◇My funny birthday
   4.the Day after
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いなばRANAさま作


「あかねちゃん・・・お誕生日おめでとう」

 ・・・・・・え?

「ありがとうございます、おばさま」

 って・・・じゃあ今度はあかねの誕生日かよ・・・いけねえっ、去年は呪泉洞の騒ぎでうやむやだったから。
 確かちゃんと祝ってやったことは無かったっけ・・・

「お、おめでと・・・」
「ありがとう、乱馬」
 あかねがにこっと微笑む。邪気のかけらもない笑顔。思い出したように、心臓が早鐘を打つ。
 参ったな・・・何も贈る物、用意してない・・・あかねからはしっかり受け取ったというのに・・・

「あかねちゃん、プレゼントはまた改めて、ね。乱馬も用意してないでしょ。」
 ぎくっ
「いいよ、自分の誕生日だけでも大変だったんだから。おばさまもお気遣いなく・・・普段お世話になりっ放しですし。」
「あら、こういう時におねだりしないで、いつねだるの・・・あかねちゃんたら、本当に欲が無いんだから。」
「そんなこと、ないです・・・気持ちだけでも、とても嬉しいですから。」
「気持ちね・・・それが一番大切かもしれないわね・・・」
 おふくろがちょっと意味ありげな視線を寄越す。な、何だよ・・・
「さ、ちょっと片付けて休みましょうか。」
「いいよ、俺がやっとく。どーせ今夜は眠れないんだから。」まる一日寝たあとだもんな。
「それもそうね・・・じゃあ、休まさせていただくわ。お休みなさい、あかねちゃん、乱馬。」
「お休みなさい、おばさま。」

「お前も寝ちゃっていーぞ。」
「まだいいよ、それほど眠たくないし、明日はお休みだし。」
「夜更かしは美容の敵だって言ってなかったか?」
「たまにはいいんじゃない?実を言うと、眠れそうに無いの。昨日からいろいろあり過ぎて・・・ちょっとテンションあがっちゃって。」
「全くえらい誕生日だったぜ。といっても俺、ほとんど眠って過ごしちまったけど。」
「おじさまの仕業よ。一晩熟睡のツボ。でも東風先生にさんざん絞られていたから、もう許してあげて。」
「あんのくそ親父ぃ〜〜」
「それにしても、不受理申し出の話した時のおじさまの顔ったら・・・」
「ああ、あのあわてようったらなかったぜ」
「面白かったわよ。あの時までは二人とも浮かれまくっていたんだから・・・笑いをこらえるの、大変だったわ。」
「お前も人、悪いよな〜」
「だからあの時、ちゃんと人の話聞いとけば・・・」
「だって俺、てっきり・・・」
「あわてん坊なんだから・・・」

 話しているうちに、俺もあかねも笑いが止まらなくなってきた。この二日間のつまらないことをお互い並べては、馬鹿みたいに笑う。
 こんなに楽しく話せたのは初めてかもしれない。二人で涙が出るまで笑い転げる。どうにも止まらない。

「これからもよろしくって、もう・・・乱馬らしいわ」
「え〜、俺んなこと言ったっけ?」
「言った言った〜」
「忘れてくれ〜」

 楽しい。ここ数日の鬱屈が晴れたせい?シャボン玉がはじけるようなあかねの笑い声。変だぜ、俺たち。結婚しなくて済んだのがこんなに楽しいなんて・・・
 あかねがやたらに目をこすっている。あ、もう1時過ぎてるじゃねーか。俺はともかく、あかねは眠くもなるだろう。

「眠いだろ、もう付き合って起きててくれなくてもいーよ。」
「うん、やっぱりもう寝るね。」
「あの、さ。プレゼント、希望あるなら言ってくれよ。ご期待に添えるかどーかはわかんないけどさ。」
「いいよ、別に・・・でも、何か思い付いたらよろしくね♪」
「ああ・・・お休み、あかね」「お休み・・・乱馬」
 愛くるしい笑顔を残してあかねは居間を出て行った。俺はちゃっちゃっと食卓を片付けた。まだまだ夜は長い。道場に行って少し汗でも流すか。寝て食ってでは親父みてーに鈍ってしまう。

「はあっ」
 汗とともにまだ体に残っていた気だるさが消えていく。体は軽いし、心はもっと軽いかも。さっきの楽しい気分がまだ気持ちのどこかに残っているようだ。
「ん?」振り返ると、道場の入口にあかねが立っていた。まだ寝てなかったのか。「どーした?」
「うん、言い忘れてたんだけど・・・不受理申し出ね、有効期間は半年なの。だから半年経ったら更新する必要があるんだけど・・・」
「半年・・・十月末か。そうだな、俺たち、まだその時は高校行ってるし、更新しておくか。」
「実を言うとね、私の分も出してきたの。だから一緒に行こうね。」
「そりゃあ・・・助かる」自慢じゃないが、この手の手続きごとは超苦手だ。あかねと一緒なら、間違いないだろう。
「・・・その次は・・・どうしよう、か・・・」
「え゛・・・そ、それはまた、その時考えればいいだろ・・・先のことなんてわかんねーよ。」
「それも・・・そうだね・・・」
 逃げ口上みたいで情けないけど、今の俺にはこれが精一杯のところ。あかねにはまた、優柔不断って思われちまうかもな・・・
「わざわざすまねーな。さてと、もう一汗かくとするか。」

「あのね・・・やっぱり欲しいものがあるんだけど。」
「何だよ。」
「稽古の相手、真面目に。」
「真面目に、か。ちと難しいな・・・」
 別に今までだって不真面目に相手していたわけではないが、いかんせん体格やパワーの差が大きくて、俺の方はめちゃくちゃ手加減している状態。あかねだって武道家だ。俺が半分の力も出していないことはお見通しだろう。
「そこなんだけど、変身してくれたら、だいぶ違うんじゃないかって。」
「なるほど、確かに力は落ちるから、相手し易そうだな・・・ただしスピードは落ちないし、思いっきりキツいぜ。」
「望むところよ。」たまには変身体質にもメリットがあるわけだ。
「をーし。・・・しかし可愛げのねー頼みだぜ。」俺は苦笑する。こんなおねだりする女は、この世に二人といまい。
「どーせ私は可愛くないわよ。乱馬だってわかっているでしょ。」
「へーへー」身にしみてわかっているさ。可愛げのない可愛さ。俺の心を捕らえて離さない・・・

「じゃあね、可愛げのあるお願いも聞いてくれる?」
「お前、欲張りだなあ・・・ま、いいさ、言ってみろよ。」可愛げのある、ねえ・・・
「本当?・・・実は一緒に行きたいところがあるの。」
「ふーん、どこだよ?」「お台場」
 成る程、デートか。確かに可愛いお願いだ。お台場・・・海のそばか。今ならいい季節だし、結構楽しいかも。
「構わねーよ。いつがいい?」
「ゴールデンウィークの後がいいな。」
「じゃ適当にそのあたりで決めてくれ。俺、合わせるから。」
「本当?デートの約束、結構フイにされてるし・・・・・・乱馬、これ、持ってる?」
 あかねがペンダントをそっと引き出す。淡い薔薇色の輝きがあかねの手の上に現れる。
「持っているけど・・・ほら。」俺は同じ輝きを放つピアスを差し出す。
 あかねはペンダント。俺はピアス。一対の石を二人で持っている。これは俺とあかねだけの絆。誰に強いられたのでもない。
「それ着けて・・・約束してくれる?」
「何だかな・・・これでいいか?」苦笑しつつも、俺は耳にピアスを着ける。既にこれは日課と化している。寝る前に着けて、朝には外す。ずっと着けずに放っておくと、せっかく耳に開けた穴が塞がっちまうから。
「心配しなくてもちゃんと約束は守るからさ。」
「本当かしら・・・忘れない?」
「あのなあ・・・約束する、これだけは絶対に忘れ・・・ない・・・」

 はっとする。この言葉、どこかで・・・
 見るとあかねの顔が少し上気している。俺と目が合った途端、ふわりと目をふせる。
 思い出した・・・・のか。今は季節が違う、初めてまともなキスをしたあの時のように雪は降ってないけど・・・でも・・・


 俺はあかねの桜色の頬に手を添えて、そっと唇を重ねる。
 約束のあかし、と言ったらカッコ良すぎるかもしれないけど。
 でもこれは・・・俺たちの18歳のスタートだから。
 たいへんな誕生日だったけど、忘れられない日になるだろう。
 あかねは俺に未来をくれた。信じる気持ちを与えてくれた。

 俺も・・・お前の未来を守りたい。
 

 柔らかな唇の余韻を残してあかねが立ち去ったあと、俺は一人屋根に登った。
 夜風が心地よい。月はとっくに沈んでいたが、星たちの静かな光が夜空を彩る。
 頭の中でざっと月齢を計算してみたりする。まだ若い月だ。上弦にも及ばない。
 まるで・・・今の俺のよう。まだまだ未熟者。自分のことすら半端なのに、あいつの未来など担えやしない。
 月が満ちるように、いずれ俺もそれだけの力を付ける日が来るだろうか・・・いや、来させる。
 それがあかねの気持ちに報いるただ一つのやり方。応えてやらなくてどうする、この世で最も大切な人に・・・

 
 時が来たら、俺は自分からきちんと言うよ・・・お前を嫁に貰い受けるって。だから、今はしばし待ってくれ。その日まで・・・


  tomorrow is another day・・・



 the end of the story

 written by "いなばRANA"




作者さまより

 拙筆者言い訳改訂版(・・・)
 人様の誕生日を頂いておいて、いったい何を書いているのでしょう(大汗)おまけに長いし・・・
 
 試作品を最後の章だけ改訂しました。あんまり完成度は上がっていません(汗)もともとけいこさまのお誕生日に間に合わせようと突貫工事で作った妄想的思考実験の産物なので。某プロムシリーズの中の一作品なので、これだけでは訳分からん代物かも(お読みになった方、災難でございました<ぉ)UPされたけいこさまには罪はありません。度胸はありますけど(ぉぉ)

 作中の制度は一応実在するものです。ただ法律にはド素人の私の書いた物ですので、運用等に関しては必要に応じて、お住まいの市町村区の役所に事前にご確認を(大汗)これはあくまでも小説世界のことなので。

 ラストの一文は・・・年がばれますねえ(苦笑)でもこれは無責任な意味合いではなく、しっかり未来を見据えての言葉だと思っていただきたいです。作中乱馬くんはまだ18ですから。先に何が待っているかなんてくよくよ考えずに、自分の手で未来を切り開いていくでしょうから。希望を常に持って。な〜んて書くとこっぱずかしいですね(ぉ)
 
 ラストは大幅に改変するつもりでしたが(必要以上に甘くお読みにしちゃったので<滝ぉ)やったら却下されそうなので(ぉ)まいっかと・・・本当にいいのかなあ(滝汗)


こちらの作品は、お誕生日にいただきました。

補足・・・原作もアニメも、乱馬とあかね、その他のキャラクターの誕生日については言及されていませんでした。一部で乱馬くん9月生まれ説もあったようですが、全部憶測で正確ではありません。
この作品はいなばRANAさまが私の誕生日を乱馬くんの誕生日に当てはめて描いてくださったものです。お間違えにならないように・・。
私は昭和3●年4月25日生まれです。歳を逆算していただくと、大台になっていることがお分かりいただけると思います。息子の表現を借りれば「おかんも見事2001年でしがみ付いていた崖から滑り落ちたな。」わけです・・・
原作やアニメから、乱馬くんたちは永遠の16歳ですから、高1といことを考えて、おそらく乱馬もあかねも「春生まれだろう」というのが私の自説です。
なびきや九能も春生まれでしょうね・・・。

実に軽快な乱馬×あかね作品、ありがとうございました。

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