◆お母さん
零さま作


「どりゃぁ〜〜!!」
台所から、まるで格闘でもやるかのような叫び声が聞こえた。

「かすみ〜。あかねはなにやってるんだい?」

予想が付きつつ、早雲はその予想が当たらないことを願いながらかすみに訪ねる。
「あかねちゃんがね、パンケーキ作りたいっから台所貸してくれって」
「そ、そうなんだぁ…」
早雲はピクッと顔を引きつらせて茶の間を出ていった。


「ただいま〜」
玄関を勢い良く開けたのは乱馬。
「………うっちゃんでも…来てるのか…?」
台所から漂ってくる臭いをかぎ取った乱馬はそう呟いた。

そして彼は、茶の間に通りかかってから臭いの正体を知った。
彼女曰く”パンケーキ”
臭いはどう考えても『お好み焼き』に限りなく近い。

「………みんなは?」
「みんなお出かけ。急に用事が出来たんだって。なんでだろう」

(お前の『料理』のせいだろ)
心の中で、乱馬は一人突っ込んだ。
「俺、風呂入ってくる。」
茶の間にも入らずに彼はその場所を通り過ぎた。

どたっ

しかし、2,3歩のところでバランスを崩してしまう。
あかねは乱馬の足を引っかけたのだ。
「あかね、てめぇ何を…!」
「食べてv」
「……………………え…今なんて…」
「た・べ・て!」
「ごめん、急に眩暈が…。」
乱馬はわざとらしくくらくらっと足をふらつかせた。

「え…。ホント!!?」
あかねはその言葉を聞いたとたん血相を変えた。
「気持ち悪い…これじゃぁ何も口にはいらねぇ…」
乱馬はさらにわざとらしく自分の胸を掴んだ。
「……乱馬…だいじょーぶ?」
「ん…?」
予想外の反応に乱馬はしばし言葉を失う。
心配する彼女が妙に可愛らしい。
「……乱馬、もう寝た方が良いよ。」
「は…?」
「寝ないと乱馬が治らない!」
あかねは乱馬の胸ぐらを掴んでかくかくゆらした。
「いいよ…じっとしてたら治るから。」
乱馬はあかねを右手で押し返した。
「ダメ!」


「いーい、ここで寝てるんだよ。」
あかねは布団をぱんぱんと叩いて乱馬に言い聞かせた。
彼は当然布団の中。
「だめだよ、安静にしてないと。」
あかねの瞳が涙で微妙に揺れてるのは気のせいだろうか。
「あいよ〜。」
何度も寝てるようにっと念を押して、彼女は出ていった。
どうにか、あかねの『お好み焼きみたいなパンケーキ』を食べずにすんだ。
乱馬は微妙な感覚に襲われた。

(これで…いいのかな。)

あかねの料理食べたくないばかりに仮病を使い、あかねをこんなに心配させている。

「…」


布団が妙に暖かい。眠くなってきた…


+++++++



「…」
どの位寝たのか解らないが、日が落ちかかっている。
だいたい4時間くらいだろう。
そして自分の下腹のあたりに重みを感じた。
見てみると…そこにいるのはすやすやと寝息を立てた少女。
ずっと心配で傍にいてくれたんだろう。起きる様子はない。

(可愛い…かも。)

乱馬は息を呑んだ。
啀み合ってばかりいた為か、彼女の健やかな顔を見ることが少なかった。

(睫毛、長いよな)

柔らかそうな頬。
まじまじと見ていると、触りたくなるぐらい柔らかそうなのだ。


乱馬がしばし見とれていると
不意に、あかねの唇がかすかに動いた。

「……お母さん…」

そして、長い長い睫毛の下から雫を一筋こぼした。

乱馬は胸をきつく締め付けられる。

乱馬の母、のどかを随分慕っていた。
母がいない…あかね。
世界で一人の母親を亡くしたあかねは、
周りの友達がどんなに羨ましかっただろうか。

乱馬は、あかねの雫をすっと救ってやった。

その雫は乱馬に救われ、彼の指の上で透明に光っていた。
そして頬にそっと触れた。

「ん…」

びくぅ!

乱馬はその手を素早く離した。

「……あ…」
乱馬とあかねの視線が重なる。
「乱馬、大丈夫?」
彼女は少し眉毛を下げて乱馬を見た。
「…だいじょーぶよ。こんなことで俺がくたばると思うか?」
乱馬はあかねの頭をぽんっと叩いてにこっと笑った。
「そっか…良かったぁ。」
乱馬の言葉を聞いてあかねは安心したのか、やんわりした笑顔に変わった。
その笑顔に胸が高鳴る。

「あ。」
「どした」
あかねは手をぽんっと叩くと後ろの方から何かを取り出した。
「ん?」
「乱馬が元気になるようにって作ったおかゆv」
「げ…」
「食べて。」
円満の笑み。
「…あ。あぁ…」
(ま、負けた…)


その後、乱馬がお腹を壊したのは言うまでもない。








作者さまより

短編のつもりが中編の長さに…。
こんな駄文を最後まで読んでくれて方有り難うございます!
(いるか?)
表現技法のなさとかは許して下さい。
ちなみに題名の意味は聞かないで下さい。
解る人は解ります。
ぴんっと来たら是非教えて下さい。



乱馬くん・・・うらやましいようで災難なようで・・・
でもいいか・・・幸せだものね♪

お母さん・・・子が幾つになっても母は強し!
(一之瀬けいこ)

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