◇妖孤 再び! 前編
武蔵さま作


 風林館高校から天道家へと続く道のりに、一匹のキツネが弱りながらも歩いていた。
「もうすぐ、天道家だ。ここで倒れる訳には・・・」
 実はこの狐、以前あかねを賭けて乱馬と闘った金毛白面九尾の妖狐、不知火結希であった。数日前から何も飲まず喰わずでいた為、空腹で今にも倒れそうな状態であった。
「乱馬達と別れてから半年か。あいつらもそろそろ卒業だな・・・って、んな事言ってる場合じゃねぇ!このままじゃ天道家に着く前に力尽きちまう。しかしなんで俺っていつも天道家に向かうと空腹で倒れそうになってんだろ?」
 結希は苦笑しながらも自分の今の状況をなんとか打破しようと考えていた。しかし、泥棒行為をする事はできず、結果的に歩けなくなってその場に倒れてしまった。
「すまん、里の皆。獣人族の長、不知火結希は本日をもってここに死す。」
 もうダメだと思い、目を閉じかけた瞬間!目の前から見なれた人物が歩いてくるのが見えた。
「あら?犬かしら?弱ってるみたいだけど・・・・」
「犬とはちょっと違うな。もしかしてキツネじゃねぇか?この辺じゃ珍しいな。」
 乱馬とあかねだ。結希は助かったと思い、なんとか立ち上がろうとしたが無理だった。
「お腹空いてるのかな?ちょっと待ってて、確かパンの残りがあったから。」
 あかねはそう言うと鞄から購買のパンを取り出した。
(な、なんて善い奴なんだあかねは!)
 結希は感動しつつ、あかねのパンを食べた。そのおかげか少し元気が出て、立てるようになった。尻尾を振っているとあかねに抱き上げられた。
「か〜わいい。まだ子ギツネね。親はいないのかな?首輪の代わりに紐が付いてるけど飼われてるのかしら?」
(いや、確かに獣型だと俺は小さくなってしまうが断じて子供じゃねぇぞ!それにその紐は俺の封印を解くやつで首輪じゃねぇぞ。)
 結希は自分の事を名乗ろうかと思ったが、黙っていた方が面白そうだと思い、キツネのふりをした。
「可哀想だからうちに連れてってあげるね。」
 あかねがキツネ(結希)を抱き締めた瞬間、結希はただならぬ気配を感じた。ふと後ろを見ると乱馬が睨み付けるように結希の方を睨んでいた。
(まずい、俺の正体がバレたか!?)
 結希は動揺したが乱馬の睨む原因は他にあった。
「おい、ほっとけよ。キツネみたいな野生動物、飼っていいかなんてわかんねぇぞ!それにこんなに動物ばっか拾ってたら家が動物園になっちまうぜ。」
「パンダが家にいる時点で大丈夫よ。それにこんなに弱ってる動物をほっておけるわけないでしょ!」
 あかねはキツネを連れて帰ろうとするが、乱馬は何故かあかねが連れて帰る事には反対のようだ。
(な、なんて心の狭いやつだ乱馬は!・・・・・・もしかして妬いてんのか?)
 ふとした疑問を抱いた結希はあかねの右肩に掴まり、尻尾をあかねの首に巻いた。そして乱馬を挑発するようにニヤリと笑った。
「ははっ!この子甘えてる。なんだかマフラーしてるみたい。」
 あかねが笑うその後ろ、乱馬は結希の挑発的な態度に怒りを露にしていた。その事が結希を確信させた。
(マジかよ。動物にヤキモチ妬くのか?ま、あかねに対して独占欲がある事から見てあれから少しは進展したってことかな?)
 帰り道、乱馬はずっと不機嫌なまま天道家に着いた。
「ちょっとここでPちゃんと仲良くしててね。」
 あかねは自分の部屋にキツネを入れると、そのまま居間の方へ行ってしまった。
 残された結希が周りを見回すと一匹の黒ブタが目に入った。
「ブタ・・・か。それも黒ブタね。腹減ってるからちょうどいいな、もっとでかけりゃたくさん喰えるけど子ブタの引き締まった肉もよさそうだ。んじゃ早速いただくとすっか!」
 舌舐めずりをしてブタに近付くキツネ。第三者から見れば弱肉強食の自然の理である。しかし、このブタは良牙であり、キツネも一応半分は人間である。つまりは共食いに近い関係が成り立つ。
 Pちゃん、もとい良牙は身の危険を感じ、怯えながら後退りした。そもそも人間の言葉を話すキツネに驚いていた。
「覚悟するんだな。潔く俺の食料になりやがれ!」
 結希がPちゃんを追い詰めたその時、あかねが部屋に入ってきた。
「あれ、もう仲良くなったの?良かったねPちゃん、友達ができて。」
 にこやかに笑うあかね。Pちゃんは涙を目一杯に浮かべながら首を横に振って否定した。
(このブタ、あかねのペットか。それにしても頭のいいブタだな。人間の言葉がわかってやがる。)
 感心する結希。先ほどまでの食欲はあかねによって消されてしまった。
「もうすぐ御飯だからおいで。」
 あかねはブタとキツネを抱えて下に降りていった。
「あかね、あんたまた動物拾ってきたんだって?」
 乱馬から聞いたのかなびきはあかねの抱えてるキツネを見た。
「今度はキツネか。あれ?この子、額に何か付いてるわよ。」
 なびきの言う通り、キツネの額には黄色い石が埋め込まれていた。
(げっ!それは俺の妖玉だ。まずいな・・・)
「突然変異かしら?テレビ局に売ったらいい金儲けになるかも・・・・」
 なびきの企みに結希は恐怖を感じ、なびきに近付かないようにしようと決意した。
「お姉ちゃん!可哀想じゃない。おいで、コンちゃん。」
 Pちゃんに引き続き、キツネの名までも安直につけるあかね。乱馬はそれを聞いて呆れていた。
 食事を終えると結希はどこかへ行ってしまった。
「コンちゃーん!どこ行ったの〜?」
 あかねは捜そうとするが乱馬が引き止める。
「キツネってのは犬と違って集団行動を好まねーんだ。ほっといても大丈夫だって。ま、油揚げでも用意しておくんだな。」
 乱馬がそのまま道場へ行こうとすると良牙が現れた。
「乱馬!ちょっと来い!」
 突然現れたかと思えば良牙は乱馬と共に道場へ行った。
「なんだよ、焦った顔しやがって。あのキツネのせいでPちゃんとしての立場がなくなっちまったのか?」
 良牙の鬼気迫る顔を見て、乱馬その理由を聞いた。
「あのキツネ、俺を喰おうとしやがった。」
 良牙の第一声に乱馬は倒れて顔面を強打した。
「あのな〜、そんな事で怒ってんのか?そりゃあ旨そうな子ブタが目の前をうろついてたら喰いたくもなんじゃねぇか?」
 乱馬はふざけて笑ったが、良牙の顔は真剣だった。
「それにあのキツネ・・・・人間の言葉を話したんだ。」
 良牙の言葉に乱馬は一瞬笑いを止めて驚いたが、良牙の冗談だと思い否定した。
「ま、まっさか〜。冗談だろ?」
「冗談なんかではない!それに俺を喰おうとした瞬間、多少だが妙な気を感じた。あれは間違いなくただのキツネじゃねー!」
 良牙が真剣だとわかると乱馬も少し無言で考えた。先ほどなびきの言ったキツネの額にある石が気になっていたのだ。
「ちょっと確かめてみるとすっか!」
 乱馬と良牙は居間に戻った。キツネは庭であかねと走り回って遊んでいた。
「おい、あかね。俺達、そいつを散歩に連れてってやっからコン吉を少しの間貸してくんねぇか?」
 Pちゃん=P助、コンちゃん=コン吉。乱馬もあかね同様安直である。
「さっきまでコンちゃんの事嫌ってたのに・・・・まあいいか、私も行くわ。」
「いや、ちょっと良牙と話があるついでだからさ。すぐ戻ってくるから待ってろ。」
 あかねを半ば強制的に言い包め、乱馬と良牙はキツネを抱えて天道家を離れた。暫くして、よく乱馬が良牙と決闘する空き地に辿り着いた。
「このへんでいいか。行くぜ良牙!」
 抱えていたキツネを放ると、乱馬と良牙は一斉に飛びかかった。
「猛虎高飛車!」
「獅子咆哮弾!」
 二つの気の塊がキツネを挟む。一般人にしてみれば動物虐待のように見えるが、キツネは高く飛び上がってその攻撃を避けた。
「やっぱりな。普通のキツネだったら俺達の攻撃を避けれるはずがねぇ!正体を見せやがれ!」
 キツネは黙っていたが、突然光を放ち、人間の姿になった。
「やれやれ、危ねー事すんな。」
 人間の姿になった結希は頭を掻きながら困った顔をしていた。
「お、おまえ!結希じゃねぇか!」
 人型ではあったが乱馬は結希の姿を見て驚いた。
「知り合いなのか、乱馬?」
 乱馬は手短に良牙に結希の事を話した。その間結希は木の葉を一枚取り出し、何やら呪文のようなもので黒い服にして着ていた。
「説明してもらおうじゃねぇか。ええ?コンちゃんよ〜!」
 キツネの正体が結希だとわかった以上、あかねに抱き上げられた時にした挑発に対する怒りが込み上げてくる乱馬。結希は苦笑しながら説明した。
「ちょっとある事情でこの町に来る事になったんだが前みたいに空腹で倒れちまってな。弱ってたもんだから人型になれなかったんだ。でもなんで俺の正体がただのキツネじゃないってわかったんだ?」
 結希はそれが不思議でならなかった。多少変わった事があるといっても乱馬やあかねの前では一切喋ったりはしなかったのである。
「おめぇ、あかねの部屋でブタを喰おうとしただろ?あのブタはこいつが変身した姿だ。」
 乱馬はそう言って良牙の方を指差す。
「ま、まさかあんたも俺達と同じ獣人族か!?」
「違う!俺は呪泉郷でらんまに蹴り落とされてブタになっちまう体質になったんだ。」
 良牙はその事を思い出していると乱馬に対する怒りが込み上げてきた。乱馬としては良牙と喧嘩している場合ではないので話を逸らした。
「さっき言ってた『ある事情』って何の事だ?」
 結希は口を開こうとしたが何かを思いついたらしく、立ち上がって言った。
「ふっ、秘密は男の財産だ。簡単には言えないな。どうしてもききたくば、俺と勝負しろ!」
 一般人もいるという事で、乱馬達は凍った池の上で闘う事にした。
「ふっふっふ、この闘いの場所、この『銀盤の狼』に相応しい場所だぜ。」
「何言ってやがる。ここはこの俺、『氷上の隼』にこそ相応しいぜ。」
「甘いな、2人とも。この俺、『滑走路の妖狐』に比べればまだまだだぜ。」
 3人とも自信たっぷりの笑いをしながらいざ池の上に乗ろうとした瞬間!
『ズデーーン!!』
 ものの見事に後頭部強打をしながら後ろに転倒した。自信はあってもスケート靴を履いていない事に気付かなかったのである。そして、冬とはいえ池が凍った程度では分厚い氷はできない為、3人の後頭部強打の衝撃によって簡単に亀裂が入った。
「なあ、もしかして俺達・・・・」
 氷に亀裂が入る嫌な音に気付いた乱馬達。
「ああ、ちょっとヤバいかもな。」
 良牙の言葉が言い終えた瞬間、予想通り3人の足場は即座に無くなった。
『バッシャーン!』
 池に落ちる3人。たちまち姿が変化した。
「ぶあっ!冷てーー!!」
「寒ーーーー!!」
「ぶいぶい!!」
 2人の女の子と1匹のブタが必死に池から這い上がる。寒中水泳を行うはめになるとは思いもよらなかったとばかりにただ寒がる2人と1匹。
「このままじゃ凍えちまう、らんまは何か燃えるもの捜してくれ。俺はそれに火をつけるから・・・」
 ガチガチと歯を鳴らした状態で辛うじて言うゆうき。らんまが承諾して木々を持ってくると、ゆうきは妖狐の姿になって指先から火を放った。
「女の姿じゃ狐火まで弱くなっちまってるぜ。とりあえずは服を脱ごうか。」
 長く伸びた髪を後ろで結ぶと、ゆうきは数枚の葉を服に変えた。
「便利だな、その術。それも妖術か?」
 らんまはゆうきが簡単に服を作り出してしまうのを見て感嘆の声をあげた。
「まあな、でも元は葉だから妖力が落ちればまたもとの葉に戻っちまうぜ。」
 濡れてしまった服を脱ぐらんまとゆうき。その場に誰もいない事が幸いであった。
 2人と1匹は火を囲んで座った。らんまは先ほどの答えを聞いた。
「で、本当は何しにこの町へ来たんだ?」
 闘いは結局有耶無耶になってしまったので、らんまは一応ゆうきにその理由を尋ねた。
「強いて言うなら人捜しだ。数週間前、俺達の里で仲間が1人旅に出たまま連絡が取れなくなっちまった。その妖気を辿って行ったららんまたちの住むこの町に着いたってわけさ。」
「おめぇの仲間って事はそいつも獣人なのか?」
 らんまの質問に対し、ゆうきは少し悲し気な表情で言った。
「ああ、狸の獣人だ。ただ、人間を嫌ってるところがあるんだ。俺達みたいな奴等は人間にも妖怪にも相容れなかった。半妖に近いが、もはや獣人族という確立された人種なんだ。らんまやあかね達みたいに一部の人間は俺達の事を普通に扱ってくれるけど、大半の人間は違うからな。昔から酷い目に遭ってきたんだ。人間の姿をして、人間の力になろうと妖力を使った事があった俺達の先祖は恐れられて生きて来たんだ。その事を・・・・あいつは恨んでる。」
 らんまにはゆうきが本当にその仲間の事を心配しているのがわかった。
「確かに、昔から妖怪ってだけで悪い奴等って決めつけられてたからな。ま、人間の偏見だな。」
「俺達みたいに人型になったりできる奴等はそう苦労しないんだがな。まあ、仲間が見つかるまでゆっくりさせてもらうかな。」
 服も乾き、2人と1匹は天道家に向かった。


−−−天道家−−−

「おかえり乱馬、良い知らせがあるわよ。結希君がこの町に来てるんだって。」
 あかねの言葉にキツネの姿になっている結希はドキリとした。あかねが知っていることを不思議に思った乱馬が居間を見ると結希の許婚の朔夜が座っているのが見えた。朔夜はポニーテールの髪が顔の前に来るほど深い御辞儀をした。
「どうも、おじゃましてます。」
「ああ、結希を捜してきたのか?」
 乱馬が朔夜に尋ねると、朔夜は周りを見回していた。
「なんだか結希の妖気の匂いがする。」
 朔夜がキョロキョロしているのを見て乱馬は言った。
「結希ならそこに・・・」
 乱馬が振り向くと、先ほどまで乱馬の後ろにいたキツネの姿は消えていた。
「あのキツネならすぐに縁の下に入っちまったけど・・・」
 良牙が言った言葉を不思議に思った朔夜が縁の下を覗くと1匹のキツネが頭を抱えて震えていた。
「な〜にやってんだ?」
 尻尾を掴んで外に引きずり出す乱馬。その引き出されたキツネは明らかに動揺している様子であった。
「コンちゃん!どうしたの?」
 あかねが駆け寄ってきて乱馬からキツネを奪った。
「そのキツネ、あかねちゃんのペット?」
 顔を背けているキツネを見て朔夜があかねに尋ねた。
「今朝倒れていたの。可哀想だから連れてきちゃった。一応コンちゃんって名前をつけたんだけど。」
「へ〜、それであんたは正体隠してペットのふりをしてたってわけ?」
 あかねの腕の中で青ざめる結希はもはや隠し通せないと思い、喋り出した。
「別に悪気はなかったっていうか、腹が減って倒れた所をまた助けてもらっただけだって。それにしてもよく俺の居場所がわかったな。」
 突然流暢に人間の言葉を話すキツネに驚いたあかねは目を丸くしていた。
「あたりまえでしょ。狐のあんたと違って私は狗だからね。鼻だったらあんたより利くし大方天道家に行った事はわかってたからね。」
 結希はあかねの腕から飛び下りると人間の姿になった。
「コンちゃんは結希君だったの!?朔夜ちゃんは犬?」
 混乱しているあかねに朔夜は説明し始めた。
「えっと、私は犬とは違って妖怪の方の狗なの。それで、私達獣人族は妖力がある者、つまり額に妖玉と呼ばれる妖力の結晶がついている者は私や結希みたいに人や獣になることができるの。混乱させてごめんね。」
 朔夜は自分の額に付いている赤い石を指しながら言った。
「ま、そこが普通の半妖と違う所だな。寧ろ俺達獣人の方が何かと便利だからな。この180年の間結構大変な世の中を生き抜いてこれたのもこの能力のおかげだし・・・」
 結希のサラリと言った言葉に乱馬は聞き違いかと思ってもう一度尋ねた。
「180年?おまえ、18歳だって前に言ってたじゃねーか。」
「それは人間の年に換算したときの年齢だ。俺達妖怪の血を引いた獣人は人間の十倍以上も生きる。だからその度時代に合わせて環境やら言葉やら名前を変えてるんだ。言ってなかったっけ?」
 初めて聞く事に目を丸くしたその場にいる一同。確かに妖怪は何百何千と生きるものもあるのだが、そういう話を聞くと目の前にいる2人は人間の姿をしていても半分は妖怪なのだとあらためて理解した。
「俺の本名は『狐月』(こげつ)だけど、乱馬達は今まで通り結希ってよんでくれよ。」
「私の本名は『狗麗』(くれい)。私も今まで通り朔夜って呼んでくれればいいよ。」
「それで、今回俺達が捜している仲間は『狸焔』(りえん)っていう奴だ。」
 それぞれ名前に獣の名が付いている事が特徴だが、結希達は今まで通りに接してもらう事を望んだ。
 その後も雑談などで話は盛り上がったが日も暮れてきて良牙が帰っていった。
「なあ、おめー達はどうすんだ?天道家に泊まっていくか?」
 以前居候をしていた結希に乱馬は少し手合わせをしてもらいたかったのだが結希は少し考えながら断った。
「いや、ちょっと今日は・・・代わりに朔夜を置いてくからさ。」
 そう言って結希は朔夜をポンと押し出した。
「ちょっと、あんたはどこ行くのよ!私も行くよ。」
 結希を追って来た朔夜としてはまた逃げられては困るといったように結希を呼び止めた。
「ちょっとわけがあってな。別に付いてきても構わねーけど野宿になるぜ?俺と一緒に寝たいのか?」
 意地悪そうに朔夜の方に笑う結希。当然朔夜は赤面して否定する。
「なっ!そんなわけないでしょ!」
「じゃあ天道家の世話になった方がいいぜ。ここの人達、みんな良い人ばかりだから。」
 少し迷っている朔夜にあかねは言った。
「泊まっていったら?私も朔夜ちゃんと話したい事あるし。」
「う〜ん、そうね。それじゃお世話になります。」
 話がついたところで結希は外へ出ようとした。その時何か思い出したらしくあかねを呼び止めた。
「あのさ、その・・・小柄な爺さん、今日いるのか?」
 八宝斉の事だとわかったあかねは笑って言った。
「今日はいないわよ。でも何故か数日前からおとなしいのよ。心配しなくてもいいわよ。」
「そ、そうか。」
 普通を装っているが結希は安心した顔をしていた。それを見てあかねは思わず吹き出してしまった。
 結希が去った後、あかねは朔夜を連れて自分の部屋に行った。
「自分の部屋だと思って楽にしてね。」
「ありがとう、あかねちゃん。」
 2人はベッドに腰掛けて話をしていた。
「あかねちゃんはいいね。乱馬君みたいな素敵な許婚がいて・・・何か羨ましいな。」
 いつのまにか話は許婚の話になっていてあかねは突然乱馬の事を言われて驚いた。
「べ、別にあんな奴・・・それに許婚って言っても親が勝手に決めただけよ。」
 指を弄りながら俯くあかねを横目で見ながら朔夜は笑った。
「でも、少なくとも乱馬君。あかねちゃんの事大切に思ってるよ。今日だってチラチラあかねちゃんの方
 見てたもん。あかねちゃんだって乱馬君の事好きなんでしょ?」
 目を大きく見開いて驚きを大言するあかね。否定しようとしたがうまく言葉が出てこなかった。
「否定しなくてもいいよ。傍から見たらバレバレよ。」
 否定しても無駄だとわかったあかねは黙って頷いた。
「朔夜ちゃんも結希君の事好きなんでしょ?」
 あかねは今度は朔夜に尋ねた。
「ま、まあね。でもあいついっつも私の事バカにしてるのよね。」
 少し考えながら結希の事をいう朔夜に対し、あかねはフォローを入れた。
「でも結希君、朔夜ちゃんの事気遣ってたよ。この家にね、ものすごいスケベなお爺さんがいるの。そのことでさっき結希君が朔夜ちゃんの事心配してたよ。」
「そ、そうかな?」
 少し照れていた朔夜だが段々とまた考え込んだ顔になって言った。
「でもいつもガサツだの不器用だの言われてさ。その度喧嘩になるのよね。それで自分は鈍感なくせに他人の恋愛事には仲を取り持とうとしたりして・・・」
 朔夜の話を聞きながら、あかねは他人事のように思えなくなってきた。実際乱馬も良牙とあかりの仲を取り持ったこともあるし、結希も以前乱馬とあかねの仲を深めようという作戦を企てて実行した。乱馬と結希に共通点があるようにあかねと朔夜に共通点がたくさんある事にあかねは気が付いた。
「そうそう、私もいっつも乱馬に同じ事言われてるのよ。ホンット乙女心がわかってないのよね。半分女のくせに。」
 お互いに共感して頷く2人。その日は自分の許婚の愚痴ばかり言って過ごしていた。


−−−翌日−−−

「ねえねえ聞いた?隣のクラスの女の子達、昨日の放課後コックリさんやって倒れたんですって。」
「知ってる知ってる。なんでも妖怪が出てきて襲われたらしいよ。」
 翌日の風林館高校ではコックリさんの被害にあった人達の話で持切りだった。当然の如く乱馬とあかねにもその噂は伝わった。
「ねえ、あかねは聞いた?コックリさんの噂。」
 さゆりとゆかがあかねに近付いてきて言った。そこを中心として乱馬を連れたひろしと大介もやってきた。
「それでね、その女の子達、まだ意識が戻らないんだって。」
 実際に起きた事に恐怖感を覚えるあかね。事実テレビ局もこの事をニュースにして発表していた。
「なんか怖いね、乱馬。」
 多少震える声で乱馬に言うあかね。乱馬は自分には興味ないといった様子であった。
「実はここだけの話、運良く被害にあわなかった子がその時の様子を覚えてるんだって!」
 ゴクリと息を飲む一同。さゆりは続けて言った。
「その子、怖くってすぐに外へ出たの。そうしたら1匹のキツネがジーっとその子を見てたの。怖さで気を失いそうになったその子が最後に見たのは・・・・」
 緊張した空気が辺りを包みあかねたちは黙って聞いていた。
「何?何を見たの?」
 途中で言葉を紡ぐのを止めたさゆりにあかねは続きを聞きたがった。
「言いにくいんだけど・・・」
 あきらかにさゆりは何かを言いたくなさそうであった。しかしここまで聞かされたからには意地でも聞かずにはいられない。遂には乱馬までもが口を開いた。
「だ〜!何を見たんだよ?」
 乱馬の言葉に急かされたさゆりは言い切るような形で言った。
「その子が最期に見たのは・・・赤いはちまきした結希君だって・・・」
 さゆりの言葉を聞き、乱馬達は言葉を失った。確かに結希は昨夜用事があるということで天道家にはいなかった。しかし結希が人を襲うような事をするとは思えなかった。その事は結希を知っているものなら誰もがわかっていた事だった。
「でもそんなはずないわよね。結希君はもうこの町にはいないはずだし。」
 ゆかが否定するように言ったが乱馬とあかねの顔は険しいままであった。
「いや、昨日からこの町に来てるぜ。」
 乱馬は言ってから後悔した。ここで言った事により結希が人を襲った可能性を肯定する事になってしまうのだ。
 昨夜から姿を見せない結希。その日、事件をよく知る者達には一日が長く感じられた。



つづく




作者さまより

以前書いた話「強さを求めて」の続編です。気の合う友達として作った話ですが、つづきは挌闘がほとんどです。
原作ではあかねは女友達に対し、呼び捨てか『さん』付けで呼んでいて、あまり『ちゃん』扱いしているのは見ていません。
ということで親近感のある『ちゃん』付けで接してみました。
動物の字を入れた名前は苦労しました。
どちらかというと結希視点に近いですが、次の話ではやっぱり乱馬がラストを飾ります。

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