◇My funny birthday
  3.the Day in a nightmare

いなばRANAさま作


 悪夢のフルコース、というのがあるなら、俺が見たのはまさにそれ、だ。おまけに一昼夜目が覚めないようになってたっていうんだから、念が入ってる。ともかく、断続的に見た夢はどれもひでー代物だった。もう思い出すのも気色悪い夢、腹が立つ夢、恐ろしい夢・・・挙句の果てに見た夢は、とどめと化していた。
 うっちゃんとシャンプーと小太刀、がセットになって俺を追ってくる。三人とも片手にはひらひらと翻る紙切れ・・・婚姻届であることは言うまでも無い・・・を持ち、もう一方の手が引きずってくるもの、それは・・・

「乱ちゃあ〜〜ん」うっちゃんの後ろには巨大な鳥かごが
「乱馬あ〜〜」シャンプーの引っ張ってくるのはサーカス列車の如き極彩色の車輪付きの檻
「乱馬さまあ〜〜」そして小太刀の引っ張ってくるきんきらきんの・・・いや、もう勘弁してくれ〜

 地響きをたてて追ってくる三人。どこまで逃げても逃げてもしつこく追ってきて振り切れない。どうも体が重くて走り辛い、と思ったらいつの間にか手や足にジャラジャラと鎖が・・・ご丁寧にもその先には大小さまざまの鉄球つき。重い。苦しい。次第に三人との距離が詰まってくる。このままじゃ捕まっちまう〜〜

「乱馬!こっちよー」

 俺の行く手に一筋の光。そこから手を振って差し招くのは・・・あかねだった。

「あかね!」ありがてえっ!助かったっ

 俺はあかねの立つ光の中に飛び込む。一瞬あたりが真っ白になり、俺を追っかけていた三人の姿は消え失せる。

「助かったぜ、あかね・・・え?」
 輝くような笑顔を浮かべてあかねが飛びついてくる。いや、そこまで嬉しがらなくても・・・ん?

かさっ
 俺の耳元でかさかさいう・・・紙の音?まさか・・・!!
 視界の端に入る薄っぺらい紙。こ、これわ・・・

「・・・責任、取ってね。」

 !?!?!?!?!?!?!?!?

がっしゃぁっっ
 巨大な鎖が俺の上に降ってきた!!お、重い〜〜潰される〜〜ぐぅぅ・・・

 こんなのありかよ〜 あかね、信じていたのに・・・お前だけは俺の気持ち、わかってくれていると・・・
 そんな天使のような顔、したって・・・あかねの・・・バカーーっ!!

 暗闇に意識が溶けていく・・・もう夢なんか・・・見たく・・・ない・・・



「う・・・ん」
 暗い・・・俺、どーしたんだろう・・・
 だるい・・・体が動かせねえ・・・

がらっ
「あら、乱馬くん、目が覚めたのね。」
 かすみさんの声?俺、何で寝てんだ?どーも記憶が・・・はっきりしねえ・・・
かちっ
 枕もとのスタンドが明るくなる。
「まあ、ひどい汗・・・はい、おしぼり・・・自分でふける?」
 そんな・・・子供じゃあるまいし・・・え?
 おしぼりを受け取ろうとした手が震えて・・・言うことをきかない?
「無理しなくていのよ・・・はい」額に当てられたおしぼりが気持ちいい。
「気分はどうかしら・・・何しろまる一日眠っていたから」
「え゛」だんだん記憶が繋がりだす。じゃあ、今日は・・・
「せっかくのお誕生日なのに・・・もう残り3時間しかないわ。」
 本当に一日まるまる眠っていたのか・・・どーりでだるいわけだ。でも何でそんなことに・・・いや、それより・・・
「お水・・・ください」のどがからから。
「今、持ってくるわ。待っててね。」
 かすみさんが出て行った後、俺は何とか体を起こした。頭がぐるぐるする。気分は・・・限りなく悪い。思わず頭を押さえる。

 混乱する頭で考える。俺はどうやら足止めを食ったらしい。ひでーやり方だ。今日が誕生日だってことは、全てがもう終わっているということだ。今さらじたばたしても手遅れ、か。俺の人生、こんな形で決められちまうなんて・・・もう、怒る気力もねえ・・・

「乱馬、目が覚めたのね・・・良かった。」

 びくっ
 思わず体が反応してしまう・・・あかねの声。だって俺とあかねはもう・・・

「はい、のどかわいたでしょう?ポカリがあったから。一日中寝てたんだもの・・・」
 渡された缶ジュースを一気に飲む。空になった缶をあかねは引き取り、替わりにタオルを渡してくれた。何だかあかねの態度は妙に優しくてつきづきしい・・・もう自覚、出来ているのかな・・・顔、見れねえ・・・

「まだ本調子じゃないみたいね・・・お腹、空いてる?食べられそう?・・・あ、それよりお風呂でさっと汗流してくるといいよ。さっぱりすればきっと気分も良くなるから。」
 顔を上げようとしない俺に、あかねはこわいくらいに優しく気遣ってくれる。

 お前は、満足、してるのか・・・意外、だったな。出会った時からお互い勝手に決められた許婚に反発して、意地を張り合って・・・その点では俺たち、同志、だったよな。親たちの思うようにはならないって。今度だってきっとそうだと・・・
 やっと少しはお互いの気持ちが通じ合うようになってきたと思ったばかりなのに。・・・それで充分だったのか?結婚を受け入れるには・・・やっぱ女心なんてわからねーもんだ。いくら女に変身出来る俺でも。

「風呂・・・入ってくる。」
「それがいいよ。・・・あ、立てる?」
「心配ねーよ」
 水分を摂ったおかげで体はだいぶ楽になった。風呂でも入れば少しは気分もすっきりして、気持ちの整理もつくかもしれない。今はまだあかねと顔を会わせているのは、気詰まりだし・・・

「あのね、風呂から上がってきたら・・・話したいことがあるの、大事なこと。」
「わーってるよ」今さら、って気もするけど。少しは筋を通しておきたいのかな。
「乱馬・・・いろいろ混乱してると思うんだけど、お願い、私を信じて・・・」
 信じて・・・か。悪いようにはしないって意味か。確かに悪い話じゃないさ。少しばかり時期が早まっただけって思えば。

「ああ・・・これからも、よろしく、な・・・」
「?」

風呂に入るとさすがに頭がすっきりしてきた。湯温がぬるめだったのは、少しは俺のことを気遣ったのかもしれない。さっぱりしたくて頭に水をかけたりしたので、俺は女に変身していた。変身体質・・・容赦ない現実。こんな体で、結婚もなにもあるかよ・・・

ざぶっ
 湯船に勢い良く飛び込む。再び男に戻ったところで、俺の気持ちも固まった。

 籍を入れられたのは、もうしょうがない。けど、しばらくは形だけの結婚にしておく。だいたい、俺たちはまだ高校生なんだから、道場の経営も何も・・・ま、それはともかく、このフザけた体質が万一にも遺伝するものだったら・・・俺のみならず、あかねも、無差別格闘流の未来も、全てを引っくり返しかねないんだぞ。それがはっきりするまでは、いや、はっきりしたってせめて高校を出るまでは、今の状態を変えたくない。これだけは譲れない。親父たちにも、そしてあかねにも。

 決心したところで、俺は風呂を出た。多少は気持ちが落ち着いたせいか、何だか腹も減ってきたし。少しはご馳走、期待していいのかな?誕生日ってことで。もういくらもたたずに日付が変わってしまうにしても。

「いやあ、乱馬くん、待ってたよ〜」「やっぱり今日の主役がいなくてはなあ〜」
 廊下に出たところで、いきなり俺は早雲おじさんと親父に捕まった。満面に笑みをたたえている二人。本っ当に人の気も知らないで・・・このスチャラカおやじ〜ずわ〜。そのまま引きずられるように俺は居間に連れていかれた。

「お誕生日おめでとう」「いっぱい食べてね、乱馬くん」「・・・どうも」
 居間には全員が顔を揃えていた。もちろんあかねもだ。ちょっと困ったような顔をしていたが、笑顔で俺に「おめでとう」と言ってくれた。そういえば何か話したいことがあると言ってたけど。今となってはしょうがないか。
 しばらく誕生日の饗宴、らしきものが続いた。結構ご馳走が用意されていて、俺はありがたく頂いた。一日飲まず食わずだったのだから。あかねは何だか落ち着かない様子。このあとに予想されることを思えば、当然か。そんな俺たちを、おふくろは静かな微笑を浮かべてながめている。そして・・・

「いやあ、めでたいっ、めでたいっ」「天道くん、今日はじゃんじゃん飲もうね〜」
 浮かれまくってるおやじ〜ず。こいつらの思惑どーりにされたかと思うと・・・やっぱり腹が立つ。

 飲み食いが一段落して、場の雰囲気が「それでは」といわんばかりになってきた。そろそろくるだろうな。おやじ〜ずのはしゃぎようも収まってきている。

「え〜、コホン」わざとらしく早雲おじさんが咳払いする。親父ともども居住まいを正している。
「乱馬くん、いろいろあったが、今日で君もめでたく18歳になったわけだ、うん。で、だね〜そろそろ君もその〜何だな〜」ほら来た。
「乱馬よ、この辺で男らしくびしっとだな、決断をしてはど〜だ」
 な〜に言ってやがる。どーせもう事後承諾だろーが。白々しい。
「親父、はっきり言え。まわりくどいのはもうたくさんだ。」
 俺のこの一言におやじ〜ずは小躍りした。
「そ〜かそ〜かそ〜か♪いやあ君がそう言ってくれるなんて・・・じゃあもう、決心ついてるんだねえ♪」
「く〜〜、父はこの日をどれだけ待っていたことか・・・」

「じゃ〜〜ん♪」「え゛」
 おやじ〜ずがユニゾンの掛け声と共に俺の目の前に差し出したのは・・・婚姻届だった。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ」もう出したんじゃねーのか??これはいったい・・・??
「なあに、あかねだってもう異存は無いだろう。最近の二人の様子を見ればわかるわかる。」
「だ、だってもう出しちまったんだとばかり・・・」
「いくらわしらでもそこまではやらんよ。・・・さ、ここ、名前書いて。明日一番で出しに行こう♪」
 っつーことは、あれはあかねとおふくろのスタンドプレーか。
「・・・じゃあ、出してもしょーがねーな。」んなもん、二つ出してもな〜。
「ぬわあ〜〜にぃ」「この期に及んで何だと〜〜」いきり立つおやじ〜ず
「そうね、受け付けてくれないわ。」
 あかねの言葉に目を白黒させる二人。
「さ、もういいだろ、おめ〜らの思い通りになったんだからよ。」
「思い通りって?」あかね、ちょっとそりゃ悪乗りが過ぎねーか・・・
「だから、あかねが出してきたもののことだよ。」
 早く親父どもに言ってやれよ。もったいぶるのもいい加減に・・・

「ああ、不受理申し出のことね。」

「ふじゅりもうしで〜〜??」
 おやじ〜ずのユニゾンに、今度は俺も加わった。何だ、そりゃ?
 呆気に取られる俺たちに、あかねとおふくろはこらえきれなくなったように、声を立てて笑い出す。

「へえ、聞いたことがあるわ、それ。」事の推移を面白そうにながめていたなびきが口を開く。
「確か勝手に婚姻届を出されないように、出されても受け付けないでくれって役所に申し出ることが出来るのよね。なーるほど。」
「その通りよ、なびきちゃん。」とおふくろ。
「考えたわね、あかね・・・あんたにしては上出来よ。」
「おばさまに教えて頂いたの。」

「あ、あ、あか・・・何てことしてくれたんだあ〜〜」「そ、それはないよ〜あかねくん〜」
 おやじ〜ずはもう、パニクリ状態。
「乱馬くんと結婚したくないのか〜〜」
「そ〜ゆ〜問題じゃなくて、ぐずぐずしてたら勝手に婚姻届だされちゃうかもしれないでしょ。いつでも出せるんだから。」
 成る程、そーゆーことか・・・俺は事の次第を飲み込んだ。あかねのやつ、やってくれるじゃねーか!
「どう、私からの誕生日プレゼントは?」
「・・・最高にイケてるぜ」お前の笑顔と合わせて一本、だ。

「お前たち二人が結婚すればいい話だろ〜が〜」ま〜だぼやいてんのか。あきらめわりぃな。
「あのな、俺たちはまだ高校生なんだぜ。せめて高校出るまで待ってくれてもい〜だろ〜がっ」
「乱馬!」あかねが遮りにかかる。し、しまった!!!
「そーかそーか、高校卒業したら結婚するんだねえ。うんうん、それでも構わないよ、なあ早乙女くん」
「ふむ、順当なところかもね、天道くん」息を吹き返すおやじ〜ず。
「ぢゃ、確かに聞いたからね♪」「・・・」「・・・」
 俺、何やってんだか・・・言質与えちまったぜ・・・あーあ
「バカ・・・」今度ばかりはあかねの言う通りだ・・・反論出来やしねえ・・・


「さあて、そろそろ休もうかねえ」「うんうん、いい一日だったねえ」機嫌よくおやじ〜ずは引き上げていった。
「今日は面白かったわ、おやすみなさい」「あと、お願いしていいかしら」
 なびきとかすみさんも席を立った。じきに日付、変わる時間だしな。残ったのはあかねとおふくろと俺の三人。
「そんなにしょげること、ないわよ。卒業したらすぐって言ったわけじゃないし。」
「そうよ、乱馬。これから大事なことは二人で決めなさい。ちゃんと話し合ってね。」
「・・・」フォローしてくれんのはありがたいけど・・・今日のところは執行猶予ってとこか。はあ〜

ボーンンン・・・
 時計が俺の誕生日の終わりを告げる。とんだ一日だった・・・



 ・・・to be continde・・・




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