◇帰り道
りょうさま作


「うへぇー、さっみー」
開口一番、乱馬が情けない声をだした。たった今、校舎から出てきた私たちは、冬も終わりに近づいているというのに未だに冷たい外気にあてられ身を縮める。いくら、うちの学校が冷暖房完備ではないとはいえ、窓を閉めて風を遮っているため、外よりはいくらか暖かく感じられるもの。おまけに今日は風が強い。
「あかね、行くぞ」
「あ、うん」
さむさにで立ち止まっていた私を促す乱馬。追いかける乱馬の背中も、寒さに負けてか、いつもよりも小さく見える。急いでかけよって、乱馬の横を歩き始めた。
「あんたねー、寒いってわかってるんだからもう少し厚着してきなさいよ」
コート、マフラー、手袋と、完全…まではいかないにしても防備が整っている私に対して、乱馬は相変わらずのチャイナ服。これで寒くないって言ったらバカみたいよ。
「んなこと言ったってしょうがねぇだろ、持ってないんだから」
「しょうがないのはどっちよ。っとに。ハイ」
私は自分の首からとったマフラーを乱馬に渡す。
「おっ。サンキュー」
私が差し出したマフラーを嬉しそうに受け取る乱馬。そんなに喜んでもらえたら、貸した私も嬉しいものだけどさ。首のあたりがスースーする。
「自分で買いなさいよ、マフラーくらい」
「んな金どこにあんだよ」
「なびきお姉ちゃんに貸してもらえばぁ〜?」
もちろん冗談。だけど、そんな私の言葉に乱馬は露骨にイヤな顔をする。予想したとおりの反応が返ってくるのはおもしろい。
「お前なー、よしんば貸してもらったとしても、その後どうなるかってことくらいわかってんだろ」
「いいじゃない別に。マフラーを買うためよ」
「オレはマフラーなんていらねぇ」
「じゃあ、返して」
素早く乱馬の前に手をだす。たぶん、この時の素早さは、乱馬の火中天津甘栗拳、よけられるくらいだったと思う(笑)
「そういう意味じゃねえ」
「じゃあどういう意味よ」
「マフラーは、あかねが貸してくれるんだろ」
そう言って、私に笑いかける乱馬。う…。その殺人的な笑顔はやめてほしい…。
「毎日は…、無理だからね」
「はいはい」
「私が寒くない時だけなんだからね」
「わかってるよ」
乱馬はしてやったりって感じ。そんな乱馬に私はしてやられました、どーせ。一枚上手なのは乱馬のほう。その度にドキドキしてる私って、バカみたいじゃない?確信犯なのかどうかはよくわからないけど。


私たちは、商店街に差しかかった。熱気…ほどの賑わいはないけれど、それでもここは、いろんな意味であったかい。
あっっ!
「乱馬、ちょっと待ってて」
私はそれだけ言うと、目の前にあったコンビニに入った。寒い中、乱馬を待たせるのも悪いから早くしなきゃ。私はお目当てのものを見つけた。でも、一個しかない。だからって買わないで出て行くのも何だし…。しょうがない、一個でガマンするか。
「ありがとうございましたー」
店員さんに見送られて、私は足早に外に出た。待ってくれていた乱馬は、相変わらず小さい、今、こうやって見てみると、私が貸してあげたマフラー、浮いてるかも…。
「ったく、人をこんな寒い中置き去りにしといて何買ってきたんだよ」
「いいからいいから。乱馬、公園行こ!!」
「あ?なんで公園なんて…」
「いいから早く!」
文句を言ってる乱馬の手をとり、公園まで走った。乱馬はぶつくさ言いながらもきちんと私の走る速さにあわせてついてきてくれてる。


「とうちゃーく!」
公園に着き、立ち止まって、乱馬の手を離した。
「ったく、こんなとこきて何すんだよ」
「何にもしないよ」
「何にもっておめーなー。何にもしないのに、こんなとこ来てどうすんだよ。しかも、こんな寒い中を…」
「走ったからあったかくなったでしょ」
「あぁ、そりゃまぁ…って、そういう問題じゃねぇ」
「いいからいいから。乱馬、ベンチ座ろ」
私はあくまでマイペースでベンチに向かう。乱馬の言うこと、ちゃんと聞いてはいるんだよ。
私がベンチに座り、乱馬も私の横に座る。表情からは、不満タラタラって感じ。
まだ、大丈夫かなぁ。買ってから2.3分しかたってないから大丈夫だとは思うんだけど…。
私はさっきコンビニで買ったものをカバンの中から取り出すために、手袋をとった。その瞬間に、容赦なく冷たい風が私の両手に襲いかかってくる。乱馬、こんな冷たい風、ずっと手にあててたの?信じらんない。
私はカバンからまだあったかいそれを取り出し、安心する。そして、それを袋から取り出し、半分にわって、半分を乱馬の前に差し出した。
「ハイ、肉まん、半分コね」
「いいのか?」
とたんに表情がぱあっと明るくなる乱馬。っとに、現金なんだから。
「早くしないと冷めちゃうよ」
「いっただっきまーす」
私の手から、半分になった肉まんをとり、口へと運ぶ乱馬。
「あったけー」
乱馬が食べたのを確認して、私も一口、口に含んだ。あったかくておいしー。よかった、冷めてなくて。乱馬じゃないけど自然に顔が緩んできちゃう。
「ごちそうさまでした。サンキューな、あかね」
「いえいえ、どういたしまして」
私は最後の一口を食べ終わってから答えた。
「でもなー、半分って少ねぇよなー」
「仕方ないでしょ。一個しかなかったんだから」
「そりゃわかってんだけどさ」
「何よ。今度文句言ったら、もう乱馬にはあげないからね」
「冗談だって。さってと。あったかい家にでも帰るか」
「そうだね」
乱馬に続いて私もベンチから立ち上がった。肉まんを取り出すとき外した手袋をつけようとしたら、片方乱馬にとられた。
「ちょっと、乱馬。返してよ」
「いいじゃねえか、一個くらい。お前、それ右手につけろよ」
そういう乱馬は左手につけてる。乱馬の意図してることがわからないながらもしぶしぶ手袋を右手につけた。すると不意に、左手があたたかいもので包まれた。乱馬の…手…?
「ほら、帰るぞ」
「…うん!」
笑いかけてくれた乱馬に、私も笑顔を返した。
手袋で包まれている右手以上に、乱馬に包まれている左手にあたたかさを感じながら。
私たちは歩きだした。
もうすぐ訪れる春を、まずは心で感じながら。








こんにちは。初め投稿させていただきます、りょうと申します。
このサイトにおいてある作品はどれも素晴らしいもので、私なんかの駄文をいれてはいけない気がしながらも、今回思い切って、投稿してしまいました。
ほのぼのしてる乱馬とあかねが書きたかったのですが、ちゃんと書けているでしょうか?
これを読んで、少しでもあったかい気持ちになっていただければ幸いです。


呪泉洞の投稿者というのはレベルが高いというのが定説になりつつあるような・・・。
某氏の言葉を借りまして、「小説乱あ同人の実現の場」として捉えていただけて、力のある人がどんどん乱馬とあかねの情景を小説作品として書いていってくださるのは、ネット同人の先人(大年寄り)としては嬉しい限りです。
この作品も「温かい」んです。情景がふっと浮かんで頬が緩みます。
肉まんを頬張って歩いた高校時代って・・・ン十年前になったなあ(遠い目)

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