◇replace その7
なな(高野連)さま作


照りつける太陽。
渇いてる空気が余計に体を暑くさせるような感覚を乱馬は覚えた。

飛び立ってざっと30分はなにもない砂漠の上を飛んでいる。
まぁ、飛ぶなんて常識的に考えたらありえないが、彼のハチャメチャな人生では、これは許容範囲内らしい。
なにもせず、空を仰ぎ見ながら絨毯に寝そべっていた。

実はこの時点で乱馬は“己が早乙女乱馬”だという情報が消えそうになっているのだった。
しかし、こうやってなにも考えず、寝そべってる彼は気付く様子もなかった。ごくごく自然に記憶隠蔽が行われていた・・・。
それが誰によってかはわからない・・・。


「なぁ、砂漠っていつまで続くんだ?」
雲もない砂漠の上を飛ぶこと40分弱。些か苛立ちにも似た感情が湧きあがり、乱馬はジーニーにたずねた。
ジーニーは? というと・・・

「ガー」
寝てた。

「くらぁ!」
ピンっと指で弾くとジーニーは叩かれた場所を擦りながら起き上がった。
「なにするんだ!!」
半分、寝ぼけ眼で。

「なにじゃねーよ。お前精霊の癖に寝んじゃねーよ!」
「よかろう? 精霊だって意志をもつ一つの単体。寝ようが何しようが、そなたに関係ない。」
きっちりそう言い切ると、また絨毯の一部を肌かけ変わりに寝ようとする。それを乱馬があっけなく阻止した。
「関係ねーけど、いつ着くんだよ? 街ってやつはよ?!」
「もう少しだ!! ガタガタ云うな!! あぁ、なんでこんな奴が主人なんだ。アンラーよ、私の行いが間違っていたのですか?」
「なに、ブツブツ云ってんだ! ちくしょう。つうかあちぃ〜」

絨毯は地上よりも高い位置を飛んでいた。
時々、どこかから流れてきた雲に当たったりするが、その時以外は過酷なまでに暑い。
しかし、地上よりは涼しいし、上空とあって風も流れてる。飛んでるから風は強いくらいだったが暑いものは暑い。

ジーニーが云ってる街とは、この砂漠の内部にある都だった。
まだ国がまとまって居らず、その地域だけの王がいる都、アリモエという街を目指していた。

そこは、昔ジーニーを創った主の故郷だった。
ジーニー自身忘れていたが、根底にその記憶があるらしい・・・。
そして、乱馬たちのいる場所から、アリモエはそう遠くはなかった。

「寝てれば着く。」
精霊にしては随分サラリとしたことを言われ、丁度眠かったので結局乱馬も寝てしまった。



灼熱の大気は幾分柔らかくなっていた。
都が近い・・・。






涼しい風が乱馬の頬を流た・・・

「ンガッ」

目覚めると、巨大都市の中心の真上に絨毯は居た。

「な、なんだ!?」
驚く乱馬。
無理もない、先ほどまでは黄金に輝く砂と、赤く照りつける太陽と、どこまでも澄んだ青空以外なにもなかったのだから。

「アリモエだ。」
「アリ??」
「ア・リ・モ・エ!!」

どうやら無事、砂漠の都・アリモエに到着したようだ。

「まぁ、それはともかく、ココが言ってたとこか?」
「そうだ、青二才。鼾が五月蝿くて吾の睡眠を害させてくれたな?」
「青二才はよせ! 俺は・・・あれ?」
「俺は? 青二才だろ?」
「ちげーよ! アホ!! って俺・・・名前・・・」

本格的に名前を忘れている。
記憶の隠蔽が完全になってきているようだった。

「と、ともかくだ。ココでなにすんだよ?」
「それは知らん。お主で決めろ」
「はぁ!? き、決めろって? ・・・お前俺の下僕だろ?」
「そこまで落ちぶれた役職に当たっては居らん! 願いを叶えてやるだけの精霊だ!」
「どっちにしろ、俺のコマだろ? ココにつれてきたのはお前じゃねーか!?」

確かにそうだった。
しかし、ジーニー自身も絨毯も無意識でアリモエに来たのだ。

「と、ともかく街見学でもすっか・・・」

そう折れたのは眠気がすっかり取れた乱馬だった。


絨毯はゆっくりと人気のない建物の上に降りると、静かに乱馬たちを下ろした。
それと同時に絨毯はターバンになってしまった。

「なに、これ???」

いきなり変形した絨毯を見て慌てふためく乱馬。

「巻いてると便利であろう? 携帯できるのだ、画期的であろう?」
ジーニーはそう得意げにいうと、浮遊状態から足をつけた状態になった。
「合図をすれば絨毯になる、別の合図で巻きつく。なんて便利なんだ☆」
そう言うと、スタスタと階段を下りていった。
「早くしろ。」
そう言って。

乱馬は少し、感に触ったが、言われた通り別の合図を絨毯改め? ターバンにすることにした。
しかし、これといって勇気が出ない。

どんなスピードで巻きつくのか?
どんな硬さで安定するのか?

一種の賭けに等しい感情がそこにあった。

唾を一つ飲むと、乱馬は恐る恐る口笛を吹いた。
が、その瞬間、床に落ちていた布が恐ろしい速さで乱馬の頭目掛けて飛んできた。
「な!?」
驚いた乱馬は慌てて目を瞑った・・・が、痛みなどはなかった。ゆっくりと目を開けると、頭をすっぽりと先ほどの布が巻きついていた。

「な、なんでぇ・・・。脅かしやがって・・・」

そういうと乱馬もジーニーの降りていった階段に向かった。



「急須っ」
「ランプだ!」

やっと追いついた乱馬。
ジーニーは階段をスタスタと下っていた。

「ここってどんなとこなんだ?」
「ここは砂漠の都・アリモエ王朝の築いた都市だ。吾らのいるこの場所は言わば城下町で、すこし行った所に王宮が聳えてる。」
「ほーっ」

乱馬はそんなこと全く知らない。
ジーニーもそれ以上は言わなかった。

階段を下ってる途中、何軒か戸が存在していた。
その戸は回転するように作られた階段に沿った形で湾曲してる不思議な構造のトビラだった・・・。下っていくにつれ、階段の途中途中に小窓が現れた。その小窓の外は砂と同じ色の壁と、ロープを張り巡らしたような光景が見えた。

階段は思ったよりも長かった。
しかも緩やかに大きく回転する螺旋階段のせいで自分がどのくらいの高さに居るのか解らなかった。そうして下ってると、その湾曲したトビラの開いている所があった。
戸は内開きで、半分ほど開いていた。
薄暗い階段に若干の光が漏れていた・・・。

ジーニーは乱馬の前を相変わらず進んでいた。

乱馬がその戸の前を通った時、開いたドアの先に等身大の大きさを映し出す鏡が見えた。
その鏡を横目でちらりと見たとき、自分の摩訶不思議な格好に驚く。

ターバンを巻いた頭はトレードマークだったお下げすっぽり隠し、意外にすっきりとしていたけど、着ている服とのコーディネートは最悪。
思わず、ドアと開き中に入ってきてしまった。

改めで鏡の前に立つと、自分のハチャメチャな格好にゲッソリとする。
しかし、ターバンは取ってはいけない気がした。でも、服はない。
どうするか? と悩み、思わず襟元を掴むと、鏡の後ろから同じ年くらいの女の子が出てきた。

「わぁ!!!」

驚いて後退する。
しかし、この状況、反応的には逆ではなかろうか?
「あなた誰?」
女の子は好奇心いっぱいの顔で近寄ってきた。

「あっ、ご、ごめん。勝手に入ってきて。」
「うんん、構わないわ。 この鏡に見惚れたんでしょ?」

クスっと笑うと彼女は乱馬の目の前に来た。
別にそんなことはない。自分の格好に驚き、ナルシな部分がよび起されてここに足が向いたと言っても過言じゃない。

「・・・・不思議な格好ね?」
女の子はまた小さく笑いながらそう言った。

「え? あ、あぁ・・・」
「どこから来たの?」
「・・・」

どこからきたのか? 自分が誰なのか?
乱馬自身解らなかった。

「盗賊さん?」
「え?」

そういうと女の子はニコっと笑い、奥にあるらしい部屋に駆けて行った。

乱馬は呆然と立ち尽くしていると、彼女は布を持ってこっちに戻ってきた。

「これ使うといいわ。父のだけど。」
「いいの?」

布を広げると、ターバンに合いそうな民族衣装のような服だった。

「それだったら、そのターバンに合うわ。」
「でも、お父さんの?」
「いいの。」
女の子は強くそう言うと、「使って。」と静かに言った。

乱馬は行為に甘え、服をもらった。
さっき着ていた服はその家に預かってもらうことにした。
また来る確証はないが、彼女も承諾してくれたから・・・・。

慌てて着替えると軽く礼をいい、階段を猛ダッシュで下った。
ジーニーは階段の下で座っていた。

「お、着替えたのか? そっちの方がいい。」
そう軽く云うと、階段から出た路地を見て言った。

「ココは街で1番華やかなマウリ通りだ。」


今まで見たことのないような風景が広がっていた。

賑わう軒先
細い路地
無数の人
ロープの向うに見える空。

新鮮な気分がした。

服を着替えたせいなのかもしれない。
彼女の名前を聞くのを忘れたが、また来ようと密かに思った。



「行くぞ! 急須!!!」
「ランプだ!青二歳」



出会いまであと少し。

自分を探すたびのスタートラインが乱馬の前に拓けたことをまだ、自分は知らない・・・。




つづく(?)




ひとまず、この物語はここで置かれています。このまま埋もれさせるには勿体無いので、このまま掲載しておくことにいたしました。
続き、プリーズ!nanaさま。(プレッシャーかけるなって…。)

急須から出てくるジーニー。某ディズニーアニメキャラの如く、声が響良牙役だった山寺宏一さんで頭に響く私でございます。(日本版ドナルドダックも彼の声だって知ってる方どのくらいいらっしゃるかな?)
アラビアンナイトな冒険へ借り出される乱馬くん。ターバンの乱馬万歳!
(一之瀬けいこ)



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