◇積乱雲
菜の花さま作


「てんめぇ、なんでもっと早く起こしてくんねぇんだよ!!」
「何回も起こしたわよ!あと5分〜とか言ってずっと寝てたのは何処の誰?!」
「あ゛〜〜〜〜もうかわいくねぇ!!」
「可愛くなくて結構よ!!」

「あ〜あ〜またやってるよ天道くん。」
「朝っぱらから元気がいいねぇ早乙女君。」
(どうやってもあの2人は仲良くならないのか・・・)

「かすみおねーちゃん、もう私行くわ。」
「あかねちゃん、気をつけてね。」
「あかね、乱馬くんおいてくの?」
「いーのよあんなやつ。んじゃ、いってきまーす。」
「ったく。ほんとに強がりなんだから」

呆れたようになびきは妹の姿を見送った

「いけない、あかねちゃんに傘持っていくように言うの忘れてたわ。」
「折り畳み傘持ってるから大丈夫でしょ。雨降るの?」

困ったように頬に手を当てるかすみを横目で見ながら言う。

「えぇ、午後から90パーセントらしいわ。」

(あーあ、またやっちゃった。)

いつも乱馬が歩いているフェンスを見ながらあかねはため息をついた。
いつもの朝、いつもの道、だけどなんだか落ち着かない。アイツがいないから?

乱馬が来てからもう1年が経った。シャンプーはムースとなんとかやってるし、
右京は「お好み焼きうっちゃん」を全国に出店する為小夏と頑張っている。
小太刀はイギリスに留学しちゃったからもうあのうるさい3人娘は出てこないというワケ。
これでようやく自分の気持ちが分かったような気がする。

乱馬が好き・・・心から・・・

「やばっ 学校に遅れちゃう!!」

時計を見るともう8時20分を過ぎている。

「乱馬のヤツ、ぜーったい許してやんないんだから!!」


キーン コーン カーン コーン

昼食も終わり、私とさゆりとゆかは可愛い服やらアクセサリーが載っている雑誌のページをパラパラめくっていた。
外では蝉が鳴いている暑い夏の午後。

「あ〜あ〜まただよ。」

ポッキーをくわえながらゆかが言った。

「ゆか、いいって別に。あんなヤツ視界にも入ってないし。」
「でも〜。あかねはいいの?」
「いいの。」

まだぶつぶつ言ってるゆかを平然としてなだめてはいたが、実は気になっていた。

「早乙女君、ど〜しても入ってくれないの?」
「やぁだよ部活なんて。めんどくせぇーそれに稽古もしなくちゃなんねーし。」

声の主は同じクラスの石田江里子。先週乱馬がバスケの試合にかりだされた時にマネージャーだった彼女と仲良くなったらしい。
乱馬の抜群の運動神経を見て是非バスケ部に!と思ったらしい。かれこれ1週間もしつこく乱馬を勧誘している。
おかげで昼休みは2人の楽しそうな声で耳が痛い。心も・・・

平気なフリをしていても毎日毎日胸が締め付けられるように苦しい。また昔みたいにつらい恋をするの?東風先生の時みたいに。

(人を好きになんてなるんじゃなかった・・・)

私の心を雲が覆っていく、分厚く白い積乱雲。

ポツッ・・・ ポツッ・・・ ザァーーー

「あれ?さっきまで晴れてたのに・・・」

そんなさゆりの声を聞き、窓の外を見ると大粒の雨が降り出していた。私の想いを表すように空を分厚い雲が覆っている。

(心が・・・泣いてる・・・)

「あかね、先生が後で職員室に来いだって。」

午後の授業も終わり、雨も激しくなった頃帰ろうとしていた私はゆかに先生からの伝言を受けた。

「ありがとう。いってくるわ。」

どうせまた生徒会の話だろう。あの校長が何を考えてるのかは知らないが生徒会を作ろうとしているらしい。
もちろん生徒会長は九能先輩が立候補している。別にやりたくないのに・・・。適当に断ってさっさと帰ろう。

「あかね〜。」
「乱馬。」

とぼとぼと廊下を歩いていた私は乱馬に呼び止められた。

(なによ朝あんなに言ったくせに・・・もうけろっとしちゃってさ。)

「何?」

あまりの乱馬の脳天気さに私はちょっと冷たく言った。

「いや、雨降ってるだろ?あかね折り畳み傘持ってるし入れてもらおうかと・・・。」

上目遣いで見てくる乱馬がなんだか愛おしくて私は軽く承諾してしまった。

「しょうがないなー。いいわよ、入れてあげる。でも先生に呼ばれてるからちょっと教室で待ってて。」
「分かった。」

そうだ、最近近所で変な人が出るって言ってたっけ・・・

「先に帰ったりしたら殴るわよ。」
「バーカ。なんで進んで女の姿になんかならなくちゃなんねーんだよ。」
「はいはい。」

小走りで職員室に向かって走りながら答えた私に乱馬は大声で叫んだ。

「早く帰ってこいよ〜〜〜。」

弱いなぁ私。どんなに気持ちが沈んでたって乱馬の言葉でこんなに元気になれる。
もやもやしてた気持ちが晴れてくみたい。


ガラッ
「失礼しましたー。」

なんとか上手くかわせた。これで生徒会副会長はなびきお姉ちゃんになりそうね。
お姉ちゃんには悪いけど、結構九能先輩と仲がいいみたいだし。ちょっと心配だけどね・・・。
でもちょっと遅くなっちゃったー。乱馬ちゃんと待ってるのかしら?とにかく早く教室へ行かないと。


息切れしそうなぐらい早く走って着いた教室の前まで来た私の耳に乱馬の声が聞こえた。

「話って何だよ?」

誰かそこにいるの?ドアに手をかけかけてその場で止まった。

「あのね、ダメだって分かってる。分かってるのよ。」

石田・・・さん?なんでこんな所にいるの?なんで乱馬と話してるの?

石田江里子はさばさばした性格で、女子にも受けがいい。髪も長くて背も高くスラッとしている。
勉強も運動も出来るしそれに可愛い。私と正反対の女の子。きっと乱馬も石田さんみたいな子が好きなんだろうな。
中からまた話し声が聞こえてきた。

「私・・・あのっ私・・・!」

嫌な予感がした。急いでドアを叩きつけるように開ける。

バンッ  「私、早乙女君が好き!」

見事に2つの音が重なった。私がドアを開ける音と、石田さんが乱馬に想いを告げる声・・・
驚いて私を見る石田さんと乱馬。

「・・・っ!!」

2人の視線が痛くて思わずカバンをひっつかんで教室を飛び出した。
窓の外では雷が鳴っている。私の心の中でも鳴っている。涙があふれて止まらない。体に力が入らない。

苦しい・・・

「あかねっ!」

乱馬の声が聞こえる。でも今は聞きたくない・・・耳を押さえ振り切るように廊下を走った。さっきより早く、風のように早く。
たくさんの教室、階段をかけぬけ玄関まで走り抜けた。

冷たい・・・外に出てふと気づく。

「そういや雨降ってたんだっけ・・・。」

どしゃぶりの雨。私の髪を 顔を 服を 心を 涙を 雨が濡らしていく。
もっと、もっと雨よ降って。私の涙を流していって・・・この想いも一緒に・・・


「あかねっ!」

急いであかねを追いかけようとした乱馬を石田江里子が呼び止めた。

「ごめんなさい!私が悪いの!!天道さんにもあやまらなくちゃ・・・。」

石田江里子の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

「いいよ。俺が言っとく・・・ごめんな・・・。」

そう言って乱馬はあかねを追いかけに教室を飛び出した。

「バカな私・・・。」

真っ暗な窓の外を眺めながら暗い教室で1人石田江里子は泣いていた。



あかねは雨の中突っ立っていた。

「あかね・・・。」

愛しい人の声に気づきあかねは乱馬の方を向く。乱馬は女に変化していた。

(なんであんなに嫌がっていた女の姿になるのにそうまでして追いかけてくるの・・・?)

涙が溢れてきた。そんな悲しそうな目で私を見ないで。石田さんへの嫉妬で汚れた私を・・・

「石田さんのとこ・・・行かなくていいの・・・?」

(なんて返事したんだろ・・・。)

後の方は声にならなかった。次から次へと涙が出てくる。泣き顔を見られるのが嫌で思わず顔をそむけた。


「断った。」

(え?なんて言ったの?)

思わず乱馬の方を向く。

「あいつへの返事はごめんなさい、だ。」

(あんな可愛い子の告白を断ったんなら私なんか無理じゃない・・・)

涙が溢れてきた。一瞬は嬉し涙だったかもしれないけど今は違う。
いたたまれなくなって逃げ出そうとした時、乱馬に強く手首をつかまれた。

「俺はお前が好きだ。」

一瞬のうちに抱きしめられ何がなんだか分からない私に乱馬はこう言った。
耳元でぼそっと呟かれたこの言葉。横を見ると乱馬は耳まで赤くなっている。
また涙が溢れ出てきてもう止まらない。私の乱馬が好きと言う気持ちが涙になって出てきているみたい。

「私も・・・好きっ・・・。」

嬉しくて抱きしめ返した乱馬の女の体はいつもよりひとまわりもふたまわりも小さかったけれど乱馬は乱馬だから・・・。

「あ、虹・・・。」

小さく呟いた乱馬の言葉を聞いて、私は顔を上げて空を見た。
真っ青な空に綺麗な虹がかかっていた。いつのまにか雨も止んだらしい。

私の心の雨も・・・








作者さまより

この話は理科の授業中に思いついたものです(汗)
ちょうど天気のことをやっていて、積乱雲という雲があるのを知りました。
これは言い方をかえると入道雲なんですvvあの夏によく出てくる。
なんか積乱雲って気分みたいだなーと思いこの作品を書かせていただきました。
まだまだ読めるようなもんじゃなく、説明も全く足りてなくて 分かってもらえるかどうかかなり心配なんですがどうかよろしくお願いします。

実は前編を随分前に頂いていたんですが、完結してから投稿してくださいました。
初投稿は緊張しますよね・・・いろいろな二人の愛の形が読めるからサイト運営はやめられません。
乱馬くん、かっこいいなあ・・・。
少し素直になれた二人に拍手喝采です。
(一之瀬けいこ)


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