終わりと始まり
HAるさま作


ピチチチチ
鳥の鳴き声で今が朝だということが分かった。
でも、起きようとは思わない。
いや、正確には起きれないという方が正しいのかもしれへんな。
うちは・・・・一週間前、乱ちゃんに振られた。
うちだけやない、乱ちゃんはシャンプーにも良牙にもはっきり言った。
--------------------あかねが好きなんだ、あいつにもちゃんと伝えた・・・・ごめんな・・・---------------
自分の耳を疑った。
だってついさっきまでそうさっきまでは、学校でいつも通り二人は喧嘩していた。
信じられへん・・・・・嘘や・・・・・
そう思って、頬を思いっきり抓ってみた。
痛かった・・・・夢やないんや・・・・そこでウチの思考は絶たれた。


それから一週間、うちは学校も店もずっと休んでいる。
クラスの何人かは心配して見舞いに来てくれた。
でも、そこには乱ちゃんとあかねちゃんの姿は無かった。
たぶんそれは二人の優しさなんやと思う。
それにうちもそっちの方が助かる。正直今、二人を見るのは辛いから・・・・


三日前、偶然良牙が店に迷い込んできた。
『乱馬なら・・・・絶対あかねさんを幸せに出来る。呪泉洞の二人を見たときから、こんな日が来たら祝福してやろうって決めてた。』
良牙は本当に二人のことを祝福しているような優しい顔をして言った。
そんな良牙がすごくかっこ良く思えた。
二日前はシャンプーが出前の帰りに来た。
『何やってるか、右京。私情で一週間も店休む、これ同じ店持つものとして許せないね!』
シャンプーはいの一番にこう言って、うちを叱った。
そして、シャンプーは続けて言った。
『乱馬とあかねがこうなること、呪泉洞の二人を見たときから覚悟してたね。二人の思いがしっかりしてるのに、いつまでも追いかける。これ寂しい思い残るだけね。』
きっぱり言い放つシャンプーはすごく眩しかった。



うちだけなんや、まだ気持ちを引きずってるのは。
乱ちゃんも、あかねちゃんもシャンプーも良牙も真っ直ぐ自分の道を進んでいる。
うちはなんで進めへんの?
シャンプーや良牙が言う『呪泉洞の二人』を見てへんから?
じゃあ、なんでうちは『呪泉洞の二人』の二人を見れんかったん?
なんでいつもうちだけ蚊帳の外にいるん?
うちは乱ちゃんの許婚じゃなかったん?
うちは何やったん?



コトッ

「あの・・・・右京様、入ってもいいですか?」
ふすまの向こうから小夏の声がした。
「どうぞ・・・・・」
「はい、失礼します。」
小夏は丁寧にうちに一回頭を下げてから入ってきた。
「どうしたん?」
「あの・・・・・おかゆ作ってきたんです、食べてください。」
小夏は大事そうに手に持っていた茶碗をうちの前まで持ってきて言った。
「・・・・・おおきに・・・でも食欲ないんや、ごめんな。」
本当に食欲が無い。
今は何を食べても食べた気にはならへん、そう思った。
「・・・・・右京様、なにか召し上がらないと体壊してしまいますよ。」
もう壊れてる、乱ちゃんからあの言葉を聞いてからもう、うちは壊れてるんや。
小夏はなにも言わないうちを見て、しばらく黙っていた。
沈黙が続く・・・・でもその沈黙は重いものじゃなかった。むしろ暖かくていい気持ちがした。
そして目になにか込み上げてくるのを感じた。
「右京・・・様・・・・」
目から涙が溢れ出てきた。
「・・・・・きっと目にゴミでも入ったんやな・・・・・ごめんな、ちょっと待ってて。」
ここ一週間辛くても、悲しくても泣くことなんて無かった。
「右京様、辛いなら辛いって言っていいんですよ・・・・右京様の悲しみを私にぶつけてください。思いを打ち明けたほうが・・・・一人より二人で悲しみを背負ったほうが軽くなりますよ。」
小夏の言葉を聞いて、今までのどに詰まっていた思いが次から次へと出てきた。
「うち・・・・うちな、本当に乱ちゃんのことが好きだったんや。でも、でも・・・・乱ちゃんはうちのこと見てくれへんかった・・・好きになってくれなかった・・・」
もうなにを言ってるのか分からない。一回出てきた言葉はとどまることも無く口から出ていく。
小夏はうちの髪を優しくなでながら黙って話を聞いてくれた。

しばらくたってうちの話が落ち着くと小夏は優しく言った。
「・・・・乱馬様は、右京様のこと好きだと思います・・・あかね様への思いとは違うけれど。そうじゃなければ義母上達に右京様がさらわれた時あんなに必死に戦ったりしません。」
「・・・・・」
「それに、好きでなければ、大切でなければ・・・・恥ずかしがりやの乱馬様のこと、あかね様とのことを言ったりはしないと思います・・・・乱馬様にとって右京様は大切な幼馴染なんですよ。」
うちの目から最後の涙が落ちていった。
そして、この涙と共にうちの十年がけの長い初恋は終わった。



「小夏、このおかゆ味付けしたん?」
小夏の作ってくれたおかゆは味がせえへん。
まあ、元々おかゆはそんなに味がしないものだけど、ここまでしないもんやったけ?
「あっ・・・・その・・・もったいなくて、調味料入れられなかったんです・・・ごめんなさい、不味かったですか?」
小夏らしいな、そう思うと自然と笑みがこぼれてきた。
そういえば、泣くのも一週間ぶりやったけど、笑うのも一週間ぶりやな。
「右京様?」
「おいしいで。おおきに、小夏。」
うちは、とびっきりの笑顔で答えた。



うちは、良牙みたいな思いやりは持ってないし、シャンプーみたいな強さも持ってへん。
でも、貧乏性でうちの店でしか雇ってもらえへんような従業員がいる。
その従業員は、働き者で、忍耐強くて、優しくて、うちの・・・大事な、だいじな家族や。






作者さまより

乱あ派なのに生まれてはじめて書いた小説が右京もの・・・・
呪泉洞の二人をなんで右京は見れなかったんだろう?っていうのがずっと私の中にあって、それを書きたいなとずっと思っていました。
この二人を見ないと納得出来ないんじゃないかなっと・・・・
あと、右京の大阪弁所々変なところがあると思いますが、大目にみてやってください。

小太刀がいないのは、突っ込まないでください。
書けなかったんです・・・・・(涙


これは珍しい、「右京×小夏」作品。
右京×良牙は結構多いのですが・・・小夏さん、最後半部に出てきたキャラクターなので創作自体がないようです。
私的二次創作では、あまり良い役を与えていませんが、右京も私は好きなキャラクターです。 ただ、原作でもアニメでも、彼女、関東に出て、関西弁がちょこっと鈍っているかも…
自分で喋っていても文字にするのは難しいのが方言です。私の文字用関西弁のお手本は「じゃりン子チエ」だったりするのですが。
(一之瀬けいこ)