◆進展
あや子さま作


 今日はいつもと変わらない日だと思っていた。
 でも、その思いは一瞬にして崩れ去っていった。
 俺は今日の帰りに、町の喫茶店の前を通りかかったら…あかねがいた。
 一人じゃない。俺が知らない男と一緒に楽しそうに話をしていた。

 ここ最近あかねは帰りが遅い。
 それに、帰ってきてから妙にテンションが高い。

 喫茶店で三十分くらい話をした亜櫓、二人は席を立ち、店を出て行った。
 俺はその場で立ちすくんでしまった。
 男は長身でなかなかのルックス。
 凛とした顔立ちが何ともいえない。
 あかねと並んでいたら絵になっている。
 いや、実際なっていた。
 居ても立ってもいられなくなり、その場を逃げるようにして帰った。
 
 その後どうやって帰ったか覚えていなかった。
 気付いてみたら、道場で精神統一をしていた。
 考えたくなかった、あかねのことを。
 忘れてしまいたかった、さっきの出来事を…。




「あれ?いたんだ、乱馬。」

 乱馬は全然反応しない。
 不審に思ったあかねは乱馬の肩をつかんだ。

「ねえ、乱馬ったら!!」

 道場に乾いた音が響いた。
 乱馬があかねの手を払いのけたのだ。

「触るんじゃねえっ…。」

 低くドスのきいた声。
 今自分が何をしているのか、何を考えているのか、わからない。
 ただあかねが恋しくて、恋しくてたまらなかった。

 あかねを誰のものにもしたくない。
 自分だけの物にしたい。
 でも、手は…出せない。
 出したらあかねを泣かせてしまう。
 きっと、いや絶対後悔する。

「…乱馬?」

 涙声で今にも泣きそうな顔だった。潤んだ瞳。
 そんな目で俺を見詰めるな。
 見詰められたら、抑え切れなくなる。

「私…何かした?」
 どう言えばおまえはわかってくれるんだ。
「うるせえ…。」
 やめろ、やめてくれ。
「乱馬…。」
「もう目の前に、現れんな。」
 むりだ。


 一瞬の沈黙だった。
 あかねは小さなか細い声で、「ごめんなさい。」と、総一言言い残して行ってしまった。
 乱馬はしばらくその場に立ち尽くしていた。



 次の日、あかねは乱馬のことを避けていた。



     話がしたい、触れたい。
     でも、また傷つけたら?
          …これ以上嫌われたら??
     あかねに…あかねに嫌われたら
          俺は如何すればいいんだ。


 学校から帰って来ても落ち着かなかったから、近くの公園に来ていた。
 あかねのことを考えていたら、もう日も暮れていて、月が見え隠れしていた。

「やべ、早く帰らねぇと…。」

 磯で走っているとあかねと、…あの男が一緒にいた。
 すかさず電柱の影に隠れると、俺は二人の様子を窺った。
 微かだが、会話が聞こえてきた。

「私、どうすれはいいのか、わからなくなって…。」

 あかねはずっと泣いていたのか、声はかすれ気味で、夜目でもわかるくらい目は真っ赤になっていた。

「大丈夫だって、何とかなるよ。…。」

 そう言いながら男はあかねの右肩へと腕を伸ばし、そっと壊れ物を扱うかのように肩を抱いた。
 それを見た瞬間、言いようのない嫌悪感に襲われ、心臓を鷲掴みにされたみたいに、胸が痛み出した。
 苦しくて堪らなくなり、俺はその場から走り去った。


     あかねには、あの男が必要なんだ。俺じゃないあいつなんだ…。



 数日が過ぎて、俺とあかねの間には今までにないほどの溝が出来ていた。
 一緒に帰りたいけど、あかねの顔を見るとこの前のことがちらつき、胸の痛みが再びよみがえる。
 あかねが帰る前に校門を出た。

「早乙女…乱馬君だよね。」

 ふり返ると、あかねと一緒に居たあの男がいた。
 動揺を隠すため、なるべく低い声で言葉を返した。

「俺に何の用だ?」
「警戒しないでくれ。ただ君に話があるだけだ。」

 俺は男のことを眺めながら言い放った。

「急いでるんで…。」

 急ぎ足でそいつの脇をすり抜けようとしたら、男が言った。


「あかねちゃんの事について君と話がしたいんだ。」

 俺の足を止めるには十分な言葉だった。

「あかねが如何したってんだ。」
「話す気になったみたいだね…。立ち話もなんだし、どっか入ろうか。」

 言われるままに男に従い、近くの喫茶店に入った。

「自己紹介がまだだったね。僕は坂本海斗、あかねちゃんとは中学のときの同級生だ。それと、あかねちゃんは気付いていないけど、僕の片思いの相手…。」
「で、何なんだよ。話って…。」
「あかねちゃんの相談にのっているんだよ、君の事で。」
「……え?」

 びっくりして聞き返してしまった。
 てっきり俺に許婚を甲斐性氏とって言うと思ったから。

「はじめは気になる人がいるって言ってきたんだけど、相談にのっている内に告白してみたらって言ってみたんだ。そうしたら、周りには綺麗でkんなの子らしい人ばかりいて、私のことなんか見てくれないって言ってた…。」

 俺はあかねに気になる人がいるとはじめてきき、動揺したが、ばれないように平然と、海斗って云う奴の話を聞いていた。
「この前なんか、会った時泣きつかれたよ。目の前に現れんな、って言われて…、よほどショックだったんだろうね。もう生きていけない、いっそのこと死にたいって言ってたよ。」

 俺は混乱していた。
 あかねには好きな人がいる。
 でもそいつはあかねを拒否した、俺が言った同じ言葉で…。

「さすがに見ている僕も居た堪れなくなって、君に会いに来たんだよ。」
「…何で?」
「ん?」
「だって…、そのまま俺たちの中が壊れたらチャンスじゃないか、なのに…。」

 あかねのことが隙なのに、なのに、何で俺とくっ付けようとるすんだ…?

「それは、本当に僕があかねちゃんのことを好きだからだと思う…。好きな人には、いつも笑顔で居てほしいだろ。」
「…わりぃけど、失礼していいかな……?」





 俺は家までの道のりを走っていた。
 今すぐあかねに会って謝りたい。
 今までしてきた事、あかねに言ってた酷い言葉。

「あかね。」

 道場にいつあかねに向かって大声で差健太。
 あかねは何事かと、こっちを振り向いた。

 今度は優しく言いながらあかねの側までいった。
 手を伸ばしあかねを抱きしめた。
「や、やだ。何するの?乱馬。」
「ごめん、…ごめんな。あかね、俺…。」

 それ以上は言葉になんなかった。

「もういいから、謝らないで。謝られたら、私…。」
あかね、お前の事が好きだ。どこへも行かないでくれ。俺の側に居てくれ。」
「うん、私もずっと前から好きだった。だから、私を離さないでね。約束よ。」

 二人はそのまま見詰め合い、唇を重ねた。



 完




 実はこの作品、同人誌申し込みの際に、私にと手紙に添えて送ってくださった作品でした。
 初めて書いた作品だということでしたが、とっても一所懸命さが伝わってきましたので、こうやって私の方でキーボードを叩いて、掲載させていただくことにしました。

 乱馬の嫉妬・・・。これもまた、美味しいテーマです。乱馬は絶対、ある意味、あかねちゃんより嫉妬深い奴だと私は思いますので。
(一之瀬けいこ)

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