◇乱馬敗北!伝説の流派、天月流 前編
美南沙耶さま作


1
呪泉洞の一件から一ヶ月。あれ以来特に変わった事もなく、天道家は平穏な日々を送っていた。
「やい、くそおやじ!その魚は俺んだろうがっ!」
毎度の事ながらいつも騒がしい天道家の日曜の夕食時。話はここから始まった。
それまでかすみは電話で誰かと話していたのだが、ふいに居間に姿を現すと
「お父さん、お父さんの友達から、電話よ?」
といって早雲に電話を替わるように促した。
「ワタシに電話?はて誰かな?」
首をかしげながら受話器に早雲は向かった。
早雲が食事中に席を立つのは別におかしくなかったので、他の者たちは気にもしなかった。だが、食事が終わっても早雲が戻らないとなれば話は別である。
「お父さん、どうしたのかしら。」
真っ先にあかねがしゃべり始めた。
『そうだなぁ、いくら天道君でも遅いなぁ。』
玄馬も(パンダ)木の板に書いた。
「それよりもお父さんのお皿、洗っちゃっていいのかしら・・・。」
さすがはかすみさん、どんな時でも家事の事が頭にあるようである。
「まあ、いいんじゃない?相手からかけてきたんなら電話料金向こう持ちだし。」
・・・・・・なびきもいつもと同じである。
とそこへようやく早雲が顔をだした。
「いや〜、久しぶりの電話ですっかり盛り上がっちゃったよ。」
「天道君、誰からだね?」
何時の間にか人間になった玄馬。
「早乙女君は覚えているかなぁ?ほら、廣木君だよ。」
「おお〜、廣木くんか、懐かしいねぇ〜。」
何やら昔話で盛り上がっている玄馬と早雲に乱馬が口をだした。
「おい、親父。その廣木って誰だ?」
「うむ、廣木君か・・・。話はまだわしらが修行をしていた頃だ・・・。」
その日、玄馬と早雲は八宝斎にハメられ、食い逃げ犯として捕まっていた。
縄で縛られている二人を助けたのが、その店で働いていた廣木君----廣木 和馬であった。
その事を知った八宝斎が半ば無理矢理弟子入りさせ、二人と修行仲間となったのだ。
「廣木君は才能があったらしくてねぇ。道具を使った戦いでは、無敵とまで言われる腕前になったんだ。」
「お師匠さまを封印した後、別れてしまったがね・・・。」
早雲と玄馬は遠い目をした。
「んで、その人が何のようよ?」
雑誌から目を逸らさずになびき。
「うむ、廣木君と私はある約束をしてな。自分の子供が16歳になったら、天道道場に居候させてくれというものなんだが・・・。良い修行になるからと言ってな。ほら、うちの二階に一部屋空きがあるだろう?あれはその約束のためさ。」
早雲が説明する。
「わかったわ。その人が家に来るのね?」
と、かすみが言ったこの一言で、周りがとたんにうるさくなった。
「へぇ〜、その人の子供、私と同い年なんだ。それで男?女?」
「その人、生活費払うの?」
「まさか、その子と許婚の約束してないだろうね天道君。」
「そいつ強いのか?」
「好き嫌いあるのかしら。」
「何時来るんですか?」
それまで黙っていたのどかも含め、皆口々に言いたいことを言う。
早雲はそれぞれに一つ一つ、答えた。
「う〜ん、男か女かはわからん、廣木君はさっきも“子供”としか言ってないし。生活費は払うといっとたなぁ。許婚の約束なんて早乙女君じゃあるまいししてないよ。強いかもわからん、もちろん好き嫌いも。さっきの電話では、子供の事はあまり話さなかったからねぇ・・・。あっ、ここ1〜2週間の間に来ると言っとたぞ。」
「それじゃ、相手の子供がどんな子なのかちっともわかんないじゃない。」
ようやくなびきが雑誌から目をあげて言った。
これに対し早雲は、
「まぁ、しょうがないよ。」
と言っただけであった。
何がしょうがないのかはよくわからないが、その話はそこで終わりになった。そして天道一家+早乙女一家は明日へ備えるべく、各々部屋に寝に行ってしまった。



さて、その話もすっかり忘れた約一週間後------。
「5七飛成り!」
「えぇーっ、そりゃないよ天道君。」
あかね、乱馬、なびきが学校へ出かけていった後の居間では、早雲と玄馬が将棋を指していた。
「ううーむむむ・・・。」
「どうかね早乙女君、降参するかね?」
早雲が小躍りしている所へかすみさんが現れ、来訪を告げた。
「お父さん、ちょっとお客様よ・・・。」
「うむ。それじゃ早乙女君ずるしないでね。」
言い残すと早雲はかすみについていった。
ところがどうも、かすみの様子がおかしい。訪ねようとした早雲にかすみは立ち止まり、耳打ちした。
「お父さん実はね・・・。」
話を聞いた早雲の表情がみるみる変わり、急ぎ足で客が待っている客間へ向かった・・・。
 
場所は変わって風林館高校校庭。
1年F組は本日最後の授業、体育を行っていた。
女子は50メートル走、男子はリレーであった。
もう少しでアンカーの乱馬へ渡される・・。と思った所へいきなりコースをものすごい勢いで逆走してきた人物がいた。その姿を認めると、思わず乱馬は呟いた。
「お、おじさん・・・。」
早雲は涙目になりながら乱馬の所まで来ると、
「乱馬君っ!今こそ許婚として道場を守ってくれたまえっ!」
がっしり乱馬の肩を掴んで叫んだ。
「はぁぁっ?!。」
いきなりそんな事言われても困る、と言いかけたが、早雲の様子は尋常ではない。なにがあったと訪ねようとしたとき騒ぎを聞きつけたらしいあかねが
「ちょっと、お父さん何があったの?」
乱馬のかわりに訪ねてくれた。
「それが・・・。」

どかっ

話し始めようとした早雲の近くの地面に矢文が突き刺さった。
「なんだ?これ・・・。」
乱馬はつぶやいて矢にくくりつけてある手紙を開いて読み始めた。
その頃には1-Fの全員が(無論女子も。)乱馬の開いた手紙をのぞき込んでいた。
「えっとなになに・・・『拝啓 早乙女乱馬。先ほど天道道場を破った者だが、君のお父上の話では、君が道場の跡取りらしい。そこで今度の日曜に君とも戦いたい。場所は天道道場。もちろん、君が勝ったら、看板は返してあげよう。だが、もし君が負けたら、天道あかねを頂きたい。もし戦わないのなら、君は自動的に負けとなり、問答無用であかねをもらうよ。では、君と戦う日曜を楽しみにしてる。  道場破りより。』・・・
ってなにい?!」
読み終えた乱馬は、もう一度文面を読み返した。やっぱり同じ文句が書いてある。
乱馬は、道場破りされた事に驚き、「あかねを頂く」というセリフにも腹がたったが、何よりも
「もし戦わないのなら、君は自動的に負け・・・」
という所に腹が立った。
「んだとぉ、この野郎。俺は格闘と呼ばれる物に負けた事はねぇんだ。この勝負、受けてたってやる!!」
叫んで気付いた時にはすでに遅し。あかねの為じゃねー、と言うよりも早く、
「乱馬君、あかねの為に戦ってくれんだねっ!」
と、早雲に肩を再びガッシリ掴まれて、言われてしまった。
当のあかねは顔を真っ赤に染めながら、
「なんて勝負受けてくれんのよ!」
と、怒っている。
「お父さんもお父さんよ、変な奴に負けちゃったりするからっ」
あかねの怒りの矛先は父、早雲に向いたようである。
「だって、あかね〜。」
乱馬にゃ強い早雲も、愛娘には弱いらしい。
そんな騒がしい校庭を、フェンスから見る人影があった。
「あれが、無差別格闘早乙女流2代目、早乙女乱馬。か・・・。」
それだけ言うとその人物は音もなく姿を消した。



そして勝負の前日。
「あったぁ〜〜!!!」
あかねの部屋から大声が聞こえた。と、同時にばたたたっとものすごい勢いであかねが階段を駆け下りて、居間へやってきた。
「おねえちゃんっ、あったよ!!」
あかねは興奮してなびきに言った。
「見つかったって、なにが?」
なびきはいたって冷静だ。
「ほら、私が8才の頃この町に女の子がやってきたでしょう?」
「ああ、最初私達は男の子に間違えたけど、あんたは女の子だって見抜いた子でしょ。」
「うん、私あの子がここを離れる時はすっかり仲良くなってたんだけど、その時にね、ペンダントをくれたの。大事にしてたんだけど、いつしかなくしちゃて、今日机を整理してたら出てきたのよ。ほらっ。」
そういってあかねはずっと握りしめていたペンダントをなびきに見せた。
そのペンダントは、黒い革ひもに針金でまわりを囲った石が通してある簡単な物だった。
「あら、これ結構な値打ち物じゃない?オパールみたいに、色んな色に輝いてるし・・・。ま、かといってオパールじゃないみたいだけど・・・。」
「そんな事言っておねえちゃんっ、私のいない時に売り払ったりしないでよ。」
「わかってるわよ。それよりあんた、道場の乱馬君の所へいってあげたら?手紙きてからずいぶんがんばってるみたいだし。」
そう言ってやるとあかねは顔を真っ赤にして
「なっ、なんで私が乱馬の所に行かなきゃいけないのよっ/////!」
そういってあかねはどすどすと帰ってしまった。が、その後妹が、道場の方に向かったのをしっかりなびきはみていた。
「まったく、素直じゃないんだから・・・。ってあら?」
そこでなびきは机の上のペンダントに気がついた。
「あれ?これさっきまでは、青っぽかったのに、赤っぽくなってる・・・。」


一方道場。
「破っ、だ〜〜〜〜っ!!!!!」
乱馬は、かけ声と共に人に見立てた、わらたばを倒して?いった。
「ふ〜ん、ちゃんと真面目にやってんじゃない。」
その声に乱馬は、ようやく道場の戸口に人が立っているのに気づいた。
「なんでぃ、おめ〜のためじゃねーよ。」
「へぇ〜?それにしちゃ、手紙読んですぐ挑戦受けたみたいだけど?」
「なっ////。あれは、負けるのが嫌だっただけだよ。だいたい、不器用で寸胴で凶暴なあかねが欲しい、なんて奴がいただけでも奇跡だぜ。・・ハッ」
ゴゴゴゴゴゴゴ〜
「不器用で寸胴で凶暴でまぬけで・・・悪かったわねぇーーーーー!!!!」
どっかーん
「まぬけは言ってね〜!」
哀れ乱馬はお星様と化した。
「まったく・・・。こんなんで明日の勝負勝てるのかしら・・。」



翌日---勝負当日
乱馬、玄馬、早雲、かすみ、なびき、あかねは道場に集まっていた。
「ちょっとお父さん、その人何時来るのよ?まさかすっぽかしたりしないでしょうね。」
なびきはつかれたのか不服そうだ。
「うむ、よもやすっぽかしたりはせんだろうが・・・。少し遅いな。」
道場の中心に正座している乱馬をちらりと見やってから、早雲も心配そうに言った。
「たのもーっ!!!」
その時少年の声が響いた。
声のした方を振り向くと、道場の入り口に人が立っている。
「よくきてくれた。入ってきたまえ。」
早雲に促されるままに少年は、道場の中心に立った。
乱馬もこれを受け、ゆっくりと立ち上がる。
乱馬が立ち上がったのを見て取ると、少年は口を開いた。
「少林寺拳法天月(あまつか)流、天月 遊馬。以後お見知り置きを。」
少年のとも、少女のものとも思える、アルトの声。
(へぇ、この人ものすごくかっこいいじゃない・・・。)
あかねは葵を注意深く観察しながら思った。
均整のとれた顔。きりっと結ばれた、整った朱唇。どこまでも深く澄みきった宝石のような、紺碧の瞳。この人が男であることが、惜しまれるほどの美少年だった。腰より下にある漆黒の髪は、乱馬と同じように三つ編みにしてあり、たっぷりとした紺色の、チャイナ風胴着をきている。
「ではこれより勝負を始める!」
早雲の言葉に構えをとる2人。遊馬の構えはこれまで見たことがない構えだった。知らず知らずあかねは、首にかけてある昨日のペンダントを握りしめていた。
なびきが右手を挙げ、勝負開始の合図を告げた。
「完全ノックアウト制道場破りマッチ、無制限一本勝負、はじめっ!!」
合図と共に遊馬がいきなり視界から消えた。
「何!?」
乱馬が振り向く間もなく、いきなり背後から遊馬が拳を見舞ってきた。
「なっ、乱馬のバックをとった?!」
人より動体視力が優れ、火中天津甘栗拳を会得した乱馬のバックをとるには、信じられないくらいのすばやさを要する。しかし遊馬は、今こうして簡単にバックをとっている。並みの格闘家でないことは明らかだった。
「っとお」
背後からの突然の攻撃に驚いたものの、乱馬は何とかこれをかわし、遊馬から飛び離れた。
ある程度の距離葵から離れると、乱馬はすばやく構えをとった。遊馬はすでに乱馬にかわされた時点で構えていた。
そのまま2人は睨み合い、相手の隙をうかがった。
がたり
その時ちょうど道場の扉に、風が当たりでもしたのか扉が音をたてた。
「破ーーーーーーーっ!!」
「だーーーーーーーっ!!!」
音が聞こえたと同時に2人が動き出した。
ばきぃ!!
あっという間に2人の位置が入れ替わっていた。
「ぐっ。」
ずしゃ・・・
「なにぃ?!」
「乱馬が負けた?!!」
そう、床に沈んだのは遊馬ではなく、乱馬だったのだ。
思わず動きを止めた早雲であったが、
「いっ、一本!勝者天月 遊馬!」
慌てて試合終了を告げた。
(ちくしょう・・・このままじゃあかねが・・・)
乱馬の心には悔しさがこみ上げてきていた。
あかねを見やると茫然自失状態である。まぁ、当然といえば当然だ。
そんなあかねに遊馬はすたすたと近づいていく。
「あのころと全然変わらないね・・・・。」
あかねはその言葉にようやく遊馬の顔を見た。その瞳が不安に揺れている。
「今すぐあかねを貰うわけじゃないから、心配しなくていいよ。」
遊馬はあかねを気遣うように言った。
そんなあかねと葵を見て、かすみさんがみんなに提案した。
「遊馬君もそう言ってる事だし、お話はあとにしたら?それに乱馬君も遊馬君も汗ぐっしょりじゃない。お風呂わいてるから入ってきてからにしなさいな。」
相変わらず菩薩の様な人である。
「じゃ、俺が先入ってきます・・・。あっ、あかね」
一度そこから離れた遊馬であったが、またあかねの目の前に立った。
「あとで、説明するから。俺がこんな事した理由。」
そういって遊馬はあかねの頬にキスをした。
そして葵は、何事もなかったように、風呂場へいってしまった。



天道家+早乙女家(乱馬含む)は突然のことに声も出ない。
真っ先にその沈黙から抜けたのはかすみさんだった。
「あらあら、あかねちゃんも大変ねぇ。」
その言葉に、ようやく皆息を吹き返した。
「乱馬君っ、なぜ遊馬君を止めてくれなかったんだぁぁぁ!!」
早雲が叫べば、なびきは座り込んでしまったあかねに声をかけ、のどかまで乱馬に話しかけ?た。
「あかね、あんたもたいへんね。」
「乱馬、男らしくないわっ」
普段ならうっとうしがるその声を、乱馬はまったく聞いていなかった。いや、聞こえていなかった。
(あの野郎、あかねにキスなんかしやがって・・・。ぜってぇゆるさねぇ・・・。)
乱馬は急に立ち上がり、遊馬の後を猛然と追いかけていった。
(あいつぜってぇゆるさねえ!!すまきにして川にたったこんでやる!!!)
怒りのままに脱衣所のドアを開け、浴室の引き戸に手をかけた。
「おいっ!!てめぇ!!・・・・」
あかねになにしやがんだ、とまで乱馬は言えなかった。
何故なら相手は遊馬ではなく、胸にタオルを巻いていたものの、完璧な女性だったからだ。



つづく




作者さまより

 あわわわわ・・・。国語力の無さがわかります。もともと国語は苦手なくせに、小説なんて書こうとするから・・。(ぉぃ
 この話のプロットは入学式の日に浮かんだんですが、文章化するまでかなり時間がかかりました。そのおかげで妄想はどん
 どん進み、頭の中で勝手にシリーズとなってしまい・・。もはや妄想が1人歩きしています。
 一応これが処女作ですが、実は、幻の(?)作品があります。あかねちゃんと乱馬君が小さい頃に実は出逢っていた。とい
 うものです。この話には葵がしっかり出てくるので、も少し話が進んだら制作したいと思います。
 では、この次の作品で。(いったい何時になる事やら・・・。)


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