◇強さを求めて 4
武蔵さま作


−−−6日後−−−

 乱馬対結希のあかね争奪戦がいよいよ明日に迫っているという時、賭けの対象でもあるあかねはまだこの闘いに納得がいかないようである。明日の闘いでもし乱馬が負ければ乱馬は天道家を去り、あかねとの許婚は解消されてしまうのであるからあかね本人としては複雑な心境であった。そんなためか天道家にじっとしているのは落ち着かないらしく、外へ出歩いていたのだった。
「ふうっ、いよいよ明日・・・か。」
 宛も無く歩くあかねが目についたのはお好み焼き『うっちゃん』と、その前に倒れている少女であった。
「大変!ちょっと、大丈夫?」
 あかねはその少女に駆け寄り、揺すってみたが返事が無い。とりあえずあかねはその少女を連れてお好み焼き屋に入った。
「いらっしゃーい、ってあかねちゃんやんか?」
 元気よく迎えてくれたのは乱馬の幼馴染み兼許婚であるお好み焼き屋の店主の右京であった。
「いったいどないしたんや?その子は?」
 右京はあかねが背負っている少女に目を移し、わけを聞いた。少女はまだ気を失っていてとりあえずその場で介抱することになった。
「うっ・・・・ここは・・・?」
「気がついたんか!あんた外で倒れてたんよ。ここにいるあかねちゃんが店ん中まで運んできたんや。」
「ホント、驚いたわ。ついこの間も同じような事があったから。でも大丈夫みたいね。」
少女は事情を察したようでお礼を言った。
「そうでしたか・・・危ない所助けて戴き、ありがとうございました。私、陽炎 朔夜(かげろう さくや)と申します。実は私、修行に出たある人を捜してここまできたのですがお金が底をついて数日何も食べなかったせいで意識が朦朧としていまして、美味しそうな匂いにつられてここまで来たけれどついに意識を失って・・・」
「それで倒れたっちゅうわけやな。せやったらうちのお好み焼き、ぎょうさん食べてき!」
「い、いいんですか!?」
 よほど腹がへっていたのか右京の言葉に感激した朔夜はお好み焼きをたらふく御馳走になって言った。
「お願いします、右京さん。どうかここで少しの間で良いですから働かせて下さい。」
 突然の朔夜の申し入れに右京とあかねは驚いた。
「それは、まあ構へんけど、なんでうちのところで働きたいんか?」
「食事を御馳走になった事もありますが、私の捜している人がこの町に来ているんです。」
 朔夜の言葉に一瞬あかねは結希の姿が映った。結希と同じような理由で同じように倒れていた、さらにどこか共通する感じをあかねは受けていた。
「その人ってもしかして赤いはちまきをした武道家の人?」
 あかねは確信があったのだが、朔夜の答えは違っていた。
「いいえ。武道家ではありますけど金髪で長髪の人ですけど・・・?」
「そう、じゃあ違う人ね。」
 あかねは的をはずれて少しがっかりした。もし朔夜の捜している相手が結希だったのならなにか関係を持ってるかもしれないし、明日の決闘を止めてもらえるかもしれないと思ったのだ。
「あんた、まだ無理せんと2階にうちの部屋があるさかい、ゆっくりしてき。そういやあかねちゃん、いったいどないしたん?さっきから浮かん顔して?」
 右京はあかねが先ほどからずっと元気が無いのを気にしていた。朔夜を部屋に連れていった後、右京はあかねの話を聞く事にした。右京は恋敵ではあるがあかねとは結構気が合って今ではさゆりとゆかに並ぶ程仲が良い。だからこそ右京には安心して話す事ができた。
「ふーん。ほなら結希が勝ったらあかねちゃんはそいつと許婚になるんか。ほなら乱ちゃんはうちのもんっちゅうわけやな。」
 右京にとっては確かに今回の闘いは都合が良い。右京もあかね同様いいなずけなのだから乱馬を手に入れるにはもってこいの話である。他2名乱馬を狙うものがいるが、あかねが乱馬から手を引けば許婚は右京だけになる。幸い玄馬には持参金を騙し取られたとは言え、許婚としては認めてもらえている。あとは乱馬の気持ち次第なのだ。
「ちょっと右京、人事だと思って・・・」
 あかねとしては心底困っている。悩んでいるからこそ相談した相手はもう頭の中では自分と乱馬のことばかり考えているのだ。
「せやけど、乱ちゃんがうちのもんになるっちゅうことは乱ちゃんが負けるってことなんやな。ああ〜、うち、どっちを応援したらええんや〜〜。」
 右京は右京で別の事で悩んでいるようだ。あかねは半ば呆れて『うっちゃん』を後にした。

−−−翌日−−−

 風林館高校グラウンドにはもう観客がたくさん集まっていた。学生はおろか、町内の騒ぎ好きの人たちまで。その数はおよそ1000人以上、グラウンドはもはや試合場を残し、あとは校内で見る者もいた。
「乱馬と結希が来たぞ!」
 1人の学生が叫んだ途端、グラウンドでは歓声が起こった。乱馬と結希は並んで歩いてきた。1週間前の果たし合い宣言以来、2人はお互いに話す事は無かった。同じ境遇で同じ特異体質をもっていた2人は今まで親友のように話していたのだが、いまや険悪なムードが漂っていた。
「おい!今日はマジにやろうじゃねぇか。この間の闘い、おまえまだ本気じゃなかったろ。あかねの事は別として、今回は本気で闘ってもらうぜ!」
「もとよりそのつもりだ。それに乱馬だってこの間は様子見ってとこだろ。闘気があまり感じられなかったぜ。」
 お互い、顔を見合わせながら話す姿は周りから見れば牽制し合って見えるが、口調からは楽しささえ伺える。
「じゃあ、今回は一切の手加減抜きで行かせてもらうぜ!」
「のぞむところだ!」
 嵐の前の静けさというべきであろうか。騒いでいた観客達も皆黙り、グラウンド中央にいる2人の気迫に押されていた。
「主審は私、天道早雲が務めさせて戴きます。それではこれより、完全ノックアウト制、無差別格闘あかね争奪戦を始めます。互いに礼!」
 主審が早雲、副審が八宝斉と玄馬、そして解説がコロンという設定で試合が始まった。実際2人の闘いで観客に被害が及ぶのを想定し配慮した人材であった。
「んじゃ、いくぜ!」
 最初に仕掛けたのは乱馬であった。変則的な身体全体を使ったような攻撃に対し、辛うじて攻撃を避ける結希。形勢は乱馬の方が有利であった。
(よしっ。このままいけば確実に勝てる!この勝負もらったぜ!)
 乱馬の大振りの蹴りが結希を捕えた。防御はしたものの、大きく飛ばされる結希。グラウンドの砂煙りを足下から舞い上がらせながらも倒れずに耐えていた。
「やっぱこのままじゃ勝てないな。仕方ねぇ・・・・」
 結希は真直ぐに乱馬を見ながら今まで取る事のなかった赤いはちまきに手を掛けた。そして勢い良く剥ぎ取った。その額の中心には黄色い透き通った丸い石が埋め込まれていた。
「うおおぉぉぉぉ!」
 結希が頭を抱えながら唸り声を上げた。砂埃が舞い上がり、結希の姿は中に消えた。
「なんだ!?一体何が起こってんだ!姿は砂で隠れて見えねえが凄まじい闘気を感じる。いや、これは妖気か!」
 結希の唸り声が止むと同時にだんだん視界がはっきりしてきた。
「待たせたな。」
 声の発するところを見ると先ほどとは全く違う姿の結希がいた。漆黒だった髪は金色になり腰まで伸び、黒い瞳は燃えるような赤色をし、なにより腰下には9本の尻尾があった。そして禍々しい妖気を発するその姿は正に妖怪であった。
「おめえ、妖怪だったのか!」
 凄まじい妖気に押されながらも平静を保ちながら乱馬は強気で言った。
「いや、正しくは半妖だな。さっきみたいに人間にもなれるからな。金毛白面九尾という最高位の妖狐と人の子だ。まあ妖力は1番高いわけだ。この鬼のはちまきで普段は力を抑えてるんだがこのままじゃ勝てそうにないからな。」
「まあ、なんにせよ遂に本気だってことだな。妖怪退治は武道家の務めってもんだ。」
 乱馬にとっては強い者と闘うことに不満は無いわけで妖怪だろうとなんだろうと構わないようだった。
「いや、だから半分人間なんだけど・・ま、本気でやり合う分には問題ねえな。」
 2人の思いは共通していてもはや周りには割り込めないでいる。
「まずはどう変わったか確かめさせてもらうぜ。火中天津甘栗拳!」
 無数の拳が結希を襲う。それに対し結希は同じような攻撃を繰り出した。
「烈破・雷神拳!」
 闘気を纏った乱馬の火中天津甘栗拳に対し、雷のような電気を帯びた拳が無数に衝突した。
 その打撃音はもはや鉄をハンマーで殴るような鈍い音が響き渡った。
「くっ、そんならこれはどうだ!」
 乱馬が螺旋のステップに結希を巻き込んだ。
「くらえっ、飛竜昇天破!」
 たちまち乱馬の振り上げた拳から凄まじい竜巻が生じる。
「まだまだ!豪破・風神脚!」
 竜巻の安全地帯である中心部に逃れた結希はすかさず竜巻の上部にでて身体を捻った蹴りを繰り出した。
 その瞬間、足から竜巻が生じ、飛竜昇天破を相殺した。
「そんなもんなのか?ハーブを倒したという技を見せてみろよ。」
『ハーブ』という名に乱馬は反応した。
「なんでてめえがハーブのことを・・・」
「俺がこの町に来たのは本当は乱馬と闘う為だ。ハーブとは昔からの付き合いでな、同じ獣人族の長ということで何回か会ったことがある。闘気ではあいつの方が上だが妖気では俺の方が上だ。去年中国に渡ったときハーブに会っておまえの事を聞いた。んでもって闘いたくなってな。まあ倒れたのは演技じゃなくて本当にぶっ倒れちまったんだが・・・」
「だから飛竜昇天破もかわせたってことか。おもしれえ、ハーブを倒した技、見せてやる!」
 正直、乱馬には飛竜降臨弾を撃てるかはわからなかった。ハーブとの闘いの時、あのときはハーブの放った気砲が充満していたからこそハーブに飛竜昇天破を撃たせ空中から気をまとめて放ったのである。しかし今は闘気の代わりに妖気が充満しているものの、上から攻撃を仕掛けるのは不可能に近かった。
「技を出さないんなら出させるまでさ!」
 飛竜降臨弾を出せずに考えている乱馬に結希は間合いを詰め、点穴を施した。
「なにっ!足が・・・」
 結希が数点突いた瞬間、乱馬の右足は動かなくなった。そして結希は乱馬を力一杯上空に投げ飛ばす。
「いくぜっ!最終奥義、神魔・風雷破!」
 足が動かず上空に投げられた乱馬を襲う巨大な気弾。その周りには鎌鼬のような真空と電撃が帯びている。
 誰もが駄目だと思った瞬間、災い転じて福となす。運良く上空に来る事が出来た乱馬は飛竜降臨弾を出せるようになった。
「もうこれしかねえ、飛竜降臨弾!」
 結希の放った気弾と乱馬の撃ち降ろした気弾が上空で激しくぶつかり合う。
「いかん!乱馬君の方が押し負けている。このままでは乱馬君は負けてしまうぞ。」
 早雲の言葉を聞き、近くに居たあかねは気が気では無かった。
「乱馬!おまえの力はそんなもんか!?このままだと本当に俺があかねをもらう事になるぜ。」
 結希が大声を上げ乱馬に言い放つ。『あかね』という言葉に乱馬は反応した。
(俺が負けたらあかねは・・・・)
 乱馬は自分が負けた時の事、今までのあかねとの思い出を頭の中で描いていた。
「乱馬ーーーーーー!!」
「!!!」
 あかねの自分の呼ぶ声を聞き、乱馬は我にかえった。
「負けられねえ、てめえにあかねを渡してたまるか!あかねは・・・・」
 叫ぶ乱馬の声と同調するように乱馬の『氣』が増幅される。先ほどまで押し負けていたはずが徐々に押し出している。
「あかねは俺の、許婚だーーー!!!!!!」
 乱馬が叫んだ瞬間、一瞬にして膨れ上がった飛竜降臨弾が一気に結希に向かって衝突した。結希は自分の放った一撃をもくらい、その場に倒れた。
周りの観客達は既に避難し、2人の闘いを見守っていた。
「勝者!無差別格闘早乙女流2代目後継者、早乙女乱馬!」
 早雲が勝者の名乗りを上げた瞬間、一気に歓声が上がった。乱馬は観客の中からあかねを捜していると、あかねが自ら近付いてきた。
「乱馬・・・」
「あかね・・・」
 お互いの名を呼び合う2人。傍から見れば映画のワンシーンのようである。
「そういや、結希は大丈夫なのか?」
 乱馬が結希の方をみると傷つきながらも闘いで空いた巨大な穴から這い出てくる結希の姿があった。
 乱馬が近付こうとしたその瞬間!結希が満面の笑みを浮かべ声を張り上げた。
「おっちゃん!ちゃんと撮ったか?」
 乱馬には何の事だかわからなかった。先ほどまで死闘を繰り広げていた相手が傷だらけになりながらも笑い、更にはわけのわからない事を言う。乱馬には不思議で仕方なかったのだが周りを見ると、自分の隣にいるあかね、さらには観客の一部を除いてみんなが笑ってこちらを見ている。
「おい、一体何のこと・・・」
 『一体何のことだ』そう言おうとした乱馬は自分達の目の前に置かれているある物に気が付いた。ビデオカメラである。テレビなどで使うような大きな機材が堂々と置かれパンダが後ろでこちらを写し出している。
 乱馬はそのカメラを見てふとさっき自分が言った事を思い出した。
『あかねは俺の、許婚だーーー!!!!!!』
 思い出した瞬間、乱馬は顔中真っ赤になったがカメラを見て真っ青になった。
「まさか、今の闘い全部記録してたんじゃ・・・・」
 恐る恐る聞く乱馬。口調はもはや引きつっている。
「ピンポーン!はじめっから仕組んだ事だよ〜ん・いやぁうまくいって本当に良かった。」
 笑顔で乱馬の方をポンポンと叩きながら話す結希。つまりは始めから仕組まれていた事だった。
「いやー、やっぱ人間素直にならないとな。実際は早雲のおじさんと玄馬のおっちゃんに油揚げを報酬に頼まれてた事なんだけど、闘ってみたかったからな。ちょうど良いと思って引き受けたんだ。」
 妖狐と言ってもやはり狐である。油揚げには弱い!
「そういう事だったのか・・・じゃああかねを賭けて勝負ってのは?」
「ああ、そうでも言わないとちゃんとした勝負にならないだろ?まあ、万一に乱馬が負けたとしても乱馬の性格からして負けっぱなしで引き下がる事は無いと確信してたからな。でも俺は本気だった。それで勝ったのはやっぱ乱馬のあかねに対しての愛の力ってやつかね〜〜。」
 本当に先ほどまでの険悪なムードはどこへやら結希が乱馬に話し掛けているその姿は乱馬に対する嫌がらせをしているようだった。
「だいたいお互いに好き合ってるんならやっぱはっきり伝えないといかんよ。なっ、あかね。」
 あかねに話をふる結希。当のあかねもさすがに赤面してしまっていたが、徐々に正気に戻った。
「そういえば結希君のその姿、やっぱり朔夜ちゃんが捜している人って・・・」
 朔夜という言葉を聞いた瞬間、先ほどまで乱馬とあかねをからかっていた結希の顔が青ざめて引きつる。
「なんでその名前を・・・・・」
 あきらかに怯えたような顔をしながらあかねに必死で答えを要求する結希。そうしているうちに背後から声が聞こえた。
「さ〜が〜し〜た〜わ〜よ〜。」
 幽霊の『うらめしや〜〜〜』との如く結希の背後からあらわれる朔夜。
「ひぃい〜〜〜〜!!」
 結希は恐ろしさのあまり乱馬の後ろに隠れてしまい、震えながら言った。
「待て!とにかくわけを聞いて・・・」
「聞く耳もつかーーー!」
 朔夜の放ったアッパーがクリーンヒット!あわれ傷ついた結希はまたはるか彼方にふっとんでしまった。

−−−休憩室−−−

 気絶している結希を運び、乱馬、あかね、朔夜は話をする為に高校内の会議室及び休憩室に入った。
「で、あんたらは一体何者だ?半妖だってこいつは言ってたけど・・・」
 乱馬はさっきの闘い以来ずっと思ってた事を言った。
「はい。私を含め、私達獣人族は一目につかない里に住んでいます。もっとも私や結希の様に人の姿になることもできる者もいるので生活には不自由ないのですが。」
「だけどそんな話聞いた事も無いわよ。」
「それはそうです。本来は人前で正体を出すというのは掟で禁じられていますので。『本来は』ね。」
 そう言って結希を睨めつける朔夜。掟破りを軽蔑するような瞳である。
「けれども私達の先祖は結構人間達に正体がバレています。だから実際バレたとしても騒ぎにならなければどうと言う問題も無いんです。」
「ちょっとまて、人間に正体がバレてるなんて話、聞いた事もねぇぞ。」
 確かにこの日本でそんな妖怪もどきが出てきたら大騒ぎである。たとえ昔だったとしても。
「あら?物語になっているはずですけど確か『鶴の恩返し』とか『狼男』とか・・・」
「うっそーー!あれってあなた達の先祖の人ってこと?」
 さすがに驚きを隠せないでいるあかねと乱馬。実際に物語だと思っていたのが実話であったのだから仕方が無い。
 それからも獣人族である彼女らの事、これまでに起こった経緯などを聞き、大方話が理解できてきた。
「それで昔から付き合いのある中国の麝香王朝の人達に1年前私と結希は会いに行ったんです。そこで結希が突然姿を消してしまって・・・色々な情報を得てなんとかここまできて見つけだす事が出来ました。」
「どうして結希君はいなくなったのかしら?」
「ちっ、見つかっちまったんなら話すしかねぇな。」
 あかねの問いに答えたのは朔夜では無く、いつの間にか起きていた結希であった。
「この際、隠し事はなしだ。あのとき、俺はハーブと話をしていた。乱馬の事を聞くと共にハーブの体質の事も聞いた。だから水をぶっかけてみて女になったハーブを笑った瞬間、あいつに娘溺泉に突き落とされちまったんだ。そんな姿、一緒に居た朔夜には見られたくなかったんでそのまま逃げ出したんだ。」
 悔しながらに語る結希に乱馬は疑問をぶつけた。
「おまえらって一体どんな関係なんだ?」
「親同士の決めた許婚よ!まったく、冗談じゃないわ!」
「それはこっちの台詞だ。だれがおまえみたいな可愛気のない女なんか!」
「なんですってーー!あんたなんか呪泉郷に落ちた変身体質なんでしょ!この変態!」
「俺だって好きでこんな体質でいるんじゃねぇ!俺だって元の身体に戻るために呪泉郷に行ったんだ。だけど呪泉の水が増水してて危険だって事で元の身体に戻れなかったんだ。なんでも数日前に黒豚とアヒルを連れたオカマが猫と女を助けるために鳳凰山の鳥人間と闘ったのが原因だとか訳の分からん事を言われてしかたなしに日本に帰って来たんだ。」
「それってまさか・・・・」
「呪泉洞でのサフランとの闘いの事じゃ・・・」
 過去の記憶が蘇る。確かにあの時、乱馬とサフランの闘いで呪泉郷の水が増水し、乱馬も元の身体に戻れなかったのである。しかしその数日後に結希が来ていたとはさすがに乱馬も驚いた。
 とんでもない噂になってしまった乱馬は不愉快で結希に訂正しようとした。しかしまさか自分の闘いで結希まで被害が及んでしまったとなるとやはり説明は出来ないのであった。
真相を知る乱馬とあかねをよそに結希と朔夜は言い争っていた。結希と朔夜の喧嘩。乱馬とあかねは自分達を見てるようで顔を見合わせた。



−−−天道道場玄関−−−

「天道家の皆さんにはお世話になりました。」
 結希はみんなにお辞儀した。結希はみんなにお辞儀した。目的を遂げた結希は天道家に居候する理由はなくなったので自分の里に戻る事になったのである。
「乱馬、今度は負けねえぞ!」
 拳を前に突き出して乱馬に笑いかける結希。乱馬もそれに応じて拳を結希の拳に合わせて言う。
「いつでも受けてたってやる。」
 日はもう落ちかけてちょうど夕日が綺麗に照らしていた。
「また、いつでもいらっしゃいね。」
「あんたのおかげであのビデオ高く売れたわよ。記念に一本あげるわ。」
「それじゃあ2人ともお幸せに。」
 結希と朔夜に言うあかね。2人は赤面して否定した。
「俺とこいつはそんなんじゃ・・・」
「そうよ!それよりあなたたちこそ次に来る時までに元気な赤ちゃんを期待してるわよ・」
 今度は乱馬とあかねが赤面してしまった。
「乱馬とあかねは刀と鞘のようだな。」
 笑いながら結希が話した。乱馬とあかねは意味が分からないといった顔をしていた。
「乱馬は鋭い刀身だな。常に刃を光らせて周りにいる人達を傷つける、そんなぶっきらぼうな性格だ。それに対してあかねはそんな刃を優しく包み込む鞘だが、いざ危険が迫るとやはり刀に頼らざるを得ない。つまり、お互いに無くてはならない存在なのさ。」
 顔を見合わせる乱馬とあかね。今までの出来事に確かにその通りであると実感したが天道家の手前上、口にはだせないのであった。
 結希と朔夜が夕日に向かって歩き、そして消えて行くのを見送った天道家面々は乱馬とあかねを残し家の中へ入って行った。
「まったく、おせっかいな狐だぜ。俺達の事より自分達の事何とかしやがれってんだ。それから!1つだけ言っとくけど、今日の闘い、あれは俺自身の為にやった事だ。別におまえがどうとかは関係ねえ。」
「わかってるわよ。どうせ乱馬には格闘の事しか頭に無いんだから。」
 いつも通りに喧嘩腰で話す2人。明日には学校はおろか町内でもからかわれることを2人はまだ知らない。








作者さまより

乱馬に似ているやつが居たらあかねにも似た奴を。ということで作り出した人物が朔夜です。不知火に対して陽炎、朔夜というのは昔の書物でなんか出てきたから使いました。

一話目から三話目まで『いいなずけ』と平仮名になっていますが、あれは辞書では『許嫁』単行本では『許婚』だったのでどちらにすべきか悩んでいるうちに忘れてしまっていました。


 その昔、武蔵さまには脚本形式の話を一本いただいたのですが、呪泉洞の運営方針でお断りしたことがあるのです。
 で、久しぶりに頂いた作品で、その成長振りに目を見張り、今回二作目となる長編。
 脚本形式では読めない情景の描写など、力を確実につけられていて、また一人、面白いらんま系二次創作作家が生まれたとほくそえんでいる私です。
 オリジナルキャラが光ってますよね。設定の方法も上手いです。朔夜は「此花狭久夜媛(このはなさくやひめ)」という記紀神話の神様からきてるのかなあ・・・。などと思うのも面白いです。
 乱あのさじ加減も良く、満腹になりました。
(一之瀬けいこ)


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