◇乱馬敗北!伝説の流派、天月流 後編
美南沙耶さま作


「・・・・・。」
「・・・・・。」
乱馬と遊馬(らしき人?)はしばらく見つめ合う。
「き、き、きゃああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
次の瞬間、遊馬(らしき人?)はものすごい悲鳴をあげた。
その声は、居間に移動していたあかね達の耳にまで届いた。
「お風呂場から、悲鳴?・・・・。」
次に、ばたばたっ、どすっごすっ、ぎやああ、などという音が聞こえ、どんどんその騒ぎは近づいてきた。
慌てて廊下を覗くと向こうから2人、走ってきた。
「だから、ごめんって言ってるだろ!!」
「聞く耳もたーん!!!」どびゅっ
どうやらさっきの物音は、遊馬(らしき人?)が風呂場用品を乱馬に投げていた音らしい。
すこーん
遊馬(らしき人?)が投げた石鹸入れが、乱馬の頭にクリティカル・ヒットした。
これにはたまらず、 乱馬は目を回す。
「ふん、女の風呂覗く奴は、古来から物投げつけられても文句言えないんだよ。」
見ると遊馬(らしき人?)は体にタオル巻き付けただけである。あのあとすぐに逃げる乱馬を追いかけたらしい。
「あのあなたは?。」
遊馬(らしき人?)はようやくあかね達に気づいたようだ。
「あっ、どうもおさがわせしまして・・・ちょっとこれには理由があるんで着替えたらお話しします。」
何やら顔を赤くしながらそう言った。



かこーん。
筧の音が夕闇に妙に寂しげだ。
「あの、一つ聞いていい?。」
切り出したのは、あかねだ。
「 なに?」
「あの、その、あなた、えっと、本当に女なの?」
あかねが本当に女?などときいてしまったのは、乱馬の事があるのでしかたがないといえよう。
「女だけど、それが?あっ、改めて自己紹介するよ。俺の本当の名は天月 葵。遊馬ってのは偽名で、廣木 和馬の娘です。」
「なんと、君が廣木君の?しかし天月というのは?」
「親父---和馬は、俺が1歳の時に俺が格闘向きと気づき、友人の天月 北斗、聖七(せいな)夫妻に俺を預けたんだ。」
「1歳で格闘むきだぁ?1歳でそんなんわかるのかよ。」
頭に氷嚢をのせながら乱馬は風悪く言った。まだ石鹸入れの事を怒っているようだ。
「俺は、かなり変わっていたからな。」
乱馬の疑問を不愛想に葵は片づけた。どうやらお互いの印象は最悪らしい。←あたりまえか・・・。
「葵っていうのはそこで付いた名前。形だけだけど、これが俺の名前だ。だから葵って呼んで欲しい。」
「ちょっと聞いてもいいかしら?」
それまで黙っていたのどかが話に加わった。
「1歳でってことは廣木姓の名前もあるんでしょ。それはなんという名前なの?」
「廣木姓での俺の名は廣木 沙羅。でも沙羅ってのはいかにも女の子です。って感じで似合わないから、普段天月姓の方で名乗ってるんだ。」
「だけどなんで、お父さんの友達の娘が道場破りなんてすんのよ。」
なびきがもっともな疑問を口にした。
「それには、あかねが深く関係しているんだ。」
「え゛っ」
みんな一斉にあかねを見る。
「ちょっと、私あなたの事なんてしらないわよ?」
「ま、覚えてなくてもしょうがないけど。」
葵は苦笑して、首からペンダント--いや、指輪に革ひもをとうしたものを取り出した。
「この指輪に覚えない?」
あかねの目は、その銀色に光る指輪に釘付けになった。

---あかね、このペンダント、やるよ。---
あれは確か、小2の夏休み。
あかねと、夏休みの間だけ道場の近くに住んでいた女の子は、すぐに親友と呼べるほどの仲になった。
夏休みも終わりになったとき、突然その子がペンダントをくれたのだ。
「もらっていいの?」
「ああ、いいさ。ほらそのペンダントの石、俺の指輪とおそろいだろ?」
そういってその子は小学生が付けるにしては、はるかに高価そうな、宝石付きの指輪をかざした。
「ホントだ。でも、あかねの宝石は紫色で、星羅のは濃い緑色だね。」

そこまで思い出して、あかねは、ハッとなった。
この指輪を持っているということは、まさか!
「星羅!星羅なの?!」
「やっと、思い出したか。んじゃそのペンダント渡した時にした約束、おぼえてるよな?」

「うん、その石は特別でな。たとえばあかねが危ない目にあったりするだろ。すると指輪が白く光るんだ。んで、ちかくにいたりすると、赤く光る。・・あかねが危ない目にあったらすぐに助けにいけるだろ。」
「うん、あかねも星羅が危ない目にあったらわかるし。私たち『相棒』だもんね。」
「そゆこと。あっ相棒ついでにひとつ約束してくれるか?」
「なぁに?」
「俺の替わりに、あかねを守れる人が現れるまで、俺はあかねを守りたい。もしそういう人が現れたら、俺はそいつと一回闘って、
本当にあかねを守れるか確かめたいんだ。・・・それでもいいか?」
「別に、いいよ。」
そうしてその次の日、星羅は両親--天月北斗--達のいるところへ帰ってしまったのだ。

「おれは北斗達が死んでから、色々旅していたんだが、風の便りにあかねに許婚ができたことを知ってこの町に帰ってきたんだ。」
「それじゃ乱馬君と闘う為にきたの?」
「ま、俺も親父があかねのお父さんと知り合いとは、知らなかったがな。」
「そうそう、それなんだが。」
話しを聞いていた早雲がしゃべりだした。
「廣木君は、君がここに来たのを知ってるのかね?」
「たぶん知らないんじゃないかな?あかねんち行くのも直前に教えたし。」
「では、こうしてはおれん。廣木君に連絡せねば。」
ばたばた
早雲は勢いよく居間を飛び出していった。
それをきっかけに、
「私も部屋に戻ろっと。」
「お夕食の買い物しなくちゃ。」
「じゃ乱馬、母さんかすみちゃんと一緒に、買い物行って来るわね。」
「乱馬よ、後のことは任せたぞ。」
それぞれ勝手なことをいって居間から出ていった。
後には、あかね、乱馬、葵が残された。
「それじゃ、乱馬、星羅、行くわよ。」
「???」
立ち上がって言ったあかねに、乱馬と葵は疑問の目を投げかけた。
「部屋に案内するわよ。これからここに居候するんでしょ?--乱馬は荷物持ちね。」
「なんで俺がっ!!」
「あんた、どうせ 火曜までの宿題やってないんでしょう?かわりに教えてあげるわよ。」
「う゛っ」
「ほらっ」
反論むなしく、あかねに荷物をわたされてしまった乱馬であった。
「ついてらっしゃい。」
すたすたと歩いていくあかねと葵を、乱馬はよろよろと追いかけていった。



「ここが、葵の部屋よ。」
そういって、あかねが案内したのは、
かすみさんの部屋のとなり--一番奥の部屋だ。
乱馬は部屋の端に荷物を置き、あかねは窓を開け放した。
するすると心地よい風が入ってくる。
「私、麦茶でも持ってくるね。」
そう言ってあかねは台所へと行ってしまった。
あかねが出ていってしまった部屋は沈黙が支配した。
(こいつが女って事は、俺は女に負けたっていうことだよな?男に負けるより最悪じゃねーか!)
乱馬の心には再び怒りが沸いてくる。
(おまけにあかねにキスなんかしやがって!)
「おいっ!」
「なんだよ。」
「・・・なんであかねにキスなんかしたんだよ。」
「別に。お前に関係ない。」
「関係ないって・・・」
「のぞき野郎は黙ってろ。」
乱馬の言葉は葵にピシャリと遮られた。
「俺はのぞきなんてしてねー!」
「うそこけ!じゃあ、あれはなんなんだ!」
「う゛っ、それはおめーの事男だと思ってたから・・・。」
「ったく、こんなんじゃお前なんかに、あかねの事任せらんないな!」
「あんだとっ!」
「やるかっ!?」
お互いの胸ぐらを掴み、あわや乱闘というときにあかねが、人数分の麦茶を盆に乗せて入ってきた。
「ちょっとあんたたち、なにやってんのよ。」
「「だって、こいつが!!」」
見事な合唱である。
「はいはい、もういいわよ・・・。ところで星羅、あんた流派変えた?」
「ふえ?」
ちょうど麦茶に手を伸ばしかけた葵は、聞き返した。
「何でそんな事聞くんだよ・・・。別に流派がえなんてしてねーよ。」
「だって、天月流なんて聞いたことないし、昔の構えかたと違うんだもん。」
「天月流って、あの伝説の流派のことか?」
乱馬が話しに割って入った。
「伝説って?」
「俺も中国修業時代にちらっと聞いただけなんだが、昔中国で発生した少林寺拳法を元に、別の流派が出来たらしいんだ・・・。」
その流派の名は、最強神拳天月流。この流派を使う者はその名の通り最強と言われ、その技は神業とも言われた。しかし、この流派にも弱点があった。
「弱点?」
「ああ、この流派を使える者は限られていたんだ。何を基準にかは、わかっていないんだが、ある先天的能力を持つ者にしか使えなかったらしい。そのこともあり天月流は衰退し、なくなってしまったんだ。」
「しかし、実際にはごく少数ではあるが使い手が存在している。・・・その中の1人が俺さ。」
葵が締めくくった。
「じゃ、なんで昔は使わなかったのよ。」
「父さんに止められてたんだよ。『養子とはいえ、お前は立派な使い手だ。しかし天月流は体に負担がかかる。もう少し大きくなってから使え。』ってな。--それにしてもよく知ってたな。」
言葉の後半は乱馬にむかっていった言ったものだ。
「俺も最強と言われていた流派には、興味があってさ。ところでおめえら。」
「「ん?」」
「おめえらさっき、『相棒』だって言ってたよな。その『相棒』ってなんだ?」
「相棒ってのは、親子でもない、恋人でもない、かといって友達でもない、自分以外に命を預けられる人ってこと。俺の一族ではそういうことになってる。普通、自分の命を守る物なんかを証しとして交換するんだが、あかねと俺は格闘家。自分の拳が命を守る物だろ?だから俺んとこでとれる石を二つに割って、ちょこっと細工して証しとしたんだ。」
葵は自分の首にかけてある指輪の通った紐をいじりながら答えた。
「あ、それと相棒はお互い本来の名前で呼び合うからな、絶対に、普段あかねが俺を呼ぶ名で俺を呼ぶんじゃねーぞ。」
「なんでだよ。だいたいお互いったって、おめーはあかねのこと呼んでね−じゃね−か。」
「それは周りに気を遣ってるだけ。ま、昔はその名前でしか呼んでなかったけど。」
乱馬はどうも面白くなかった。目の前にいるのが女であることは分かっている。だが、どうも先ほどから、あかねを別の男にとられたようで気分が悪い。
(それに・・・なんかこういうこと、前にもあったような気がするんだよな。)
考えながら横になる。
(ま、考えたってしょうがねぇか。)
ふと開け放した窓をみると、日はとっぷりと暮れていた。




「ねぇ、明日からここに居候になるんなら、学校どうするの?」
なびきは先ほどから興味津々といった感じで葵に質問している。
今日の夕食は肉じゃが、ほうれん草のお浸し、具だくさんのみそ汁、ごはんといった和食の代表ともいえる物だ。
それらを葵は片っ端からがっつくというより淡々とかたづけていく。
葵が生活費は払うといったのを今更思い出し、天道家の面々はほっと胸をなで下ろした。
「学校は行きますよ、もう転入届けだしちゃったし。たしか風林館高校とかいったな。」
「じゃあ、私たちと一緒だね。一緒のクラスになれるといいな。」
あかねは親友、いや相棒が一緒の学校へ行くと聞いて嬉しそうだ。
それに対し乱馬はずっとふてくされていた。
(こんなやつと一緒のクラスになってたまるかよ。ひとのことのぞき野郎、のぞき野郎って言いやがって。)
「そうだな。・・・風林館高校ってどんな風なんだ?」
この質問にはあかねも乱馬もなびきもうっと詰まった。
「ど、どうって・・・えっと校長は頭に椰子の木が生えてて、ハワイ好きで、生徒が嫌がることが大好きで、たまに学校の壁が壊されたりして、先生は生徒の闘気吸うし、町内で騒ぎがあると大抵うちか学校が原因っていうような学校よ。」
やっとの事であかねが説明する。
「・・・・・それ、学校としては最悪じゃないか?」
もっともである。
「制服とか、着なくていいのかな?」
「大丈夫じゃない?乱馬も着てないし。」
「そっか。」
学校の話はそれで終わりとなり、廣木和馬と早雲、玄馬の事に花が咲いた。



夕ご飯も終わり、天道家+早乙女家はそれぞれの部屋に戻っていたが、葵とあかねだけは縁側にいた。
その場には乱馬ですらいない。
「やっと2人きりだなっ。」
口を開いたのは葵。先ほど家族と会話していた時より、ずっとリラックスした顔。
「そうね・・。ところで星羅、あんた乱馬の事気に入ってるでしょ。」
「なんでわかるんだ?」
自分の心を読んだあかねに葵は驚きの目を向けた。
「ばればれよ。だって星羅ったら、気に入った相手ほど初対面で悪く言ったり、けんかしたりするんだもの。・・・私の時もそうだったしっ。」
自分たちの出会いを思い出したのかあかねは笑いながら言った。
「全く、星華にはかなわないな。」
相棒だけに許す名前を呼ばれ、あかねはくすぐったそうに笑った。
葵はそんなあかねを見て、聞き取れないほど低く呟いた。
「なによりあいつは、闇の気を持ってるしな・・・・。」
「え?」
「なんでもねぇよ。さ、もう寝ようぜ。」
葵はあかねを促し、居間を後にした。
いつの間にか、空には満月が出ていた------------。








作者さまより

やっと終わりました〜。
しかし見事に文才がないっ!こんなんでシリーズ続くのでしょうか・・・。
ま、それは神の溝知ると言うことで♪(ぉ
この葵は話書くたびに困らされています。性格が扱いづらくて。
しかし葵が結構重要なこと言ってくれるから、誰にセリフ言わせるか悩まなくていいので、作者は楽です。
↑矛盾してるような・・・。
最後に葵がいった言葉、これ後に思いっきり深く関わってくるのでしっかり覚えててください。
次回「葵、風林館高校に行くの巻」です。今回出てこなかったあの人とかあの人が出てきます。
お楽しみに!(誰も期待してないって)



 乱馬とあかねの前に現れた強敵。天月流という謎の流派。さて、この先の展開は?
(一之瀬けいこ)

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