◇Christmas Travels 前編
Ran-maさま作


二階にある部屋の外で、ギシギシと軋む音がした。
閉めていた扉が開かれ、誰かが侵入してくる気配があった。
もちろん誰だかは分かっているのだが、布団をかぶって、暖かなぬくもりのなかから、出ようとするつもりにはなれなかった。
寝かせておいてくれ。昨日やっと修行から帰ってきて疲れてるんだよ。
そんなことを心の中で呟くが、侵入してきた奴は、そんなこともおかまいなしに最大限のボリュームで叫び出す。
「乱馬〜、早く起きてってば〜、乱馬〜」
うるさい。疲れている俺にとっては、神経に突き刺さる嫌な響き声。
「もぉ〜。毎日毎日、ほんとに世話がやけるんだから。
どうしてこんなに大きな声だして起こしてるのに寝てれるわけ?」
人の部屋、まぁ居候の俺にとったら、俺の部屋じゃないんだろうが、勝手に入ってきておいてこれ。しかも睡眠中の俺に・・・。
「ら〜ん〜ま〜。いいかげん起きなさいってば」
いやだっ。人の貴重な睡眠時間を崩しやがって。意地でもおきてやらねぇよ。
「ふぅ〜、あんたって寝起き毎日これだもん、しょうがないなぁ」

ガラララッ

窓が開かれる音。
ひゅうぅぅー
冬の冷たい外気が、部屋の中になだれ込んでくる。

さっ寒い・・・
布団の暖かなぬくもりを、かき消すように風が通りすぎる。
「ほらっ、いいかげんおきなさいってば」
一度起きないと、再び寝る事はできないと判断した俺は、思考回路がままならないまま、半身を起こす。
「ったく、なんだよ、あかね」
「はぁ〜、やっと起きた、まっどうせタヌキ寝入りだったんでしょ」
見慣れた顔の女が、布団の上の俺をのぞき込みながら言った。
彼女は、俺の許婚のあかね。
高校の途中から今もずっと、一緒に学校に通っている。親どうしが親戚ということから、勝手に許婚をきめやがった。でも、今はそう嫌な気はしない。こいつと一緒にいることがあたりまえだから。
「何だよ、あかね。
わかってんなら、ゆっくり寝かせてくれてもいいじゃねぇか、冬休みなんだし」
「今何時だと思ってるの?もうお昼過ぎてるのよ」
枕元にある時計をみると、確かに昼はとうに過ぎていた。
修行でつかれてんだよ、などとは言い返す気力も湧かず、再び襲いかかる睡魔に瞼を閉じた。
「まっ、たまにはこういうこともあるだろ、じゃっ、そういうことで」
再び布団を頭から被り、寝直す。
「だ〜か〜らっ、寝るなってば」
あかねが、言葉とほぼ同時に、力任せに布団を引き剥ぐ。

ビリビリッ
布団の縫い目にかけての大きな音。
「ばかっ、やめろって」
「じゃあ早く起きなさいよ」
「ホント疲れてるんだよ、今日だけは見逃してくれたっていいじゃねぇか」
「だ〜め。あんた毎日そういうこと言って起きないんだから」
「んなこといったって、眠たいときは誰だってそうだろ」
「ほ〜ら、またいいわけ。
はぁ〜、そんなことないって。乱馬だけよ。そんなことより、はやく起きてよ。このままだと昼食もなしになっちゃうわよ」
あかねが俺を起こしてきた時点で、もう寝れないのはわかっていたからか、諦めもはやかった。
「はいはい、わかったよ。行くから先行ってろよ」
諦めから、軽く言葉を放つと、俺はしかたなく布団から起きた。
あかねの粘りに根負けした、というよりも、いままでの騒ぎですっかり目が覚めてしまったのだ。
「じゃっ、早いとこ起きてよ」
そういうと、あかねは階段を駆け下りていった。
「はぁー、なんだって俺が・・・」
軽いため息を立てる。ぶつぶつ愚痴をたてながら着がえだす。
軽い寝癖を手で直しながらしぶしぶ階段を下り始めた。

「やっと起きたわね」
居間へ入ると、あかねが茶碗にご飯を分け、箸と一緒に手渡す。
「あれ、おじさんたちどうしたんだ」
箸と茶碗を受けとると、居間にいるのが、あかねだけであることに気づき、不思議そうに声を上げる。
「今朝から、町内会の人たちとどこかにでかけちゃったわよ、って昨日も言ってたじゃない」
「あっ」

ポンっと手で相槌を叩きながら思い出す。
そういえば親父のやつ、昨日帰ってからそんなこと言ってたような・・・
「かすみさんとなびきは?」
度々尋ねる。
「かすみお姉ちゃんは、東風先生の家で、なびきお姉ちゃんはどこかいっちゃった」
いつものパターンだったからか、特に驚きはなかった
「なんだ、って事はもしかして、二人っきりか?」
「そうだけど、何か不都合な事でもある?」
あかねが、箸と茶碗を持って立っている俺を下からのぞき込んできた。
「やっ、いやっ、そんなんじゃねぇけどよ」
恐怖心が体を駆け巡る。
料理・・・そう、こいつの料理だけは勘弁してほしい。今ここにあるのはかすみさんが作っておいたのに違いないが、夕食を考えると・・・
「な、なあ、かすみさんは、夕食までには帰ってくるんだろ」
恐る恐る聞いてみる。
「かすみお姉ちゃんなら、夜遅くなるって言ってたわよ」
ぜ・絶望てきだ。夕食は、免れそうにない。

「それより、今日の夕食なんだけど、なにがいい?」
「え゛っ」
きた。やはり免れそうにない。俺は他で食うから、おまえだけ作って食ってくれよ。
はぁー、言えるわけないよなぁ。
「な、なんでもいーぜ」
心にもないのに、言葉がでてしまう。こういうときに、なんでハッキリいえないんだよ・・・。

「じゃっ、買い物行ってきてね」
「な、なんで俺が」
「だって、私が行くとあんたどうせ、寝ちゃうでしょ」
・・・確かに
このまま話していても、らちがあかない。
「で、何を買ってくりゃあいいんだ」
「これ、メモ書いといたから」
あかねからメモをもらう。
「はぁー。
ったく、じゃっいってくるか」
「早く帰ってきてよね、女身一人じゃ、泥棒に襲われたりでもしたら大変でしょ」
「なーに言ってんだよ、おまえなら、何がきても相手が逃げると思うけどな」
「何ですって〜」
いつものように軽い喧嘩が始まった。
「待ちなさい〜乱馬〜」
「へっやなこった」
ガラガラガラッ
ドンッ
逃げることに集中してた俺は、玄関から入ってくる人物に気づかず当たってしまった。
「いってて、あっ、おい、大丈夫か」
目の前には、いかにも郵便を届けにきたという格好をした人が見える。
「だ、大丈夫ですよ。
あっと、これ、九能様より速達です」
「九能からだとー」
「では、確かにお渡しいたしましたよ」
俺に手渡されたのは、一通の白い封筒。九能からということで、どうせあかね目的に違いないと睨む。

ビリビリッ

少しそのことに対してか、苛立ちを感じたか、勝手に中身に目を通す。
「なになに、本日6:00より、九能家本館で、クリスマスパーティーをする予定、夕食はこちらで用意するので、忙しい中大変でしょうが、ご了解の上、普段着でおいで下さい、か・・・ほんとに九能からか?それにしちゃあ文が綺麗のような・・」
「ら〜ん〜ま〜」
「おっ、あかね、これみてみろよ、って、おい、やめっ」

一瞬の反応が遅かった。

ばきっみしっ
あかねの強力な蹴りがヒットする。
「いっててて」
「まったく、一言多いのよ、あんたは」
「わかってんなら、いちいちつっかかってくんなよ」「あんたが悪いんで・・んっ」

パサッ

頭に紙がかかる。
「な〜に、これ・・・なんだ、九能先輩からじゃない、クリスマスパーティーか〜。
ねぇ乱馬、今日皆遅くなるんだし、行ってみない?」

「俺は別にいーけどよ、でも九能の家でパーティーだぜ、なんか嫌な予感がしねぇか。
それに、その文おかしいと思わねぇか、九能だったらもっと雑な文のはずだろ」
「・・・う〜ん、それもそうだけど、でも、わざわざ丁寧に来てくださいっていってるのに、疑っちゃあ悪いんじゃない」
「そりゃーそーだけどよ」
あかねの、もっともな意見に反論できず、縮こまってしまう。
「6:00からかぁ。じゃ〜それまでなにしてようかな」
「俺は何もすることねーし寝るけどな」
「私も一休みしよっと。
じゃ〜乱馬、5:30になったら、私のこと起こしに来てね」
「なっ、何で俺が、遅れても知らねーぞ」
「さっき起こしてあげたでしょ、だから、今度は乱馬の番よ」
・・・別に起こしてくれなくてもよかったのによ。
胸の中でつぶやきながらも、目覚まし時計を持つ俺が妙に情けない。
「じゃっあとでね」
「ああ」

ガチャッ

誰もいない天道家の二階で、部屋の扉の音が重なった。


つづく




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