◆紅葉狩りに行こうよ
葉月玲奈さま作


暑く眩しかった夏の太陽の日差しも少し弱まり、夜には少しの肌寒さまで感じるようになった。
 日も短くなって来ており、5時くらいにくらいには夕日が顔を出す日さえある。
 夏には緑だった木々の新緑も今ではもう紅葉し紅く染まっている。
 そんな秋真っ盛りのある日、乱馬はあかねに言った。
『紅葉狩りに行こうか。』
「綺麗・・・」
 あかねは思わず感嘆の声をもらす。
 東京のように周りを囲んでいるのがビルではなく連なった山々。
 その山道をトンネルのように囲んでいる紅葉や銀杏など木々。
 滅多に見ることのできない景色。
 すべてが新鮮で美しく綺麗で・・・。
「な、来て良かっただろ?」
 乱馬が得意そうにあかねに言う。
「うんっ!」
 あかねは本当に楽しそうにうなずいた。
 そんな様子のあかねを見て乱馬は満足そうだ。
「ねぇねぇ。なんで乱馬が急にここに来ようって言い出したのか分かる気がする。」
「えっ?」
「だって、本当に綺麗なんだもん。毎年来てるの?」
「・・・いや、この前親父とここに修行に来たんだ。」
「へー。」
 たわいないおしゃべりをしながら乱馬とあかねは先へと山道に沿って歩みを進める。
 景色を楽しみながら。
  お互いの会話を楽しみながら。
 
 ずっと歩き続けて大分たった。山道も先ほどに比べて険しくなる。
 少し疲れと少しの空腹感がうまれる。
 そこで乱馬はとても大事なことに気づいた。
 お昼ご飯のことである。
 あかねのつくるご飯は計り知れないほどのまずさだ。
「なぁ・・・。昼飯お前が作ったのか?」
 乱馬は冷や汗を垂らしながらあかねに覚悟を決めて聞いた。
「うん。」
 あかねは嬉しそうに答えた。
 乱馬はあかねの笑顔につられて顔は笑っているものの冷や汗がでていた。
「一人でつくったのか?」
「うんっ。」
 乱馬の無理のある表情を読みとって、あかねは怪訝そうな顔つきになった。
「だって・・・乱馬が誰にも言うなって言ったんじゃない。」
 今日は乱馬とあかねの二人だけの遠出である。
 日曜日に一緒に二人だけで出かけるなんて言ったら玄馬や早雲たちに冷やかされるのが目に見えている。しかも、付いていく何て言い出すかもしれない。
 ましてや、シャンプーや右京、良牙までの耳に入ったら・・・・。
 そうなったら面倒なので今日は二人だけでお忍びで来ているのである。
「うっ・・・」
 確かにそうだ。でもかすみにくらいは言っといたらよかったと乱馬は少し後悔した。
「食べたくなかったらいいもん。あたし一人でた食べるもん」
 う・・・ここで喧嘩しては元も子もない。
「く・・・食うよ。」
「べつに無理しなくていいんだからね。」
 いつもの乱馬ならもっと突っかかってきそうなのに今日はやけにいさぎがよい。
 まずいとか、食べたくないとか言わないで食べると言ってくれた事があかねにとってとても嬉しかった。
「じゃ、もうこの辺でお昼にする?」
 時計を見るとすでに12時30分がすぎていた。
 山登りまでしたのだ、お腹もとてもすいている。
 乱馬は覚悟を決めてあかねの手料理を食べる決心をした。
「・・・・く、食える・・・・いや・・・むしろ・・・うまい・・・・。」
 見た目は悪いながらもあかねの手料理は美味かった。
「ホント?!」  
 乱馬のおいしいと言う発言にあかねはよろこぶ。
「ああ・・・」
「さっ、遠慮せずにどんどん食べね♪」
 あかねはいつになく上機嫌だ。
なぜなんだ・・・・?!
 乱馬は少しの疑問を持ちながらもあかねの料理を何とか食す事が出来、ほっとしていた。 「ねぇねぇ、あそこに栗の木があるよ♪」
 ご飯を食べた後乱馬達はまた山を登り始めた。
 その途中であかねは大きな栗の木を見つけ指さした。
 近くには河を流れる水の音がする。
「ほんとだ。大きいな。」
 樹齢何年なのだろう。
 その木は本当にとても大きく実もたくさんなっていた。
「ねぇ。おねぇちゃんたちのおみやげにしようか?」
「そうだな。ちょっと取ってくか。ついでにあそこの河で一休みするか?」
「うん。」
 木に近寄って辺りを一周してみる。
 大きくなった木の実がたくさん落ちていた。
「気をつけろよ?」
「うん。」
 栗の実を守っている棘は危険だ。
 乱馬はあかねの身を案じてやる。
 乱馬は器用に栗の実だけをはぎ取ると手持ちのリュックの中に入れていった。
 栗だけでなく近くのドングリなども拾ったりして楽しむ。
「いたっ!!」
 急にあかねが叫ぶ。
「どうした?!」
 乱馬が駆け寄るとあかねは指先を押さえていた。少量だが血も出ている。
「おまえなぁ・・・・気をつけろって言ったのにケガしてどうすんだよ・・・」
 乱馬が呆れながらあかねに言った。
「っ・・・・・」
 言い返せない自分が少し悔しい。
「待ってろよ。」
 乱馬はそう言うとその場から離れた河の方に駆けていった。そしてハンカチをぬらすとすぐさまあかねの駆け元に戻ってきた。
「ほら。」
 そう言って乱馬はあかねにハンカチを差しだてやる。
「あ、ありがとう。」
 あかねは受け取ると血のにじむ傷口にそっと当てた。
「大丈夫か?」
「う、うん。」
 いつも思う。乱馬はこういう時すっごく優しい。普段素っ気ない分こういう時には本当に優しくしてくれる。こんな風に自分にだけたまに見せる優しさがあかねは好きだった。
「そんなにたいした傷じゃないよ。ほら。」
「ほんとだ。よかったな。」
 さっきまでは出血量が多かったため、よく分からなかったが、傷自体はそんなにたいしたことはない。
「俺もいっぱい拾ったし、栗拾いこのくらいでいいんじゃねぇか?」
「うん。そうだね。 じゃあ、これからどうする?もう少し日も暮れだしたし降りる?」
「そうだな・・・後少しだけの上ろうぜ。」
 乱馬はそう言うとケガしていない方のあかねの手を引いて先に進もうとした。
「ねぇ、乱馬。どこまで行くの?もう少ししたら日も暮れ出すし山降りるの危ないよ?」
 ぐいぐいと自分を引っ張って歩く乱馬にあかねが言う。
「今がちょうどいいんだよ♪もうちょっとでつくぜ。」
 理由も言わずに乱馬はあかねの手を引っ張り続ける。理由も分からずにあかねは乱馬について行く。
 と、突然乱馬の歩みが止まる。
「着いたぜ。ほら見てみな。」
 乱馬は山のちょうど崖のようになっている所で立ち止まった。
 木々に囲まれておらず、辺りの山々まで見渡せる場所だ。
「・・・・・うわぁ・・・きれい・・・。」
 山の向こうでは大きな夕日が沈もうとしている。あたりはほんとうに茜色でバックに連なった山々を引き立たす。秋の夕暮れ。夕日の一番綺麗な茜色の季節。
「綺麗だろ?」
 乱馬はあかねの顔を満足そうにのぞき込む。
「うん。・・・乱馬もしかしてこれをあたしに見せるために連れてきてくれたの?」
「ああ・・・。前、修行中に偶然見つけたんだココ。でも・・・」
「でも?」
「前一人で見たときより・・・綺麗だ・・・。」
「うん・・・。・・・ありがとう、乱馬。連れてきてくれて。」
 それは2人で見ている景色だから綺麗なのだ。
 そのことを2人は知っていた。
 あかねは乱馬の手を戸惑いながらそっと握った。その手を乱馬もそっと握り返す。
 そのまま2人は名残惜しみながらもその景色を瞳に焼き付け手を離すことなく帰っていった。



夕焼けこやけで日が暮れて
山のお寺の鐘が鳴る
お手々つないで皆帰ろ
カラスと一緒に帰りましょ・・・








 葉月玲奈さまからキリ番の100番をゲットしたときにいただいた小説です。
 「秋っぽい乱×あ」ということでリクエストを受けていただきました。
 葉月さんの描く乱馬くんって優しいです。とっても。・描く人の性格が反映されてる?
(一之瀬けいこ)


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