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なな(高野連)さま作


鏡がいる・・・。

  ――こんな道端に。
          自分が見える。

  ――己が瞳の前に。
          体がいる。

  ――自分の前に。
           まるで意識だけが体から離れてしまったように・・・。


「え!?」
声が重なる。ハモる声は明らかに混乱しているような口調。

「私が・・・いる・・・・・・」
「俺が・・・いる・・・・・・」
またハモる。
確認し合うようにそっと呟く。
しかし、 2人の心中穏やかではない。徐々に2人の顔に脂汗が滲む。

理解できない。なんせ自分が目の前にいて、またその自分も動いている。

『確かさっき、良牙ずっと俺のとこ“あかね”って呼んでたような・・・』
『さっき良牙くん、あたしに“乱馬”って呼んだわよね・・・』
少し状況を判断しようと、事故後を振り返ってみた。

『てとこは・・・!!』

「「鏡!!」」
塞ぎ込むように悩んできた2人がいきなり叫んだ。

「あ、あたしの鞄に!!」
そう乱馬が叫ぶと、あかねの近くにある鞄に手をかけ、中をあさり始めた。
「あった!」
すると中から掌サイズの小さな鏡を取り出した。
まだフタの閉ったその鏡を2人で覗き込み、息を呑み込んだ。
「いくよ!」
静かに乱馬が聞く、そしてあかねが軽く頷くと、乱馬が意を決したように鏡を開いた。

沈黙・・・。

「これじゃ、どっちがどっちかわからねぇ!貸せ!」
そういってあかねが乱馬から取り上げ鏡をもう一度覗く。

鏡の中には自分ではなく、自分の許婚、あかねが写っている。
「え・・・あかねがいる・・・」

訳がわからなくなった。
自分は早乙女乱馬。
―なのに鏡の中の自分は天道あかね。自分の愛してる人。

手から鏡が滑り落ちそうになったのを乱馬が慌てて取る。そしてまた覗き込む。

―鏡の中にはお下げ髪の早乙女乱馬。自分の許婚。
しかし、中身は天道あかね。

「うそ・・じゃないの?」

こっちも訳がわからなくなった。

2人は途方に暮れたような表情で地面に座り込んだ。

ポツ 、ポツ、ポツ。
雨が降ってきた。

終始乱馬とあかねの行動を不思議そうに見ていた良牙は突然の雨に驚き、慌てて傘をさし変身を間逃れた。
しかし2人は今もまだ放心し、動こうとしない。堪り兼ねた良牙は2人に話し掛けた。

「あ、あのぅ、ここじゃなんだから、どっかいかないか?天道道場とか・・・」

なんだか2人を見ていると思わず他人行儀になった良牙。
なんとかこの声に気づいた2人。でも、家はまずいと咄嗟的(とっさてき)に思った2人は、
「東風先生!!」
と叫び立ち上がろうとした。があかねは足にけがをしていて立ち上がれなかあった。
「く、あかね!お前こんなに痛めてたのかよ!!」
思わず怒るあかね。
「ごめんなさい・・・でもひいたのよ!・・・おぶろうか?」
「でも、お前、今女になってるんだぞ。」
「平気よ。だってこれ、らんまなんでしょ?・・・・あんたあたしくらいいつも余裕でおぶるじゃない。」
「でも・・中身は・・・・あかねじゃんか・・・・。」
「平気。足痛めてるんだから・・・。歩けるの?」
「・・・じゃ、頼む」
あかねの体は自分よりの圧倒的に非力だと思った。
自分なら、まずこんなけがしないし、もしなっても意外と完治は早い体だ。こんなに痛まないと思った。
しぶしぶあかねは、らんまの背中におぶさられた。

はたから不思議そうに会話を聞いていた良牙。もはや理解不能だ。
パンクしたけの良牙にらんまが、
「良牙くんも来てくれる?なんか見てたかもしれないし・・・」
ピクっと反応する良牙。
話し方や音量はあかねなのに、声と形はらんま・・・。
そんならんまをボーっと見る。
「ついてこいよ、良牙。一応重要参考人なんだからな!」
また反応する。
こちらも話し方は乱馬。でも見た目と声はあかね。
――複雑・・・。
良牙は今、このことしか頭に浮かばなかった。

女のらんまの形になったあかね・・・。
複雑な心境で自分の本来の姿をおぶって、さっき来た道をひきかえし、一路小乃接骨院に向かう。

・・・あたしはなにやってるんだろう?
さっきまで、あんなに痛かった右足をふと見た。
学校の制服を着ていたはずだが、今はずいぶん大きめのズボンをはいている。

・・・ホントに、乱馬になっちゃたの?
考えれば考えるほど、頭が混乱する。
・・・東風先生なら・・・

あかねの姿になってしまった乱馬も混乱していた。
なんせ、目覚めたら痛くなるはずもない右足が軋むような痛みをもっていて、自分一人の力で歩くのがいっぱいいっぱいなのだ。
それと無償にドキドキする。
自分自身が女に変化しても、あれはあれで、この世に2人と存在しない自分の分身。しかしこれは違う。どこからどう見てもあかねなのだ。

自分の発する声も、鏡で見た姿も、今自分本来の姿にしがみつく小さな手も、全てあかねのもの。

自分のものといったら意識ぐらい・・・。
こんな経験は今までしたことがないし、聞いた事もない。
これが他の人でもきっと困却していただろうが、“あかねと交換した”ということは、乱馬にとってこれ以上ない混乱だ。
なんせ自分の好きな相手の体に己の魂が宿ってしまい、代わりに己の本体には彼女の魂が入っている。
なんともいえない感情が溢れる。

・・・と、とりあえず戻るとこを考えよ・・・・・


事故が起こった現場から接骨院までは目と鼻の先、なのに2人はなぜか遠いような気がした。


ザー、ザー・・・・・

雨はいよいよ本降りになり、傘をさしていない2人はビショビショになっていた。
後ろからはちゃっかり傘をさして後を追う良牙。

「すいませーん!!」
ようやく接骨院に到着した3人。引き戸を開いて、あかね改めらんまが大声で先生を呼んだ。
「あれ?らんまくん。どうしたの?びしょ濡れじゃないかい?さぁ、あがって・・・」
東風先生はらんまのずぶ濡れの姿を見て、すぐ上がるようにいった。
「あ、あの先生・・・」
「あ!あかねちゃん!!どうしたの?あかねちゃんまでびしょ濡れで・・・。2人とも早く上がって!乾かしていくといい。」

そういって2人(良牙も・・・)は奥の診療室に通された。

「どうしたの?顔がみんな青いよ・・・。」
診療室に入り、らんまとあかねにタオルケットを渡し、お茶を入れながら質問してきた。
「・・・先生、・・・先生・・・・・・」
らんまはいきなり泣き始めた。
「!?どうしたの?らんまくん??訳を・・訳をはなしてくれないと・・・」
いきなり泣くらんまに驚く先生。そして震えるらんまの肩を持ち優しく聞いた。しかし応えたのはらんまでなくて、あかねだった。
「先生・・・俺とあかね・・・魂が入れ替わったみたいなんだ・・・・」
「!!」
「どうしてなったかは俺にはわからない・・・。なんか辺りが白くなって、意識が遠くなって・・、気づいたら、こうなっていたんだ・・・」
「ってとこはこっち(泣いてる)のがあかねちゃんで、こっちが(説明してる)のが乱馬くん?」
「あぁ、そうです・・・。」
先生も簡単に説明を聞いたが理解しにくかった。
言われても、ピンとこない。なにせ形は本人達のままの姿。でも話は本当なのだろうと思っていた。
なんせ、今までどんなことがあっても、人前では決して涙を見せないらんまが、不安に打ち震えるように泣くし、あかねの立居振舞(たちいふるまい)や口調がどう考えてもあかねの言動とは思えない。
少し、混乱したが、あかね(らんまの形をした)がすっかり混乱してる。ここは冷静にならなくてはと、咄嗟に思った。

「誰か、その意識がなくなる前の、白くなったって時にいなかったのかい?」
先生はとにかく原因究明に乗り出すことにした。
「お、俺、知ってます・・・」
良牙が力なく答える。
「え?知ってるって、ほんとか?良牙!!」
乱馬改めあかねが良牙の服を掴んで強い口調で聞いた。
「あかね・・・いや乱馬くん、落ち着いて。」
「「・・・・」」
あかね同様乱馬も不安になっていく心を必死で繋ぎ止めていた。本当なら、あかねのように泣けたらどんなに楽だろう。などと思えるほどに。
胸倉を離された良牙はゆっくりと事故の真相を語りだした・・・。

「俺が土から出てきたら、ほんの数10mのところに乱馬とあかねさんがいて。俺は、2人の近くに行こうと歩きだそうとしたら、2人の上に落雷が落ちたんだ。」

3人は唖然とした。

「「雷に打たれた?!」」
東風先生とあかね(乱)の声が重なる。
らんま(あ)にも落雷のことは聞こえたらしく、瞳に涙をため、びっくりした様子で佇んでいた。

「・・・・」
「・・・・」
先生もあかねも言葉を失う。

「・・・なぁ、先生。」
少し、強張った感じのあかね(乱)の顔と、声が東風先生に話しかける。
「・・・乱馬君・・・」
東風先生もなにかを悟ったように答える。

「俺たち・・まさか・・・・・」
「一度死んでしまった・・・・。と言いたいんだろ?乱馬君。」
「は、はい」
「それはどうして?」

下を向き、言葉を1つ1つ探すように声を繋げる乱馬。

「だって、落雷に、そっその、ちょ、直撃って言ったら・・・それに・・・・・・・・」
「それなら、中身が交換の意味もわかる。・・・そう言いたいのかな?」
「・・・・・他に、ないじゃないですか・・・・・。」

今まで立っていたあかね(乱) も、ここまで話すと些か辛くなってきて、自分で体が支えられず、近くの椅子に腰を落した。

まだ痛むあかねの右足を見ながら、左目の目頭が熱くなるのを感じ、下を向いた。


背中(うしろ)にはしとしとと雨だれる窓。
夕立は本降り。

晴れた午後は当分、お預け。



つづく




3作目です。
なのにまだ前半部。(導入部に限りなく近く、そこそこ進んだような・・・) 要するに、微妙です。(汗

大学生の私、いよいよ期末試験突入、なので文も切羽詰って(?)います。
今回は(も、)短く書いちゃいまして、自分でも、きりが悪いような気が・・・。
試験終わったら、もっともっと、長文にtryしてみようと思います!

次回は、もっとストーリー展開をぐぐぐーーん!と進めさせたいなぁ、って思ってます。


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