◇優柔不断返し!  中編
夏海さま作


「よぉ、乱馬!」
教室にはいると、ひろしと大介が寄ってきた。
どうせ、あかねの事を聞きに来たんだろ。
「あかねが久能先輩にデート申し込んだって本当か?」
「見てりゃわかるぜ。」
俺はどうでもよさそうに答えた。
内心は、ものすごーく焦っていたんだけどな。
「天道あかねーーーーーーーっ!」
ほらな、来ると思ったんだよ。
あかねがあんな事言ったんだ。
九能からすりゃ、これほど幸せな事はねぇ。
「九能先輩。なんですか?」
「天道あかねよ、今朝のデートの申し込みの件だが、あれは本当か!?」
九能も半信半疑なんだろーな。
今までが今までだし。
交際を申し込むたびに断られ、殴られ、ぶっ飛ばされ・・・・
それが今日はどうだ。
掌をひっくり返したようにデートを申し込んだんだ。
あかねから。
「あら、九能先輩。私とデートは嫌ですか?」
ニコッと笑った。
「「「えええええええええええええっ!あかねが九能先輩とデートするぅぅぅぅぅぅぅ!?」」」
教室中に俺達の叫びがこだまする。
聞いたのは二度目って奴もいるが・・・それでも叫ばずにはいられねぇ。
信じたくはなかったが・・・あかね本気なのか?
「嫌だなんて、嫌だなんて!そんな事があるわけないだろう!天道あかねよ!やっと素直になったのだな!僕は、僕は、嬉しいぞぉぉぉぉ!!」
九能はあかねに抱きつこうとした。
クラス中の奴が、あかねにぶっ飛ばされる九能の姿を予想した。
が、しかし。
殴られる音はしなかった。
「やだ、九能先輩たらッ!みんなの目の前で、私恥ずかしい!」
九能に素直に抱きつかれたあかねがいた。
いつもなら、すぐにぶっ飛ばしてただろ。
なんで突きはなさねぇんだよ!
ドスッ!
俺は気が付けば九能の上にのっていた。
「よぉ、あかね。いつから久能と抱き合うような趣味を持つようになったんだ?」
「抱き合うような趣味なんて・・・私には乱馬しかいないわよ。」
かあぁぁぁぁぁッ!
顔が沸騰するほど赤くなるのを感じた。
あかねは俺を見る。
真っ直ぐに、黒曜石のような綺麗な瞳で。
あかねの目には顔を真っ赤にした俺が映っている。
単純と思う奴もいるかもしれねぇがなぁ、そう言う奴はあかねにこれを言われてみろってんだ。
初めて会う奴だってクラッとくるぜ。
俺なんかあかねに惚れ・・・・ってそれはいいとして。
「あ、あの、あかね本気?」
「勿論よ。私には乱馬以外いないの」
と、同時だった。
ズゥゥゥゥゥゥンンンッ!ズゥゥゥゥゥンンンッ!!
近くなる音。
そして・・・・
ドガアァァァァァンッ!!!!
「ここはどこだぁぁぁっ!?」
爆砕点穴により掘った穴から出てきたのは永遠の迷い子、色んな意味で俺のライバル(?)である響 良牙!
「あら、良牙君じゃないの」
「あ、あかねさん!お久しぶりです。これ、函館名物のたこ焼きです。」
「良牙君、たこ焼きは大阪じゃない?」
あかねはすでに九能から離れ、衝撃で久能から落ちた俺に気にもとめず良牙とニコニコと会話を始めた。
「良牙君、今日暇?」
「はい!」
「じゃあ、たこ焼きのお礼させて?」
「えっと・・・それって一体どうゆう・・・?」
「だからデートしない?」
カラーン、コローン・・・・
良牙の周りに小さな天使が舞う。
「りょ、良牙君?」
「あかねさん、それホントですか!?」
「ええ」
あかねのさわやかな笑顔が決まる。
その笑顔に、クラスのヤロー共は思わず釘付けだ。
が、俺はどん底にいた。
あかねが、あの、あかねが・・・・
軽々しく好きでもない男とデートするなんて事・・・・ある訳ねぇ。
でも、現に起きている。
俺ってモンがありながら!
「くぉら、あかね!」
「なに、乱馬」
「おめぇ、良牙の事好きなのかよ!」
「好きよ」
目の前が真っ暗になった気がした。
「友達として」
あかねはつけたす。
あ、なんだ。友達としてか。
ホッとする自分がいた。
気の毒な良牙はどうやら「友達として」のセリフは聞こえなかったらしい。
それはいいとして・・・・
いきなりどうしたんだ、久能に良牙に俺。
あかねは次々に声をかける。
普段から思ってた事だが、あかねは俺に惚れてんじゃねぇのか?
もしかして・・・それって俺の自惚れ!?
密かに俺は両想いじゃねぇかと思ってたんだけどな。
『勘違い』 『思い過ごし』
その言葉が俺の頭によぎった。
「九能先輩、明日は日曜日ですから十時半に駅前で待ち合わせしましょ♪行き先は先輩にお任せしますから。」
「任せておけ、天道あかねよ!では、明日楽しみにしているぞ!」
九能は笑いながら教室を出て行った。
「良牙君」
「はい!なんでしょう!」
「良牙君、今日は土曜日で学校が早く終わるの。良牙君迷っちゃうだろうから、待っててくれる?学校帰りにそのままデートしましょ。」
「はい!じゃ、俺教室の前で待ってますから!」
良牙は顔中の筋肉がどうかしたんじゃねぇのかってぐらいに顔を緩ませて教室から出て、教室の前の廊下で授業が終わるのを待ち始める。
そこでようやっと教室が普通の生活を取り戻す。
とは言っても、話題はさっきのあかねの事で持ちきりだ。
「ねぇ、あかね。一体どうしちゃったの?久能先輩や良牙君とデートなんて。」
「九能先輩っていっつも私に「付き合ってくれー!」とか「デートしよう!」とかって誘ってくれるじゃない?私、九能先輩自体は好きじゃないけど久能先輩はずっと前から一途に私の事思ってくれてるでしょ。だから無下に断るのもだんだん苦しくなって来ちゃって。だから一回ぐらいならデートしてあげようかなって思ったの。」
「なるほどね〜。で、良牙君とデートするのはなんで?」
「いつもいつもお土産を持ってきてくれるお礼。デートっていうよりも散歩みたいなものよ。お土産のお礼にお昼をおごってあげるの。それからちょっと歩くだけ。良牙君にはあかりちゃんがいるもの。」
それは立派なデートだろーが!!
あかねとさゆりとゆかの会話を聞きながら思った。
「乱馬〜、どうすんだよ」
大介が俺を肘でつつく。
「どうって?」
「あかねが九能先輩や良牙とデートするって言ってんだぞ?気にならないのか?」
ひろしが耳元で囁く。
言われねぇでも気になってるっての!
なんでぇ、あかねの奴。
昨日は俺にキスして、今朝だっていきなり手ぇ繋いだり、「私には乱馬だけ」なんて言いやがったくせに!
さっきのあの言葉は一体何だったんだ!?
昨日からのあの行動は!?
俺の事弄んでただけか?
あかねの馬鹿ヤロー!
「でもさぁ、乱馬にヤキモチ焼く権利ないよなぁ。」
「あ、確かに。」
二人はそう言って肯いた。
「シャンプーに右京に小太刀。そしてあかねだもんな。」
「美少女、まぁうち一人は変態だけど四人相手に自分の気持ちハッキリ言わないでさぁ。」
「ふーらふらしてたら、あかねのあの態度も無理ないよな。」
「うんうん。大体乱馬とあかねって許嫁とはいうものの親同士が決めただけで乱馬はともかく、あかねの気持ちは乱馬に向いてるかどうか分かんないもんな。」
「俺も思った!あかねってまだ乱馬のもんじゃないんだよな。本人達、まだなーんにもしてないって言ってるしさ。」
「あ、じゃあ俺達にもチャンスあるんじゃねぇか?」
「俺今度あかねをデートに誘っちゃおうかな♪」
「ひろし、ずるいぞ!そんときゃ俺も入れて三人だ!」
「馬鹿!二人っきりじゃなきゃ意味無いだろ!?あかねを口説くチャンスをダメにしてたまるか!」
俺の事をすっかり忘れて話す二人。
俺はというと、ひろしと大介のあまりにも的を射た意見に放心していた。
思い当たることは沢山あった。
あかねには「好きだ」と言いかけた事はあっても、一度もハッキリと言ったことはなかった。
シャンプーやうっちゃん、小太刀に「おめぇらの事は何とも思ってない」と言ったこともなかった。
確かに、端から見たらそれがフラフラした態度に見えたかもしれねぇ。
それでもあかねはヤキモチ焼いてくれてたじゃねぇか。
あかねは俺に惚れてる!!(・・・はず。)
いや・・・・、でも愛想つかしちまったのかも。
あり得る。
あかねはハッキリしない俺に付き合うのが嫌で、それでやけくそになって色んな奴とデートしようとか思い始めたんじゃ・・・。
そ、そういえばあかねの奴は俺に「私には俺だけ」とか言葉や行動では俺の事好きみたいな態度とってたけど、「デートしよう」とは誘いもしなかった。
お、俺ってもしかして最早久能や良牙以下!?

こんな事なら、あかねにもうちっと優しくしてやりゃよかった。
あかねの料理だってちっとはおいしそうに食べてやりゃよかった。
こんな事なら・・・もっと早くにあかねに「好きだ」って言ってればよかった。
まだ、間に合うかな。

はっ!考えてみりゃひろしや大介とかに無差別に声をかけてる訳じゃねぇし。
って事は俺にもまだチャンスはある!!!
フッ。
フッフッフッフッフッ!
覚悟しろよ、あかねぇ!
もう二度と他の男に声かけらんねぇように、俺しか見えなくさせてやるぜ!

乱馬があかねの心を取り戻そうと燃える側で、もう一人燃えている奴がいた。
「あかねちゃんが良牙や九能先輩とデート。乱ちゃんを落とす絶好のチャンスや。」
久遠寺 右京。
乱馬の許嫁の一人だった。



つづく



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