたいだから。

あかねの後を追いながら、俺は心に決めていた。
明日はぜえったい早く起きるぞー!



   this story finished now, but their lovestories will continue・・・

  written by "いなば"




作者さまより

初投稿始末記
これを書いた日、朝から幸せな気分でした。お目覚にTVをONすると、ちょうどらんま1/2が・・・
それも格闘ペアスケート編!そして画面の乱馬くんが開口一番、あのセリフを言ったのでした。
「いいか!あかねは俺の許婚だ!手ぇ出したらぶっ殺すぞ!!」
くらくらくら・・・かくしてその日はいきなり乱×あモード(謎)に突入してしまったのです(爆)
 そのせいでしょうか?この話、最初のプロットではドタコメだったのです。最後にあかねちゃんのびんたが
炸裂するような(かわいそうな乱馬くん・・)それが書いているうちにあれよあれよとこんな大青春的純愛的(汗)
作品に大化けし・・・読み返して作中乱馬くんに劣らぬくらいにパニくってしまいました(あああ・・いい大人が)
これは乱×あマジックの為せる業なのでしょうか(いや、けいこさんマジックかも)
 このようにして書き上がった作品ですが、いいのかな世に出して・・・(爆汗)
BBSに書く宣言したので、引っ込みがつかなくなってしまったのが・・・これで勘弁して下さい。
え?乱馬くんが何を書いたか?それは・・・二人だけの秘密(ぽっ) 


 もう、メロメロになりそうなプロットですね。
 海岸にて砂のラブレター。
 乱馬くんがなんと書いたのか、あかねちゃんはどう返事したのか・・・
 気になると夜も眠れません。
 続き・・・読みたいです。
(一之瀬けいこ)

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