◆あかねのバースデー
Ran−maさま作


チュン、チュンチュン
小鳥のさえずりが聞こえる。
今日は雲一つない晴天。
太陽の光があたりを照らし出す。
天道家の庭では、いつも通り早乙女親子二人が稽古をしていた。
「いくぜ親父ー」
「手加減せんぞー乱馬」
バキッ・・
乱馬の蹴りがほんの少し早く入り、玄馬が池へと落ちる。
『バシャーン』
ムクムクッ
玄馬の姿がみるみるうちにパンダへと変わる。
「けっざまーみやがれ」
池をのぞき込みながら玄馬に言う。
「乱馬〜早く〜、遅刻しちゃうよ〜」
玄関から聞こえてくる。もちろんこの声の本人は、乱馬の許婚のあかね、である。
「じゃーな親父」
「パ、パオパオッ(に、逃げるのか乱馬)」
玄馬の言葉?を無視して、居間の鞄を持って玄関へ行こうとする。
「あっ、ちょっと乱馬君、帰りにこれとこれ買ってきてくれない?」
居間に背を向けて走る乱馬に、かすみが尋ねる。
「あっ、はい・・んっこれって今日の?」
「そうよ、だから、早めに買ってきて頂戴」
「わかりました」
そういうと、再び背を向けて走り出す。
「もうっ乱馬ったら、なにしてるのかしら」
玄関で頬を少し膨らまながら、ブツブツと呟いている。
「あっあかね、ごめん」
「なにしてたのよ〜もう」
「いや、ちょっと親父がしつこくてな」
「ふ〜ん、まっいっか。あっ、そういえば、乱馬この頃帰ってくるの遅いじゃない。何してるの?」
「え゛っいやっ・・。なんでもねーよ、そ、それより早くいかねーと遅刻しちまうぞ」
いつものフェンスを降りて走り出す。
「あっ乱馬、待ってよ」


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
―天道家居間―
「王手」
パチッ
「むむむむむっ、まだまだ、逆王手だ、どうだい天道君」
パチッ
「うーむ、早乙女君、今日の買い物、この勝負で負けた方にしないかね」
「それはいいね、天道君」
「それでは、王手」
パチッ
「なっ、天道君、その手はちとひどいかと…」

「はっはっはっ、この勝負私の勝ちかな。そういえば早乙女君、このごろ乱馬君の帰りが遅いのだか、どうしてだい?」
「ふーむ、そういえばあのバカ息子、今日でも口を割らせてやるか」
「ちょっとちょっと早乙女君、今日は駄目だよ」
「おっそうであった、して天道君、買い物やっぱり一緒に行かないかい」
「それは駄目だよ早乙女君」
「うわっと水が」
『バシャ』
ムクムクッ、ガラガラガラ。
「あーひどいよ早乙女君、負けてるからって」
「パオパオッ(事故だよ事故)」
プラカードを回しながら、笑っている。
「お父さん達ー、昼ご飯ができましたよー」
「パッパオパオッ(ほら、天道君、ご飯だって)」
「うっ、ひどいや」
涙を流して泣いている。
「パオーパオッ(一緒に買い物行ってあげるから)」
そうプラカードに書いて、ご飯を食べ始めた。


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
キーンコーンカーンコーン
「あー腹減ったー」
「おい乱馬ー食堂行こうぜ、食堂」
クラスメートの大介が尋ねる。
「あーいいぜ」
ミシッガッシャーン
「乱馬、ちょっとくるよろし」
窓ガラスを自転車で割りながら教室へと飛び込んできた。
「んっ、シャンプー。分かった。大介ー、悪いけど先いっててくんねぇか?」
「別にいーけどよ、いいのか?」
大介が、ちらりとあかねの方を見る。
「あー別にかまわねぇよ」

「あかねーいいの、乱馬君行かせちゃって?」
「ん〜なんで〜」
「だって乱馬君、あんたの許婚でしょ」
「そ、そりゃ〜そうだけど…いっ、い〜のよ、あんな女ったらし」
そんな事をいいながらも、乱馬の行き先をじっと見ている。


「これ、ひいばあちゃんに渡せ言われたね」
シャンプーが、一枚の封筒を渡す。
「サンキュー、じゃー俺、大介たちまってるから」
その場から立ち去ろうとする、が
「待つね乱馬、今日学校終わたら、私とデートするね」
「げっいやっシャンプー、今日は、ちょっと用があるから…」
「問答無用ね、ては、再見」
再び自転車で学校から消えていく。
「まいったなー。今日はかすみさんに買い物頼まれてるし、俺も用があんのに…」
そんなことをブツブツ言いながら、食堂へ向かった。
「あっ大介、悪い悪い」
「いーよなー乱馬は、あんなに女がいて」
「なっ…おっ俺は好きでいてもらってんじゃねーんだよ。特にあんな寸胴女」
ミシッ
「誰が寸胴だ〜」
後ろからあかねの蹴りがとぶ。
「で、なんでお前がここにいるんだ?」
うまく受け身を取りながら尋ねる。
「そっそれは…しょっ食堂でご飯にしようと思ったから…」
「んっでも、さっきさゆりたちと昼食してなかったか?」
椅子に座っている大介が聞く。
「あかねー早くー」
「あっ私呼ばれてるから行くね」
その場をうまくごまかして食堂を去って行った。
「なんだあかねの奴」
椅子に座り直し、ラーメンを食べながら言う。
「たぶん、お前とシャンプーの様子を見に来てたってとこだな」
「はあー、あいつ素直じゃねーなー。」
(お前もそのくらい素直じゃねぇけどな)
大介は、心のなかで呟き食べ続ける。
「で、大介、お前さ………………知らねぇか?」
「んっ、知ってっけど、そんなもんどうするんだ?」
「いいから、気にすんなって」
「まぁいいけどよ。えーとたしか、………………がいいぜ、安いし」
「センキュー大介」
「なあ乱馬、本当にどうするんだ、そんなもん。っておい、待てよ乱馬」
すでに食べ終わり、食堂から出ようとする。
「先行くぜー」
「ちょっ、ちょっと待てよ」
急いで食べ、後を追いかけていく。
「はぁーはぁー、おい乱馬、待っててくれたっていいじゃねぇか」
「あっ悪い、ちょっと考えててな」
「あっそれで、やっぱさっきの、あかねにやるんだろ」
「な゛っ…なんで俺があっ、あんなやつにやらなきゃいけねぇんだ」
「そっかー、そういえば、今日はあかねの誕生日だよなー、だからバイトしてたのか」
キーンコーンカーンコーン
「な゛っだから違…」
「おっベル鳴ったぜ、早くいかねぇと」
「こっこら、大介まちやがれ」
「大丈夫だって、誰にもいわねーから」
ガラガラッ
教室に入る。
「なにしてたんだ、お前ら、遅いぞ」
先生に尋ねられる。
「あっ食堂で飯食ってました」
「もうちょっと早くくるようにな、まぁいい、では、授業を始める。教科書三十五ページ開いて」
ピーン
ポスッ
あかねの頭に乱馬が紙を飛ばす。
(何よ、乱馬、ん、好きな色?)
ヒュッ
パシッ
あかねが投げる紙をうまくキャッチし、内容を見る。そして、机の上に腕をかかえ、寝始める。
(も〜なんなのよ、乱馬は、人の事聞いといて、寝ちゃうなんて、もう)
「えー天道あかね、次の問題やってみろ」
「へっ、えっどこどこ?」
「三十六ページの2番だよ」
後ろの席のさゆりが、ボソッと呟く。
「えっえ〜と、2√3です」
「よしっよく予習が出来てるな」
「あ、ありがとさゆり」
後ろを向いて言う。
「いいって、それより、さっきの乱馬君の手紙っぽいのどうしたの」
「あ〜あれは、な、なんでもないって」
「ほんとーあかね」
「ほっほんとだって」
「こらっそこ、話してんじゃない、えーこれから自習にするから、あと、このあと誰も先生方いなくなるので、この時間終わったら、自由に帰るように」
ガラガラッ
教室をでていく。
「おい乱馬起きろ、早く帰ろーぜ」
「んー、あれ、もう終わったのか」
「なんか自習で帰ってもいいってさ」
「悪い大介、俺、買い物頼まれてんだよ、だから俺、先帰るわ」
「あっああ」
「じゃーな、大介」

タッタッタッ廊下を走り抜ける。
(もう、乱馬ったら、一緒に帰るっていってたのに)
不機嫌そうに鞄に教科書を詰め込む。


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
ガラララッ
「かすみさんっこれ、買い物のやつ」
「あっ、ありがとう乱馬君」
「あっ、あとかすみさん、俺、たぶんちょっと遅くなるかもしれないから、遅かったら先にやっててください」
そういって、また外へと駆け出していった。
「ただいま〜」
「おかえり」
「あれっいま乱馬君と会わなかった?」
「いや、会わなかったけど」
「あらそう、なんか乱馬君、今日誕生日なのに、遅くなるって言ってたのよ」
「えっ、乱馬今日誕生日なの?」
「ちがうわよ、今日はあかねの誕生日じゃない」
「へっ」
驚いた表情で姉の顔を見る。
「だから、乱馬君に買い物頼んだのよ、でも、今日も遅くなるって、なにしてるのかしらねぇ」
「あっ、そうか、今日私誕生日だったんだっけ」
「そうよ、だからはやく着替えてきなさい」
「は〜い」
トタトタッと音を立てて階段を上っていく。


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

「いらっしゃいませー」
「あ、あのーこれのこの色ありますか?」
「ちょっと待ってくださいね」
「あっ、はい」
「うーんと、あるわよ一本だけ」
「あっ、じゃーそれ包んでもらえますか」
「いいわよ、これ、もしかして、彼女にプレゼント?」
「いっいや、そっそんなんじゃないです」
顔が赤くなっていくのがわかる。
「はいっ」
「あっありがとうございます」
「またおこしください」
「ふー、えっと、六時からだから、げっやば、もう三十分もすぎてるし、怒ってるだろうな、あかねの奴…いーや、まず、早く帰んねぇーと」
夕暮れの町を走り抜ける。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

「もー乱馬君はなにしてるわけ、こんなに待ってるのに」
めんどくさそうに、なびきが発する。
「乱馬君遅くなるっていってたから、先にはじめちゃいましょ」
「うむ、そうだな」
「では」
パンパンッ
クラッカーが鳴り響く。
「「「「「ハッピバースデーあかねー」」」」」
拍手が鳴り響く。
「あ、ありがと、皆」
照れくさそうな顔をしながら言う。
「はいっあかねープレゼント」
「ごめんねあかね、お金なかったから、それ皆で買ったのよ」
「いいよ、そんな、それで、あけてもいーい?」
「いいわよ」
バリバリッ
「うわー毛皮のコート、ありがとう、皆」
「はっはっはー、よし、じゃー早く食べよう」
もうすでに酔っているのか、早雲と玄馬は顔を赤らめている。
「あら、あかね、食べないの?」
「あっ、うん、なんかあんまり食欲なくて」
「そう、残念ね」
「ごめんね、お姉ちゃん」
(乱馬なにしてるのかな…、いつもは必ず隣にいてくれて、なにかともめたりするけど、やっぱり乱馬がいないと・・・)
「どうしたのあかね、大丈夫?」
「…お姉ちゃん、ちょっと頭痛いから、部屋に戻るね」
「大丈夫、お薬いらない?」
「大丈夫、そんなに辛くはないし」
そういって、階段を上っていった。
ギッパタン
「ふー」
部屋に入りベッドに倒れ込む。
(はぁー、乱馬がいないって、こんなつらかったっけ、なんでだろ、いつもいっしょにいるから・・・違う、許婚だから・・・違う、やっぱりあたし乱馬の事が・・・)
涙があふれてくる。

コツンッ

窓ガラスに小石が当たる。
「だっ誰」
涙を拭い、急いで窓を開けて下を見る。そこには、おさげ髪をなびかせている乱馬の姿があった。
「おい、あかね、ちょっと外にこれるか?」
「なっなにしてたのよ、乱馬。心配したんだから」
「ご、ごめんあかね、ちょっとな」
「ちょっと待ってて」
トントンッと急ぎ足で足を運ぶ。
「あれ、あかね、大丈夫なの?」
居間から声がかかる。
「うんっ大丈夫、ちょっと行ってくるね」
「気をつけてね」
ガラララッ
玄関を開けて飛び出す。
「乱馬〜」
「おいあかね、こっちこっち」
道路に出ると前の方で走っている乱馬の姿が見える。
「ちょっと、乱馬どこいくの」
「いいから、ついてこいって」

タッタッタッ

無言のまま、二人は走り続ける。そして、ふと、乱馬の足が止まる。
「こ・公園」
「ここじゃねぇと親父たちに邪魔されるからな」
「えっ…」
「べ、別に誤解すんなよ、おまえなんか色気の無い女なんとも思ってないからな」
「だから、なんであんたはそう素直じゃ……」
乱馬を蹴ろうとした、そのとき
「こ・これ・お前・今日誕生日だろ、だ、だから」
顔を真っ赤にしながら一つの包みを渡す。
「へっ…わ、私に?」
「そ、そうだよ」
「あ、ありがと」
同じく顔を真っ赤にする。
無言のまま、沈黙が走る。
「あの、開けてもいい?」
先に沈黙を破ったのはあかねのほうだった。
「あ、ああ」
あかねに背を向け、恥ずかしそうに言う。

ガサガサッ
不器用にも包みを破り、箱を開ける。
そこには、薄橙色の口紅が入っていた。
「あっ、口紅」
「お前の好きな色で買ったんだけど、き、気に入らなかったら、捨ててもいいんだぜ」
あかねを横目で見ながら言う。
「ありがと、乱馬」
そういって、口紅を塗り出す。公園の街灯に反射して、あかねの唇が綺麗に輝く。
「どう、乱馬、似合う」
乱馬の前に回り込んで、尋ねる。
「に、似合ってる、ぜ」
恥ずかしさで、言葉がギクシャクする。
ヒュウウウー
星が輝く夜空の間を、冷たい風が吹いていく。
「ねぇ乱馬、もしあたしたち、許婚じゃなかったら、こうやって話したりできなかったよね」
「そ、そりゃーな」
「乱馬は、あたしに会えてよかった?」
不意に尋ねられ、言葉が詰まる。そこにまた、沈黙が生まれる。
「あたしは、よかったな」
「えっ…」
一度ひいた顔の赤みが、再びあらわれてくる。
「だって、さっきも、隣に乱馬がいないってだけで、苦しくなったんだ。なんか、隣に乱馬がいるっていうのがあたりまえで、安心、するのかな…」
ヒュウウウー
再び、沈黙する。
「さ、さむ〜い、ねぇ、そろそろお父さんたち心配するし、帰らない?」
「あ、ああ」
バッ、パサッ
乱馬は上着を脱ぎ、あかねの肩にかけ、歩きだす。
何分たったであろうか、もう長い間歩いている気がする。
「あっ、乱馬、プレゼントのお礼しなきゃ」
「はぁー何言ってんだよ、お前の誕生日プレゼン…」
あかねは、乱馬の首に腕を回し、背伸びをしながら、そっと唇を重ねた。

ボッ
乱馬の頬が、これ以上ないくらい赤く燃えだす。

「さっ、早く帰ろっ」
そういって乱馬の手を取り歩きだす。

月の光に照らされながら、二人の影はどんどん小さくなっていった。
(私も乱馬も、まだまだ子供なんだよね)








作者さまより

第二回目の投稿です。テストが終わって、気晴らしに書いてみました。でも、なんか中途半端っていうか、乱馬の視点が難しくて、最後あたりうまくいきませんでした。次に書くときは、もう少し視点に注意して書きたい、と思います。


・・・ラストが・・・
乱馬とあかねの表情や情景がぽっと浮かんできます。
なんてほのぼのと素敵な・・・乱馬君、幸せそうであります。幸せな誕生日、羨ましいです。
(一之瀬けいこ)



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