◇My funny birthday
   2.the Day in a dream

いなばRANAさま作


 土曜日。半日だけど、学校はある。私はわざとぎりぎりの時間に家を出た。一人で。

「早乙女乱馬くん・・・早乙女くん?・・・天道さん、早乙女くんは?」
「はい、今日は休みに・・・昨日、稽古中に頭を打ってしまって、家で寝ています。」
「早乙女くんが?よっぽど打ち所が悪かったのね〜」

 教室がざわめく。好奇の視線が私に突き刺さる。みんな、知ってるんだ、今日がどういう日か。休めるものなら、私も休みたい。でも乱馬が登校できない以上、授業のノートくらい取らないと。結局、面倒なことは私が引き受ける羽目になる。

「あかね、乱馬くんいったいどうしたのよ?」
 早速休み時間にクラスメートが集まってくる。予想はしてたけど。
「さっき言った通りよ。家で寝ているわ。」
「本当かよ、ひょっとして・・・雲隠れしちゃったとか。」
「疑うなら、あとで寄ってきなさいよ。」雲隠れ・・・未遂はあったけどね。
「そうなんだ・・・お大事にって伝えといてね。今日、当番はいいわよ。早く帰ってあげて。」
「ありがとう、そうさせてもらうわ。」
 人の良いクラス委員に感謝。確かに嘘じゃない・・・家で寝てるのは。

 やっと放課後。みんながまだ話を聞きたがっているのはわかっているけど、今日はとっとと帰らせてもらうつもり。さゆりたちは当番だし、一人でさっと帰れる。そう思って教室を出たところ・・・

「あかねちゃん」
「・・・右京」
「乱ちゃん、隠しても無駄や・・・それとも、これからずーっと隠しとくんかい?」
 静かな声だが、それだけに物騒に聞こえる。関わりたくはないけど、逃げるわけにはいかない。私を見据える右京の目は妖しげな輝きを放っている。ちょっとぞくっとするくらい。
「乱馬は逃げも隠れもしないわよ。見舞いに来るならいつでもどうぞ。」
 視界の隅に、こちらを遠巻きにしている同級生たちの姿が目に入る。ちょっとびびっている様子。
「あわてる気はあらへん。乱ちゃんによろしう、伝えといてや。」
 意味深な笑みを浮かべて右京は立ち去った。こんなにあっさり引き下がるとは・・・私の抱きつづけてきた懸念は、あながち外れではなかったらしい。先手を取ったつもりらしいけど、思い通りにさせるつもりは、ない。
 帰り道、背後から視線を感じた。猫が目を細めて見ているような、こちらもまた意味深な視線。振り返ろうとは思わなかった。今日はまだまだ一波乱二波乱ありそうだ・・・ああなって却って良かったのかもしれない・・・乱馬。

 家に帰ると、ちょうど東風先生が帰るところだった。

「あかねちゃん、今帰りかい?」
「東風先生・・・乱馬はどんな具合ですか?」
「心配いらないよ。まだ眠っているけどね。・・・お父さんたちにはきつく注意しておいたから。付け焼刃の知識で、あんなことされてはたまらないからね。」
「すみません、先生・・・昨夜もあんな遅い時間に・・・」
「いいんだよ、本当に・・・あかねちゃんの心配が少しでも軽くなるならね。ところで乱馬くん、今日誕生日だって?」
「ええ・・・18、になるんです。」
「そうなの・・・それでねえ・・・明日にでも寄ってくれるかい?乱馬くんが興味持ちそうな格闘の本、見繕っておくからね。」
「ありがとうございます」本当にいい人だ、東風先生って。
「あかねちゃんもぜひ来てね。」
「え?ええ・・・」気持ちがふわっと軽くなる。だって明日は・・・半分あきらめていたから。
「じゃ、お大事に」「さようなら、先生。ありがとうございました。」

 着替えもそこそこに、乱馬の部屋をのぞく。付き添っているおばさまがこちらを振り向いて静かに微笑みかける。
 乱馬は・・・まだ眠り続けている・・・昏々と。

「お帰りなさい、あかねちゃん。今東風先生に診ていただいたの。」
「玄関でお会いしました・・・もう心配ないって。」
「全く・・・うちの人にも困ったものだわ。一歩間違えたら一日どころかずっと・・・いくら足止めしたいからって。」
「こんなことになるなら、ちゃんと話しておけば・・・せっかくの誕生日がこれではあんまりだわ。」

 傍らで眠り続ける乱馬をそっと見る。静かな寝顔。余程深い眠りについているのだろう。昨夜からずっとこの状態。
 喧嘩した勢いで、荷物をまとめて出て行こうとする乱馬を、早乙女のおじさまが無理矢理引き止めようとして、一晩熟睡のツボを押したのだ。かつて私が八宝斎のおじーさんにやられたように。ただし押し方が良くなかった。生半可な知識が災いしたのだ。一晩どころか、今に至るまで乱馬は眠り続けている。東風先生の診立てでは、一昼夜で目が覚めるそうだけど。いずれにせよ、誕生日のほとんどを眠って過ごすことになる。

「乱馬・・・誤解したみたいで、まだきちんと説明出来てないんです。だから怒って出て行こうと・・・」
「相変わらずあわてん坊ね・・・もう18になるっていうのに。いいわよ、目が覚めたら話してあげてね。私たちのやったことが、決して乱馬の気持ちを裏切るものではないってことを。」
「はい・・・」学校に行ってそのことには確信を持った。やっておいて良かった、本当に。
「それにしてもひどい捨て台詞ね。嫁になんか、真っ平ゴメンとは。」
「・・・」おかげで乱馬の誤解に気がついたんだけど・・・ちょっと複雑。
「ひどいといえば、うちの人と、あかねちゃんのお父さまもね。土壇場まで黙っておきましょう。」
「そう、ですね。そうしましょう。」
「それじゃお昼にしましょうか。まだ当分眠っていますよ、乱馬は。」
「おばさま・・・先に行ってていただけますか。私、もう少しここにいます。」
「いいですよ。乱馬をお願いね。」

 乱馬・・・本当にあわてん坊なんだから。もう少し人の話を聞けば・・・まあ、私もすっかり頭に血が昇っちゃったんだけど。

「・・・う・・・ん・・・」
「乱馬?」
「あか・・・ね・・・ばか・・・」
「はあ〜?」

 どっちがバカよ。私のこと、信じられなかったくせに。そりゃすぐにヤキモチやくし、手を上げるし、意地っ張りで素直じゃないし・・・でもね、乱馬の気持ち、裏切るようなことは絶対にしない。私だって同じだから。勝手に決められた結婚にはいそうですか、なんて言いたくないのは。たとえその相手があなた、だって・・・
 自分の未来は自分で決めたい、よね。だから乱馬の未来も、乱馬自身で決めて欲しい。無理に縛り付けるようなことはしたくないの。右京やシャンプーや小太刀・・・気持ちはわからなくないけど、あんな強引なこと、したくない。あの祝言騒動だって男溺泉が無ければ・・・
 いくら鈍いったってわかるの・・・吹く風は捕まえられない、でも私のそばからいなくなることはないって。今はそれで充分、だよ。

「・・・う・・・ぐ・・・」
 額が汗ばんでいる。うなされているのかな?
 乾いたタオルで汗を拭く。悪い夢を見ているのなら、早く目を覚まして。私はあなたの味方よ。あてにしてくれなくてもいい、でも信じてほしい。だから・・・



・・・to be continde・・・




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