◆プレゼント
あや子さま作


 今日もあかねはまだ眠っていると思われる乱馬を起しに行った。

 ――ストン

 襖が開く音がしたと同時にあかねが部屋の中に入っていった。
 案の定、まだそこには布団の中で眠りを貪っている乱馬がいた。
 大きく息を吸い込んであかねは叫んだ。

 「いつまで寝ているつもり!?」

 「ん〜、あかねぇもうちょっとだけ・・・。」


 そう言って乱馬はもっと深く、布団の中へ入っていった。
 さすがにあかねも毎度この調子だと呆れてきて起すのがめんどくさくなる。


 「さっさと起きてよ、遅刻しちゃうでしょ。」


 あかねは乱馬から布団をはがしてから、今日着るチャイナ服を準備した。
 そして乱馬が起きた事を確認すると居間へと向かっていく。
 途中で思い出したように廊下で一声かけた。


 「早く着替えして来てね、御飯が冷めちゃうんだから・・・。」


 眠いのを我慢して起きてきた乱馬はあかねが準備したその服を着て、洗面所に行って顔を洗い、居間へ朝食を食べに行った。みんなはすでに食べ終えており、残す所乱馬だけであった。
 なびきはとっくの昔に家を出ており、あかねは乱馬を待っていたのでもう遅刻ぎりぎりである。
 もちろん、乱馬も今しがた朝食を食べ終えたばかりなので遅刻ぎりぎり・・・。


 「もう〜、あんたのせいで遅刻になっちゃうじゃないの〜。」
 「いいじゃねぇ〜か、遅刻が嫌ならこのまま一緒にさぼろうぜ。」





 ここで皆さん、なんか乱馬とあかねがいつもよりラブラブじゃない、とお思いでしょう。
 それもそのはず、二人は出会ってから一年と半年が経ち今では校内で一、二を争うほどのアツアツぶり・・・。
 お邪魔虫の三人娘も二人の世界に入れなくなり、乱馬を諦めたようだ。
 あかねを狙う九能は、なびきと?宜しくやっているし、良牙は良牙で、あかりと上手くいっている。
 真之介は、あれから連絡の一つもないので二人の記憶から忘れられている・・・。
 乱馬はあかねの事を愛している。無論、あかねも同じだ。
 今や二人の関係をくずす事は不可能に近いのであった。





 「さぼれるわけないでしょう。急がないとまた先生に怒られるんだからね。」
 「わ〜ってるって、冗談だよ。」
 「冗談言ってる暇があったら走りなさいよ。時間無いんだから。」
 「しかたねぇなぁ。」

 
 乱馬はあかねをお姫様だっこした。
 特に照れもしないで乱馬は学校へと急いだ。
 あかねはとっさの判断が出来ずに呆然としていた。


 「な、ばか、なにすんのよ。」
 「だってこっちの方が速いだろう。」
 「も〜、おろしてよ〜。」


 乱馬はあかねをだっこしたまんま、走っている。
 あかねはだっこされているのが恥ずかしくなり顔を真っ赤にして抵抗を始めた。
 が、あかねは抵抗しても無駄だとわかっている。
 乱馬は、あかねが抵抗しているにも拘らず涼しい顔で走っている。
 あかねが抵抗をしなくなった頃には学校まであと少しという所だった。
 門のところであかねを地面に下ろし、俯いているあかねの顔を覗き込んだ。


 「ほら、学校に着いた。」


 あかねは少し頬を赤らめて乱馬を軽くにらめつけてから、学校へ入っていった。
 乱馬もあかねの後を追って学校の中へ入った。
 靴を履き替え、走って教室えと向かっていった。
 丁度、階段を上りきったところで乱馬は甘えるような声を出し、あかねを呼び止めた。

 「あ〜かねちゃんvv」


 あかねはまだ怒っているらしく乱馬を上目使いでにらんでいる、今にも(何よ・・・。)と言いた気な目だ。
 でも乱馬はあかねの機嫌を治す方法を知っている、その方法はすごい効き目であかねの機嫌は直ぐに直ってしまう。
 ニヤッと意地悪な笑みを浮かべてその方法の行動に移った。
 
 ちゅっ


 もう何回も何十回もしているのに毎回赤くなるあかねが可愛いと、思った。
 何か言おうとしたあかねにもう一度・・・、キスしようと顔を近づけたところで惜しくも予鈴に邪魔されてしまいあかねに逃げられてしまった。

 
 ちぇ、もう少しだったのに・・・。

 その時、ふっと良い事を思いついた。
 乱馬は密かにバイトして貯めたお金をデート資金として使っていた。
 幸い、今度の給料日まで、金を使う予定が無い。

    そういえばこの前のデートの時、ショウウインドウを覗いていたっけ。
    たまにはあかねになんか買ってやるか。
    
 あかねの喜ぶ顔が目に浮かんだ。
 あの眩しい笑顔が自分だけに向けられる。
 考えているとついついにやけてしまう。

   よし、今日誘ってみるか。


 乱馬は、にやけた顔のまま、教室に入ってきた。
 すでに予鈴は鳴っていたので、皆は一時間目の準備をしていた。
 まずはにやけた顔を直し、席に着く。
 隣はあかねなのでいつでも見つめていれるし、話もできる。
 今日の帰り際にでも買い物に誘おうと思っていた。

 「おい、あかね。」


 席が隣という事で授業中でも話し掛けられる。
 でも、呼んだは言いが今ここで言うのは恥ずかしいし、さすがに授業をさしおいて放課後デートの相談をしてはだめだろう。
 それに周りのみんなにも聞こえてしまう。
 もしも聞こえてしまったら、あかねが怒ってしまってデートどころじゃなくなる・・・。
 そうなってしまったらあかねのご機嫌から直していかなくてはならない。

 「なによ、乱馬。授業中はあんまり話し掛けないでって言ってるでしょ。」

 「あ、いや、やっぱいい。」


 乱馬はあかねに話すのを諦めた。
 授業を受けても分かるわけがない。
 ちょうど朝の眠気が戻ってきたので寝る事にした。
 教科書を立ててあかねの方を向き、この世で一番愛しい人を眺めながら眠りにつく。
 これ以上の幸せがあるもんか、と思いながら眠りの中へ入っていった。



 眠りから覚めると、あかねの顔がアップであった。
 キスをしたくなる気持ちをおさえてぐんっと伸びた。
 今は何時間目の間かは分からないけど休み時間だった。
 あかねが待ってましたとばかり、さっき話し掛けた事を聞いてきた。

 「乱馬、何言いたかったの?気になるじゃない。」

 「あ〜、放課後どっかに寄ってかないかなって思って・・・。」


 それを聞いたとたん、あかねは顔を真っ赤にさせて俯いた。
 乱馬もつられて顔を赤くし俯いた。

  はぁ〜、俺たちって何でこうも純情なんだろ。 

 たかが放課後デートぐらいで顔を赤くさせているカップルはそうそういない。
 二人は次のチャイムがなるまでその姿勢で固まっていた。





 放課後になり何時もどおりに学校を出てみんなに感ずかれない様にした。
 だが、ひろしや大輔、さゆり、ゆかにはわかっていた、二人がこれから何処かへ行こうとしている事が・・・、さすが二人の“親友”である。
 四人はひそひそと、二人はどこまで行っただの、キスはもうやったかだの、話し込んでいた。



 乱馬はデパートへと向かってあかねを連れ出した。
 乱馬はふだんから回らない頭で、予算の事やなんていって買ってあげようか考えをめぐらせていた。
 あかねはどこへ行くかはまだはっきりとわかっていなかったので、乱馬に黙ってついて行った。


 何と向かった先がアクセサリー売り場だったのであった。
 あかねはびっくりした様子で乱馬のほうを見た。乱馬は照れているのか、少し頬を赤く染めてそっぽを向いていた。
 そんな乱馬をみて、あかねからは優しい微笑がもれていた
 何時までもそうしている訳にも行かず、とりあえず品物をみてまわる事にした。
 あかねはドキドキしながらケースの中を覗き込んでいる。
 乱馬もあかねに似合いそうなアクセサリーを探しながら覗き込んでいた。


 さほど見回した所で乱馬はケースの本当の隅にある一つの指輪が目に入った。
 周りとは違う輝きが、その指輪にはあった。
 店員に言ってその指輪を出してもらった。
 あかねに手を出すようせかし、左手の薬指にはめた。
 サイズもぴったりで、なによりあかねに似合っていた。
 シンプルなデザインで、なおかつ可愛らしさがあった。
 当のあかねは、乱馬が選んでくれた指輪は自分もこれだって思っていた物だったが、指にはめられたのが左手の薬指だったので恥ずかしくて堪らなかった。
 「あの、これください。」


 あかねはその言葉にドキッときて下を向いてしまった。
 乱馬も照れているのか、ほのかに頬が赤かった。
 いや、ほのか所ではない、顔は火の様に真っ赤になっていた。






 帰り道、乱馬とあかねはいつも以上に相手の事を意識してしまい顔すら合わせられなかった。

 でも、あかねの左手には“婚約指輪”がはめられていた。


 「なぁ、あかね。ちょっと公園寄ってかねぇか?」

 「う、うん、いいよ。」



 正直言って今のあかねは心臓が破裂するぐらい、ドッキン、ドッキン鳴っていた。
 そして乱馬も平然は装ってはいるが、呼吸困難になるのではないか、と思っていた。


 「あのな、あかねにお願いって言うか何て言うか、聞き入れてもらいたい事があるんだ。」

 「な、なに?」

 乱馬はここで言葉が詰まってしまい、なかなか言い出せなかった。
 逆にあかねも、何を言われるかドキドキしていた。


 「そ、その指輪何だけど・・・、」

 「うん、この指輪を・・・?」

 「・・・か、肌身離さず持っていてもらいたいんだ!!」

 ついつい力み過ぎて大声を出して言ってしまった。
 あかねもだんだん意味がわかってきたみたいで真っ赤になってきた。


 「あ、いや、・・・い、いやならいいけど……。」

 「ううん、うれしい・・・。」

 あかねを見ると、指輪を握り締めて少し肩が揺れていた。
 乱馬はあかねの顔を自分の胸へと引き寄せると、肩を抱いてあげた。


 「あ〜も〜、泣くなよ。涙もったいねぇじゃねぇか。」


 「いいの、うれしいんだもん。・・・・・・、この指輪大切にする。ずっと、ずっと、ずっっと持ってる。」


 あかねは、涙声のままそう言ってくれた・・・。
 俺はあかねをもっと、強く抱きこんだ。



 あかねの身体は、乱馬の身体に入り込んで行くかの様に見えた。








 「進展」に引き続き、初めての投稿作品です。
 互いの、ドキドキ感が伝わってくるような…。原作では空振りだった「指輪」騒動。今度こそは…。
(一之瀬けいこ)


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