◇海の守人 2
夏海さま作


「お前、今日は岩場に行ってばかりだが何かあるのか?」
 乱馬の家にあかりと一緒に尋ねてきた良牙が問う。乱馬は簡単に自分の体験を話した。むろん、人工呼吸されたかもなどという事は完璧に伏せて。
 一通り聞き終わると良牙は笑い出した。
「一体誰があんな荒れた海に飛び込んで、お前を助けつつ泳ぐってんだ?そんな事が出来るわけがないだろ。」
(ま、笑われたって仕方ねぇな。俺だって自分の事じゃなきゃ信じねぇもん。)
「人魚・・・・・・。」
 玄馬はポツリと呟いた。
「はぁ?何だって、親父。」
「乱馬。お前は人魚に助けられたのやもしれんぞ。」
 乱馬と良牙は顔を見合わせた。そして同時に吹き出す。
「親父、ここ大丈夫か?東風先生に見てもらうか?」
 東風とはこの村に唯一の医者。数年前、旅行中にこの島へ流されて来た。それ以来ここで医者として住んでいる。ちなみに突然現れた姉妹の姉かすみと結婚している。
「それともなんですか?また久能の所の怪しげな香でも嗅いでおかしくなったんですか?」
 九能とはこの村きっての変態。時々変な物を持ちだして、トラブルを起こす。
 『また怪しげな香を・・・・・・。』と言うのは以前、玄馬が久能の持っていた香の臭いを嗅いで訳の分からない行動を起こした事があるからだ。ちなみに九能の方は突然現れた姉妹の妹なびきと結婚している。
「そんな事は断じてない。」
(ありそうな事じゃねぇか。)
 乱馬はジト目で玄馬を見つつ、心の中で悪態をついた。
「子供の頃聞いた話だ。この島の周りの海は丁度海流が交差しているから、魚が豊富に捕れる。だが最初はそうではなかったと聞く。魚が捕れず、畑の作物だけに頼る食生活だったが、それには限りがある。そこでこの村の住人達はこの側の海域に住む人魚達と協定を結んだのだ。」
「協定って、どんな協定を結ぶんだよ。」
「人魚達に頼んで魚が捕れるようにと頼んだ。そのかわり、島の住人は人魚達の不老不死の肉を狙う者達から守ってやるという条件を出して。人魚の不老不死の肉の事については有名な話だろ。人魚達はその条件をのんで、島の入り江から岩場にかけての島に近い海で生活するようになった。その時から島のまわりの海流の流れが変わり、この島のまわりは良い漁場になったのだ。」
「で?その人魚とやらは今どうしてるんでい。」
 乱馬の顔にはハッキリと『うさんくせー』と書いてある。
「そうやって数十年過ごしたらしい。しかしある時、食料を求めて海の怪物がこの島にやって来た。海流の流れが変わり、食べていた魚達がこの島の側に来た為に怪物も寄ってきてしまったのだ。島の住民は人魚達と共に戦い、辛くも勝利した。が、人魚達は傷つき残ったのは数人。もう戦える者は島にも海にもいなかった。しかも勝利したと言っても、人魚達によって封印されただけ。まだ化け物は今も海に眠っているという。人魚達は、その封印がとけないようにとその側に暮らし始めたらしい。今はどうなっているのだが、さっぱり・・・・・・。ただ、人魚達は封印が解けないようにと夜な夜な歌って化け物を眠りにつかせるという。」
「化け物相手に子守歌ってか?そんな話、嘘だろ?親父。」
「さぁ、わしも聞いただけだから実際はどうだか。その上、わしに話して聞かせたお前のじいさんも親に聞いたと言っていただけだしなぁ。」
(ますます嘘くせー話じゃねぇか。)
 乱馬は全く信じていなかった。だが、良牙は唐突に言った。
「乱馬、お前を助けた奴ってのが本当にいるんだったらもしかして・・・・・・。」
「もしかして、なんだよ。」
「その人魚かも知れねぇぜ?」
 乱馬はガクッと力が抜けた。
「おめぇなに信じてんだよ!そんなの嘘に決まってんだろ!馬鹿か!おめぇは一体何歳だ!?」
「お前を助けてくれた奴って泳ぎがめちゃくちゃ上手かったんだろ?人魚って言ったら泳ぎはお手の物。だったら可能性あるだろ?」
「そうじゃなくて、だなぁ。人魚なんかこの世にいるかってんだよ!」
 そう言いながらも、乱馬の心のどこかでそうなのかもしれないと思った。次いで、今日初めて出会った少女の事も思い出す。
(あいつがもし助けてくれたとしたら、あいつは俺の命の恩人で、そんでもってもしかしたら・・・・・・?)
 そこまで考えて乱馬はその考えを捨てた。
(アホか。あいつは岩場にちゃんと立ってたじゃねぇか。ったく、人魚が人間の足で立ってるかってんだ。)
 ふと、視線を感じて良牙と玄馬を見ると二人が乱馬を不思議そうに見ていた。
「乱馬、あいつって誰だ?」
「えっ!?」
「今お前なんか一人でブツブツ言ってたじゃねぇか。『あいつがもし助けてくれた(以下略)』って。」
 乱馬はギクッとした。
 そのうち玄馬がニヤーッと笑って乱馬の肩をバンバン叩きだした。
「ほー、そうかそうか。やっとお前もいい子を見つけたんだな?どの子なんだ?え?九能のトコの小太刀だけはやめてくれよ。」
(誰があんな変態妹を選ぶか。と言うより何を勘違いしてるんだ?このくそ親父は。)
 玄馬の言葉に良牙も間違って理解しニヤリと笑って、乱馬の肩に肘を乗せて問いつめる。
「へぇ、そういう事か。お前やっと好きな女が出来たんだな?どの子なんだよ。この女泣かせ!お前が一人に絞ったら村の女達が泣くぜ?はっはっはっ。」
「ば、バカヤロ!そんな女いねぇよ!それにあいつは全然可愛くなかったし、俺も初めて会ったし、そ、それにつんけんしてて態度も悪いし!感じ悪かったし!」
「「はぁ?」」
 良牙と玄馬はわたわたと慌てて弁解する乱馬の言葉に耳を傾けるが、乱馬の話は既に訳が分からない言葉の羅列となっていた。
「と、とにかく!俺は俺を助けてくれた奴を捜し出そうとしてるだけで、そんな好きな女が出来たとか、そんなんじゃねぇんだ!分かったか!?」
 なんとか聞き取れたのは最期の弁解の部分に当たるここだけだった。
 玄馬はまだ疑っていたが、良牙はその様子に『なんだ』と気抜けしていた。


 深夜
 乱馬はなかなか寝付けなかった。昨日今日と色々な事がありすぎて、頭は混乱しパンク寸前。
(昨日の朝、漁をしてたら津波に襲われて溺れて死にかけた。そこを誰かが助けてくれた。多分女だ。今日の朝、誰が助けてくれたのか気になって岩場に行ったら村人じゃない女に会った。なんかいきなり逃げ出した、やな女。もしかしたらそいつが助けてくれたのかもしれない。でもって今夜聞いた人魚の話。この島の近くにいるって言う。村人以外の人間であるあいつ。人魚なのか?それだったらなんで昼間は人間だったんだ?というより、あいつは人魚確定なのか?大体あいつはどこに住んでるんだ。村があるってのになんで村で暮らさないんだろう。)
 考え出すと止まらなくなり、目が覚めてしまう。
 乱馬はコッソリと家から出た。外の風に当たれば、頭が冷えてこの混乱から抜け出せるかもしれない。そう思って。
『〜〜〜〜〜〜♪♪〜〜〜〜〜〜♪♪』
 一歩家から出ただけだった。
 乱馬は何かを感じた。
 耳では聞こえない音。
 心で感じるメロディ。
 全身を震わす波長。
 寄せては返す波のように、強く弱く。
 広い海のように、雄大な。
 乱馬は大きな優しい気に抱かれているような気分になった。
「人魚の歌・・・・・・?まさか。」
(人魚なんているわけがねぇ。けど、それじゃあこれは?)
 歌かどうかは分からないが乱馬は歌ととる事にした。
 明日の漁のために早く寝ている村人達。乱馬以外に起きている者は誰もいなかった。
 乱馬は歌を強く感じる方―――浜辺の方へ歩いて行く。今の乱馬を東風が見たら夢遊病かと思うかもしれなかった。
(気持ちが安らぐってこういうのを言うんだろうな。)
 らしくない、と普段の乱馬なら思うところだろうが、今はそんな事すら考えつかなかった。歌をもっとよく感じたかった。
(これを歌ってるのは一体誰なんだ?)
 歌を感じる気持ちよさと、押さえきれない好奇心、次々沸き上がる疑問。
 乱馬はついに浜辺に出た。
 そして見た。海上に突き出た岩の上の人影を。

 あかねは満月を見ていた。美しい月の晩だが、今日は何故か赤っぽい。
(まるで月の傷から流れ出した血のようね。・・・・・・そんな風に見えるのは、あたし自身が傷ついたままだから?未だ癒やされる事のない傷を持ったままだから?)
 あかねは海の底にいる化け物のためにメロディーを紡ぐ。機械的に動く口。哀調を帯びたあかねという人魚の歌。
 あかねは自分の歌の事を感情のこもらないどうでもいいという気持ちが全面に出ている酷い歌と思った。
 それでも人を魅了するには充分な力がある事をまだあかねは自覚していなかった。
 だからだろう。乱馬がこちらに近づいてくる事もつゆ知らず、気も張らずにいたので乱馬の存在に全く気がつかなかった。

「人魚・・・・・・。」
 乱馬の口から自然にその言葉がこぼれていた。静かな浜辺にその声は大きく響く。
 あかねは浜辺に振り返る。
 乱馬には全てがスローモーションで見えていた。
 小柄なその背中。海風になぶられる黒髪。そして、ゆっくりと振り返る人魚。
 丁度月が雲に隠れてしまい、顔は見えない。
 だが視線を感じた。相手の気で、人魚が驚き怯えているのは手に取るように分かった。
 雲の合間から微かに月の光が漏れる。
 人魚は腰掛けていた海上に突き出た岩から降り、海へ飛び込んだ。
 雲を通して微かな月の光が、人魚の鱗にキラキラと反射した。間を置かず水しぶきが上がる。
「待てよ!」
 乱馬はその音にハッとして叫んだが、既に遅すぎた。
 人魚はそのまま行ってしまった。
 乱馬の方こそ、実は驚いていた。乱馬の胸は高鳴り、人魚の一挙一動をジッと見つめ、それが脳裏に焼き付いた。
 後ろ姿だけなのに乱馬は魅入られていた。
(あの後ろ姿、やっぱりあの時の・・・・・・。)
 乱馬は無意識の内に思い出した。あの時見た後ろ姿を。
 そして、不意に疑問が湧いた。
(あの時の俺は首を人に気配の方に向けたけど、力が入らなくて見上げる事が出来なかったのになんで人の背中が見えるんだ?そいつが子供だったから?そんな訳ない。あれは子供の物じゃなかった。大体子供が俺を引っ張って泳げるか。背中が見えたのは向こうの背中が低い位置にあったからだ。なんで低い位置にあるか。立って歩かなかったから?違う、歩けなかったんだ。奴は人魚だった。だから這うようにして海に戻って行ったんだ。だから俺はあいつの背中が見えたんだ。)
 あの後ろ姿と人魚の後ろ姿は重なって見えた。
 最早疑いようもない。乱馬は確信した。
(俺を助けてくれたのはきっと今の人魚だったんだ。)
 同時に乱馬は決めた。
(あいつに会って、お礼ぐらい言わせてもらわねぇと俺の気がおさまらねぇよ。絶対に見つけ出す!)
 純粋にお礼を言わせてもらおうと思ったのだ。
 乱馬は来た道を戻し始めた。

 あかねはその頃、洞窟の中に潜んでいた。
 その息は荒い。乱馬にこの姿を見られた為に、大急ぎでここまで来たのだ。
(あいつ、きっとあたしの尻尾を見たに違いないわ。顔まで見られていたら、今日の女とあたしが同一人物だって気が付く。せめて暗くなってくれていたのが救いだけど・・・・・・。でももし見ていたら、あいつきっとあたしを捕まえに来るわ。不老不死の肉だって大騒ぎして、あいつらみたいに・・・・・・あたしをお母さんの時と同じように!)
 あかねの全身は恐怖で震えていた。
 今でも鮮明に思い出せる。
 母が死んだ時、父が死んだ時。両親を殺した、海賊達。皮肉にも当時まだ幼かったあかねは、一部始終見ていた。
 それがあかねが人間を怖がる原因となっているのだ。
(夜、気をつければ大丈夫。そう、昼間会ってもあいつからすぐに逃げればいいんだわ。あいつとはもう関わっちゃいけない。あいつは、とても危険だわ・・・・・・。)
 あかねがその日、再び海に出る事はなかった。

「乱馬、お前熱でもあるのか?ん?」
 村長の許しを得て漁に出てから人魚を見たと良牙に話した乱馬。それを聞いた良牙の第一声はそれだった。
「馬鹿!ほんとだって!人魚はいた!きっとあいつが俺を助けてくれたんだ!俺が見た後ろ姿にそっくりだったんだからな!」
「後ろ姿なんてみんな同じ様なもんだろ?」
 相手にしてられないとばかりに良牙は網を引き上げる作業に取り組んだ。
 まるっきり信じていない良牙に、乱馬はムスッとした。
「俺、人魚を絶対捜し出してやっからな!」
「せいぜい頑張れよ、乱馬。」
(昨日は人魚なんている訳ないって言ってたのにこの変わりよう、一体何があったんだ?人魚の出てくる夢でも見て、勘違いしてんのか?)
 良牙は隣で不機嫌な顔をしている幼なじみを見た。
(なんでい、良牙の奴。昨日は信じてた癖に。なんで俺の話は信じられなくて親父の話は信じられるんだよ。)
 漁から戻ってから、良牙は全く機嫌の治る様子のない乱馬に疑問を抱いた。
(こいつがこんなに機嫌が悪いなんて。嘘をつこうとして失敗した時とは違う・・・・・・。これは本当の事を言っているのに疑われた時の反応の方だ・・・・・・。)
「なぁ、乱馬。さっきの人魚云々の話だけど、本気で言ってるのか?」
 乱馬は黙って頷いた。顔は真剣だ。とても嘘をついているようには見えない。
 良牙はそんな乱馬を見て、ショックを受けた。乱馬が嘘をついていないとなると、人魚はこの海に本当に存在する事になるからだ。
「そう、か。人魚、いたのか。なんか、あれだな。こう・・・・・・ビックリした。」
 良牙はやっとの思いで言葉を紡いだ。本当はもっと気の利いた事を言えばいいと思ったのだが、ショックでそれを考えようにも考えられなかったのである。
 相手が乱馬なので、さして気にとめないが。
「それ、他の奴らにも言うのか?」
「言ったってどうせ信じてくれねぇよ。」
「俺には言ったじゃねぇか。」
「おめぇはな。単純だし、幼なじみだし、なんとなく言ってみたんだよ。」
「単純じゃなくて、俺は純粋なんだよ。」
「自分で言うか、おまいは・・・・・・。」
 乱馬は良牙を家まで送り届ける間―――良牙一人だと絶対に迷うので―――良牙と共に人魚の話で盛り上がった。

 それを偶然聞いてしまったなびきは、かすみにお裾分けして貰ったキャベツの入ったかごをドサリと落とした。
(乱馬君があかねを見た・・・・・・?まずい!あかねの事を探し出したりしてあの子を余計に傷つけてしまう事になったら!)
 それ以上何も考えずになびきは走っていた。昔自分も一緒に住んでいた、入り江の洞窟へ。
「あかねッ!あかね、いるッ!?」
「なびきお姉ちゃん。どうしてここへ?」
「そんな事、どうだっていいわ!」
 なびきはさっさと洞窟の中に入って来た。洞窟の外で話しているところを見られたら面倒だし、見つかりやすいからだ。
「あんた、昨日見られたのね?」
「お姉ちゃん、どうしてそれを?」
「乱馬君が響さんとこの良牙君と話しているのを聞いたのよ。乱馬君はあんたを捜すつもりみたい。多分、変なトコで律儀な性格だからお礼したいだけだと思うけど。乱馬君はこう言っちゃなんだけど頭の方はちょっと・・・・・・だから、あんたで金儲けとかそういう風な事はしないはずよ。でも、注意しとこうと思って。」
 息を切らせて飛び込んできたなびきを見ながら、あかねは微笑んだ。
「ありがとう、なびきお姉ちゃん。気をつけるから大丈夫だよ。あんな男のクセにおさげなんかやってる変な奴に、あたしが簡単に捕まえられるものですか!」
 意気込むあかね。だがその内心では言いようもない恐怖に怯えていた。
 その日以来、あかねは更に乱馬を警戒するようになった。

(あいつだ!)
 乱馬は岩場であかねを待っていた。
 人魚も気になるが、あかねの方も気になった。人魚と関係があるのか、何故村で暮らさないのか。
 聞きたい事がある。
 だが向こうは相当乱馬を警戒していて、乱馬とほぼ同時に乱馬の気配に気が付いてしまう。そして気配があると、岩場には出てこない。そのまま一目散にどこかへ行ってしまうのだ。
(こんな事が出来るのは村でも三人ぐらいなのに・・・・・・。)
 乱馬は女だてらに人の気配を読めるあかねに興味を抱いた。
(強いのか?どれほどの実力なのか、見てみたい。)
 子供のように強い好奇心は留まるところを知らなかった。こんなつまらない島で平穏無事に生活して一生を終えるはずが、まさかこんな不思議な事に次から次へと出会えるなんて、夢にも思っていなかった乱馬はワクワクし通し。
 それに、自分からいつも逃げてしまう理由も気になった。単に嫌いだから逃げているにしても大げさすぎるからだ。
 そんなこんなで、乱馬はあかねの事がどうも気になってしまうのだった。
(あいつが気配を読めるんなら、こっちは気配を消して待ってれば・・・・・・?)
 ある日、痺れを切らせた乱馬は遂に気配を絶つ事を決めた。今まではそんな事をしたら驚いて、ますます怖がると思ってやめておいたのだが乱馬もそんなに待てるわけがない。
 十日目の朝、遂に乱馬は自らの気配を絶ってあかねを待った。

(妙ね。今日はあの男は来ていないのかな・・・・・・?諦めたの?)
 あかねは岩場に近づきながら、そこにいるであろう相手の気配を探った。だが人の気配はしない。
 あかねは意を決して岩場に姿を現した。
 震える足を何とか動かして岩場から、海を望む。
(なにも、起こらない・・・・・・。やっぱりあの男、今日はいないんだ。)
 あかねは全身の緊張を解いた。足の震えもそれと同時におさまる。
 次の瞬間。
「よっ!また会ったな。」
 あかねが驚いて振り返ると、すぐ後ろには乱馬が立っていた。
「あ、あんた・・・・・・!」
「おめぇがすぐ逃げるから、気配を絶ってたって訳だ。っておい!」
 乱馬の話を聞くあかねではない。あかねは自分の未熟さを呪いながら逃げ出した。
 しかし乱馬があかねを簡単に逃がすはずもない。
「ちょっと待てって!そうやって逃げられっと余計に気になるだろうが。」
 乱馬はあかねの右手首を掴んで引き留めた。
「離してよ!なんなの、あんたは!ここ最近、ずっとこの岩場にいるけどなにかある訳!?用がある訳でもなさそうだし!」
 叫びながらあかねは乱馬の手を振りほどこうともがく。
 しかしあかねの手首を掴む乱馬の手を一向に力を緩めない。ビクともしなかった。
「用ならある。おめぇに聞きたい事があったんだよ。」
「あたしはあんたなんかに用はない!いい加減離してッ!離してってばッ!」
 必死に言うあかねを前に乱馬はどこ吹く風状態。
「この前嵐が過ぎた次の日の朝なんだけどよ・・・・・・。」
 あかねは急に体を硬くした。
(ばれた!?全部こいつに!?)
「俺、人魚に助けられたみてぇだって言ったら、おめぇ信じるか?」
 乱馬は真剣だった。なにかあかねが言うまでこの手は離さないと言っているように聞こえた。
 あかねの全身からドッと冷や汗が出る。身体が凍りついたみたいに冷たくなっていくのを感じた。
「おめぇがなにか知ってんじゃねぇかと思って、待ってたんだよ。なにか知ってたら、教えてくれねぇか?ちゃんと礼ぐらい言いたいんだ。それと・・・・・・おめぇは一体何者だ?」
 あかねの足がガクガクと震え始めていた。
(ダメ!弱気になるな、あかねッ!)
 思わずしゃがみ込みそうになる自分に渇を入れて、あかねは気丈に乱馬を睨み付けた。
「そんなの知る訳無いでしょ!それに、あたしが何者であろうとおさげの男なんかに言う必要はないわ!」
 刺々しく言い放ちあかねは更に激しく暴れ、身をよじる。
 乱馬はあかねの言い方が妙にしゃくに触った。なんとなくムキになってあかねの手を離そうとしない。
「分かったらとっととあたしを離してよ!変態!馬鹿!」
 涙目になるあかねだが、乱馬はそれに気が付かない。
「誰が変態で馬鹿だッ!」
「あんた以外に今誰がいるって言うのよ!鬼!悪魔!外道!」
「げ、外道!?殆ど面識のない奴に向かって言う台詞か!?可愛くねぇ女だな!」
「あんたなんかに可愛いなんて思われたくもないわよ!気色悪い!」
「可愛くねぇ!色気がねぇ!寸胴!」
「色気が無くて悪かったわね!だったらさっさとその寸胴の手を離しなさいよ!鬼畜!」
「鬼畜とまで言うか!大体、さっきから聞いてりゃ・・・・・・俺はあんたじゃなくて乱馬って名前があるんだよ!」
「乱馬だろうが、トンマだろうが関係ない!」
「俺の名前だ!関係あるに決まってんだろ!なんだそのトンマってのは!」
「あたしにしたらどうでもいいのよ!離してって言ってるのが聞こえないの、あんたは!」
 そこまで言ってあかねの瞳から涙がこぼれた。
 乱馬はギクッとして身を引く。
 その機を逃さずあかねは乱馬の手を振りほどいていた。
「あっ!」
「どうせあたしを殺すクセに!」
 捨て台詞を残したあかね。
(『どうせあたしを殺すクセに』?どうして俺があいつを殺さねぇと・・・・・・!?)
 なびく黒髪と、あかねの後ろ姿。
(昨日の人魚!?)
 昨日の人魚と見間違えた。それほどまでに似ていた。
 しかし視線を落とせばあかねの白い二本の華奢な足が、岩場を力強く蹴っている。
(人間だよな。あいつ。そうだよな、あんな奴が俺を助けてくれるはずねぇよ!あいつは俺を助けてくれた奴と絶対に関係ねぇっ!あんっな可愛くねぇ女がいるなんて知らなかったぜ!)
 乱馬はあかねの後ろ姿を目で追いながら、そう判断した。

(あんな奴、海で溺れ死ねば良かったんだ!)
 あかねは流れる涙を拭う。恐怖のあまり思わず泣いてしまった。
 そんなところを見られた事に自己嫌悪。
(あいつを助けたのは間違いだった!あんな奴を助けたあたしが馬鹿だったんだ!あそこで放って置いた方が良かった!あんな奴、あんな奴・・・・・・!)
 あかねはひたすら乱馬を助けたことを後悔した。

 所変わって乱馬の方
 乱馬は少しずつ、罪悪感に襲われていた。
(あれじゃ、俺が悪いみたいじゃねぇか。なんで、あいつ泣いたりしたんだ・・・・・・?)
 震える声、流れる涙。
 思い出せば思い出すほど暗くなる。
(俺が泣かしたんじゃねぇのに、なんでこんな気分にならなきゃなんねぇんだよ。あんな可愛くねぇ女が泣こうが怒ろうが、俺には関係ねぇのに。)
 乱馬はあかねが泣いた理由を考えた。
 原因と言ったら、さっきの罵りあいにあるとしか考えられないが、あれしきの事で泣くのであればもっと早くから泣いていたはずだと乱馬は思った。
 他に原因と呼べるような物はない。
 更に言えば、原因と関係ありそうな最期の意味深なセリフ。あれの意味が分からない。乱馬にはあかねが泣いた原因が分からなかった。
 そこで乱馬は良牙に尋ねてみる事にした。こういう事は自分より良牙の方がよく分かるだろうと思ったのだ。
 良牙は自分の家の前で撒き割をしていた。
「良牙。」
「乱馬じゃねぇか。どうしたんだよ。」
「いや、ちょっとお前に聞きたい事があってな。」
「聞きたい事?」
「こっちに思い当たる節が無くて、原因も思いつかないんだけど、女が泣くって言うのはどういう時なんだ?」
 良牙は乱馬をマジマジと見た。それから良牙は乱馬を上から下までジロジロと見て、おでこに手を当てた。
「おい・・・・・・。」
「別におかしいトコはねぇなぁ。」
「俺はおかしくなんかねぇよ!」
「だってお前がそんな事聞くなんて・・・・・・あ、やっぱりお前好きな子出来たんだろ?だから急にそんな事聞いてきた訳だ。その子泣かしたんだな?すぐ謝ってきた方がいいぞ。」
「ち、ちげーよ!そうじゃねぇって!」
 必死に否定するものの、乱馬は良牙のからかいの対象になってしまった。

 夜になり、みんなが寝静まった頃
 乱馬は人魚がまた来ていないかと思い、家をコッソリ抜け出して浜辺へ。浜辺に近づくと、途中で昨日の歌を感じた。
(あの人魚が歌い始めたのか?)
 乱馬は足を早めた。

 あかねは夜と共に人魚に姿を変えた。
 いつもの浜に近い所の海から突き出た岩の上に座る。
 怖かった。昨日のように急に乱馬に声を掛けられたらと思うと手が震えた。
(お願い、来ないで・・・・・・。あたしは放っておいて。あたしはあんたが今一番怖い。)
 あかねは乱馬を思い浮かべた。
 凛々しい顔。この海の漁師らしい風体。勇み肌の青年だと思った。
 なのに、途中からその乱馬の顔と海賊の船長の顔が重なった。
 思い出したくもない顔。憎い憎い、男。幸せを奪って、人間への恐怖を植え付けた男。
 ゾクリと悪寒が背中を走る。
(今、あいつがニタッと笑った気がした・・・・・・。)
 そんなのは気のせいだと分かっていた。
 あかねは自分の肩をそっと抱きしめる。恐怖に怯える自分を慰めるように。
 そして、いつものように歌い始めた。

 乱馬は人魚を見つけた。
 昨日と同じ場所にいる。昨日と同じように歌っている。
 その背中が寂しげで、不安に揺れていた。
 まだ見ぬ相手の顔が泣き出す寸前なのではないかと想像した。
 乱馬は人魚に声を掛けようとして、なんて言えばいいかと惑った。結局、気のきいた言葉も思いつかない乱馬はこんな事を言った。
「今日も歌ってるのか?」
 あかねはハッとした。
 会いたくなかった男の声が後ろの浜から響いてくる。
(逃げよう!)
 そう思ったが次の瞬間、それを見越した乱馬が釘を刺す。
「逃げるなよ。」
 あかねの身体は全身が金縛りになったように動けなかった。
 身体の震えが止まらない。
 逃げたいのに逃げ出せなかった。
 恐怖のあまり、動けなくなっているのをあかねは自覚した。
「別にお前の事を狙ってる訳じゃねぇよ。不老不死なんて俺は興味ないからな。それより・・・・・・。」
 乱馬はあかねの様子を窺った。今のところ逃げる様子はない。
 乱馬は遂に尋ねた。
「おめぇ、この前の嵐の過ぎた次の日の朝、俺を助けてくれなかったか?」
 あかねは振り向かずそのままだ。
 なにかしら反応した方がいいかもしれないと思ったあかねは、ぎこちなく体を動かしコクンと頷いて見せた。
「やっぱりか!」
 乱馬は嬉しそうにそう言うと続けてこう言った。
「あ、ありがとな、助けてくれて。」
 気恥ずかしそうに言った乱馬の声は少しうわずっていた。なぜなら、助けてくれたのが目の前の人魚なら自分に人工呼吸をしてくれた相手もこの人魚だという事だからだ。
 乱馬の顔は真っ赤だった。
 ただあかねは乱馬に背を向けているのでそんな乱馬を見ることはなかったが。
 岩の上に座ったあかねは固まっていた身体が少し動かせるようになったのに気が付いた。
(本当に、お礼を言う為にあたしを捜していたの・・・・・・?)
 初めて耳を傾けた人間の話。
 あかねは乱馬に対する警戒心を少し緩めた。
 乱馬はあかねが気を緩めたのを感じて、ホッとした。と、同時に少し嬉しくなった。
 昨日は自分がいただけで逃げ出した。今日は自分の話に少し耳を傾けてくれた。
 その進展が嬉しかったのだ。
 ただ気になったのはどうしても昼間の女の背中と重なって見えてしまう事だ。
(ぜっっっっったいにっ!他の誰が人魚であろうと、あいつだけはない!はずだ・・・・・・。大体あいつにはこの人魚みたいな色気なんか感じねぇもんな。いや、この人魚も色気があるかって言ったらあんまねぇ気もするけど・・・・・・この人魚のが可愛げがあるのは確かだ。)
「なぁ、今日の昼間俺と会ってねぇよな?」
(会ってる訳ねぇよ。そう、会ってる訳がねぇ・・・・・・。)
 あかねは急いで首を横に振った。
 その慌てぶりは怪しいものだったが、乱馬はあっさりとそれを信じた。
(ほら、やっぱ会ってねぇってさ。あいつが人魚である可能性はゼロだ、ゼロ。うん、あいつだけは無い。)
 それからしばしの沈黙。
 息苦しいほどの沈黙に耐えかねた乱馬は人魚に向かって、今日の出来事を話し始める。
「きょ、今日の漁はな結構いろんな魚が捕れたんだ。珍しく海蛇なんかが混ざってて漁に出た内の一人がそれとは知らずに掴んだんだよ。ほら、海蛇って毒ある奴とかいるじゃねぇか。そいつ慌てて海蛇掴んだままパニクってさ。海蛇振り回すもんだから、俺達海の上に浮かんだちっこい船の上でそいつから逃げ回ってたんだぜ?落ち着かせるのが大変だったな。その後疲れてるってのに、良牙に手合わせを頼まれて軽くひねってやった。それ見た村の女達が、俺に群がって来て逃げるのが大変だったな。俺ってこれでも結構もてるんだぜ。」
 乱馬はあかねに会って泣かした事以外の今日の事を、全部話した。
 乱馬にとって当たり前の日常の出来事は、あかねにとってどれもこれも新鮮で興味の対象だった。
 新しい知識を吸収するあかね。人間の普段の生活の話はあかねにとってどんな事よりも面白いもので、もっともっとあかねは聞きたいと思った。
 乱馬は一通り話し終えてから、心配そうに尋ねた。
「俺の話、つまんなかっただろ。」
 あかねは思い切り首を横に振った。
(面白い話ばっかりだった。つまんない事なんてない。こいつ、昼間は最低だって思ったけど優しいな。手出しする様子もないし、人間はあの男みたいなのばっかりじゃない。そうよ、こいつみたいな奴だっているんだから。)
 あかねは乱馬に対して少し心を開いた。
 乱馬は乱馬で今度は人魚が逃げずに自分の話を聞いてくれた事が嬉しかった。
 乱馬はさっき人魚が思いきり首を振った時の事を思い出した。
(そんな事無いって思い切り首振ってたとことか、ちょっと可愛いかもしれねぇな・・・・・・。)
 そこまで考えて乱馬は顔を赤くした。
(か、か、可愛いって、俺なに考えてんだよ。俺らしくないこと考えてんな、さっきから。)
 あいつが背を向けてくれてて良かったと乱馬は思った。
 乱馬はする事もなくなったし、明日の漁もあるのでそろそろ家に戻る事にした。
 黙って家に帰るのもなんだし、乱馬は人魚に声を掛けた。
「俺、もう戻る。」
 ぶっきらぼうに言った乱馬にあかねは頷いた。
「・・・・・・あのさぁ。」
 乱馬は照れたように頬を掻く。
「また、明日の晩もここで歌うんだろ?俺、また来ていいかな。ここに。」
 あかねは頷いた。乱馬の話を聞き、乱馬のあかねに対する態度であかねの人間に対する恐怖心は少しとはいえ消えていた。
「じゃ、明日な!」
 あかねはもう一度頷いて、再び歌い始めた。
 乱馬は機嫌よく家に帰る。どうしてだかにやついてしまうのが困ったが、気分良く乱馬は眠りについた。

「よぉ、良牙。今日もいい天気だなー。きっと沢山魚が捕れるぜ。あかりちゃんの為にも頑張れよな。良牙。」
 早朝、ニコニコしながら乱馬は良牙の家を訪れてきた。と思ったらいきなりこれである。
 良牙はどう見ても様子のおかしい乱馬に眉をひそめた。
「何か変な物でも食ったか?それとも、遂にここがいったか?溺れた時の後遺症か?ん?」
「そんなんじゃねぇよ♪」
(おかしい!!)
 良牙は即座にそう思った。
(乱馬がこんな事言われて怒らないなんてある訳がない!)
「お前なにかいい事があったんだろ。」
「べっつに♪」
「あったんだろ!?じゃなきゃなんでそんなに機嫌がいいんだよ、お前。」
 乱馬は良牙に人魚に会った事を言わなかった。言いたくなかったのだ。
 せっかく心を開き始めた人魚が良牙に怯える可能性はあったし、なにより・・・・・・。
(良牙をあの人魚に会わせてたまるか!)
 あの人魚は誰にも会わせたくないという独占欲があった。なんでこんな事を考えるのか自分でも不思議だった。けど、どうしても他の奴には会わせたくないと乱馬は思った。
「今日は夢見が良かったんだ。それだけだよ♪」
 今にもスキップしそうな乱馬。こんなに浮かれて、妙にふわふわとした足取りになるまで良い夢とはどんなモノなんだと良牙は首を傾げ、真剣に考えてしまった。

 一夜明けて、あかねは岩場に来ていた。実はあかねはいつもここに来ていたのだ。ただ最近は乱馬の事があって随分とご無沙汰していたのだが・・・・・・。
(やっぱりここは落ち着くな・・・・・・。海があって、風が気持いいし、日が当たって、眺めもいい、地面もある。あたしには一番いい場所だわ。)
 あかねは岩場の中で最も海よりで、それでいて大きい岩に背を預けた。
(昨日、あたしはあの時逃げられなくて良かったのかもしれない。)
 膝を抱えるあかね。
 昨日の乱馬との会話を思い出した。あの会話がなければ、まだ人間に怯えていたかもしれない。人間に対しての怯えを少しだけど取り払ってくれた乱馬を、あかねは見直していた。
(あたしが、あんな態度をとらなければきっとあいつだってあんな風には言わなかっただろうな。今度人間の姿で会った時は、頑張って普通に接してみよう。)
 あかねは瞼が重くなるのを感じた。睡魔があかねを襲う。気持ちのいい海風は睡魔の手助けをして、あかねを眠りへと誘った。
(ここで、寝てもきっと昼間では漁、とかで忙しいから、誰も、きや、しない・・・・・・。)
 最近はここに来る事がなかったのと同時に、乱馬の事で不安になり歌い終わった後洞窟に戻ってもあまりよく眠れなかったあかね。
 それまでの分を取り戻す為に、今ここで反動が来たのだろう。
 あかねは睡魔と海風に手を引かれ、眠りについた。

(ありゃ何だ?)
 漁に出た乱馬達。網をしかけながら、乱馬はここからそう遠くない岩場をふと見た。
 人影が見える。黒い短い髪をサラサラとなびかせ座り込んだ人影はピクリとも動かない。
(あんなトコにいるのは、昨日のあいつぐらいだな。なにやってんだ、あいつは。)
 乱馬はすぐにあかねだと思った。ハッキリと顔なんか見えないが、直感的にそう思ったのだ。
「乱馬、どうした?」
「・・・・・・。」
「乱馬!」
「うわあッ!?」
 乱馬は飛び上がって驚いた。バランスを崩して、海に落ちそうになる。
 そこを良牙が間一髪の所で、乱馬の腕を掴んだので助かった。
「わりぃ、わりぃ。」
「らしくねぇぞ、乱馬。なにボーっとしてんだ?岩場の方見てたけど、なにかあるのか?」
「な、なにもねぇ!ほんとになにもねぇぞ!」
 乱馬は岩場が良牙から見えないようにした。
(なんで俺あいつの事隠してんだ?別に良牙に知られたっていいのに。)
 とっさにとった自分の行動は乱馬本人にも不可解だった。
(今朝の人魚の事といい、可愛くねぇ女といい。俺どっか悪くしたかな。)
「まぁ、お前がそこまで言うなら信じるけど・・・・・・。お前やっぱり最近変だぞ。挙動不審だし、妙な事聞いてくるし。」
(俺もそう思う。後で東風先生に見てもらった方がいいかもしんねぇ。)
「東風先生に見てもらったらどうだ?」
「・・・・・・そだな。俺も今そう思ったトコだ。」
 乱馬は自分で自分の額に手を当てたくなった。



つづく



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