◆雪月
Ran−maさま作


太陽が沈み、夕闇が訪れる。
空の上には、すべてを照らしだすように月が不気味に光りだす。
その光りに反射するように、幻想的に雪が降りだした。
「あ〜あ、やっぱり降ってきちゃったか〜」
学校からの帰路につくあかねが呟いた。
手を伸ばして雪に触れる。一時(ひととき)の冷たさと共に、雫へと変わった。
「乱馬、絶対行かないっていうだろうなぁ」
つい先刻まで、あかねは学校で、級友のさゆりと話をしていた。

「ねぇあかね、明後日から冬休みでしょ、それでさ、あたしとあかねと、あと大介と乱馬君で、どこか泊まりに行かない?」
「えっ、でも・・、どこにいくの」
「昨日、パンフレット見たんだけど、二泊三日で5000円で泊まれる旅館見つけたのよ」
「私は別にいいけど・・・」
「じゃあ決まりね、私大介呼ぶから、乱馬君よろしくね」
「ちょっ、ちょっとまってよ。
な、なんで私が乱馬よばなくちゃいけないのよ」
「だって乱馬君、あかねの許婚じゃない。
じゃっ、よろしくね」
「ちょ、ちょっと」
あかねの話もろくに聞かず、教室を出て行く。
「もう、乱馬が行くわけないじゃないの」

そんなことを先程まで話していて、時はすでに夕刻を過ぎ、月が顔をだしている。


ヒュオォォー
雪と共に、冷たい風が吹いてくる。
「寒〜い、早く帰ろっと」
首に巻きつけているマフラーを、一度まき直し、歩く速度をあげた。

一方、天道家では

「あかねちゃん遅いわねぇ」
天道家長女のかすみが心配そうに呟いた。
「ねぇ乱馬君、なんで今日は一緒に帰って来なかったの?」
次女のなびきが、乱馬に尋ねる。
「ハッ」
バキバキッ
ちょうど庭で稽古をしていた乱馬が、なびきからかかる声に反応して、動きを止めた。
「なんだよ、なびき」
「だから、なんで今日はあかねと一緒に帰って来なかったの?」
「あー、なんかあいつがさゆり達と話してたから、先帰ったんだよ」
「ふーん、でも、それにしても遅くない?」
「大ー丈夫だって、あんな凶暴女、なにがあったって自分でなんとかするって」
「そーだといーんだけど。じゃー雪降ってきたから傘持って行ってあげて。あの子、傘持って行ってないと思うから」
「な、なんで俺がそんなことしなきゃいけな・・・」
ドンドロドンドロ
「ら〜ん〜ま〜く〜ん〜、持って行ってくれるね〜」
早雲が顔面技を披露しながら乱馬に言った。
「は、はい」
さすがの乱馬も、これには反論できず、早々と玄関を飛び出していった。
「くっそー、なんで俺があいつの為にこんなことしなきゃいけねーんだ」
悪態をつきながら、道の小石を蹴飛ばす。
うっすらと地面にかかる雪が、小石の通る道を映し出した。
「だから、無駄話なんかしねぇで帰ればよかったのによ。ったくめんどくせぇ」
雪が降る月夜の空を見上げながら、呟いた。
先程から、かなり強く雪が降ってきている。あと小一時間ほどで膝あたりまでくるであろうペースである。
「しょうがねぇな、はやいとこ探して帰らねぇと」
幾らかスピードを上げて走り出す。皮肉を言っていてもやはり許婚は許婚。乱馬にとってあかねは大事な存在となっているのである。

ガサガサッ

突然の物音に乱馬の動きが止まる。
「だれだっ」
ガサッ

乱馬の言葉にも反応せず、ただ沈黙だけが広がる。
乱馬は、物音がしたほうに移動し、動かないのを確認し、軽く叩いた。
「おいっ、でてきやがれ」
「フギャー」
「ん・・・・
う゛っぎゃー、ね゛っね゛ごー、ぐっぐるな゛、わ゛っわ゛っわ゛ー」
物陰に隠れていたのは、ねこ、であった。もちろん乱馬の猫嫌いは直ってはいない。

ドスンッ

目に涙を浮かべながら、無心に逃げ回る乱馬だが、電柱に頭を打ちつけ、気を失ってしまう。

「んっ、乱馬の声」
帰路についているあかねがその絶叫に気づき、声がしたほうへと駆け出す。
案の定乱馬は、青向けに倒れていて、足をヒクヒクいわせている。
「もうっあんた、なにしてるのよ」
あかねの言葉に気がついたのか目を覚ます。
「ニャーン」
「う゛っまだい゛るー」
ねこの姿を見つけると、あかねの後ろへと隠れる。
「もうっ、なさけないわねぇ」
「うるせぇよ、これは親父が悪いんでいっ」
「ほらっ、あっち行きなさい、乱馬が怖がってるでしょ」
シッシッと手を動かす。
「ニャー」
あかねの言葉がわかったのか、クルリと体を反転させ、去っていった。
「ほら、いったわよ。ところで、こんな雪の中、なにしてたのよ」
猫がいったのを確認してから振り向き、乱馬に尋ねる。
「えっ・・・いやっ、そのっ、これっ」
顔を赤くしながら差し出す。
「傘?私に持ってきてくれたの」
「おじさんが持っていけっていったからもってきたんだよ」
やはり、素直じゃないからか、心配した、とかいう、言葉が出せない。
「そっか、ありがと、乱馬」
「へっ」
いつもであれば、両者共に素直のなさからか、お礼などありえないのであるのだが、あかねのその言葉、乱馬が戸惑う。
「お、おいお前、熱でもあるんじゃねぇのか」
「何言ってるのよ、熱なんてあるわけないでしょ。
それより、早く帰らないと。
雪も強くなってきたことだし」
「あ、ああ」
いつものあかねであることに、少し安心し、雪が吹雪く道をゆっくりと歩き出す。
一歩一歩踏み締める度に、黒の軌跡が浮かび上がる。
風が冷たい。薄着の乱馬に容赦なく雪が降り注ぐ。
先程まで、乱馬は傘をもっていたのだが、猫から逃げるときにでもに、落としてしまったのであろう。
あかねに傘はあるのだが、素直のなさからか、中にいれてくれ、なんて言葉をだすことはできない。

ヒュオォォー
冷たい風が雪を混ぜて降り注いでくる。
その風の冷たさに乱馬は身震いをした。
乱馬の様子を見ていたのか、あかねの動きが止まる。

「ねぇ乱馬、そんな薄着で寒くないの?」
「さ、寒くなんてねぇよ。俺はお前と違ってやわ、ハッ、じゃ、ハックショ」
「もう、ホント素直じゃないわね。
ほら、風邪ひいちゃうじゃない」
乱馬のクシャミを見て、笑いながら傘を差し出す。
あかねが差し出す傘に入ることを否定することなく、いや、否定せず、中に入る。
乱馬の顔は真っ赤である。
「・・・あ、ありがとよ」
「傘もってきてくれたから、おあいこよ」
乱馬は、先程より幾分寒くなくなったのを感じた。
風や雪も強く、弱まっていない。ましてや、服を着込んだわけでもない。
ただ違うのは、あかねの横に肩を並べて歩いていること。
いつも屋根の下で一緒にいるのだが、二人っきりというのはなかなかない。あったとしても、必ずといっていいほど邪魔が入る。
そういう環境からか、二人きりというのは、乱馬にとっても、あかねにとっても恥ずかしい事である。
そのためか、乱馬は幾分温かみを感じたのであろう。

「なあ、こんなに遅くなるまで何話してたんだ?」

無言で歩く中、乱馬が口を開く。
「えっ、さゆり達とちょっとね。
あっそういえば、乱馬に言わなくちゃいけないことあったんだ」

思い出したのか、手をポンと合わせる。
「なんだよ、俺にいわなきゃいけないことって」

「明後日から冬休みでしょ。
それで、さゆりの提案なんだけど、私とさゆりと大介とあんたで、どこか旅行に行かないかって、もちろん泊まり込みだけど」

乱馬を見上げながら尋ねた。

「旅行?
別にいーぜ。休み中に予定とかねぇしよ」
「えっ」
予想外の返答に驚く。
「でも、修行とかはしなくていいの?」
「あー、修行なら大丈夫だぜ。
たぶん親父の事だから、今年の冬は寒いから、来年の夏にするっていうに決まってるからな、それに・・・」
「それに?」
「あっいやっなんでもねーよ」
(お前が心配だから・・・なんて言えるわけねぇだろ)
心で呟き、顔を再度真っ赤にしてごまかす。
「変なの、まっいっか」

あかねに少々の笑みがこぼれた。
乱馬と一緒に行けることが、実はうれしいのである。

会話が弾んできたところでちょうど天道家へとつく。
「それにしても綺麗ね」

家の玄関前に立ち止まり、あかねが空を見上げる。
月明かりに照らされ、黄金色の輝きをもたらす雪が降ってくる。

「おい、早く入らねぇと風邪ひくぞ」

体を半身玄関に入れた状態で乱馬が話す。

「うん、もう少しだけ・・・。
ねぇ乱馬、こ〜やって眺めてると、なんか夢でもみてるみたいじゃない?」

あかねが空をのぞき込みながら言った。
空の上には点々と無数の雪が降り注いでいる。

「夢?、確かにそうかもな」

あかねの隣に肩を並べ、言葉を返す。

降り続ける雪の幻想さに錯覚すら覚える。

ヒュオォォー
再び冷たい風が吹く。
風の強さに、あかねが持つ傘が、飛ばされそうになった。

「あっ」

言葉とほぼ同時に傘が手から離れる。
その傘に動かされるように、足もつられて動いてしまう。

ブオォォー

あかねめがけて車が走ってくる。
「あっあぶねぇ」
その様子を見ていた乱馬がすかさずあかねを引き戻した。

「ったく、手間かけやがって」
引き戻した手を離し、あかねに背を向けながら言う。
「ごめんね、乱馬」
「ほらよ、傘」
ちょうど木にかかっていたのか、軽く跳躍し、あかねに手渡す。
「ありがと・・・」
「いいって、いつものことじゃねぇか、気にすんな。
それより、旅行っていつからなんだ?」
何事もなかったようにふるまい、軽くあかねに聞く。
「・・・・」
少々下を向いて考えているようだ。
「お、おい、まだ決まって・・・」
「明日からよ」
「あっ明日?」
「そう、明日から。
今から用意しなくっちゃ」
玄関に背を向け走り出す。
「おい、どこいくんだ」
「い〜から、明日の用意よ」
「おい、まてよ」

雪が渦巻く夜の間を、月明かりに照らされながら走っていく二人。


その様子を見て笑う月。
月明かりを浴びながら、雪が群がる小道を走る。
これから、何度も一緒に走る道を。




作者さまより

本当はもっと続く予定でしたが、短くしました。
たぶん次の作品に続きを書くと思うので、少々お待ちください。
やっぱり難しいです。書いてみるときは、なかなかいいと思うんですが、読み返してみるとなんか変ですね。
次の作品は、気をつけたいと思います。


情景描写がいいですね・・・
読んでいる最中にチャイコフスキーの交響曲第一番「冬の日の幻想」を思い出しました、何故か・・・。

雪の中の月・・・ロマンティックですね・・・
是非、この続きを読みたいです・・・(またねだってる・・・)
(一之瀬 けいこ)




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