◆星を数えた夜 
さわやかなほか弁さま作




12月・・・、吐く息も白く、冷たい空気が肌に痛い。
でも、そんな冬は星空が綺麗に映る季節でもある。

そんな星の降る夜。
乱馬とまどか、そして浩史とあかねという二組の男女がいた。
乱馬とあかねが風林館高校を卒業して1年近くが経とうとしていた。
高校時代はひとつ屋根の下に暮らし嫌でも毎日顔をつき合わせていた二人。
しかし、二人の卒業を期に乱馬の父玄馬は天道家での居候をやめて、長い間離れて暮らしていた乱馬の母、のどかとの3人の暮らしを決めた。

高校を卒業した後、あかねは大学へ進学、乱馬は格闘技の技術を磨くため日々修行と、合間を見ては引越しのアシスタントやコンビニ、ガードマンなんかのアルバイトをして生活費と小遣いを稼いでいた。
そんな二人に少しずつ距離が出来始めるのも無理からぬ話ではあった。

あかねには大学の友人に無理やり誘われていった合コン先で知り合った浩史という彼氏が出来、乱馬には、3ヶ月ほど働いるコンビニで一緒に仕事をし、いつの間にか付き合うような形になったまどかという彼女がいた。

本当に偶然の出来事だった。
星のよく見える夜・・・静かな公園で二組のカップルは偶然出会った。
[ら、らんま?・・・・どうしたの、こんな所で?]
あかねが驚いたように乱馬に声を掛ける。
[お、お前こそどうしたんだよ、こんな所で]
焦ったような表情で乱馬が答える。
一瞬の沈黙がその場を支配する。
そして浩史が口を開いた。
[君の知り合い?]あかねに向かって浩史は言った。
[う・・・うん、昔あたしの家に一緒に住んでたの・・]
うつむきながら、あかねは浩史にそう言った。
[ええ!!一緒に住んでいた!!]
あかねの言葉に驚きを隠せない浩史。
[あ、ううん、彼のお父さんも一緒にあたしの家に居候してたのよ]
あかねは浩史にフォローを入れる。
[一緒に住んでたんだ〜、こんなに可愛い娘と]
まどかも驚いた口調で思わずつぶやいた。
[あ、ごめん、挨拶もしてなかったですね。僕は大本浩史と言います。あかねちゃんとは大学の合コンで知り合ってそれ以来付き合っています。]
浩史は乱馬とまどかに向かってそう自己紹介をした。
とても優しそうで大人っぽい雰囲気を漂わせる風貌をした浩史は何となくだが東風先生にも似ている。
[あ、俺は早乙女乱馬です。こいつ・・・あ、いや、あかねちゃんとは高校も一緒で親父ともども天道家に世話になってました]
思わず口をつい出てしまった“こいつ”と言う言葉・・・。
しかし、それを言い直してしまうところに今の二人の距離がある。
[横にいる彼女は?]
浩史がまどかをみて言った。
[あたし?あたしは川島まどか。乱馬と同じファミレスでバイトしてるフリーターです。]
あかねという女の子の突然の出現にちょっとむくれた感じでまどかはそう言った。
[久しぶりだね・・・乱馬・・・元気にしてた?]
あかねが乱馬に問い掛ける。
[お、おう、き、君もね]
まどかと浩史の表情を気にしながら、言葉を選ぶように乱馬は答えた。
[ねえ、寒いからもう行こうよ]
乱馬とあかねのただならぬ関係を察知したまどかは乱馬の腕を軽く引っ張り言った。
[ああ、わかったよ。じゃあ行こうか。すいませんじゃあ失礼します]
仕方ないなといった表情で乱馬は浩史に軽く挨拶してその場を去ろうとした。
その時。
[あ、乱馬、お父さんとお母さんは元気?]
あかねはまだ行って欲しくないと言わんばかりに乱馬とまどかの後姿に問い掛ける。
[親父はまた中国あたりに修行に行ってほとんど家にはいない。おふくろは元気だよ]
あかねと視線を合わせることもなく乱馬はそう言い、まどかと歩き出した。
[そう・・・相変わらずなんだ、乱馬]
少しずつ小さくなる後姿を見つめあかねはそうつぶやいた・・・。
[・・・・・俺たちも行こうか]
乱馬とあかねのやり取りを黙って見ていた浩史は、後ろ髪惹かれるような思いのあかねの姿を見ながらそう言った。
こうして一瞬の再会は夜の闇へと消えていった。

 



あのつかの間の再会から数日が過ぎた・・・。
乱馬は相変わらずバイトと格闘技の日々を過ごし、あかねも大学生活を楽しんでいた・・・。
そして気になる天道家の方は、姉のかすみは相変わらず家の家事全般を仕切り、もう一人のなびきは元々奔放な性格だったため、
高校を出てすぐにアメリカへ行きたいと言い出し、宛てもなく旅立って行った。
あのいつも大勢で囲んでいた食卓が懐かしい。
乱馬親子が消えてから八宝斉も元気がなくおとなしくなってしまったようだ。

[ただいま〜お姉ちゃん]
[あら、あかねちゃんお帰りなさい]
いつものような天道家の1ページだ。
そして食卓を囲むあかね、かすみ、八宝斉、早雲の4人。
[そういえば乱馬君どうしてるかしらね・・・]
おもむろにかすみさんが一言ぽつりとつぶやいた。
[さ、さあ・・・私もわかんないな]
一瞬かすみさんの言葉にあかねはドキッとさせられた。
何故かあかねは乱馬に逢った事をかすみさんに隠してしまった。

[は〜。]
自分の部屋に戻り天井を見つめため息をつくあかね。
乱馬との久しぶりの再会。
正直嬉しかった。いつの間にか自分の前から消えた乱馬。
いつも、いや、ずっと一緒だと思っていた。
だから・・・言わずに、言えずにいた言葉があったのに・・・。
でも・・・・浩史という存在が今の自分にはある。
“胸の内にしまっておこう。”
あかねはそう決めて眠りについた。

[ねえ!どうしたのよ乱馬?]
乱馬の顔をのぞき込んでまどかが言う。
[ん?別に・・・]
上の空の顔で乱馬はまどかにそう言った。
[・・・あの娘のこと考えてるの?乱馬]
まとがが乱馬にそれとなく聞いてみる。
[い、いや、そんなことないよ!!]
あわててフォローしようとする乱馬。
[あの日からなんか変だよ、乱馬]
[気のせいだよ、まどか]
二人の押し問答。
しかし、乱馬のその表情にはあかねに対する思いが滲み出ているようでもあった。
[それなら・・・・いいけど]
まどかはそれ以上乱馬に聞かなかった。
いや・・・怖くて聞けなかった。
“乱馬がいなくなりそうで”

あかねも叉同じだった。
二人でいる夕暮れ時の喫茶店。
[最近元気ないね?どうした?]
そう浩史に聞かれたあかね。
胸が・・・・痛い。
あかねと乱馬、二人の思いは一緒だと信じていた。
だからこそ、口にしなくても分かり合えていると思っていた。
“お互いに好きなことを”

そんなあかねをみかねた浩史が言う。
[この前と同じ場所へもう一度行かないか?]・・・・と。
[いいけど・・・どうして?]
困惑の表情のあかね。
[確かめておきたい事があるんだ]
そう一言だけ言って、浩史はあかねを自分の車に乗せた。
そしてあの星のよく見える公園へと向かった。

乱馬とまどかもあの日以来、お互いの距離が遠のいていくのに気づいていた。
[乱馬・・・自分に正直になりなよ]
まどかが乱馬にそう言った。
[なんとなく・・・わかってたんだ。もしかしたらもっと心の奥に思っていた人がずっといるんじゃないかなって・・・]
[でも・・・乱馬が遠くに行ってしまいそうで怖くて言えなかった]
[ご、ごめん。まどか。おっ俺やっぱり・・]
[いいよ、その先は何も言わなくて。ありがとう楽しかったよ。]
[さよなら・・・・]
そう言うとまどかは走って行ってしまった。
彼女の瞳には光るものがあった。
人を一人傷つけてしまった乱馬。
だけど・・・、それでも好きな人がいる。
逢いたいと思う人がいる。
何かを感じたのか、突然乱馬は走り出した。

その頃あかねと浩史は乱馬と出会った公園についた。
いつの間にか陽は落ち今日も雲ひとつない空に満天の星が輝いている。
[どうしたの?突然ココへ連れてくるなんて?]
とまどいの色が隠せないあかね。
[君は、本当は心から好きな人がいるんじゃないのかな?]
浩史が言う。
[あっ、あたし、そ、そんな・・・]
言葉に詰まるあかね。
[いいんだよ。わかってる。この前ここで会った彼だろう?]
[・・・・・・・・・・・・・・・・・・・]
言葉にならず浩史の視線をそらすあかね。

と、その時!!!!!!!!
[あっあかね!!!]
乱馬だった。
[ここに来れば逢えるような気がしてたんだよ!!!]
上気した表情で乱馬はあかねに向かって叫んだ。
[ほらっ待ってるぜ。彼が]
浩史はそっとあかねの背中を押した。
[ごっ、ごめんなさい!!!謝って済む事じゃないけど、あたし・・・]
[何も言うなよ。ほらっ、行きな。]
あかねにそう言うと浩史は乱馬に向かって歩き出しすれ違いざまに・・・
[幸せにしてやれよ。]と
一言だけ言い、ポンと乱馬の肩をたたき、公園から消えていった。
乱馬は少しずつ小さくなる浩史の背中にただ、
頭を下げるしかなかった。

[・・・・乱馬、どうしてココへ?]
あかねが驚いた顔で問い掛ける。
[わからないんだ。自分でも]
[ただ、気がついたら足がここへ向かって走ってたんだ。]
無我夢中だった。あかねに逢いたい思いが乱馬をこの公園へと無意識のうちに向かわせていたのか。
[あかね、やっぱり俺には・・・その・・・]
照れくさくて肝心な言葉が出てこない乱馬。
[いいよ、わかってる。あたしも同じ気持ちだから]
あかねが笑って乱馬に言う。
[今日は星がいくつあるのかしら?]
あかねが空を見上げて乱馬に語りかける。
[数えてみようか?]
[無理だよ〜〜乱馬]
[やってみなけりゃわかんねえじゃねえか!!]
[ばーか。ホントに]
いつもの二人のやり取りだった。
色々とあったけどようやく振り出しに戻った二人。
これから先も幸せであるように。
乱馬とあかねがこの星たちに祈ったのは言うまでもない。









一旦別れても縁ある者は再び結ばれるという典型ですね。
私の友人なんかにも、一旦別れても結局縁りを戻して「元彼」と結婚した子も居たりします。
いやほんと、人生はいろいろです。
乱馬とあかねはどんな形でもやっぱり「惹かれあう二人」であって欲しいと思うのはFANの勝手な思い込みかもしれませんが。
HAPPY END が嬉しい処女投稿作でした!!
(一之瀬けいこ)


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