◇彼の理想
きつねさま作
小さい頃から、憧れたのは守られるだけのお姫様じゃなくて、騎士と一緒に闘う仲間・・・
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彼の理想
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「ねえねえ、見てこれ」
言いながら友人が取り出したのは一冊の雑誌。
新しい種類らしく、新し物好きな友人は昨日本屋で見かけ早速購入したらしい。
「これによるとね〜、男にとって女は“守ってあげたいタイプ”と仕事とかでも対等な“同志タイプ”の二つなんだって〜」
「え〜?それ本当かなぁ?」
友人の一人は疑わしそうに眉をひそめた。
「まぁ本当としようよ。で、私ってどっちかな?同志タイプ?」
そう言って自分の顔を指さした少女は確かに男と色々な意味で対等でいられるタイプだった。
その場にいた全員が彼女の意見に賛成した。
それから次々に自分は同志だ、守ってあげたい方だ、と言う意見が飛んだ。
ふと先程の少女があかねの方を向いてこう言った。
「あかねは守ってあげたいタイプだよね〜」
あかねがきょとんとしていると、
「ああ、そうだよね〜」
といった言葉が次々と周りから発せられた。
あかねにとってそれは意外だった。自分は同志タイプだと思っていたのだから。
「私そっちなの?」
あかねの疑問に対して友人はさらりとこう言った。
「うん。あかねって強いし勉強出来たりするけど、何となく守ってあげたくなる感じだもん」
その答えにあかねは不満だったが友人達はそんな事には気づかずにいた。
そのうちに話は自分達のクラスの男子はどちらが好きなのか、と言う風に移っていった。
男子の意見も聞いてみよう、と近くに居た男子に声をかけた。
「ねぇ、守ってあげたいような女の子といろんな事で対等な子、どっちが好み?」
「そりゃあ守ってあげたい子だろ〜。男はそういうのに弱いんだって」
その男子はさも当然というように答えた。
彼だけでなく、その後声をかけた数人の男子も全く同じ答えだった。
そのうちに、どこかに行っていた乱馬が教室に戻ってきた。
「ねぇ、乱馬君は“姫タイプ”と“同志タイプ”どっちが好き?」
「はぁ?あんだそりゃ」
いきなりそんな質問をされればそう答えるのが当然だろう。
質問があまりにも言葉足らずだ。
「女の子で守ってあげたいって感じの姫タイプと、いろんな事で対等な同志タイプ。どっちが好み?」
ああそう言う事か、と質問の内容を理解した乱馬は少しだけ考えるような素振りを見せるとこう言った。
「両方・・・かな」
「両方?」
その場に居た全員がどっちでも良いのか、と考えたが乱馬はそれを否定した。
「どっちのタイプでも良いってんじゃなくて、対等でなおかつ守ってやりたくなるような奴が良いんだよ」
「何それ〜」
「そんな子ってあんま居ないよ〜」
どっかに居るんじゃん?と他人事のように言った後、乱馬は机にうっ伏して睡眠体制にはいった。
どうやら次の授業をまじめに聞くつもりは毛頭ないらしい。
皆もそれぞれの席に戻り、これでこの話は終わった。しかし、あかねは不満と不安を感じていた。
不満は、自分が男にとって同志ではないと言われたこと。
そして不安は乱馬の理想に自分は当てはまらないのか、と言うこと・・・。
放課後、いつもの様にあかねのすぐ脇にある塀の上を歩く乱馬の姿があった。
この微妙な距離があかねにはもどかしかった。
何故乱馬は自分の隣を歩いてくれないのだろう・・・?
あかねはそんな事を考えていて前を見ていなかった。突然、
「ど、どいてくれー!」
と言う声が前方から聞こえた。
顔を上げると一目でソバの出前中だと分かる男が自転車に乗って真っ直ぐ向かってきている。
ぶつかる、と思わずあかねは目を閉じた。
しかしいつまで待っても衝撃は訪れず、変わりに、まるで宙に浮いて居るかのような浮遊感があった。
足を動かしても地面にはあたらず、空を蹴っているようだった。
あかねがゆっくりと目を開けると、そこには片手で自分を抱え、もう片方の手で綺麗に重なったソバの器を持っている乱馬の姿があった。
「ったく、何ボ〜っとしてんだよ」
乱馬は呆れたようにそう言うと、ソバ屋に中身の全く乱れていない器を渡すとあかねの方を向いた。
「お、おろしてよ!」
あかねはそう言って乱馬を突き飛ばした。
「てめぇ、助けてもらっといてそう言う態度かよ!」
乱馬の声には耳を貸さず、あかねは家に向かって走っていった。
“また 守られてしまった”
あかねの心はその気持ちで一杯になっていた。
何故だか自分でも驚くほどショックを受けていた。
その夜遅く、乱馬があかねの部屋のドアを叩いた。
「お〜いあかね、ちょっと話あんだけど」
あかねは少し渋ったがすぐにドアを開けた。
乱馬は黙って部屋に入るとベットの上に腰掛けた。
「何?話って」
あかねはなるべく乱馬の方を見ないようにして話しかけた。
それが乱馬の気に障ったらしく、声を少し低くして口を開いた。
「お前今日ずっと俺の事避けてるだろ。モロバレだっつの。俺なんか気に障るようなことしたか?」
実は心当たりがないでもない、といつになく弱気な乱馬だった。
しかしどれをとってもいつもと同じ様な物なのでここまで異常な反応をするとも思えない。
それに怒るのならともかく、無視されるのは乱馬にはかなり辛かった。
「なあ、なんで?」
あかねにも乱馬の気持ちが分からないでもない。
いきなり避けられたら誰でも苛立ちを覚えるだろう。
それでも正直に言うのも何だかためらわれた。
それでは告白しているのと同じではないか。
何を今更、と思われるかも知れないがどんなにお互いの気持ちを確かめ合った今でもはっきりと口にするのは恥ずかしいのだ。
「俺なんかやった?」
乱馬がそう問うとあかねは首を黙って横に振る。
何を聞いてもあかねは黙ったままである。
生憎乱馬は気の長い方ではなかった。
もうらちがあかない、と立ち上がり黙って部屋を出ようとドアノブに手をかけた。
「あ、ちょっと・・・」
あかねは思わず止めるが次の言葉が見つからない。
乱馬はドアの方を向きながら言った。
「別に怒らせてねえならさ、何で無視すんの?結構きついんだぜ、それ」
少し振り返った彼の表情を見てあかねはしまったと思った。
あかねはゆっくりと乱馬に近付くと、彼の背中に自分の顔を押し当てた。
「・・・ごめんなさい」
乱馬はゆっくりと身体をあかねの方に向けると、片手で彼女を引き寄せてその頭の上に自分の顎を乗せた。
引き寄せた方の手でゆっくりとあかね肩を撫でていると、あかねはと力を抜いて乱馬に寄りかかった。
「・・・今日学校で女の子では守ってあげたい様な子と同志みたいな子のどっちが良いかって話したでしょ」
(確かそんな事言ってたっけ)
乱馬はそう思ったが特に何も言わずにあかねに続けるよう促した。
「それで乱馬、対等で守ってあげたくなる様な子が良いって言ってたよね。
でも私それより前に“守ってあげたくなるタイプ”って言われてて、自分じゃ反対だと思ってた分不満だったの。
・・・私小さい頃から絵本読んでもゲームをしても、騎士に守ってもらったり助けてもらってるお姫様じゃなくて、
一緒に闘ってる仲間の方に憧れてたの。だからきっと無意識に男の人と対等で居られるようにしてたんだと思う。
それなのに姫タイプって言われちゃって、帰る時も乱馬に助けられちゃうし・・・。
何だかそれが自分でも驚くほどショックだったの。別にまとめてみると大した事じゃないのにね」
あかねがそう言うのを乱馬は黙って聞いていた。
そして少ししてから口を開いた。
「ばぁ〜か」
あかねはそれを聞いて少しむっとしたように顔を上げた。
そして目に入った乱馬の顔はとても優しげで、何処にも馬鹿にした様な感じはなかった。
「男ってのはな、惚れた奴はぜってー守るって思うもんなんだよ。でも俺は結構めんどくさがりだから守るだけってのはヤでさ、
やっぱ同じ位置に居てほしいわけだ。・・・実はあれってお前に当てはめて言ってたんだけど」
あかねはそれを聞くときょとんとした顔をし、それを見た乱馬は苦笑した。
「あの女子達が言ってた事は半分当たってるんだよ。お前は“姫タイプ”でもあるからな。でも、俺お前とは対等だと思ってる」
「・・・本当?」
「ホント。安心したかい?我が君」
乱馬の台詞で二人は同時に吹き出した。
「乱馬そう言う台詞似合わないよ」
「悪かったな。俺は騎士じゃぁねーんだよ。って事で、そろそろ離れてくんない?」
乱馬はそう言うとあかねを離そうとした。
あかねは元気になったせいか悪戯心が沸き、逆にぴったりと乱馬に寄り添った。
乱馬は困った様な顔をした。
「もうちょっとこうしてたいなぁ」
あかねは少し甘えた様に言うと乱馬を上目遣いで見た。
すると乱馬はフッと顔を背けて、ダメだ、と言った。
あかねは勿論不服そうな顔をしている。
乱馬はため息を付くとあかねの耳に口を寄せこう言った。
「このままだと危険って分かってんの?」
数秒の後、あかねは顔を真っ赤にして乱馬から離れた。
そして急いで近くにあったクッションを抱きかかえる。
乱馬は苦笑すると、「お休み」と言って部屋を出た。
暫くドアを見つめていたあかねは、少ししてベットに潜り込んだ。
そして小さく「お休み」と言って持っていたクッションをぎゅっと抱きしめた。
完
作者さまより
一之瀬様、「呪泉洞」移転&2周年おめでとうございます!
いつもお世話になっているお礼に、と思い書き始めましたが何故だかまとまらず(爆
久々に乱あを書いた気がします。
きつねさまにお世話になっているのは実は私だったりします。
お蕎麦屋さん、きっと我が呪泉洞への出前だったのかも・・・勿論、引越し蕎麦です。
守ってあげたい存在というより、守らなければならない存在、それが乱馬にとってのあかねなのかもしれません。
ごちそうさまでしたっ!
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