◇君、思う故
  〜Side.A 中編

りょうさま作


今日はいよいよ同窓会の日。
乱馬とはあの日以来、別に何があるわけでもなく、普通に接してる。
あの日考えたことが、思い違いだったんじゃないかって思えるくらいに。
今日の同窓会も、すっごく楽しみだって、心から思えるくらいに。

「なーに、黄昏てんだよ」
校門の前につっ立ってた私は、声をかけられて後ろを振り返った。
「遼一!」
そこにいたのは、この前電話で話した相手…私を同窓会に誘った張本人の加藤遼一だった。
「うわぁー、久しぶり!元気だった?」
「おう。あかねも相変わらず元気そうだな」
「もちろん」
「こんなとこにいないで、早く教室行こうぜ」
「うん」
遼一に促され、私は昇降口へと向かった。
そこで靴を脱ぎ、2階にある3年3組…私たちが一年間過ごした教室へ行く。
校舎も全然変わってない。相変わらずのオンボロ校舎(笑)
そして、教室の前まで来て、一呼吸おいて足を踏み入れた。
引き戸を開けると、そこにはもう、ほとんどの人が集まっていた。
「あ、あかねー」
私が来たことに気づいた友達が一気に駆け寄ってきてくれた。
遼一もすでに、男友達に囲まれてる。
「久しぶり!元気だった?」
「うん!ホント、久しぶりだねー」
「なんだよ、加藤。元カノと一緒か?あ、もしかして、お前らまだ付き合ってるとか?」
「バーカ。んな訳ねぇだろ。オレとあかねは一回も付き合ったことねぇよ」
男友達の言葉に、私と遼一は顔を見合せて苦笑した。
ホントに、私と遼一は一回も付き合ったことがない。
それなのに、中学の頃、周りの友達は私たちが付き合ってるって思ってたみたい。
みんなからすると、お似合いのカップルらしい(笑)
でも、当の私たちには全然そんな気はなくって、ただの、男友達、女友達。
「そこのお二人さん。ドアのところで止まってたら入れないんですけど」
「真実!」
「大原!」
立ち止まってた私たちに後ろから声をかけてきたのは、私の中学の時の大親友、大原真実だった。
「久しぶり!あかね、遼一」
「おう」
「久しぶり!元気してた?」
「元気、元気!中学皆勤だった私が元気じゃにと思う?さっ。進んで、進んで。もう3時過ぎてるし、同窓会始めましょ」
「ああ、そうだな」
もともとクラスの中心的存在だった遼一のこの一言で、同窓会は始まった。

同窓会…なんていっても、中学の時の友達が集まっておしゃべりをする、他愛の無いもの。
ただ、そのおしゃべりをするのが、2年ぶりくらいなものだから、いくら話しても話題が尽きない。
中学の時の思い出話だったり、高校での近況報告だったり。
しかも、これからまたしばらく会えなくなっちゃうんで尚更。
だから、私にとって、与えられた3時間っていうのは全然時間に入らなくて、
「おい、もう6時半だぜ」
なんていう、誰かの声に、思わず耳を疑った。
「どうする?もうお開きにするか?」
遼一がみんなに向かって言う。さっき知った話、遼一は今日の同窓会の幹事らしい。
「ここ、何時まで使えんだ?」
「いちお、7時半までってことになってる」
「んじゃあ、まだまだ全然大丈夫じゃん。続けようぜ」
ちょっとちょっと…。勝手に話進めないでよ…。
みんな、7時半まで残る気みたいだし…。
そりゃ、私だって、もっとみんなと一緒にいたいけど、乱馬に同窓会は6時までって言ってきた。
仕方ない。ここは先に抜けさせてもらうしかないか。
「あの、遼一?」
「ん?」
「私、そろそろ帰らなきゃ」
「何で?何か用事でもあんのか?」
「別に、そういうわけじゃないけど…」
乱馬が待っててくれるから。私も乱馬に会いたいから。
「だったらいいじゃん、もうちょっと」
「でも…」
「オレ、まだまともにあかねと話してねぇんだぜ。みんなもまだ残るみたいだし。な」
そこまで言われると、帰るに帰れなくなっちゃうじゃない。
「わかった」
「そっか」
私の承諾の言葉に、遼一は嬉しそうに納得した。
どうしよう。ここに残れて嬉しい気持ちが半分。乱馬に申し訳ない気持ちが半分。
でも、承諾しちゃったからにはどうしようもない。
仕方ないから、乱馬には電話しとこ。


「あの人、何やってるんだろ?」
窓際にいた女子が誰にとも無く聞く。
「ホントだー。でも、あの人かっこよくない?」
私はそんな彼女たちの会話を耳に入れながらも、特別気にすることなく聞き流していた。
携帯を取り出そうと、ロッカーの上においてあるかばんに向かって歩く。
「珍しいよねー。チャイナ服なんて」
え?
「ホント。しかも男の人なのにおさげ?」
うそ!
「ちょっとごめん!」
『かっこよくない?』の一言で窓際に並んだ女子の間に割り込んだ。
やっぱり…。
校門に身体を預けて腕組みして立ってるヤツ。
乱馬…、特徴ありすぎだよ…。
でも、何でこんなところに?
声…かけたほうがいいのかな。でも、みんないるから恥ずかしいし。
その時ふと、乱馬と目があった…気がした。
乱馬のほうから見ると、逆光で、窓側にたくさん人がいるなーくらいしかわからないと思うけど。
乱馬は一瞬だけこっちを見ると、また視線を戻した。
恥ずかしいけど、この際仕方ないか。
「乱馬ー!!」
私の突然の大声に、呼ばれた本人だけでなく、クラス中の人たちが一斉に私のほうを見る。
もー、やっぱり恥ずかしい…。
当の本人はといえば、校門からゆっくりと教室の下まで歩いてきた。
「あかね、あの人と知り合いなの?」
真実が私に尋ねた。
「あ、うん」
「もしかして、彼氏?」
「え?」
「図星でしょ」
「うん…」
「えー、あれが、あかねの彼氏?」
私たちの会話を聞いていた周りから、いろいろな声があがる。
「あかねー」
ふと、下から呼ばれ、私は窓から身をのりだした。
「あかね、ちょっとそこどいてろ」
遮られた言葉に本能的に従うと、もう、すぐそこには乱馬の顔。
乱馬にとって、地面からここまでジャンプしてくるなんて、造作もないこと。だけど…。
「いきなりこないでよ。びっくりするじゃない!それに、なんであんたがここにいるのよ」
「同窓会、6時までだって言うから迎えにきてやったんだろ。でも、あかねなかなか出てこねぇから、あそこで待ってた」
迎えに…来てくれたんだ。なのに私、時間なんか気にしないですっかり話こんじゃってた。
「…ごめんなさい」
今更ながら、急に、乱馬に対して、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「そんな気にすんな。仕方ねぇことなんだろうし」
乱馬が私の頭の上に、ポンポンと手を置いた。
そんなに優しくしないでよ。悪いことしてるのは私のほうなんだから。また、乱馬の優しさに甘えちゃうから。
「で、何時までなんだ?」
「7時半まで、ここ使えるっていうから…」
「そっか。じゃあ、終わんのもそんくらいだな。そん時んなったらまた来てやるよ」
乱馬はそう言って笑って、身体を逆向きにして今度は窓から飛び降りようとした。あ…。
「あの!」
乱馬を引きとめたこの声は私じゃない。
その声の主の方に私も乱馬も振り向いた。
「あの、よかったら同窓会、参加していきません?」
真実の意外な一言に、私も、そしてきっと乱馬も驚いたことだろう。
乱馬は飛び降りかけた体勢をきちんとこちら側に戻す。
「私、あかねの中学の時のクラスメイトの大原真実です。あかねの彼氏さんですよね?」
「あ、どうも。早乙女乱馬です」
「ね、もしよかったら早乙女くんも一緒に」
「え?オレは…」
真実からの提案に戸惑う乱馬。私のほうを見てる。
「いいんじゃない?あんたが嫌じゃなきゃ」
「オレは別に嫌じゃないけど…。いいのか?中学の集まりにオレみたいな部外者が入っちまって…」
「いいですよ、全然。ねぇ、遼一もいいよね?」
真実の声が遼一までとんだ。
「ああ。別にいいんじゃねぇ?」
「ほら、幹事もああやって言ってることだし。ね!」
「…それじゃあ、お言葉に甘えて…」
「うわー」
乱馬が返事をした瞬間、女子からあがる、歓声にも近い声。
そりゃ、乱馬みたいなかっこいい人がいれば嬉しいだろうけど、乱馬は私の彼氏なんだからね!
…でも、乱馬までここに残るとなると、うちに連絡しなきゃいけないよね。
「乱馬」
横にいる乱馬の服のすそをくいくいとひっぱる。
「家に電話してくるね」
私は乱馬にそれだけ言うと、さっき行きそこなったかばんへと足を向けた。
「あかね」
「え?」
不意に後ろから呼び止められ乱馬のほうを見ると、何かが私に向かって飛んできた。
私はあわててそれをキャッチする。
え?携帯?しかも、ちゃんと私の…。何で乱馬が持ってんの?
「それ、居間の机の上に置きっぱなしだったぞ。そういう大事なもん忘れてくんじゃねぇよ」
あきれた感じで言う乱馬。
携帯、ずっとかばんの中に入ってるもんだと思ってた…。
「あ、ありがと」
「ほれ、とっとと家に電話して来い」
「あ、うん」
そうだよね。とりあえず今は電話かけなきゃ。

私は教室から出て、廊下で家の番号を押した。
「はい、天道です」
2.3回の呼び出し音の後に電話にでたのはなびきお姉ちゃんだった。
「あ、もしもし、あかねです」
「あー、あかね。どうしたの?」
「あのね。乱馬、迎えに来てくれたんだけど、何か乱馬まで一緒に同窓会入ることになっちゃって…。帰り、8時近くなっちゃうと思うから」
「そっ。わかったわ。かすみお姉ちゃんに言っとく」
「うん。お願いします。それじゃあ」
「あ、あかね」
電話を切ろうとした私をお姉ちゃんが引きとめた。私はあわてて携帯をもう一度耳にあてる。
「ん?何?」
「いいこと教えてあげる」
「いいこと?」
「乱馬くんね、6時になった瞬間に、家飛び出しってたのよ」
「え?」
どういうこと?何でそれがいいことなの?
「あんたも相変わらず鈍いわねぇー。乱馬くん、それだけ早くあんたに会いたかったってことじゃない」
「あ…」
そう…思ってくれてたのかな?だったとしたら、すっごく嬉しいんだけど。
「だからって安心してないで、しっかり乱馬くん、ガードしてなさいよ。じゃないと、友達の誰かにとられちゃうかもしれないわよ」
「もー、お姉ちゃん!!」
「仲がよろしいのは結構なことだけど、なるべく早く帰ってきなさい。じゃあね」
プツン。
電話…切られちゃった…。
もー、なびきお姉ちゃん、言いたいことだけ言ってとっとと切っちゃうんだから。
でも、嬉しい。乱馬が…か。
その嬉しさに一人でクスッと笑って教室に入った。
入った瞬間目にしたのが、女子たちにぐるーっと囲まれてる乱馬。(さすがに真実は外れてあきれて見てるけど)
そんな光景に、今感じた嬉しさは一変。
また一人でヤキモチ妬いて、ガキみたいだって言われても、やっぱりこういうの見ると妬けてきちゃう。
だって、乱馬は私の彼氏なんだよ!
私は出来るだけ落ち着いて、さりげなく乱馬の横に入った。
「なるべく早く帰って来なさいって。なびきお姉ちゃんが」
「げっ!なびきが電話にでたのか?」
「うん、そうだけど…。乱馬、どうかしたの?」
「あ、いや。なんでもない。ありがとな」
どうしちゃったんだろ。乱馬。なびきお姉ちゃんって言った瞬間に顔引きつっちゃって…。
「ねぇ、あかね」
私が入ったことによってとかれた乱馬の包囲網(?)の中から、真実が顔を出した。
「さっきから、あんたたちの会話聞いてて不思議なんだけどさー、あんたたち、どういう関係?」
「え?どういう関係って?」
「だっておかしくない?これからデートに行くならまだしも、家に帰るあんたを早乙女くんが迎えに来たり、携帯を居間の机に忘れてったとか普通に話してるし、早乙女くん
 やけにあんたの家族と親しそうだし…」
真実の指摘にみんなもそういえば…と納得してる。
そっか。みんなは知らないんだ。
乱馬がうちの居候だってことも、そもそも私と乱馬は許婚って関係だってことも。
答えに困った私は、乱馬のほうを見る。
乱馬は私の視線に気づいたのか、ちらっとこっちを見て、私のかわりに答え始めた。
「オレ、こいつんちの居候なんだ」
「居候?」
「つまり、一緒に住んでるってこと?」
「まぁ、そういうことになるかな」
「えー!!」
平然と言ってのける乱馬に、あっけにとられる旧3年3組一同。
そりゃそうよね。恋人が居候なんて話、そうそう聞くもんじゃないいもの。
「そんなに驚くことか?」
あまりの驚きぶりに、乱馬が私に尋ねる。まぁ、ここにいる人たちはもともとリアクション大きかったりするんだけど。
「仕方ないんじゃない?他にいる?こういう人たち」
「普通…、いねぇよな」
「そうでしょ?」
こうやってみると、今更ながら、私たちの関係が特別なものなんだなって思い知らされる。
「早乙女くん、あかねの家に居候してどれくらいになるの?」
「んー、もう3年近くになるかな」
「どうしてあかねんちに居候してるの?」
「もともと、うちの親父とあかねんちのおじさんが友達で、許婚に会いに行く!って、無理矢理連れてこられたってわけ」
もう、誰からのものかもわからない質問にも丁寧に答えていく乱馬。
許婚なんて、恥ずかしいから言わなくてもいいのに…。
「イイナズケ?」
「許婚って何?」
ほらね。
許婚って言う言葉さえ知らない人が少なくないこのご時世に、本当にそんな関係があるなんて、そうそう信じられるもんじゃないわよ。
「許婚っていうのは、婚約者…みたいなもんかな」
「婚約者って、あかねと早乙女くんが?」
私と乱馬を交互に見比べて、最終的に私で視線を止める真実。
私はコクンと首を縦に振った。
「うそー!!」
鼓膜が破れそうな程の大声量。
居候の時以上のすごい驚き方。
でも…当たり前か。
もし、私が逆の立場だったらきっと同じくらい…ううん、それ以上に驚いてると思うもの。
あまりの恥ずかしさに乱馬のほうを盗み見る…はずだったんだけど、ものの見事に目があっちゃった。
乱馬は私を見て、優しく笑ってる。
「何今更照れてんだよ」
「だって、改めて言うと、恥ずかしいじゃない。高校だったらみんな知ってることだから、今更なんとも思わないけど」
「そういうとこは、相変わらずだよなー」
乱馬が私の頭をくしゃっとなでた。
乱馬の笑顔に応えるように、私も乱馬に笑顔をむけた。


「あかね」
不意に後ろから呼ばれて振り向いてみる。
「遼一、何?」
「ちょっといいかな」
「え?うん」
イマイチはっきりしない遼一の言い方に疑問を抱きながらもそう返事をした。
「ごめん、いってくるね」
「ああ」
横にいる乱馬にそれだけ言うと、遼一のところへ行った。
「何?どうしたの?」
「別に。特別用事があるわけじゃねぇけど、まだあかねとそんなに話してなかったからさ」
そっか。さっきもそんなこと言ってたけど、あれから話してないもんね。
「あいつがあかねの彼氏か?」
「え?あ、うん…」
「人の良さそうなヤツだな」
「そっかなー。口は悪いし、優柔不断だし、乱暴だし…」
乱馬のほうを見てみると、私がいなくなったのをいいことに、もう女子に囲まれてる。もぅ。
「あかね?」
「あ、ごめんごめん」
「そんなこと言っても、あいつのこと好きなんだろ」
「…うん。じゃなかったら付き合ったりしない。ましてや、許婚なんてとっくの昔に解消してる」
ちょっとためらったけど、私は素直に返事をした。
付き合っている今、この気持ちを押し隠す必要もなくなったから。
「はいはい、ごちそうさま」
「アハハ…。そういう遼一は?彼女とかいないの?」
「オレ?彼女なんていねぇよ。好きなヤツならいるけど」
「へー、誰?って、聞いても、私にはわかんないか。同じ高校の子でしょ?」
遼一の顔を見て、びっくりした。
すっごく真剣な目で、私のほう見てる。
「遼一?」
不安になった私は、たまらず遼一に声をかけた。
「あ、わりぃ」
「どうしたの?大丈夫?」
「ああ、なんでもない。オレの好きなヤツは企業秘密」
真剣な顔から、いつもの明るい遼一の顔に戻った。
「えー、ずるい!私は教えてあげたのに!」
「あかねの場合、教えたっていうか、ばらしたんだろ。彼氏に迎えにまでこさせて」
「別に私が頼んだわけじゃないもん。乱馬が勝手に来ちゃったの!」
「へーへー。それ以上のろけるなよ」
「私は別にのろけてるわけじゃくて…」
「オレからしてみれば、充分のろけてる」
「ごめん、ごめん!」
それから後もしばらく、遼一と話した。他の男子たちも混ざったりして。
乱馬はといえば、相変わらず女子に囲まれてる。
私はこんなに乱馬のこと気にしてるのに、乱馬は私のことなんて、これっぽっちも気にかけてくれないみたい。
他の男子と話してるんだよ!なのに、何で何の反応もなしかなー。
そういうの、私としては、ちょっと寂しいんですけど…。
人のこと鈍い鈍いっていうけど、あんたも人のこと言えないじゃない。

「おっ。もう7時半かー」
そんな遼一の声で我にかえる。
ホントだ。時計はぴったり7時半を指してる。
「さすがにこれ以上時間とれないし。そろそろ解散にすっか」
遼一がみんなに向かって言った。
「そうだな。もう、ここ使えないみたいだし」
「あんまり遅くなるものヤだしねー」
周りからどんどんそんな感じの声があがる。
ついに同窓会も終わりということで、私たちはそれぞれ片付けをし始めた。
もともとそれほどちらかってた訳じゃないし、人数も人数だから、片付けはあっというまに終わった。
「楽しかった?」
片付けを終わらせた乱馬に話しかけた。
「ああ。いろんな話聞かせてもらったよ。お前こそ、楽しかったのか?」
「うん。おかげさまで」
「バイバーイ」
乱馬と話をしながらも、みんなが帰り始めたのがわかる。
「じゃあ、あかね。また連絡ちょうだい」
帰ろうとしてた真実が私たちを見つけて足を止めてくれた。
「うん。真実もね」
「わかった。それじゃあ、早乙女くん。今日はとっても楽しかった」
「オレも。ありがとな」
「じゃあ、バイバイ」
「バイバイ」
真実も帰ると、教室には私と乱馬と遼一だけになった。
「ホラ、あかね。帰るぞ」
「あ、うん。遼一は?もう帰るでしょ?」
「ああ。こんなとこに一人でいても、仕方ないからな」
「じゃあ、下まで一緒に行こ。乱馬、今度はちゃんと昇降口通ってくんだからね」
「へーへー。わかってるよ」
私の手からかばんを奪い、歩き出す乱馬。
もー、さりげないところで優しいんだから。
私はあわてて乱馬の横に駆け寄った。
その時ふと、右手に暖かい感触。
私は差し出された手をそっと握り返した。
私としては嬉しいけど、どうしちゃったんだろ。今日に限って。
「悪かったな。オレみたいなのが参加しちまって」
遼一が来るのを確かめてから乱馬が言った。
私の右に乱馬、左に遼一がいる。
「全然気にすんなって。クラスの連中、みんな喜んでたし。あのあかねの彼氏だもんなー。みんな見たくもなるって」
「あの?」
「ああ。こいつ、中学んとき、誰がどんなにがんばっても絶対落ちなかったんだぜ」
「へー」
そこで会話が一旦中断された。
もー、私のことそうやって、話題にしないでほしいな。
「なぁ、早乙女ってさ、何かやってんのか?地面から2階までジャンプするなんて、常人じゃできねぇよな」
「ああ。オレ、無差別格闘早乙女流の2代目なんだ」
「無差別格闘?たしか、あかねんちにもそんなこと書いてあるよな、道場の看板に」
「よく知ってるねぇ。うちと乱馬んちは元々同じ流派で、その後継者を残そうってことで、私と乱馬は許婚にされちゃったの」
「されたって…。いやいやみいに言うなよな」
「だって、当時はそうだったでしょ」
「へー、そうなのか。だったら、今度オレと手合わせしてくれよ。オレ、こう見えても空手暦10年なんだぜ」
「え?遼一、空手やってたの?全然知らなかった」
「まぁな。時間あるときでいいからさ」
「ああ。オレはいつでもいいぜ。毎日ヒマしてるみたいなもんだし。お前の都合に合わせていつでも連絡くれよ。…なんだよ、あかね」
二人の会話を聞いて、いきなり笑い始めた私を乱馬は怪訝そうに見た。
「だって、おもしろいなーと思って。ついさっきまで、ふたりとも全く知らない人どうしだったのに、もうこんなに仲良くなっちゃってるんだもん」
「ああ、そう言われてみれば…」
「そうかもしんねぇな」
私たちは三人で笑い出し、そうこうしているうちに校門まで着いた。遼一とは家が反対だから、ここで別れなくちゃいけない。

「じゃあな、あかね、早乙女」
「うん、またね」
ここで別れたら遼一ともしばらく会えなくなっちゃうのか…。
「あ、そうだ」
乱馬がいきなりつながれていた手を離し、遼一のところまで歩いてく。
私に聞こえないくらい小さい声で何か言うと、また私のところに戻ってきて、冷えかけた手を握ってくれた。
「じゃあな」
乱馬はそれだけ言うと、私の手を引っ張って歩き始めた。
「遼一、バイバイ」
「おう。またな」
あわてて遼一にあいさつをして、体勢を立てなおした。
そして、ゆっくりと歩いてくれてる乱馬の横を歩く。
「ねぇ、さっき遼一になんて言ったの?」
「別に、たいしたことじゃねぇよ。強いて言うならアドバイス」
「アドバイス?何の?」
「それは秘密」
「もー」
何だろ、アドバイスって…。
わざわざ遼一のところまで行ったってことは、私に聞かれたくなかったってことかな。
内容、知りたいけど、こういう時の乱馬に口を開かせるのは絶対無理だし。
本当は聞きたいけど、こないだみたいな変な空気にはしたくない。
ここはあきらめるしかないみたいね。
「迎えに来てくれて、ありがと」
「おう」
久しぶりの再会の喜びと、ほんの少しの不満を抱えながら、私たちは帰途についた。



つづく




中編、やっと書きあがりました。遅くなって申し訳ありません。
しかも、無駄に長い…。
前、中ときたので、次はいよいよ後編、終わりになります。
こんな小説の続きでも、楽しみに待っていていただけたら光栄です。  〜りょう〜




同窓会にちゃっかり一緒に出てしまうなんて。乱馬君も心配性なんだからあ。
さて・・・中学時代のいわくのありそうな遼一君。これまた波乱の予感です。

Copyright c Jyusendo 2000-2005. All rights reserved.