◆いいとこ
零さま作


「ふぅ…」
俺は溜息をついた。

−どうして、素直になれないんだろう…−

いつも喧嘩ばっかりで…
あいつを知らぬまに傷つけて、
俺はあいつの側にいる資格があるのか?

−大っ嫌い!!−

そんな彼女の言葉が胸に刺さる。
ホントは、あんなこと言いたい訳じゃないのに、ホントは素直に言ってやりたいのに
どうしても…
恥ずかしくって、ちょっと悔しくて…

−お前みたいな可愛くない女なんか!−

って言い返してしまう。

「乱馬。」
聞き慣れた声に思わず振り返った。
そこには、先ほど喧嘩したばかりの彼女が立っていた。

「…あのさ…」
彼女は思い切ったように切り出した。
「乱馬…私と許嫁じゃヤダ?」
この質問を聞いたとき、かなりビックリして思わず、
「何言ってんだ?」
と聞いてしまった。
「…可愛くない…」
「へ?」
「色気がない…」
「不器用、鈍感で…」
「…」
あかねの言葉が胸に刺さった。
「…私には…乱馬と一緒にいる、許嫁でいる自信がない。」

言葉が出なかった…自分の言葉がここまで彼女が傷ついていたなんて…
同じこと…考えてたなんて…そんなことない、そんなこと…

気が付くと…俺は彼女を抱きしめていた…

「な、なにすんのよ。乱馬!」
「…」

「…悩むな…そんなことで悩むな。」
「へ?」

「確かにお前は可愛くないし、色気がないし、不器用だけど…」
「!」
あかねがちょっと怒り始めたので、急いで続けた。
「…そこが、いいとこなんだよ…」
「?」
「だから、悩むことなんか無い…」
「よく分かんないよ。どういう意味?」

あかねはちょこんとした様子だった。
ったく…ここが鈍感だってーの。
って思ったけど言わなかった。

こいつが鈍感のままでいいと思ってるから…
だって…
あいつが敏感だったら、俺の気持ちが…ばれるだろ?

「分かんなくて良いの!お前は自信を持っても良いの!分かった?」
こいつの全部が好きだから…
「?…ちょっと納得行かないけどいいや!うん!自信持つよ!ありがと!乱馬!」
可愛くお礼をしてあっ!宿題しなきゃ!といって去っていてしまった。

「//////////」
「…」
俺って…ホント…素直じゃねーな。

「可愛くねー………か。」



乱馬は綺麗な茜色の空を眺めていた…








短文の中に、これだけ素敵なエッセンスって詰め込めるものなのですね。
この作品を書かれたとき、零さまも、当時はまだうら若きらんま小説の書き手でした。

茜色とは、アカネという植物の根っこで染めた赤色をさすそうです。
少し黒ずんだ夕焼け色の赤といったところでしょうか。
(一之瀬けいこ)


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