◆昼休みのひととき
鮎間ゆみさま作


先程から妙に難しい顔をして居間へと歩いてくる陰。
天道家の居候、早乙女乱馬、本編の主人公である。
(・・・・どうすっかな・・・・こりゃ絶対風邪だよな・・・・
妙に寒気はするし、頭はなんとなくだけどボーッとしてるし・・・・ 
別に学校を休んでも差し支えもなさそうだけど、
親父や、じじいから何だかんだ言われるのもウザってーしな〜・・・・
それにだ!俺が風邪を引いたときはロクなことがねーんだっ!)
「ここは隠し通すべきだよな・・・・絶対に」
(まっ、俺の天才的な頭脳を持ってすれば隠すだなんでわけねーだろうし、
どうせ昼にでもなればなおってるだろうしな・・・・やれやれ・・・・)
どたどたどた・・・・・・・・
「きゃっ」「うわっ」
"ゴツン"
(いってー!・・・・誰だ?)
「乱馬じゃないの!どこ見て歩いてるのよ?」
(なんだよ、あかねか。)
「仕方ねーだろうが!考え事してたんだから」
「と・に・か・く!今何時だと思ってるの?遅刻しちゃうじゃない!早くしてよね!」
と、早口でまくしあげた後、あかねはまた支度をしに部屋へ戻っていった。
同じところに同じようなたんこぶをつけているふたり。ある意味お似合いである。
(なんでい、俺だって急いでるっつーんだよ。あ〜あ、かったりーの。なんか腹も空いてないしな〜)
とまあ、具合が思わしくないこと、急がねばならないこともあって、朝食は時間がないと言い訳をしていつもの半分くらいでストップしたようである。

 
5分後・・・ 


「「いってきまーす」」
そういって門を駈け出ていくチャイナ服の少年とその許嫁。
その姿はどう見てもいつもと変わらない。
今頃の朝はというものは日ごとに冷え込んでくる。
今日は特に冷え込みが厳しそうである。
「まったく、あんたのせいだからね。いっつもいっつも遅刻寸前なんだから!」
と、これまたいつものように小競り合いが起きんばかりの許嫁の言葉に対して
『なんでい!だいたい、もっと早く起こしてくれればいいんじゃねーか!』
と心の中では思ってはいるものの
「う、うるせえ」
としか言い返せないでいる。調子が悪いのは見え見えである。
これにはいくらなんでも鈍感なあかねも感づいたようで、
「乱馬、どこかで何か悪いものでも食べたんじゃないの?様子が変よ」
と、心配そうに言葉をかけている。
(どきぃっ・・・ば、ばれたか・・・・?・・・・いや、まだ隠し通せるはずだ!)
「そ、そんなわけねーだろーが。あっ、ほら、遅れちまうだろうが。行くぞ!」
「え?あ、本当だ〜っ・・・・もう、遅刻したら乱馬のせいだからね!」
どうやら上手く話を逸らせることに成功したようだ。
あかねの頭の中にはもう"大丈夫かしら"ではなく"遅刻しないようにしないと"という思いの方が完全に勝ってしまっているようだ。
そんなあかねをみて、乱馬もまた
(ひとまずはこれでいいようだな・・・・)
と安心しているようである。


とたたたたた・・・・・・・・
"ガラッ"
「おはよーっ」
と、その言葉と同時に始業のチャイム。
「はぁ、はぁ、もう・・・・ギリギリセーフだったじゃない!まったく、危なっかしいんだから」
「はぁ、はぁ、はぁ、ああ、わりぃな」
乱馬はいつになく疲れた様子である。息切れが激しい。
いつもとは様子の違う許嫁にどこか感づいているようだ。
(やっぱりどこかおかしい・・・・妙に素直な返事といい、あの息切れはおかしいわ・・・・
あの乱馬がたったこれだけの距離で・・・・絶対何かあったんだわ・・・・)



昼休み・・・・



昼休みといえば、乱馬が最も元気な時間である。いつもであれば
「昼飯、昼飯♪」
と、小躍りでもしそうな勢いではしゃいでいるのだが
今の乱馬にとってはこの数十分が一番つらい時間なのである。
なんといってもいつもは旺盛すぎるほどの食欲が全くわいて来ないのだから・・・・
「はあ〜、今日は散々だぜ・・・・普通の授業はいつものことだけど体育の授業でもいまいち調子は出ずじまい・・・・それどころかミスまでしちまうし・・・・」
大きなため息とともにぼそっとつぶやく。
(ちくしょう・・・・これじゃあいくらなんでも俺の調子が悪いことがばれちまう・・・・
どうにかしてこの状況から逃げないと・・・・)
だがこんなときに限って不幸とはやってくるものなどである。
"バコッ"
"ガラガラガラ・・・・・・"
「ニーハオ乱馬v 今日は特製肉まんを作って持ってきたね。もちろん食べるあるな?」
そう言って壁を壊しての過激な登場をしてくる中国服の少女。シャンプーである。
「でっ、シャンプー・・・・こんなときに・・・・」
「? こんなときとは何のことあるか?そんなことよりも今は早くこの肉まんを食べるよろしv」
「だ、だから、そうじゃなくって・・・・」
とそう言っている乱馬の口調からはいつもの覇気は感じられない。
だが乱馬の体の様子などは気づきもせず、シャンプーはさらに肉まんを勧めてくる。
「ふっ・・・・やれやれ・・・・にっぶいやっちゃな〜」
そんなところにさらに話をややこしくする人が・・・・右京である。
「な〜んも分かっとらんようやな!
そうじゃなくてってゆーんは、シャンプーのこのまっずい飯は食べたないっちゅーことやで!」
「何言うか!私の飯がまずいというあるか!許せないね!」
「そうやで〜。中華料理なんて乱ちゃんの口には合わへんわ」
「そんなことないね!そういう右京の料理はどうあるか!」
こうなるとたちまちのうちに騒動の始まりである。

と、この状況を離れて見つめていたあかねだけは乱馬の異変に気づいていた。
「ふう・・・毎度毎度大変ね〜・・・・ねぇ、あかね」
と、そう問いかけるゆかに返事をすることも無くあかねは
「やっぱり・・・・朝からどうもおかしいと思ってみれば・・・・まったく妙に意地っ張りなんだから」
とブツブツ言いながらつかつかと騒動の輪の中に入っていく。
そして、
「ちょっと乱馬っ!おでこかして!お・で・こ」
といいながら返事も聞くことなくさわっている。
「な、なにしやがらぁ!」
そう言って顔を真っ赤にしている乱馬の額からはかなりの熱が感じられた。きっと無理がたたって上がったのだろう。顔が赤いのは恥ずかしさだけではなく、火照りも入っているのかも知れない。
「なにって、無理しちゃって・・・・さっ、行くわよっ!」
そういいながらあかねはグイグイと乱馬の手を引っ張って歩いていく。
だが、そんなことを許すはずもないふたりからは当然の如く抗議の声が飛ぶ。
「ちょっと待つよろし!どういうつもりあるかあかね!」
「えっ、どういうつもりも何も保健室に連れていくのよ」
あかねは『なんのこともないわ』と言わんばかりにあっさりと言ってのけた。
「保健室に?なんでそんなところに連れていくん?」
シャンプーも右京ももいまいち状況が理解出来ていないようである
「なんでって、気づいてなかったの?乱馬ひどい熱出してるじゃない!分かってるんでしょ?」
やれやれといった口調になっている。もしかしたら呆れているのかもしれない。
「んもう、さ、行くわよ、乱馬」
「あ、ああ・・・・」
その返事を合図に乱馬はあかねに付き添われながら行ってしまった。
そして、教室に残されたふたりは完全に府抜けてしまっている。
「右京・・・・気づいたあるか?」
「いや・・・・全然気づかへんかったわ・・・・まったく、あかねちゃんにはかなわんわ」
「今日のところは一旦引き下がるね。また明日出直してくるある」
「うちもそうさせてもらうわ。今日の看病はあかねに任せることにしとこか」
「そうするか・・・・でも乱馬は渡さないあるよ!」
そう言い残してシャンプーは入ってきた壁からまた帰っていった
「ふう・・・・うちもどっと疲れてきたわ。
なあ、ゆかちゃん、さゆりちゃん、悪いねんけど先生に早退するって言っとってくれる?」
「え?あ、うん、いいけど・・・・」
「そう。ありがとうな。宜しく頼むわ」
そうして右京もまた帰っていった。
残されたクラスの人たちもいつものことだと言わんばかりに各自昼休みを満喫している。
こうして、1−Fの昼休みは普段と変わらないようすでふけていく・・・・


一方の乱馬とあかねは・・・・


"コンコン"
「先生〜?あれ?いないのかな・・・」
どうやら保健室の先生は留守のようである。こういうときに限ってと言わんばかりだろう。
しかしこのまま乱馬を放っておくわけにもいかない。
「まあ、この際仕方ないよねっ。乱馬、そこのベッドに横になってよ」
「え?あ、あぁ・・・・」
こうなると乱馬はあかねのなすがままになって、おとなしくベッドに寝そべる。
「えと・・・・これである程度は楽だよね。まったく、こんなになるまでなんで我慢したりするのよっ」
そういいながらあかねは水で濡らしたハンカチを頭に乗せる。
それは火照った頭にはとても気持ちのいいものだった。
(ふ〜、気持ちいい・・・・それにしても、なんであかねは俺の体調が良くないことが分かったんだ?)
「なぁ、あかね」
「ん?なぁ〜に?」
あかねの最上級の笑顔に乱馬はいつものようにギシッと固まる。
「い、いや・・・・あ、あのさ・・・・なんで俺がこんな状態だって分かった?」
「それは・・・・なんとなくではあるんだけど、朝からご飯はあんまり食べないし、いっつもみたいに罵声は浴びせて来ないし・・・・」
ぴくっ
「・・・・なんだよ。罵声ってのはどーゆーことでぃっ」
「『かわいくねぇー』だの『色気がねぇー』っていうやつのことよ。今日は一度も言ってないでしょ?」
(そ、そういえば・・・・今日はそんな気分じゃなかったしな・・・・)
「それに、シャンプー達がうるさくやってたときに逃げなかったでしょ?普段の乱馬なら、なんだかんだ言いながらもあの隙に逃げるのにね」
そうだっけ?言われてみればそうだったような・・・・
「ふ〜ん、自分でも気づかなかったことってあるもんなんだな・・・・」
「乱馬の場合は態度に出やすいのよ。あれじゃ誰だって分かるわよ」
「そうか?でもシャンプーやうっちゃんは分かってなさそうだったじゃねーか」
「あれはどれだけ乱馬を見ているかの違いでしょ?『好きな人』っていつも目で追っちゃうし・・・・
って、ああ〜っ!/////」
しまったというあかねの顔。真っ赤にしてかわいらしい。
「ふ〜ん、それはどういう意味なのかな♪」
(まっ、たまにはこのくらいのイジワルをしたってかまわねーだろうな。)
「えっ、そ、そ、それは・・・・その・・・・ねぇ?って、んもう!なにニヤニヤしてんのよ!あんた風邪引いてるんでしょ!」
「え?な〜にいまさらなこといってやがらぁ。ほら、こーんなに熱だってあるじゃねーか!」
そういいながらあかねの手を自らとって額に当てさせる。
「も、もう!何すんのよぉ!そんなこと分かってるわよっ、離してよっ!」
あかねはさらに顔を紅く染めて慌てたように手を振り払おうとする。
しかし乱馬は一向につかんだ手を離そうとしない。それどころか思いもよらないセリフ。
「そんなに俺に触られるのがイヤか?」
「え・・・・な、なんでそんなこというのよ?」
やはりいつもの乱馬と雰囲気が違う。
「そうじゃねーか。俺が触れるといつもそういって払いのけようとする・・・・」
「そ、それは・・・・恥ずかしいからで・・・・そんな・・・・イ、イヤなわけないじゃないのっ・・・・」
「なら・・・・良かった・・・・」
そういって、グイっと腕を引き寄せる。
そしてすっと軽く唇に触れる。
「/////・・・・なんで?突然・・・・」
あかねの顔の紅さは乱馬以上に熱があるように見えるくらい、最高潮に達していた。
「イヤじゃねーんだろ?」
「ま、まぁ・・・・そ、そりゃ・・・・そうだけど・・・・」
その言葉を聞いて、安心したように微笑みながら
「だったら・・・・いいじゃねーか・・・・」
と一言だけポツリと漏らした。
「って、あのねー、乱馬!そういう問題じゃ・・・・って、あれ・・・・乱馬?」
『スー、スー・・・・』
乱馬の口からは実に規則正しい寝息が聞こえる。疲れて寝てしまったのであろう。
「寝てる・・・・?まったく・・・・言いたいだけ言っといてなんなのよっ」
口ではそんなことを言ってはいるが、顔は満面の笑み。
「これは内緒なんだからね・・・・」
そうつぶやきながらあかねは乱馬の寝顔へと顔を近づける・・・・そして・・・・



こうしてほのかに消毒液の香る保健室でのふたりのひとときもまた過ぎていった。








作者さまより
初めて書いたのにこの長さは何なんだろう(汗
しかも中途半端なような気もします・・・・
展開はふっとんでるし、乱馬くんらしさもなければあかねちゃんらしさもないです。
文才のない人間の憐れな末路だと思って見逃して下さいね(ぉ


鮎間ゆみさんの小説初挑戦作品!!
風邪ひきの乱馬くん、微笑ましい状況ですね(^^)
体調悪いときって、優しくなれるし・・・優しくしてもらえるととても幸せな気分になりますからね・・・ごちそうさまでした。
(一之瀬けいこ)

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