◇距離
  第二章 別れに込められた思い  ==2/2==  ranma-ver (no side

朝日咲覇さま作


あぁ、あかりはどうしているだろうか・・・。





「乱馬様、良牙様がいらっしゃいました。」

「ん・・・・あぁ、通してくれ。」


使用人の男は開いていた扉を少し大きく開くと頭を深く下げ、その横から見覚えのある顔が現れた。


「良牙・・・」

「なんだよ、乱馬。ふぬけてんな。」

「うるせー。」

まぁとにかく、と部屋に招き入れる。最後に良牙と会ったのはいつだろうか、それすらも忘れていた。
扉が閉まったのを確認した乱馬は良牙をソファーに腰掛けさせた。



「しかし・・・乱馬、お前人呼んでおいて・・・なんか元気ないな。」
「ああ、ちっとな」


ははっ、と笑うその姿さえ、気が抜けているのはすぐに分かる。

――― あかりさん・・・・か



「あかりさんが、どうかしたのか?」

「!・・・なんだ、バレてら。・・・・・・あかりのやつ、昨日から音信不通なんだ。」

「なんでだ?ただ送れてるってことじゃないのか?」

「わからない。とにかく、このメールを見てみろよ。」


既に起動させていたパソコン画面を見せる。良く見るとメールが一通開いていた。昨日の時刻が刻まれている。
先刻まで乱馬が眺めていたのだろう。

「なになに?・・・・・・・・・メールの返事有難う・・・・」




乱馬へ

メールの返事有難う
乱馬のおかげでいろいろと決断する事が出来ました。
思えば、メールをし始めて、乱馬とメル友という関係になって、たくさん話していろいろなことを知り、
またいろいろなことを教える事に、喜びと嬉しさを感じました。乱馬と、聞いたり・・聞かれたりしながら、
私はすっかり乱馬とメールをするという生活が日常だと思っていました。
ですが、別れとは唐突です。こちらの事情で、私のみ遠くに引っ越す事になったのです。
だから、もう乱馬とのメールははこれきりです。どこかで逢えたら、逢いたい・・・。

乱馬もいい年なんだから、恋人の一人でも見つけなさいよ。
最後だし、私とあかりちゃんの新しく撮った写真を添付して送ります。


P.S

今までわたしのハンドルネームは「あかり」だったけど

本当の名前は―――――――





「・・・・・『あかね』!?・・・・・・どういうことだっ?」

「ああ。つまり今まで向こうの二人は互いに名前を変えてたんだ。お前の「あかね」は、本当の名は「あかり」
 口調というか言葉はそれぞれ・・・・だったみたいだけどな。」

「じゃあ前に送られた写真にあった二人は!?」

「ああ、そのまんま逆だ。」

はは、っと笑う乱馬。ソファーの側のベッドに腰をかけ手を組む。
暫く言葉が出なかった良牙がはっと気付いたように訊ねる。

「だが・・・なんでそんなに気落ちしている?何故そんなに・・・」

「・・・・・」

「・・・・・・・好き・・・・・なのか?」

「・・・・・・っ」
一瞬覆いた。それからぱっと顔を上げる。息を大きく吸う。

「ああ。そうかも・・・いや。そうだ。俺はあかねが好きだ。名前とか関係なくあかねが好きだ。」

「そうか。」

それからまた良牙はメール本文に目を向ける。
改めて見て、ふとに疑問に思う点が二つある。
どうして・・・・

「この決断・・・て何だ?」

「さあな。引っ越すってことじゃねぇの?自分だけ引っ越すって事に不安感じてたんだろ。」

「だが・・、お前どんなこと言ったんだよ・・・たく。しかし・・・・なんであかり・・じゃなくて・・あかねさんだけなんだ?」

「お前さーっきから質問ばーっか。」

乱馬は冗談で良牙の額を甲でぽんぽんと叩いた。
その行動に苛立ってか、幾分乱暴にその手を振り払う。

「いいのか!?そんなで。もうメールもなにもできなくなるんだぞ!?」

「けど、これきりですなんて言われちゃな」

「だったら逢えばいいだろ!」

「は?」


何を言われたか分からない、というような顔で必死に頭で考える。
―逢うって・・

「あかねと!?」

「あぁ。その気になりゃなんだってできんだろ。幸い、このメールアドレス・・
 俺んちの傘下にある会社だ。個人情報なんてすぐ手に入る。」


いくらそんなのが手に入ったって・・・・・


逢いたいと思う気持ちとは裏腹に・・・
乱馬の頭の中に想いが巡る。良牙は乱馬の返事を待つ。電話を片手に準備はすでに万端だ。

―逢ってくれなかったら?

―恋人がいたら?

―俺はどうすればいい?


部屋の扉が開いた。そこに立っていたのは・・・

「おふくろ・・・」

「乱馬?何を悩んでいるのです。」

「え?」

「乱馬が・・・―――― 」




暫くの沈黙が続いた後、のどかは部屋を出て行った。
乱馬の健闘を祈ると言葉に残して。
組んだ手を額に押し当ててきゅっと目を瞑る。かっと目を見開く。

「良牙!!!」

「そうこなくっちゃな。」






・・・・逢いたいのなら逢えば良いじゃありませんか・・・・










その頃あかねは大善寺邸にいた。
家からここまでリムジンに乗せられ、座る両端には誠二に仕える者。
真向かいには誠二の側近、と息の詰まる思いをしていた。終始微笑んでいた側近の者はなにかとあかねに対して好感を持っていないようだ。すっと続く大善寺の家の塀は白く、まるで時代劇に出ている城の外壁・・・。
久し振りに訪れたこの家に敵対心のようなものが芽生える。
ぐっと感情を抑えふぅと息を吐いた。
車から降り、そこは大きな玄関の前だった。

「ここで待っていてください。」

同じく車から押りた側近の、白髪交じりで、改めて見ると「いい人」なのだが・・。
あかねにとっている態度から考えればおかしいことだが、でも―・・

「どうぞこちらへ。」

大きな木製の扉が開くとその中は見た目以上に広く圧倒された。以前よりも大きい・・・

唖然としているあかねは足を進めることが出来なかった。

「あかね様」

「あ、はい!すみません。」

「中にお入りください、それと私の名は宮本と申します。
 これから、何かありましたら何なりとお申し付けくださいませ。」

「あ、・・はい・・。(これから・・・って、そっか、ずっとここに住むわけだもんね)」



あかねは応接室に連れて行かれた。その間の廊下や階段の壁にはおびただしい絵画が飾られていた。


(前に来た時はなかったわよね・・?)


古い記憶を呼び覚ましてみても、いっこうに思い出せない。やはりなかったのだ。
そうこう考えあぐねているうちに着いてしまった。一気に気をはる。
高級そうなソファに誠二と、その両親が座っていた。

「やぁ。良く来てくれたね、あかねくん。」

「はぁ・・(よく言うわ このボンが。)」

ま、とりあえず腰掛けて、と促された。
意外なほどに柔らかいソファの感触にちょっとした感動を持った。

「いらっしゃい。久し振りだね、天道さん。」

「まぁ、この子が?可愛い娘さんねぇ。」

前者が父、後者が母親である。母親は前の件の時には逢っていない。なんでも
母親が興している会社の用事で海外へ行っていたとのこと。だから今回が初対面なのであるが・・

「誠二の嫁になるのならば私がみっちりと大善寺のしきたりを叩き込みますわ。
 まぁでも・・、娘ができた様で嬉しいわ。長女と次女がいるけど、
 二人とも成人してから家に寄り付かなくなっちゃって寂しいもの。」

「母さん、あかねはもう僕の妻になる人なんだ。母さんの義娘になるんだから。」

「あら、いやだわ。わたしったら。」


(なんだこのドラマでよく聞くような会話は!)

そう突っ込みながらも気を張るのはやめない。
すると父親の方が口を開いた。

「まぁまぁ。あかねさん、誠二との結婚は言ったとおり君の高校卒業後にする。
 それまで君は誠二と一緒の高校に通ってもらうよ。どうか、誠二を宜しく頼む。」

「あ、・・・・・・・・・・は・・い・・。」

「よし!今日は目出度い日だ。この為に知り合いという知り合いに電話を掛けてしまったよ。
 今日は夜からパーティーを開く!響グループの響さんと息子の良牙君を呼んだよ。」

(え?)

「さすが父さん。話が早いね。あいつ、久し振りだなぁ。」

「愛する息子のためですもの。」


信じられないバカ親子、という何かの番組のコーナーがあったっけな、などと思いながら遠巻きに三人を見ていた。
さっきの響・・良牙・・・という名前が気に掛かる。まさか。違う人物だろう。けど・・・
少しの可能性に掛けたいと思った時だった。


――今ごろあかりちゃんは、父さんは・・・そして、
        乱馬はなにをしているのだろう・・・・・・


「逢いたい・・・」
しかし、その声は誰にも聴かれることはなかった。ただ一人を除いては・・・



つづく




作者さまより

今回パソコンに触れたのも奇跡です。
受験シーズン到来とも言いますか…今更ですが
大変さに気付き、塾に通うようになって時間を奪われた次第です。はい。
本当に今更ですが、2月末、または3月あたりまで、投稿の方を控たいと。
絶対に完結させたいので(笑)。宜しくお願いいたします。


はい、受験生の大変さは端で見ていた経験からそれはもう(以下略
でも、何とか書き上げようという意識はしっかり伝わっております。
(一之瀬けいこ)


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