◆一人きりのクリスマス
乱蘭さま作


 それは、丁度5年前の今頃だろうか。あかねが、俺の目の前で・・・悲しそうに笑っていた。
そしてそのまま。。。悲しいなんて感情は無かった。目の前の光景が信じられなかった。あかねが俺から離れていくのを黙って見ていることしか出来ない自分が其処にいた。
その日の内にお通夜が行われた。おじさんやかすみさん、なびきやあかねの友人は、ただ・・・泣いていた。
あかねを攻める事などなく、ただ・・・泣いていた。俺は、その光景を黙って見ている事しかできなかった。もう、涙なんか枯れ果てていた。

「乱馬。。。此処を、天道家を出るぞ・・・。」

「・・・あぁ・・・。」

 未練は有った。あかねと初めて出会った家。街。そして・・・、あかねと別れた此の街・・・。
だが、決意は変わらなかった。あかねが在って、俺が在る。失った半身は二度と戻っては来ない。突き刺さる事実が、俺を後押ししていた。
あかねがいないこの街に、俺が居る理由は何もなかった。

 此の街を離れるとき、あかねとの想い出が走馬燈のように次々と頭の中に浮かんできた。
風呂場での、これ程にまでない最悪な出逢い。運命なんて、これぽっちも感じなかった。
東風先生。あかねの初恋の相手。内心、悔しかった。俺は、あかねに惚れていた。素直に受け入れなかった、初めての感情。
受け入れたら、負けだと思った。流石は格闘バカ。あかねに話したら、笑っていた。あかねも同じだという。
あいつの高校生活は変わっていた。毎朝、男どもに勝負を挑まれては可憐に交わしていく。そんな姿がとても愛らしく、とても健気に見えた。
良牙には、嫉妬の嵐だった。どうにもならない感情が、自分の中で熱く渦巻いていた。結局、最後まで良牙の正体知らず仕舞いだったな。あかねのやつ・・・。
そう言えばシャンプーが来てあかねが嫉妬してた時、内心めちゃめちゃ嬉しかった。あかねが俺の事で妬きもち妬いている。その事実が堪らなく嬉しかった。
そんなことを思いながら、この街を後にした。二度と戻って来ない、あかねとの想い出が詰まったこの街を・・・。





 俺は今、都内のあるマンションの一角に部屋を借り、バーテンのバイトをしながらひっそりと暮らしていた。

あの日以来、俺は笑顔を失った。

誰とも接することなくただ、生きていた。街ですれ違う仲の良い恋人達。そういえば、明日はクリスマスだった。
俺のタンスには、昔あかねに貰った不器用ながら一生懸命編んでくれたマフラーがタンスの奥に眠っていた。
凍えるような寒さの中、俺は家の鍵を開け家に入り、電気も付けずにそのままベットに倒れ込んだ。

もうすぐ、あかねの命日・・・。

ふと、俺の頭の中にあの日のあかねの悲しそうな笑顔が浮かんだ。
俺は必死に頭を振り、その笑顔を消そうとした。だが、その笑顔は消えない。まるで、忘れないで。とでも言うように。
あの日のあかねが、俺を束縛していた。
耐えきれなくなった俺は冷蔵庫から、一本のウォッカを取り出した。前にバイト先のマスターに貰った物だ。
あかねの事を考えると、どうしようもない寂しさに襲われる。そして俺は、酒に身を任せる。そんな日々の繰り返しだった。
自分でも情けないと思った。女になんか興味は無いと言い張っていた自分が、たった一人の女の事でこんなにも狂わされる。
あかねは、俺のすべてだった。
そして俺は、そのまま意識が遠のき眠りについた。

翌朝、激しい頭痛に苛まれながら起きあがった。部屋の中は相変わらず暗く、どんよりしていた。
カーテンを開けると、眩しい日差しが部屋を明るく照らしていた。時計を見れば、10時を廻っていた。
今日は、昼のバイトも休みで散らかった部屋を片づけようとした。最近全く掃除をしていなく、部屋はかなりホコリっぽかった。
しばらく掃除をしていると、ベットの下から写真立てが出てきた。被っていたほこりを払い除けると、そこには以前、自分の隣で笑っていた懐かしい笑顔が写っていた。
俺はそれを持ち上げ、自分の机の上に立てかけた。あの頃と変わらない、眩しい笑顔が俺を優しく包み込んでいた。

ガチャッ

当然ドアが開いた。ドアの前に立っていたのは、女だった。どこか見覚えのある顔。

「久しぶりね。乱馬くん。あたしよ、ゆか。」

・・・。あかねの親友のゆか、か・・・。高校以来だな。そういえば、高校中卒してきたんだった・・・。

「あぁ。・・・今更何の用なんだ?」
乱馬の冷たい反応に一瞬、驚いた表情を見せたゆかだが、気を取り直し持っていた手提げバックから一通の手紙を出した。
「これ。5年前、あかねに乱馬くんに渡してって頼まれた物。乱馬くん、突然どこか言っちゃうから渡せなくって。」
俺は、ゆかからその手紙を受け取った。其の手紙は、何処か古ぼけて日焼けをしていた。
「それじゃぁ、あたしの用はこれだけだから。じゃぁね、乱馬くん。」
そのままゆかは、俺に背を向けて帰って行った。何処か寂しそうに。

 俺は掃除が途中なのも気にせずに、ベットに腰掛けてゆっくりと手紙の封を開けた。






 乱馬へ。

  乱馬がこの手紙を読む頃は、私はもう貴方の隣に居ないかもしれない。
私ね、やっぱり自分の身体だから自分が一番良く解るんだ。もう、長くないって。
思えばさ、乱馬が初めて家に来たときからずっと、私の隣には乱馬が居たよね。なんか、それが当たり前ってみたいな感じでさ。
乱馬は最初逢った時、女の子で次に逢った時は男の子だったよね〜。あの時は、本当にビックリた。
男の子に負けた悔しさと、裸見られた恥ずかしさでもう最悪だった。
だけどね、だんだん乱馬に・・・あんたに惹かれてっちゃって。今では、乱馬無しじゃ生きていけないよ。
今更こんな事言うのも、凄く恥ずかしいんだけど・・・。

乱馬のこと、大好きだよ。ううん、それ以上に愛してる。

だけどね、あたしもう、貴方の傍に居られないの。
ずっとすっと、しわくちゃのお婆さんになるまで乱馬の傍に居たい!あんたの隣はあたしだけの特等席でありたい!
でもね、無理なの。どんなに強く思っても、どんなに傍に居たくても!あたしは、あんたを置いて逝っちゃう。
いつか、その特等席が他の子の物になっても私はずっと、あんたの事待ってるから。
あんたが、しわくちゃのお爺さんになるまで待ってるから!
最後に聞いて、もっと一緒に生きたかった。私の事、忘れないでね。
乱馬・・・。

                                           あかねより





 胸の奥から熱い物が込み上げてくる。目の前が霞んで見える。
あかねの手紙の上に滴が落ちる。気が付いたら、泣いていた。とっくの昔に忘れていた感情。
あかねの想いが痛いほど伝わってくる。

「俺だって、俺だって!ずっと一緒に居たかった!あかねの傍に居たかった!なんで、なんで先に逝っちまうんだよ!あかねぇ〜〜〜〜〜!!!!!」

5年間押さえていた、あかねへの想いが一気に溢れてくる。

あれからどれくらい時間が経ったのだろうか。目は真っ赤に腫れていた。
窓の外を見ると、もう陽はとっくに沈んでいて街には色取りどりのネオンが幻想的に光り輝いていた。
俺は、バイトがあることに気付き、急いで手紙をコートの内ポケットにしまうと、急いで身支度を整えマンションを後にした。

バイト先のバーは、地下街にひっそりと建っていた。内装は、シンプルで、客席も少なく10人程度が限界だった。
その小さなバーのマスターは、2,3人の客の相手をしていた。
乱馬は急いで着替えると、すぐにカウンターに入ってきた。

「すっ、すみません。遅れてしまって。」
乱馬は慌ててマスターに謝った。だが、マスターは差ほど怒る様子もなく、軽く苦笑いした。
「いいよ、乱馬くん。それに、訳ありのようだしね・・・。」
乱馬は、慌てて腫れた目元を隠した。が、すでに遅い・・・。
そのあと、入れ替わり立ち替わりに数人客がきて、閉店となった。
マスターは店を閉めると、乱馬に声を掛けた。
「どうだい?乱馬くん。今から、ドライブにでも。」
結局乱馬は、家に帰っても酒に溺れるだけなのでマスターの誘いに乗ることにした。
マスターは、30半ばの妙に若く見える男で眼鏡を掛けていた。

(東風先生に似ている。)

乱馬が、マスターを見ての第一印象だった。
マスターはあかねの初恋の相手、東風に良く似ていたのだ。
乱馬はマスターの車(スポーツカー)に乗ると、シートベルトをし煙草をくわえた。
マスターは高速に入ると徐々にスピードを上げていった。
さすがの乱馬も、120キロを越すと不安ににになってきた。
「だっ、大丈夫っすか?」
マスター基本名、須賀鎮(すがまもる)は、乱馬の心配をよそにグングンスピードを上げていく。
「・・・。お前が泣いてたの、女絡みだろ。」
図星を指され、一瞬ドキッとした。

「・・・・。もう、だいぶ前に捨てた恋なんですけどね。。。」

その後、須賀は何も言わなかった。

そうこうしている内に、乱馬のマンションの近くまで来ていた。
「ここら辺でいいっすよ。有り難う御座いました。マスター。」
乱馬は、止められた車を出ると須賀の方を向き、会釈をした。
「いいよ。じゃぁ、また明日ね。乱馬くん。」
そのまま、須賀の車は去っていった。










 街には色とりどりのイルミネーションや、クリスマスソングが流れていた。
今日、12月24日はクリスマスイブ。恋人達の日。だが、乱馬には、その響きが無性に寂しかった。

「待ってる・・・。かぁ〜・・・・。」

『あんたが、しわくちゃのお爺さんになっても待ってるから。』

あかねの泣き顔が目に浮かぶ。俺が傍に居ないといつも危なっかしいあかね・・・。

あかね、約束する。どんなに辛くても、悲しくても、俺は逃げ出したりしねぇ。
ちゃんと、けじめ・・・付けるよ。あかねを信じて。待ってくれてるって信じて。

――― 一生懸命生きてみるよ!―――

クリスマスソングが流れ出す。
俺の固い決意を知ってか知らずか、目の前に天使に囲まれたあかねが見えた気がした。
今までにない、最高のクリスマスプレゼント。
それは、、、。
俺の胸だけに閉まっておこう。あかねとの約束を果たすまで。



もう一度あの笑顔に逢うまで・・・。








作者さまより

初投稿&処女作の小説でございます。
一人きりのクリスマス。。。
なんとも訳のわからん小説(?)を投稿するのは、もうドキドキでした・・・。(汗
このお話では、私があかねちゃんを殺しちゃっていますが、(ぉ)乱あが大好きな私には、やっぱり愛は必要だと。。。(笑
と、言うわけでやっぱり乱あが大好きなのには変わりないのです!
今度は、ラブラブ甘系を目指したいです!!
(無理。

乱蘭拝


実は「呪泉洞」ではダーク系はご法度です。
でも、一所懸命書かれてますし、乱馬とあかねの関係が壊れたわけではなく・・・。(壊れてたら絶対掲載しません・・・ここの管理人は。

どうしてもラブラブなクリスマスが多いのですが、たまにはこういう作品もいいのではないかと思います。
乱馬にとってあかねは永遠の想い人なのでしょうね。
切なくて、それでも愛情たっぷりな初投稿ありがとうございました。
次はラブラブな二人のお話になることを期待しつつ・・・
(一之瀬けいこ)