◇純 愛 前編
さわやかなほか弁さま作


〜昭和40年代 東北地方のとある炭鉱集落〜
早乙女乱馬はその炭鉱で働いている。
乱馬は父、玄馬共々親子で毎日のように炭鉱の坑道に入っていた。

その乱馬にはかわいい幼なじみがいた。
名前は天道あかね。
この炭鉱の集落でも美人三姉妹として名高い天道家の三女である。
あかねと乱馬は小学校も中学校も一緒で、家も近所の為、よく行き来し、遊んだりしていた。
しかし、中学卒業と同時に、乱馬は炭鉱で働く事になった。
一方のあかねはこの山の炭鉱集落を降りた、市街地の高校へ通うことなり、お互いに顔を合わす機会も減ってしまった。

〜ある日の朝〜
[乱馬、元気でやってる?]
通学途中のあかねが仕事へ行こうとしていた乱馬に声を掛けた。
[ん・・、ああ。]
不機嫌そうに乱馬は言うと、あかねと視線も合わさず行ってしまった。
[・・・・・。]
それ以上掛ける言葉のないあかね。
乱馬のすぐ後を玄馬が通り過ぎようとした。そして、
[おお、あかねゃん悪いなぁ。どーも、最近乱馬は愛想がなくて。]
父、玄馬があかねに語りかける。
[乱馬・・・変わっちゃいましたか?おじさん・・・。]
うつむき加減に寂しげに、あかねは玄馬に問い掛けた。
[ん・・・むぅ。そんな事はないとは思うのだが・・・。]
歯切れの悪い玄馬の一言。
“何か事情があるんだろうな。”あかねは玄馬の表情からそう感じる物があった。

〜それから数ヵ月後〜
乱馬とあかねの関係はあれからずっと平行線。
ギクシャクしたままだ。
挨拶程度は交わすものの、あかねには冷たく当たる乱馬。
そんな二人が偶然ばったり炭鉱の集落で鉢合わせた。
無言であかねの横を通り過ぎようとする乱馬。
と、その時。あかねが・・・。
[・・・ねぇ、乱馬。どうして私の事を避けようとするの?]
乱馬の背中越しに言った。
[ねぇ、どうして?私が何か気に障るような事でもした?答えてよ、乱馬!]
どうしてこんなに冷たくされるのか。
中学まではいつも楽しく一緒に過ごしていたはずなのに。
あかねはついにこらえきれず、乱馬に向かって叫んだ。
[・・・別に冷たくしているわけじゃねえよ。]
乱馬がボソッと重い口を開いた。
[眩しいんだよ。あかねが。]
真っ黒に煤けた顔をした乱馬が空を見上げて言う。
[眩しい?私が。]
乱馬の言葉の意味がよくわからず、困り顔のあかね。

そして一瞬の沈黙の後、言葉を選ぶように、乱馬はあかねに話し始めた。
[俺、ほら、高校行かなかっただろ?元々勉強は嫌いだったし、家自体そんなに裕福じゃないしな。]
[それに親父の背中を見て育ったから、炭鉱で働けばいいやと安易に決めてたんだよ。中学の時。]
[だげと、親父もおふくろも高校行けって口が酸っぱくなるほど言われたよ。]
[結局俺は言う事を聞かなかったけどな。]
そんな乱馬の話にじっと聞き入るあかね。
[ところが情けないことに、中学を卒業してみて、朝坑道に向かう時にすれ違う制服姿のさ、昔の同級生なんかの姿を見たとき、言い知れようもない眩しさというか、後悔というか・・・。]
乱馬の顔色が沈んでいく。
[何言ってるのよ、乱馬。]
あかねが口を開いた。
[かっこいいよ、乱馬。制服着てる誰よりも。かっこいいよ。すてきだよ。]
[だから・・・自信持ちなさいよ!]
あかねはそう言って乱馬を励ました。
[そうか、そう言ってくれると嬉しいなぁ。]
乱馬に笑顔が戻った。
[だから、そんな事気にしないで。いつもの乱馬でいて。]
[おう!バリバリ働くぜ!]
ようやくいつもの二人に戻った。

だが、そんな二人の関係に急速な勢いで暗雲が忍び寄ろうとしていた。

あかねの通う高校の3年生に九能という、一風変わった先輩の男子生徒がいた。
この男、あかねにひとめぼれしたらしく、ことあるごとに言い寄ってくる。
それもかなりしつこく。
それだけなら、しつこい男がまとわりついているくらいで済むのだが、
この九能家、この町きっての資産家でもあり、
地元でも色んな方面に顔が利くらしく、県や町の役人などにも通じているらしい。
そう・・・、あまり冷たくあしらいすぎると、この町で暮らしにくくなってしまうのだ。
[おおお、あかね君!今日もとてもかわいいなぁ。どうだい?
よかったら放課後僕の家へ遊びに来ないかい?お茶でもご馳走しよう。]
いつものように、九能があかねを口説きにきた。
[ご、ごめんなさい。九能先輩。今日はちょっと都合が悪くて・・・。]
やんわりと断ろうとするあかね。
[んー、いつも君は僕の誘いを断るね。じゃあいつだったらいいのかな?]
それでもメゲル事を知らない九能は、執拗にあかねに迫る。

普通の男なら、好きな娘のためにあれこれ手を打ち、それでも反応が鈍いと悟った瞬間、
脈がないと思って引き下がるのだろうが、
このあたりが“一風変わった男”のゆえんであろうか。

さらに九能は続ける。
[じゃあさ、明日はどうだい、明日は。明日がダメならあさってでもいいや。]
困り果てたあかね。
“こうなったら、一度くらいはお茶しておかないとまずいかな?
自分ひとりなら、頑強に断ったかもしれない。
でも・・・・、この町で暮らす姉二人と父親に迷惑がかかる恐れもある。
彼の親は怖い人達とも繋がりがあると、近所の人はみんな言っていたし・・・。“
そしてあかねは決心した。
[わっ、わかりました。明日・・・お伺いします。]
悩んで、悩み抜いた心の葛藤の末に選んだ選択が、
彼女を計り知れない大きな渦へと巻き込んで行くことになろうとは、
この時知る由もなかった。

〜そして翌日の放課後〜
あかねは誰にも相談できぬまま、この日を迎えてしまった。
[あかね君、待っていたよ。さあ、迎えが来ている。乗りたまえ。]
学校の正門の前には、九能家の使いの黒塗りの高級車が停まっていた。
鼻息の荒い九能。やっぱり危険な人物だ。
[坊ちゃま。お待ちいたしておりました。]
運転手はそう言うと、車の後部のドアを開けた。
[さあ、乗りたまえ、あかね君。]
九能に促されるまま、仕方無しに車に乗り込むあかね。
車は九能家へと向かった。

〜九能家にて〜
送迎の車は九能家の広大な敷地へと吸い込まれていった。

[お帰りなさいませ。坊ちゃま。]
車が玄関に着き、二人が車から降りると、メイドらしき女性が出迎えた。
[父上と母上は?]
メイドに尋ねる九能。
[はい。坊ちゃまのお帰りをお待ちになられております。]
[わかった。すぐ行く。]
どうやら九能の父と母も一緒らしい。
“なんだか面倒な事になってきたな。”
あかねの表情が次第に険しくなってきた。
“がちゃ”
応接間の扉を開ける九能。
[父上、母上、ただいま戻りました。]
そう言うと目の前にいた両親に挨拶をした。
部屋の周囲を見回すあかね。
広々とした室内には、値の張りそうな絵画や置物などが所狭しと飾られていた。
[初めまして。私は天道あかねと言います。本日はお招き頂きあ、ありがとうございます。]
緊張し、ちょっと声が上ずりながらもなんとか両親への挨拶を済ませるあかね。
九能の父と母は高級そうなソファーに腰掛けていた。
[ああ、ようこそいらっしゃった。帯刀から話は聞いていますよ。さあ、こちらへ。]
見た感じロマンスグレーでちょっと一癖ありそうな紳士風の男性。これが九能の父親だった。
九能の父はあかねを自分の対面の席に座らせ、その横に帯刀が座った。
“ガチャ”突然応接間の扉が開いた。
[ごめなんさい。お客様だったの。失礼したわね。]
九能の妹、小太刀だった。小太刀はあかねを見つけるやいなや、
[あら、天道さんじゃないの。何故あなたみたいな人がここに?]
あかねと小太刀は幸か不幸か同じ学校の同じクラスだった。
[僕が招待したんだ。小太刀。]
九能が言う。
[そうよね。お兄様、天道さんにかなりご熱心でしたものね。]
[それではどうぞごゆっくり。]
不敵な笑みを浮かべると小太刀は去ってしまった。
[無作法な娘ですいませんなぁ。]
九能の父があきれた顔をして言う。
[あ、いいえ、私、気にしてませんから。]
あかねの方が恐縮してしまった。
[それで、父上、母上。実はお願い事があるのですが!!]
突然九能が脈絡もなしに言い出す。
[なんですの?帯刀さん。]
見るからにお上品で良家の出にしか見えない、九能の母が口を開く。
[ぼっ、僕はあかねさんと結婚したいんだ!!!]
[だっ、だから結婚を承諾して欲しいんです!!]
何を言い出すのだ、この男は。
さすが一風変わった男。
[ちょっと、九能先輩!いきなり結婚ってそんな・・・。]
突然の九能の言葉に面食らうあかね。
[ああ、あかね君。心配はいらないよ。君は何にも心配しなくていい。僕にまかせて。]
“違う、違う、勘違いだよ、あんた!”
心の中であかねは叫ぶ。
[ほほう。そのお嬢さんと結婚したいのか。帯刀。]
驚いた様子もなく、淡々と息子の話に耳を傾ける父。
[あらまあ、ずいぶん急な事ね。帯刀さん。]
母も似たような反応だった。
[ちょっと・・・]
あかねが口を出そうとすると・・・、
[ああ、あかね君は心配しなくていい。僕に全て任せてくれれば大丈夫。]
といった感じで帯刀は会話をさえぎってしまう。
[まあ、帯刀が選んだ人なら私はとやかく言うつもりはない。]
[なぁ?母さん。]
まるで予定調和の如く、話がとんとん拍子に進んで行く。
[九能家の嫁として恥ずかしくないように私がみっちりと教育いたします。]
母もうなずいた。
そんな・・・こんな簡単にこんな大事な事が決まるもの???
あかねはいいしれようもない大きな不安にかられた。
[あ、あの、私。そんな、結婚なんて・・・。]
ようやく自分の意志を口にしたあかね。
“あまりにも強引過ぎる”。
あかねの言葉にはそんなニュアンスが滲み出ていた。
“”一瞬の沈黙“”
そして父がその沈黙を破る。
[そういえば・・・、あそこの炭鉱でお父さんは働いていらっしゃったかな?あかねさん。]
あかねの表情から何かを察した父は、遠まわしに何かを言いたいらしい。
[は、はい。そうですが・・・、それが何か?]
訝しげな表情をするあかね。
[実は・・・、あそこの炭鉱はあと1年もしないうちに閉山するらしいんだよ。]
衝撃の事実が九能の父から告げられる。
“乱馬と遊び、父も近所の人もみんなあそこで働いている、あの炭鉱。”
“その炭鉱がなくなってしまう???”
頭の中が一瞬真っ白になってしまったあかね。
[へ、閉山って・・・、そ、そんな・・・。]
言葉に詰まってしまう。
[まあ、この国のエネルギーも石炭から石油に変わりつつあるし、時代の流れですかな。]
淡々と感情も込めずに帯刀の父は話す。
[じゃ、じゃあ、父は?炭鉱で働いてる人達はどうなるんですか?]
あかねが帯刀の父ににじり寄った。
[うん。残念だが、全員解雇らしいですな。]
衝撃の一言。
炭鉱がなくなる。
それはすなわち、父も周りの人も皆、職を失い、炭住の消滅をも意味する。
もちろん・・・乱馬も、だ・・・。
結婚話、炭鉱の閉山。
二重のショックを受け、肩を落とすあかね。
そのタイミングを見計らったかのように、帯刀の父があかねに語りかける。
[だが、安心したまえ。君のお父さんは特別になんとか他の仕事を手配してあげよう。]
まさに神のような言葉だった。
[本当ですか!]
目の前が明るくなったあかね。
しかし。
[もちろん、この話は帯刀との結婚が条件だが。]
何と言うことか、父の再就職先を斡旋する変わりにすぐ横にいる、好きでもない男と結婚しなければならないなんて。
[・・・・・・・・・・・・・・・・・・。]
言葉が見つからないあかね。
追い討ちをかけるように九能の父は続ける。
[もう、よその炭鉱へ行っても仕事はないでしょうなぁ。というよりも、これからどんどんと閉山の嵐が襲うだろう。]
[それに君のお父さんのお歳は確かもう50近いだろう。閉山して職を失ったら東京あたりまで出ないとなかなか仕事はないと思いますよ。お姉さん二人にも大きな負担になるだろうしね。]
[どっ、どうしてそんな事まで知ってるんですか?]
あかねの家族の事まで知っている九能の父。
何故なのだろうか。
[むう。帯刀からあなたの事を相談された時点で、色々と人を使って調べさせてもらいましたよ。]
“なんてこと!もうすでにこの話は仕組まれていたとは。”
[まあ、先々帯刀と一緒になってくれたら悪いようにはしませんよ。]
[真ん中のお嬢さん、何ていったかな?おい、チョット!]
(と言ってメイドに資料を取りに行かせる。)
[ああ、なびきさんね。進路はどうするのかな?]
[あ、いえ、わかりませんけど・・・。]
もう言葉に力のないあかね。
[就職するのなら、県内でもいい所を紹介するし、学校の成績も優秀なようだから、進学するとなるとそれなりにお金がかかる。]
[その費用を負担してもいいですよ。]
父の再就職に姉の進路。
二つの大きなありがたい条件を提示されたあかね。
もちろん、九能との結婚が条件なのは言うまでもないが。
[もし・・・、もし、私が帯刀さんとの結婚を嫌だと、言ったらどうなるんですか?]
勇気を振り絞ってあかねは九能の父に尋ねた。
[そりゃあもちろん。この町、いや、県内では住みづらくなるでしょうな。]
[もちろん、断ればの話ですがね。]
究極の二者択一を迫られるあかね。
いや、現実的には一つしか選ぶ道はないのかもしれない・・・・。
“私が犠牲になれば”そんな気持ちが彼女の脳裏をよぎる。
[まあ、今日はこの位にしておきましょう。考えておいてください。帯刀との事。]
[せっかくのお茶が冷めてしまった。申し訳ないね。お〜い、新しいの持って来て。]
九能の父はそう言うと新しいお茶を持ってこさせた。

その後、あかねは九能家でどんな会話をしたのか満足に覚えていない。
気づいたら、家の前に車で送られていた。
[じゃあ、あかね君。又明日会おう!]
“ブルルル〜ン”
九能はそうあかねに言うと、車に乗り帰って行った。
“ガラッ”
[ただいま・・・・。]
[あら、あかねちゃんお帰りなさい。今日は遅かったわね。]
かすみがあかねを出迎えた。
[うん、ちょっと友達の家に寄ってたから・・・・。]
かすみと目を合わせるのを避けるようにあかねは自分の部屋へ消えた。

〜それから数日〜
あかねは心穏やかならぬ日々を過ごしていた。
誰かに相談したい。
でも・・・、そうしたらどんな事になってしまうのか。
それが怖い。
[やあ、あかね君。どうだい?又今週中にでも僕の家に遊びに来ないか?]
[父と母が又会いたいと言ってるんでね。]
九能の執拗なまでのアプローチが連日のように続く。
更に妹小太刀が、あかねが九能家の嫁になるのにアプローチしただの、
ある事無い事学校中に言いふらし、校内であかねと九能の関係を知らない者はもはや存在しない。

小太刀はあかねに対して、あまり好意的ではなかった。
いきなりぽっと出て来て、九能家に収まろうとしているのが気に入らないのだろうか?
とにかく、あかねにはつらく当たる。
そんな噂に翻弄されたのか、最初の頃は変な男に言い寄られてると、同情的だったクラスメートの目も、日を追うごとに冷たくなってしまった。
“孤立、孤独”
私の本当の胸のうちを知る人なんて誰もいやしない。
“乱馬なら、乱馬ならわかってくれる。乱馬なら救ってくれるかも?”
乱馬にだけは本当のことを話したい。
そして、できる事なら自分をこの状況から救って欲しい。
そんな思いが募っていくあかねだった。

それから更に数日経った、天道家の夕食風景。
[あかね、最近妙な噂を耳にするんだが。]
父、早雲が箸を進めながらおもむろに言い出す。
[ど、どんな噂かしら?]
動揺を隠せないあかね。
[あかねが九能家の嫁になるという噂だよ。]
[あたしも近所の人から本当なの?て聞かれたわ。]
[あたしも毎日イヤってほど友達に質問攻めにあってるわよ。]
父、かすみ、なびきの3人に詰め寄られるあかね。
3人揃って[で、どうするの?あかね??]
[どうするも、こうするも・・・。]
[ごっ、ご、ごちそう様!]
そう言うと、あかねは家を飛び出してしまった。
[あ、あかねちゃん何処行くの!!]
[あっあかね、待ちなさい!]
あかねの後を追おうとする3人。
しかし、振り切られてしまった。

[あたし・・・、どうしたらいいの。]
炭住の外れの暗がりの中、あかねはそうつぶやいた。
[あかねちゃん。]
後ろからそっとかすみが声をかけた。
[みんな心配してるわよ。さあ、帰りましょう。]
[かすみお姉ちゃん!!]
あかねはただ、かすみの胸に顔をうずめていた。
[今日は何も聞かないから。一人で背負い込まないのよ。あかねちゃん。]
そう優しくあかねに言うと、二人して家へと帰った。

翌日も続く、九能帯刀のアプローチ。
[んー、今日もダメか。じゃあ僕があかね君の家にお邪魔するというのはどうかな?]
あかねに断られ続け、業を煮やした九能が妙案を思いついた。
[え、こっ困ります、家に来られても。]
突然の一言に驚きを隠せないあかね。
[あかね君が僕と会ってくれないなら、そうするしかないじゃないか。]
強硬手段に及ぼうというのか、九能。
[わっわかりました。明日・・・、お邪魔します。]
[そうそう、最初からそう言ってくれればいいんだよ、あかね君。]
思った以上にずる賢い男だ。九能帯刀。

次に九能の両親に会う時には、きちんと心は決めておかないといけないだろう。
そうしないと、他の家族にも迷惑が及ぶ。
そう思っていたあかね。
それがまさに現実に近づこうとしている。
“明日には・・・、きちんと答えを出さないと。”
“今日中に家族には全てを打ち明けよう。”
悲壮な覚悟を胸に学校の帰り道。
[おう、あかね。探したぜ、ホントによう。]
乱馬だった。
[ここんとこ様子が変だったし、ろくでもない噂も聞いてるしな。]
あかねの事が気になっていた乱馬は、あかねの姿を必死に探していたのだった。
[どーしたんだよ?本当に。俺に話してみろよ。]
乱馬の言葉が胸に熱い。
この一言をずっと待っていたのかもしれない。
[噂・・・信じてる?]
あかねが言う。
[ああ、九能家のバカ息子と結婚するって言う話だろ?]
[金持ちと結婚して気楽な生活したいのか?あかね。]
思わず勢いで口をついて出てしまった言葉。
それが・・・。
[そんなわけないじゃない!あたしはもし将来結婚するにしても、お金があるとか、ないとか、そんなの関係ない。そんな事で人を選んだりしないよ!]
乱馬の言葉に怒りの感情をむき出しにするあかね。
[乱馬もそんな風に思ってるんだ。]
[い、いや、あの、俺は。]
[さよなら。]
あかねはそう言い残し、走って行ってしまった。
夕暮れがあたりを包む。
後悔の念が乱馬に襲い掛かる。“心にもないことを言ってしまったのかと。”
しかし、時間は巻き戻せない。



つづく




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