◇replace その5
なな(高野連)さま作


「「お風呂!!!???」」
二人の声がハモった。
絶叫に近い声が診療所の壁に反響してこだましていた。

さっき東風先生は確かに「お風呂に入れ」(かってに命令形)と告げた。

頭が一瞬起動しなかった。ただ条件反射的に声が出た。
そのためだろう今の脳は完全にエンストしていた。
それからようやく軌道修正できるには時間が多少かかった。

「先生・・・お、ふろ?」
あかねはすっとんきょんに先生に尋ねた。
「・・・・・寒くない?・・それならば、別に強制はしないけど・・・」

再び沈黙。

「へ、へ、へっっくしゅ!!!」

沈黙を破ったのは乱馬のくしゃみだった。
まるで先ほどの東風先生の問に的確に答えるような快音だった。

あかねはそのくしゃみを聞いた瞬間、思わず乱馬を睨むように見た。
とっさにそうやってしまったのだ。

乱馬もくしゃみをしたあと、後悔が先にたった。
そして冷たい視線に気付き、思わずばつが悪そうに地面を見た。

しかしあかねはあることに気付き乱馬に駈け寄った。
駈け寄ったきたあかねに驚き乱馬は顔を上げた。
そこには今にも泣きそうな自分がこちらに迫ってきてた。なぜか圧倒され腰が後ろにのく。

その数秒後、あかねは乱馬の額に自分の額をくっ付けた。

「あああああかね????//////」
大驚きの乱馬。
もちろん目の前の人物は己自身だが・・・中身が違う。

いつもなら決してこんなことはしないあかね。それが今は違う。
もしかしたら変わった衝撃で性格がかわったのか?などと思った乱馬。

実のところをいうと、あかねは手にタオルを持っていた。

―乱馬がくしゃみをして少し肩を震わしたのを見たら、あかねはとっさに額の熱を測ろうとした。
しかし、さっきの動揺していた時にどうやら手に持ってたタオルを手錠のように巻きつけてしまったらしい。無意識時にやったとこなので解くに解けなかった。
少し取ろうと腕を動かしたがなかなか解けない。
・・・・それほど混乱していたのだろう。
しかしこの状態では熱は測れない。 もうやけでおでこをくっ付けた。

くっ付けたのと同時に乱馬の顔は爆発しそうに赤くなった。

『そんなに真っ赤になったらあたしまで恥かしいじゃない!でも自分の姿がやってるから平気だと思ったのに・・・///』

あかねは自分の姿にやるので、まるで鏡の中の自分におでこを合わせてる気分でやった。
しかし、鏡とは違って、温かく、柔らかい感触が伝わってきた。同時に熱もわかった。

「・・・・・・・熱い・・・・・・・」
「へぇ?////」
「乱馬、熱、ある?」
「ねねね熱?///」
「い、いちいち照れないでよ!だ、だから、おでこ・・熱い」
「////こ、こ、この状態、のまま話すな!!/////」
は!っとして離れる。
お互い対象的な方向を見ていた。

「・・・寒いんでしょ?乱馬・・・」
ちょっとふてくされたような表情で聞くあかね。
「んなことねぇよ」
左肩だけに力を入れて言う乱馬。明らかに強がっている。
「じゃ、なんで震えたのよ・・・」
「ふ、震えてなんて・・・」
「なんでくしゃみしたのよ・・・」
乱馬が言い終わらないうちにあかねが話した。
「は、鼻の頭にごみが付いてて、そ、それで出ちまったんでよ」
「じゃぁ、どうしておでこ熱いのよ・・・」
「そ、そりゃぁ、お、おまえがあんなことするからだろ?////」
「嘘!寒いんでしょ?熱っぽいんでしょ?・・・あたしの体だもん、それくらい見てて分るわよ。そんなに濡れてるんだもん。」
今にも泣きそうなあかね。
そんなあかねを見たら、嘘はこれ以上つけない気持ちになっていく乱馬。

そう、本当は、身体が芯まで冷え切っていた。
近くにかかっている首振り扇風機の風が当たるたびに身体中の毛穴が逆立って、鳥肌状態になっていた。
東風先生に「お風呂」と言われ、ほんとは心底ありがたいと思ったが、すぐに現状を思い出し嘘をつくとこに決めた。
『今はあかねのからだなんだ、かってなとこはできない・・・』
そう決意したが、意とも簡単にばれてしまった。

「・・・取る込み中悪いんだけど、乱馬君、ちょっと診てみようか」
東風先生が診断することを提案した。
「専攻は違うけど、医大出てるからから知識くらいあるから心配しないで」
確かに東風先生は“接骨医”どちらかといえば整形外科の方面に属す。しかし、医師免許取得のため総合的なことを医大で6年間ならってきていたので、ある程度の状態なら判断できる。
乱馬は今まで東風先生を疑ったことはない。それにあかねに言われた通り身体が熱っぽい。
「・・・はい、診て下さい」
すんなりと了解した。

隣にいたあかねはふと周りを見渡した。
「・・・良牙君?」

―良牙の姿がいつの間にか部屋からいなくなっていた。



「じゃ、この椅子に座って」
「はい・・」
言われるまま、乱馬は先生の目の前にある丸椅子に腰掛けた。
「じゃ、今の状態を正直に言ってくれるかい?」
「・・・体が寒い、ような・・・」
「うーん、少し唇が青いね」
乱馬の言葉を聞き、先生は確かめるようにあかねの唇あたりをさわった。
「うん、じゃぁ口開けてくれるかい?」
「え、はい。・・・あ゛ーん・・・」
先生はどこから取り出してきたのか、小さなへらを口に入れ、口の中を見た。
口を見終わると先生は「あ、ちょっと待っててね」といい部屋を出て行った。

2人っきりになった乱馬とあかね。
しかし、あかねには少し気になったことがあった。
それは・・・。

「ねぇ、良牙くんがいないんだけど・・・」
そういつの間にかいなくなった良牙。
2人の入れ替わったであろう時に居合わせた重要参考人が忽然と姿を消した。

「へ?あ、ほんとだ。おーい良牙ぁ!!」
乱馬も気付き、少し大きな声で呼んだが返事は返ってこない。
「あいつ、どこ行きやがった?現場見てる唯一の目撃者なのによぉ」

そう、彼の証言でもっといろんなことが分るかもしれないのに彼は何も告げずに出て行ってしまった。
でも乱馬には少しわかるような気がした。

―きっとそうだろう―
そう思うしかなかった。



一方、その話の張本人の良牙。
一応まだ東京都内にはいた。

傘に当たる雨音を1人ぼーっとしながら聴いていた。


・・・一度死んでしまった・・・・
この言葉が何度もリピートする。

『あんな考えに結びつけたのは俺のせいだ、きっと・・・』


・・・2人の上に落雷が落ちたんだ・・・
そうきっとその言葉のせいで乱馬とあかねはあれほど取り乱したのだろうっと良牙は思い、発言を悔やんでいた。
悪気はなかった、ただ言われた通りにことの真相とやらを話した。
ただ、そのあと、あかねの取り乱し方は良牙には予測できなかった。
それはきっと乱馬には予測できた些細な出来事でも、良牙には重く感じられた。

あのときの乱馬は意外と落ち着いていた。
あかねを慈しみ、労わっていた。
まるで当然のようにこなしていた。
あかねにタオルを渡し、涙を拭かせることも、 そして自分がいることを忘れないでっと言ってるような、『いいよ、泣け。・・堪えなくて、いいよ。無理、するな。』という台詞。その言葉を聞いて泣き崩れるあかねをそっと支えること。
すべてが自然だった。違和感はまったく感じなかった。
敵ながら天晴れっといった感じ。いや、もう入り込む隙が一切なかった。
もう勝負しなくても見えている敗北。

そう、例えあの乱馬に腕っ節で勝っても、あかねはきっと後ろで倒れている乱馬に駈け寄るだろう。
もし、仮に自分が原因で乱馬が死んでしまったら、あかねはきっと自分を猛烈に恨むだろう。そしてその後を追うだろう・・・。
そんなこと、ずっと前に知ってた。
あの呪泉洞の時にはっきりわかった。特に乱馬の方が。
お互いに命を張ってでも好きな、愛しい存在だと気付いてた。
でもいつも「そんなとこはない」と心に発破を掛けてきた。しかし、今回のことで発破が効かなくなった。

目の前で抱き合う2人。
外見的には女同士だが、内面的には男女だ。
正直、もう見られなかった。

そーっと開いてたドアから退室した。


『当分、会いません・・・あかねさん・・・』


降りしきる雨の中、

「爆砕点穴!!」

爆音を轟かせ、霧の中に良牙の姿が消えていった。


しとしとと物悲しく降る霧雨。
街灯に乱反射して、あたりが夜になったとこを知らせていた・・・。



ところかわって、診療中の小乃接骨院。

「うーん、はい、戻して」
聴診器片手に診療を終えた東風先生。
そして顔を赤らめて目を瞑ってる乱馬。
なんとか聴診器は出来たらしい。乱馬が目を瞑って、自分で服をあげていた。それを無言で監視していたあかね。

「乱馬くん、やっぱり風邪の1歩手前の状態だ、この状態だと入浴は無理だね。でも早く着替えた方がいいね、余計に体温奪われたら悪化しちゃうから」
「やっぱし・・・なんで嘘なんて言ったの?」
「知らねーよ!!」
「自分のことでしょ?」
「しかたがめーだろ・・・」

「心配かけたくなかったのかな?」
優しい口調で東風先生が言った。その言葉に乱馬は無言で肩を抱き身震いさせた。
あかねも無言だった。



――――

turrrr・・ turrrr・・
ガチャッ

「はい、天道ですが・・・」


受話器を片手にあかねは自宅に連絡を入れた。
着替えを持ってきてもらうために。
しかし、今のこの状態を話すか、話さないべきか迷っていた。

「もしもし?」
とりあえず名前は言わずに声を出した。

「あら、乱馬君?どうしたの?」

出たのはかすみだった。

「あ、あの、濡れちゃったから・・2人分のき、着替えいいかな?」
曖昧な言い方。
とりあえず、今のことは家に帰ってゆっくり話そうと思った。

「あかねちゃんもいるの?」
そう聞かれ、思わず“私よ”っと言ってしまいそうになった。
「う、うん」
「今どこ?」
「え、あ、東風先生のとこ・・・」
「あら、まだあかねちゃんの具合悪いの?足挫いただけじゃなかったの?」
そう聞かれ、まさにその通りと思った。
「か、帰ったら話す。と、とりあえず2人分の着替えお願い、します・・・」
実の姉に対して、随分丁重な言い方だが、今の状態、かすみは受話器の前の相手を乱馬と思っている。
今ここで全てを話せば時間がかかる。

今、乱馬は入院患者用の服を着て、空き部屋で寝ていた。
足の痛みがぶり返し、状態は先ほどより悪化していた。
安静第一とのことで、仮眠することになった。

「わかったわ、乱馬君。・・乱馬君の分とあかねちゃんの分を持っていけばいいのね?」
「う・・は、はい」
うんと言いそうになった言葉を飲み込み、乱馬の口調に合わせてみた。
「じゃぁ、ちょっと時間かかるかもしれないけど、少し待っててね?」
・・ん?
「え、お・・いや、か、かすみ、さんが来るの、で、ですか?」
この話し方は疲れる・・・
そう思いながらたずねた。
「ええ、そうよ?どうして?」
げ・・・
かすみの言葉に一瞬にして東風先生がふっと頭の中に浮上した。

「あ、あ、あ、おば、いや、おおおふくろに来てもらってもいい、でですか?」

かすみがくると東風先生が取り乱す、そうなっては手がつかなくなる。
そう思いとっさに、乱馬の母、のどかに来てもらうにした。

「え?あ、じゃぁおばさまにいって貰うわね」

かすみがおっとりとした性格でよかったっとつくづく思うあかねであった。

「はい・・・」

電話がこんなに疲れるものかとあかねは思っていた・・・。



暗い部屋で乱馬は1人仮眠していた。
挫いた足がいきなり疼きだし、熱を持ち始めた。それが原因か、身体のダルさもドっと増した。
こうやって横になると幾分、楽になった。
するといきなり睡魔が襲い、いつの間にか乱馬は寝入ってしまった。

つづく




作者さまより

なんだか前に進むペースが非常に遅いですね(汗
次回にはもっとペースよくいきたいと思います。

今回、あかねちゃんちょっと積極的にしてみちゃいました///
ま、きっかけはなかなかバカバカしいですが(苦笑
よく私自身がやっちゃうんです。
いつも、気が付くと手が軟禁状態に・・・
友達にいつも解くの手伝ってもらってました。(苦笑いされながら)
皆さんはありますか?
なんだか私だけのような・・・・・(汗


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