◇優柔不断返し! 後編
夏海さま作


キーンコーンカーンコーン・・・
チャイムと共に、教室から出るクラスメイト。
「乱馬、私今日お昼いらないっていっといてね。」
あかねはそれだけ言うとさっさと良牙の所へ行った。
「良牙君、ゴメンナサイね。こんな所で待たせちゃって。」
「い、いい、いいんですよ。全ッ然!どこに行きましょうか!?」
舞い上がって、うわずった声が聞こえる。
勿論、良牙の声だ。
あいつ、あかねとデートできるってんで相当舞い上がってやがるな。
おめぇにはあかりちゃんがいるだろーが!
この二股男!
俺はジトーッと二人を影から見る。
「へ〜、あかねと良牙。いい感じじゃないか。」
「うん。乱馬ぁ、お前ホントにあかね誰かに盗られるんじゃないか?」
「うっんんん!」
叫びそうになって、慌てて自分の口を塞いだ。
後ろにはいつの間にかひろしと大介がいた。
「おめぇら、なにしてんだ。」
ヒソヒソと話す。
「俺達だってあかねの事気になるんだよ。」
「そうそう。学校のマドンナ、『天道あかねの彼氏の座は一体誰の手に』ってな。」
「ちぇ、勝手にしろ。」
という訳で俺とひろしと大介の三人は、良牙とあかねの二人をつける事となった。

「ねぇ、良牙君。この前新しくできた所でいい?ちょっとおしゃれな感じで女の子の間で人気なの。」
「そうなんですか。」
「うん、だから今度あかりちゃんと来たらどうかな?今日は私とで悪いけど・・・今日は下見ね♪それから、今日は私の奢り。大した物は奢れないけど。」
良牙はあかりちゃんの名前が出ると、居心地悪そうになった。
けっ、あかねとあかりちゃんを二股かけてやがる天罰でぃ。
そのまま二人はあかねの言う女子に人気だという店へ。
なるほど、女子の好きそうな店だ。
俺だったら絶対行けねぇような、少女趣味な店。
良牙もよくついて行ってやれるよな。
「乱馬、見ろよまわり。カップルだらけだぜ。」
「ここって最近、デートスポットで有名なんだよな。」
で、でぇと・・・!?
「なぁ、二人は中に入ったぞ。」
「俺達は男三人。」
「なのにこんな店に堂々と入るのはかなり抵抗があるよな。」
「外で待ってりゃいいだろ。」
俺はそれだけ言って、二人の様子を外から見る。
丁度窓際に座った。
様子見るにはうってつけだぜ。
それだけにこっちを見られるかもしれねぇが、この後ろで話しまくってる二人はともかく武道の達人であるこの俺には隠れる事ぐらいどうって事ねぇぜ!
・・・・ち、ちっと虚しかったな。今のは。
隠れるための武道じゃねぇってのに。
あかねと良牙は二人でなにやら楽しそうに話しながら、昼飯を食っている。
ぐっぞ〜、こっちは昼飯だって抜いてんだぞ。
なのに良牙のヤローはあかねと一緒に飯を・・・・あああああああああああぁあぁぁぁッ!
「お、おい。見たか今の!」
「ああ!良牙の奴、顔についたご飯粒をあかねに取ってもらったぞ!」
「しかもあかねの奴、そのご飯粒を喰った!」
「「羨ましいぜ〜、良牙!」」
「くっ、確かに羨まし・・・いやいや。」
「羨ましい」と言いかけて俺は首をブンブンと振った。
後ろの二人は「なんだよ乱馬〜。お前も羨ましいって思ってんのかよ」とか言っている。
「んな訳ねぇだろ!」
俺は大急ぎで否定した。
ふぅぅ。
あぶねぇ、あぶねぇ。後ろにこいつらが居るの忘れてついつい本音を吐くとこだったぜ。
に、しても良牙のヤロー!!
いい加減にしろよぉおおおおおッ!
おめぇがそういう事すんだったらこっちは邪魔してやるまでだぜ!
俺は近くの電話ボックスへと走った。

それから約十分後
「良牙様!」
「あかりちゃん!」
そう、俺が呼んだのはあかりちゃん。
こうすりゃ人のいいあかねの事だ。
席を外すに決まってるぜ。
そう思っている間にあかねは良牙とあかりちゃんを残して席を立った。
勿論お金を置いて。
こういうとこ細かいよな。
そのままにしときゃあ、良牙が金出してくれんのによ。
ま、なんにしてもこれであかねはとっとと家に帰るだろ。
「なんだ、あかね帰るみたいだな。」
「・・・俺達も帰るか?」
「そうだな。」
早く帰ってくれ。俺はあかねと帰りてぇんだ。
「乱馬、お前どうする?」
「俺は帰って飯にするに決まってんだろ。あかねなんかにこれ以上かまってられるか。」
「「自分からあとつけてたくせに〜。」」
ニヤニヤと笑うひろしと大介。
「うっせえな!」
「怒るなよ。」
「そうそう。じゃあな、乱馬!」
「月曜に、どうなったか教えろよ〜!」
なにを言ってんだ。
どうなったかって、何かあるわけでもなし。
・・・あってくれたら俺は嬉しいけどな。
俺は二人が帰るのを見送ってから、道場の方へ駆け出そうとした。
今ならきっとあの角を曲がってちょっと行ったあたりで追いつけるだろ。

「え?お茶?いいですけど。」
ズゴォォォォォォッ!
俺は思いきり転けた。
なんで先に行ったはずのあかねの声がここでするんだ!
と、俺の視界にあかねと見知らぬ男の姿が入った。その男はどう見ても、ナンパヤロー。
あかねにちょっかい出しやがって〜・・・・・!
あかねもあかねだ!いくら変になってるからって、そんな男と茶なんて!
断れっての!
俺は殺気をみなぎらせ、あかねとナンパヤローに近づく。
「おい、こら!」
「な、乱馬!」
突然の俺の出現にあかねは驚く。
「帰るぞ!」
有無を言わさず、あかねを家に連れて帰ろうとした。
「ちょっと待てよ、お前!この子の何なんだよ!」
「あぁ?俺はな、コイツの許嫁だ!」
殺気だった俺はナンパヤローを睨んだ。
男は俺に怖じけずいて逃げて行く。
あかねに気安く声かけんな!
俺はあかねと手を繋ぎ、そのまま引っ張った。
今のあかねじゃ、どんな変なヤローにつけ込まれてフラフラついってちまうか・・・。
「乱馬?」
俺は黙ったまま。
「乱馬ってば!」
あかねは歩くのをやめた。俺もそれに少し遅れて歩くのをやめる。
俺はあかねに聞いた。聞きたかったことを・・・真剣に。
「おめぇはいつからそんな男たらしになったんだよ。」
「?」
「俺の知ってるあかねは可愛くねぇうえに寸胴で凶暴だけど、好きでもねぇ奴とで、デートしたりするような奴じゃねぇ!」
「何言ってるの?乱馬だって同じような事、してるじゃないの。」
『俺はそんな事してねぇ!』と言おうとした、その時!
「乱ちゃ〜ん!」
「う、うっちゃん!?」
なんて間の悪いところに来るんだ!うっちゃん!
今はあかねと真剣な話をしてるってのに!
「あれ?あかねちゃん、良牙とデートやったんとちゃうの?」
「そうだったんだけどね。途中であかりちゃんが来たから交代したの。」
「そうやったんか・・・。(なんや、あかねちゃんがデートしてる間に乱ちゃんモノにしようと思ったのに)」
「右京はどうしたの?」
「乱ちゃんをデートに誘うつもりやったん。乱ちゃん、行こう?」
「え、うっちゃん。俺・・・・。」
ハッキリいわねぇと!
あかねが怒りだしちまう!それに俺は決めたんだ!
今日こそはハッキリと断るって!
「うっちゃん、俺うっちゃんとは・・・」
「行って来なさいよ、乱馬。」
断ろうとしてる俺に、そう言ったのはあかねだった。
いつもならヤキモチ焼いてるのに。
あかねはニッコリと笑って言った。
いつもは引きつり笑いで精一杯なのに。
もう・・・ヤキモチすら焼いてくれねぇのか?
脱力して、立っているのがやっとだった。
「ほんま?乱ちゃん、あかねちゃんええて言うてくれてるし・・・行こ?」
あかねは足取りも軽やかに道場へ帰る。
「うっちゃん、ゴメン。俺うっちゃんとはデートできねぇ!」
俺はすぐにあかねを追いかけた。
けど、既にあかねは見る影もない。
風が誰もいない道を吹き抜ける。
俺、もうダメなのか・・・。
いつもどんな奴が敵でも、俺は諦めなかった。
どんな事があっても諦める事だけはしなかった。
でも・・・今回ばっかりは諦めるしかねぇのか・・・?
思わず涙が出そうになった。
それに気が付いて、慌ててそれを拭う。
「もし、どうしたんじゃ?」
後ろからかかった声に振り向くと、ばあさんがいた。
「そんな風にしていては色男が台無しじゃよ。」
「ほっといてくれよ。」
「お主は、黒髪でショートカットの可愛いお嬢さんの事を思っているのではないかな?」
「なっ!なんで・・・・!?」
「やはりのぅ。」
ばーさんが俺のかんがえている事をピタリと当てたんで、俺は焦る。
温和で、まるでかすみさんを思わせるように穏やかな笑顔をしているばーさん。
だが、次の瞬間。
表情が引き締まり、厳しい声で言った。
「お主のここ最近の行動を儂はずっと見ていた。お主はあのお嬢さんをないがしろにして、他のお嬢さん達と遊んでおったじゃろう。そのくせ、お嬢さんが他の男とデートすれば怒るのか!」
「っ・・・・俺は別に付きまとわれてるだけで、別にあいつらの事なんとも思ってねぇ!」
「そうかの?それならば何故ハッキリそう言わんのじゃ。そんなのはお主のくだらぬ言い訳にしかすぎん!心のどこかで、もてているのが嬉しかったのではないか?」」
言葉に詰まった。
ばーさんの言っている事は正論だ。
確かにあいつらは俺がちゃんとしていれば、つきまとわれる事はねぇはずだ。
それに・・・シャンプーやうっちゃんに追いかけられるのも、心のどこかで『俺はもてるんだ!』って喜んでた。
「お主はあの子が他の男とデートすると聞いて、嫌な気持ちになったのではないかな?不安に思ったのではないかな?」
俺は何も言えねぇ。言えなかった。
ばーさんは続ける。
「同じじゃよ。あのお嬢さんはお主を好いておる。それ故、いつもお主と同じ思いをしていたのじゃ。あの子の気持ちが分かったじゃろう?」
十分すぎるほど、あかねの気持ち分かったよ。
いつもいつもこんな思いしてたんだな。なのにちっともしらねぇで、俺は・・・・。
それでも、それでもおめぇは俺の側にいてくれたんだな。
「行くんじゃ。これをお嬢さんに飲ませれば、お嬢さんの身体に染み渡った薬も効果を失う。」
バーサンは厳しい表情を崩した。
「薬って・・・?」
「儂はこう見えても中国の薬師なのじゃ。必要な珍しい薬草が丁度手に入ったので、わしの特別に調合した薬により、お嬢さんはああなってしまっただけじゃ。」
って事は、このばーさんのせいであかねは・・・
「て、てめぇっ!あかねに妙な薬飲ませやがって!」
「なにを言う。これはお嬢さんの意志じゃよ。」
このばーさんにはまだまだ言いたい事はあったが、言わずにおいた。
あかねをそうさせたのは、俺に責任あるし・・・。
それに一刻も早くあかねを元に戻したい。
ただばーさんの薬をもらい、家へ急ぐ。
「お嬢さんによろしく・・・。」
後ろでそう言ったばーさんに、俺は手を挙げて答えた。
老人は満足そうに微笑む。
「後はお主次第じゃ・・・・。」
その風と共に、老人は消えていた。

天道道場

「あかねぇ〜!あかね〜!」
名前を呼びながらあかねを探す。
「は〜い!あら、乱馬右京とのデートは?」
あかねは道場からひょっこり顔を出しそう言った。
今の今まで、稽古をしていたらしい。額に汗が光る。
「そんなのどうでもいいんだよ!それよりこれ!」
「ん?なにこれ。」
「いいから!飲め!」
あかねは首を傾げる。
それから肯いて、もらった薬を飲み込んだ。
キョトンと俺を見上げる。
・・・ホントに治ったのか?あかねは。
よし、いっちょ試してみっか。
「あかね、今日俺うっちゃんをとデートなんだけどよ〜・・・」
バッシ〜〜〜〜〜〜ンッッッ!!!
「行ってくれば!?」
あかねの平手打ちが俺の左頬にヒット。
見事な手形が俺の頬に残り、俺の耳が痛くなるほどの怒鳴り声。
このヤキモチの焼き方はいつものあかねだ!
「良かった〜〜っ!!」
俺はあかねを抱きしめる。
「きゃあぁぁぁぁぁッ!?」
次の瞬間、右頬にもあかねの手形が残る事になったのは言うまでもない。

本当はすぐに「好きだ」と言うつもりだったんだけどなぁ。
あかねの機嫌を取る方が先になっちまった。
でも、ちゃんと言ってやるから。
だからさっさと機嫌直してくれよな。
俺の大切な・・・『許嫁』。







ちなみに。
次の日、九能先輩は駅で一日中あかねの事を待っていたという。
しかし約束した本人のあかねは、薬でおかしくなっている間の事は全く覚えていなかったのだった。







作者さまより

どうも、こんにちは 夏海です。 乱あ小説を書くのはこれが二回目で文章を書くのもそんなに慣れてないんです。だからちょっと不安だったんですけど・・・。掲載してくださってありがとうございました。



夏海さまは初投稿当時、中学生でありました。
投稿をいただいたとき、その巧みさに、うかうかしてられない…と焦ったのを覚えております。
優柔不断。乱馬の代名詞のような言葉ですね。いい意味で言えば純情無垢。
(一之瀬けいこ)



Copyright c Jyusendo 2000-2005. All rights reserved.