◇寝たふり
夏海さま作


突然だが、俺は毎朝が楽しみだ。

早く来い、早く、早く
トタトタトタトタ・・・
あかねの足音だ!
俺は目をつぶって寝たふりを始める。
実は寝たふりは俺の毎朝の日課だ。
「乱馬ぁ〜!起きなさいよ!」
起こしにきたあかね。
来た来た、俺はいつも待ってるんだ。
「ねぇ、乱馬ってばー!」
クックック・・・
あかねの奴、俺が寝たふりしてるともしらねぇで。
「乱馬!乱馬、乱馬ぁ!」
俺を必死に揺するあかね。
一生懸命だな、おめぇ。
俺、その顔見るの結構好きだぜ?
「んもー!乱馬!起きなさいってばー!!」
あかねは豪快に俺の布団をはがしにかかる。
おめぇ、もうちょっと力を押さえてひっぱんねぇと・・・。
あーあー・・・布団が俺の頭上から五十センチは離れた壁に叩きつけられて落ちた。
俺がもし布団押さえてたら、あの布団破れてるぞ。
「らーんーまー!」
そろそろ反応しとくか。
「さみぃよ・・・。布団・・・。」
俺はゴソゴソと上の布団を引っ張ってくるまった。
あかねはぷーっと顔を膨らます。
あはは、可愛いでやんの。
言ってやんねぇけどな。
それに俺、知ってんだぜ?
おめぇが毎朝水かけて起こしてたけど、そのせいか俺が風邪ひいてから水かけるのやめるようになった事。
実は俺の事になると凄く神経使ってねぇ?
こういう小さな事でも気にしててさ。
あの風邪はただひろしからうつされただけだってのに。
俺は布団の中でニヤッと笑った。
声が漏れそうになるんで、笑いを必死でかみ殺す。
「もー!いい加減にしてよ!」
また布団をとろうとするが今度は俺も軽く押さえている。
ビリッ!
「あ・・・・。」
馬鹿、だから力を加減しろって・・・言ってねぇけど。
あかねはそのいやーな音を聞いて、布団をはがすのをやめた。
この布団も、またかすみさんに補修してもらわないと。
いや、そろそろ寿命かもな、この布団。
あちこちこいつのせいで破れてるし。
そのたびに補修、破れては補修だしな。
まぁ、布団には悪いが俺の楽しみのためだ。
涙をのんで我慢してくれ。
「乱馬!そうやっていつまでも寝てるんだったら、こっちにだって考えがあるんだからね!」
あかねはなにを思ったか、布団をめくり俺の足をさらけ出す。
そして・・・
「こちょこちょこちょこちょ〜!どう?乱馬、これでも起きない気?」
ぐ、ぐわあぁぁぁぁッ!
あ、あがね・・・ぞればじょっどぎづいぞ・・・!
俺はくすぐったいのを必死でこらえる。
「あれ〜?おかしいなぁ、乱馬は足の裏弱いはずなんだけど。」
なんで知ってんだよ、おめぇが。
どっから仕入れた情報だ!?
しょうがねぇ、誤魔化すか。
「ん〜・・・後五分ぐらい・・・。」
そう言って俺は寝返りを打つ。
足元にいるから表情はわからねぇけど、反応したのを見てあかねは再び移動した。
今度は布団の上の方を剥いで、俺の顔を布団から出す。
「乱馬ーーーーーーーーー!」
耳元で叫ぶなーー!
耳が痛いわ、耳が!
だが俺はその文句すらも耐える。
なぜなら・・・俺を起こす時のあかねが実は貴重だから。
怒ってるような笑ってるような・・・ってだけなら珍しくもねぇ。
けど、朝は眠そうなんだよな。
あかねも。
眠たげな目をこすりつつも、俺を起こそうと奮闘してるあかねはいいぜ。
怒ったような、しょうがないって言うような、笑ったような、でも眠たげな。
いろんな感情が複雑に混ざり合ったこの表情は朝だけ。
特に眠たげなあかねっていうのが珍しい。
確実に見られるのは朝だけだ。
後はたまーに夜遅くとか、疲れてる時とかだけで。
稽古のために朝早くに起こしに来るんだけど、やっぱあかねも眠いよな。
それでもちゃんと起きて俺を起こしに来てくれる事に、なんとなく幸せを感じてみたり。
朝のあかねは俺のお気に入りの表情。
可愛いんだよなー、この顔が。
なんだかんだ言って世話を焼くあかねはきっと、いい嫁さんになる。
不器用は・・・治ってくれると嬉しいんだが。
俺が将来苦労するから。
「乱馬ぁー!ねぇ、稽古できなくなっちゃうわよ!?」
「あかねー・・・。」
あかねはきっと寝言だと思ってんだろーなぁ。
くくっ、おめぇ今どんな顔してるか分かってるか?
この後何が続くか待ってるだろ。
聞きたいような、期待するようなその目。
可愛いなんて言ってやんねぇ。
俺は素直じゃねぇんだよ。
「可愛くねーぞぉ・・・。」
「・・・乱馬の馬鹿!なによ、夢の中でもそんな事言ってるのね!」
夢じゃねぇっての。
あかねはちょっと沈んだ表情になる。
「そんなにあたし可愛くないのかなぁ・・・。」
そんな訳あるか。
おめぇは可愛いに決まってんじゃねぇか。
俺の許嫁で、俺の惚れた女だぜ?
俺の目にかなうなんて大した女なんだから、胸張ってりゃいいのによ。
こいつには自信ってもんが足りねぇ。
ったく、もうちょっと自信持てばヤキモチ焼くのも少しは押さえられるんじゃねぇのか?
ヤキモチ焼かれんの嬉しいけど、あんまり度が過ぎるとなぁ・・・。
「ねぇ、乱馬。あんたは一体誰を見てるの?」
おめぇだよ。
「乱馬が猫化した時、いつもあたしの所に来てくれるじゃない?だから少し期待してもいい?」
期待もなにも、俺にはおめぇしかいねぇよ。
それにしても猫化かー。
俺は覚えてねぇけど・・・いいよな。
あかねに甘えられてさー。
ちぇっ、いつか猫化してない時に甘えてやる。
・・・ん?
今出来るんじゃねぇのか?
だって俺は今寝てるんだから。
少なくともあかねはそう思ってるんだから。
それってチャンスだ!
なんで今まで気が付かなかったんだろ。
いっちょ試してみっか。
「あ、話してる間に時間が・・・!乱馬!起きて、乱馬!」
俺のすぐ側で、膝をついて座るあかねを薄目を開けて確認。
あ、俺の体揺すり始めた。
あかねは俺の体を両手で揺すってる。
ウエストががら空き。
俺はその隙にがら空きになったウエストに抱きついた。
「あかね・・・。」
「きゃっ!ら、乱馬!ちょっと、離してよ!」
驚いてあかねはぺたんと腰を下ろした。
顔赤いぞ。
どうしようかってオロオロし始めるあかね。
腕はきつくあかねのウエストに絡みつける。
おめぇじゃ外せねぇぜ。
やっぱり細いな。
あかねは俺ほどではないけど、女子の中で見るとやっぱりスタイルも良いんだよな。
大介とかひろしとか、五寸釘・・・等々、スタイルがいいせいであいつらが鼻の下伸ばしてあかねの体育着姿を見るのはいただけねぇけど。
俺の頭はあかねの膝の上。
柔らけぇ・・・。
しかもあったけぇし。
将来こいつは俺のモンだ!
絶対誰にも・・・例えば良牙とか久能とか真之介とかには渡してやんねぇ。
あかねは俺の嫁さんだ!
俺、起きてる時は素直になれねぇから。
だからこうやってしたい事を朝寝た振りしてやってたりするのは・・・俺だけの秘密。
「乱馬、顔が笑ってる・・・。一体誰の夢を見てるのかしらね。あんたは。」
あかね俺の頭に手を置いて、撫で始めた。
気持いい・・・。
「もう、ちょっとだけだからね。」
あかねは優しくそう言った。

俺は朝が好きだ。
あいつが起こしに来てくれるから。
あいつのいろんな顔が見られるから。
俺が素直に行動できるから。
本当はあかねが起きるのより早く起きてるのに、起きない。
それって言うのも全てはこの為。
だからもうちょっとこのまま。
おめぇの前では寝起きの悪い俺でいよう。

俺は朝が大好きだ。
こうやってあかねに甘えられるから・・・。
だから明日もおめぇよりほんの少し早く、起きてみよう。








これぞ、乱あの真骨頂!
いいな・・・この乱馬が。表情の一つ一つが浮かんできます。
居候の特権だね・・・(うふふ
でも、あんまりゆっくりしてると「遅刻」しちゃうぞ・・・いつも駆けてるのはそのせいかも・・・。
(一之瀬けいこ)





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