◇君、思う故  
   〜Side.A 前編

りょうさま作


最近、何かが違う。周りから見れば、いつもと同じように見えるのだろうけど、私からすると、何かが違う。
もっとも、その何かがなんなのか、私にはまだよく、わからないのだけれど・・・。


「乱馬!一緒に帰ろ!!」
「おう!」
私の誘いに笑顔で答えてくれる許婚。今は彼氏って言ったほうがいいのかな?
高校3年生。
やっと恋人同士になった私たち。
今までいろいろあって、素直じゃない私たちだから、だいぶ遠回りしっちゃったけど、今はとっても幸せ。
「あかね、行くぞ」
「あ、うん」
先に歩き出した乱馬の後ろをついていくように歩く私。
「あ、あかね。バイバーイ」
「バイバーイ」
周りの友達の声に、手を振って笑顔で答える。
最初のうちは、みんなにひやかされたりしてたけど、今はそんなこともなくなった。


校門をくぐり抜けて、学校の敷地外へ出る。
相変わらず先を歩く乱馬の左手に、そっと自分の右手を重ねてみる。
いいよね、これくらい。
一瞬、ピクッと反応して、優しく握ってくれた乱馬の手。
私の大好きな、あったかい乱馬の手。
こっちを見てはくれないけど、かえってそれが乱馬らしい。
照れやなのは相変わらず。
不器用なのも相変わらず。
だけど、だからこそ私たちっぽいかな。なんて、勝手に解釈してみたりもする。


チャリンチャリーン。
後ろから自転車のベルの音。
少し嫌な予感を抱えながら、私は振り返ってみる。
「乱馬ー!!」
私の予感は見事に的中。シャンプーがものすごい勢いで自転車をこいできて、私たちの横で急停止した。
「よう、シャンプー」
シャンプーの自転車が完全に止まったのを確かめると、乱馬は自分からシャンプーに声をかけた。
元々、乱馬を呼んだのはシャンプーなんだけど、私はそれがイマイチ気に入らない。
「乱馬、今学校終わったのか?」
「ああ。シャンプーは出前の途中か?」
「今、出前行ってきたとこね。これから猫飯店に戻る」
「そっか」
楽しそうに話す二人を見て、私は乱馬とつながれている手に少し力を入れてみる。
それに反応したのか、乱馬が怪訝そうな顔をして、私の方を見た。
「どうしたんだよ、あかね」
「ううん、何でもない…」
それだけ言うと、私はまた手の力を緩めた。
「ははーん。あかね、ヤキモチ妬いてるね」
「ヤキモチ?」
乱馬は一度シャンプーのほうに目を向けて、それからまた私のほうを見た。私はあわてて、乱馬から視線をそらす。
「私が乱馬としゃべってるの見て、ヤキモチ妬いたね。違うか?あかね」
「何言ってんの?そんな訳ないじゃない」
本当は、思いっきり図星なんだけど、私はあたかもヤキモチなんて妬いてない素振りを見せた。
「まさか、ガキじゃあるめーし」
そう、あっさり言ってのける乱馬の一言が私の胸に突き刺さる。どうせ子供よ!ヤキモチ妬いてるわよ!
でも、情けなくって、とてもじゃないけどそんなこと言えない。
「安心するね、あかね。私もう、乱馬のことキッパリ諦めた」
イタズラっぽく笑って言うシャンプー。諦めてもらわないと困るわよ。乱馬はもう、私の彼氏なんだから。


乱馬はあの日…、私たちが付き合い始めてすぐ、みんなのところに行ってくれた。
「オレが好きなのは、あかねだけだから」
って、みんなの前で言ってくれて、私はその度に涙がでて、乱馬はその度に、優しく涙をぬぐってくれた。
今までの、優柔不断な乱馬からは想像もできないしっかりとした口調で私はすごく嬉しかった。
でも、もちろんそれだけで、みんながみんな、納得してくれた訳じゃない。
「あかねは何も言わなくていいから」
みんなの所に行く前に、乱馬が私に言ってくてた言葉。
私が口を開けば、私が責められることは必至。
そのことがわかってたからこそ、乱馬は私に言ってくれたんだと思う。
もちろん、私が責められなかったはずがない。だけど、なんとか二人で話して、みんなを説得してきた。
乱馬のこと、諦めてくれてるって思ってる。
そう思ってるけど、乱馬が他の女の人と話してると、やっぱり少し不安になる。


「じゃあ、私は店に戻らなければならないね」
「おう、じゃあな」
「再見!」
シャンプーはまた自転車をこいで、猫飯店の方に戻っていった。
「おい、あかね、帰るぞ」
「あ、うん…」
乱馬の言葉に、一応返事はしたものの頭の中には入っていかない。右から左へ通りぬけていく感じ。
「おい、何ボーっとしてんだよ」
「ううん、なんでもない」
「おめー、まさか、ホントにヤキモチ妬いてた訳じゃないだろうな」
「そ、そんな訳ないじゃない!」
乱馬に、ヤキモチ妬いてたこと気づかれたくなくて、精一杯気張ってみせた。
「じゃあ何で、あの時手に力いれたんだ?」
少しかがんで、からかっているように私の顔を覗き込む乱馬。
こいつ…、絶対わかってやってる…。
「な、なんとなくよ。なんとなく」
何とかそれだけ言って、乱馬から顔をそらせる。こんなこと言っても、全然説得力ないよな〜、きっと。
「んじゃま、そういうことにしといてやるよ」
乱馬は身体を起こして元の体勢に戻る。
「ま、安心しな。お前がヤキモチ妬かなきゃいけないようなことはしねえからよ」
「乱馬…」
「な!わかったら、ほら、行くぞ」
「うん!」
乱馬に引っ張られて歩き出す私。
我ながら単純。こんな一言で幸せになっちゃうんだもん。

結局、私たちの手は、家まで離されることはなかった。





家族での夕食も終わり、それぞれ思い思いに時間を過ごす。
私はといえば、部屋で勉強中。さすがに高3ともなったら勉強しない訳にはいかないでしょ。
まー、どっかの格闘バカさんには関係のない話かもしれないけど。
ジリリリリ……。
下のほうから電話のなる音が聞こえる。どうせ下には誰かいるから…と思って、私はあまり気にもとめなかった。
「あかねー、電話」
しばらくすると、下から私を呼ぶ乱馬の声。
「はーい」
返事をして、電話の置いてある玄関へとむかう。
「ほれ」
乱馬がそう言って、受話器を渡してくれた。
「ありがと」
「加藤とかいうやつ」
「加藤?」
そんな人、知り合いにいたかな〜?
「お電話かわりました、あかねです」
「お、あかねか?久しぶり!オレ、遼一」
「あ、遼一?加藤なんていうから誰かと思っちゃった」
電話の相手は、私の中学の時のクラスメイト、加藤遼一くんだった。
受話器だけ渡すと、とっとと居間の方に向かっていった乱馬を横目できにしながらも、私は遼一と話を続けた。
「どうしたの?いきなり。遼一がうちに電話してくるなんて、珍しいね」
「あー、なんか、中学ん時の仲間集めて同窓会みたいなのやろうって話が出でんだけど、あかねもこないかなーと思って」
「同窓会?」
「そっ。オレたち今、高3だろ?だから受験とかあったりして、なかなか皆で集まる時間なんてなくなっちまうだろ。だから今のうちに会おうってことになって」
「そっか。私もぜひ、参加させてもらいたいなー。久しぶりに皆に会えるんだ」
遼一だけじゃなく、中学の時に同じクラスだった人たちの顔が、頭の中にどんどん浮かんでくる。
なんか、懐かしいなー。
「あかね、参加してくれんのか?」
「うん、もちろん!場所とか時間とか、もう決まってるの?」
「場所は、中学の3年3組の教室」
「うそ、教室でできるの?」
「おう!オレが頼み込んできたんだぜ!で、時間は急で悪いんだけど、今度の土曜日なんだ」
「今度の土曜日…?」
「ああ。何か、都合悪いか?」
悪いも何も…。その日は乱馬とデートする予定なのに…。
私が見たいって言ってた映画、一緒に見に行ってくれるって、約束してたのに…。
でも、どうしよう。同窓会なんて、今度皆に会わなかったら、それこそ次にいつ会えるかなんてわかんないよね。
「あかね?」
「あ、ごめん。ちょっと待ってて。今、確かめてくるから」
私は受話器を置いて、乱馬のいる居間へと向かった。
本当は、確かめるまでもなく、予定はきちんと入っちゃってる。でも、乱馬だったら…。
「乱馬、ちょっと…」
「あ?」
居間でテレビを見ていた乱馬を、廊下で手招きして呼び出した。
居間には、他の人もいたから…。
家族も、私たちが許婚としてじゃなく、恋人として付き合ってること知ってるけど、やっぱりこういう話を堂々とするのは気が引ける。
「何だよ」
「あのね、今の電話、中学の時のクラスメイトからだったんだけど…。今度、同窓会やるんだって」
私はチラチラと乱馬の顔を見て言った。何か、まともに顔見れない。
「ふーん。行ってくりゃいいじゃん」
「でね、その同窓会、今度の土曜日なんだって…」
「今度の土曜日ってお前!!」
大きくなってしまった声を、家族がいるのを気にしてか、ひそめる乱馬。
「映画…、どうすんだよ」
「あ、あのね。今度の同窓会行かないとね、いつまた皆に会えるかわかんないし。だから、その…」
なかなか肝心なことが言えない私に、乱馬がはーっと、ため息をついた。
「行ってこいよ、同窓会。映画はまたいつでも行けるんだし」
「ホントに?」
私はおそるおそる顔をあげた。
「ああ」
「ありがと!じゃあ、返事してくるね!」
私は再び電話に駆け寄って、受話器をとった。
「ごめんね、お待たせしました」
「おう。で、どう?大丈夫そうか?」
「あ、うん。大丈夫。行けるよ」
「そっか。オレ、あかねのことだから彼氏とデートの約束でもしてあるんじゃないかと思ってよー。そっか。よかったよかた」
ハハハと笑う遼一に、私は乾いた笑いを返す。
してあったんだけどね、デートの約束。
「じゃあ、今度の土曜日3時から、いちお6時までってことで」
「うん、わかった。じゃあ、今度の土曜日にね」
「おう。じゃあな。おやすみ」
「おやすみなさい」

……ガチャン。受話器を置いた。
同窓会か…。久しぶりに皆に会えるのはすっごく楽しみ。
だけど……
「お、終わったか、長電話」
その声に反応して振り向いて見ると、乱馬だった。
「長電話なんてしてないわよ」
「へーへー」
「もー、すぐそうやって流すんだから」
「別に、流してる訳じゃねえよ」
「もう…。あの、乱馬、ゴメンね」
「何が?」
乱馬の様子をうかがいながら、おそるおそる聞いた私に対して、乱馬の反応はあっさりしたものだった。
「何がって…。今度の土曜日、映画行けなくなっちゃって…」
「お前はそういうこと気にしすぎ。別にいいって。また今度の休みの日にでも行けば」
「でも…」
まだうじうじしてる私の頭をくしゃっとなでると、乱馬は階段を上り始めた。
「どこ行くの?」
「別に。道着に着替えようかと思って…」
明らかに私から視線を外して言う乱馬。
「これから稽古?」
「そんなたいしたもんじゃねえよ。ちょっと汗流してくるだけだし。まあ、精神統一みたいなもんだな」
「精神統一?」
「あ、いや、何でもねえ」
滑ったとばかりに口をふさぐ乱馬。明らかに動揺してる…。
私は不思議に思いながらも、乱馬がいる段まで階段を上った。
「何か隠してるでしょ」
「べ、別に何も隠してねえよ」
そう言いながらも、覗き込んだ私から、顔をそらせる乱馬。
やっぱり怪しい…。
「ねえ、どうしたの?」
「だから、何でもねえって」
「そう…」
私はそれ以上追及するのをやめた。
こういうときの乱馬は、きっと私が何をどんなに聞いても何にも答えてくれない。

「ねえ」
自分の中で重くなってしまった空気を取り除くため、私はつとめて明るく話題を変えた。
「汗流すくらいにしかやらないんだよね」
「あ、ああ」
主語がなかったけれど、乱馬には私が何を意味しているのかが通じたみたい。
「じゃあさ、私も一緒にやっていい?」
階段を2.3段上がって、乱馬のほうに振り向きながら言った。
「え?」
「勉強の息抜き。ね、いいで…」
「ダメだ!!」
「え?…」
私が言い終わらないうちの、乱馬の否定する声に、私は一瞬びくっとした。
「あ、わりぃ…」
「自分が否定したことに対してなのか、大声を上げたことに対してなのかはよくわからないけど、乱馬はふっと我に返って謝ってきた。
乱馬自身もそうだろうけど、私も動揺を隠せない。
だって、断られるの、初めてだったから…。
「そうだよね、私なんていたら、足手まといだもんね」
声が震えてる…。自分でもわかるくらい。
笑ってるつもりでいるけど、私、ちゃんと笑えてる?こわばったり、ひきつったりしてない?
「別に、そういうんじゃ…」
「あ、いいよいいよ。全然気にしないで!」
「あかね…」
「ホントに気にしないでって!じゃあ私はお風呂にでも入ってこようかな〜」
私は乱馬に背を向けて、残りの階段を上り始めた。
平常心、平常心…。
乱馬は何も言わずに私の後をついてくる。
「お風呂、覗かないでよ!」
私は部屋の前まで来ると、足を止めて、振り向いて、冗談めかして乱馬に言った。
「誰がお前みたいな色気のねえ女の風呂なんか覗くか」
お互い顔を見合わせて、ぷっとふきだした。いつもの乱馬だ…。
「じゃあ、がんばってね」
「がんばるって程のことでもねえけど…。お前こそ、しっかり勉強しろよ!」
「もー、それはあんたでしょ!!」
「オレには必要ねえんだって」
しばらくの間、二人の間に静かな沈黙が流れた。
「じゃあね」
同じ家に住んでてこんなこと言うのは変かもしれないけど、私はそれだけ言って、ドアノブに手をかけた。
「あ、あかね」
部屋の中に入ろうとした私を乱馬が呼び止める。
「何?」
「手合わせ、また今度相手してくれよ、な」
「うん。今日の分まで思いっきり発散させてやるから!」
「おう。じゃあな」
乱馬は軽く手を上げると、自分の部屋へと入っていった。私はそれを確認してから部屋に入る。
もう一度勉強しようと思って、机に向かい、シャープを持ったけど、イマイチやる気がしなくて机に戻した。
なんとなく、いすに座ってるのもイヤになって、ベッドに身を投げ出した。
はあ……。
思わずため息なんてついちゃう。

前だったら、絶対こんなことなかった。
電話の相手が男の人なのに、気にもしないでさっさと戻ってっちゃったり、デートの約束ダメにしちゃったのに、あんなにあっさりしてたり…。
そっか。これか。今までなんとなく感じてた違和感の原因。
前だったら、男の人から電話かかってきたら、睨みつけるようにこっち見て、なかなか電話のそばから離れてくれなかったし、
デート…とまではいかなくても、何か約束ダメになっちゃったら、すっごく怒ってたのに…。
今だって、怒ってない訳じゃないか。手合わせ、拒否されちゃったんだもん。
私なんかの顔、本当は見たくないってことだよね。
怒ってるなら怒ってるって、ちゃんと言って欲しい。
行動でなんとなく感じさせられるのよりも、怒鳴ってくれたほうが全然いい。
乱馬なりに、気遣ってくれてるんだろうけど、逆に辛いよ。
私が一方的に言ったんだから、ホントに悪いのは私だってわかってる。
乱馬にそういう態度取られるだけのことしてるってわかってるよ。
それとも…、もう私のこと、どうでもよくなっちゃった?恋人としては付き合っていけない?
昔の行動に駆られた原因って、ヤキモチでしょ?
私も同じくらい…、ううん、それ以上に妬いてたからよくわかる。
それなのに、今そういうことしなくなったってことは、ヤキモチ妬かなくなったってことで、私のことなんて、気にも留める存在じゃなくなったってこと?
私のこと、スキだって言ってくれたのはウソ?
あの時はそうでも、今はそんな感情これっぽっちも持ってない?
私は乱馬が好きなのに。好きで好きでしかたないのに。
乱馬は私のこと、どう思ってる?
ねぇ、乱馬……。



つづく




作者さまより

すみません!春休み中なんていってたのに、気づいてみれば、もう、春休み終わってしましました…。
投稿二作品目にして、連載(?)ものに挑戦してしまうなんて、なんて無謀な私…。
しかも、Side.Aってことは、ちゃっかりSide.Rなんかもあったりするわけで…。
オリキャラなんかも出てきちゃってますが、どうぞ、りょうの世界におつきあいください。


最初から長編、(それもまだ未完)で乱馬×あかねの二次創作にはまった人もここに居ますので・・・(笑
書き出すと楽しくて止まらない。オリジナルキャラクターの正確設定などもはまると抜けられません。
ちょっと前に進んだ二人はどんな恋の模様を見せてくれるのか・・・続きが楽しみです。
(一之瀬けいこ)

Copyright c Jyusendo 2000-2005. All rights reserved.