◇強さを求めて 3
武蔵さま作


結希が天道家に来て1ヵ月が過ぎた。その間に良牙、右京、シャンプー、ムースなどその他大勢の人達と知り合いになりすっかり打ち解けていた。しかし、異変は突然起きた。
乱馬とあかねが居間に降りて来た時、家族の様子が何やらいつもと違う事に2人は気が付いた。乱馬とあかねの2人を除いて結希と何やら話をしているのだ。
「何をこそこそ話てんだ?」
いきなり声を掛けられ驚いた天道家一同は不自然ながらもとっさに分散し、自分の仕事に取りかかった。
「何なのかしら?」
不思議に思うあかねを他所に、乱馬は結希に近寄っていった。
「おいっ!何をこそこそ話してんだ!?」
「はて、何の事やら?」
すっとぼける結希に乱馬は何かあると察した。
「丁度いい!お2人さん、ちょっと道場まで来てくれよ!」
結希はそう告げるとさっさと道場に行ってしまった。
「なにかしら?」
「行ってみるしかなさそうだな。」
乱馬とあかねの2人は天道家面々の事が気にかかりながらも道場へ行った。
「おっ!来たか。」
道場では結希がなにやら改まった様子で座っていた。
「で、一体何の用だ?」
乱馬とあかねが道場に入ったのを確認すると結希はゆっくりと立ち上がり、2人に近づいていった。
「実は大事な事をしなければならないんだ。悪いが乱馬とあかねは向かい合ってくれ。」
深刻そうに話す結希の口調は何やら反論を許さないような感じを受け、乱馬とあかねはそれに従った。
乱馬が言われた通りに向かい合った瞬間!
『トンッ』
乱馬の背中が押され、バランスを崩した乱馬はあかねに抱きつく形になってしまった。そして次にすかさず結希が乱馬の背中に点穴をした。
「ちょっと!何してるのよ、早くどいて!」
顔を赤くしたあかねは抱きついたままの乱馬を引き離そうと力を込めた。
「・・・動けねぇ・・・」
「えっ!?」
「だから!動けねえっつてんだよ。結希!てめえ、何しやがった。」
何度も動こうとしている乱馬は首を後ろに傾けながら結希に向かって喋った。
「まあ、端的に言って手を使えなくしたんだけどな。」
「てめえ!一体何の目的だ!」
結希の突然の行動、そして不可解な行為が乱馬にとってはいても立ってもいられなかった。
「目的・・・か・・。それはだな・・・」
結希が突然何かの合図をした途端!先程までそれぞれの仕事をしていた天道家一同が道場に集結していた。
「この日をどんなに待ち望んだことか・・・」
「おっちゃん。そんなこといいから早く・・」
結希が言い終えるよりも早く、なびきがいろいろなアングルからカメラで2人を撮りまくった。
「ちょっとお姉ちゃん!やめてよ!」
あかねがなびきの行動を制止しようとするが、乱馬に抱きしめられた状態で動くことは出来なかった。
「だーーっ!仕方ねえ、とにかくここを離れるぞあかね。」
言うが早いか乱馬はあかねを抱き締めたまま天道道場を逃げ出した。
「全く、何を考えてやがんだ。とにかく、このままじゃあ困っから東風先生のとこで診てもらうか?」
「そうね。このままだと困るし・・・・」
顔を赤らめながらも2人はこの状況を何とかするべく、小乃接骨院に向かった。もちろん近所の人々に見られながら・・・

−−−小乃接骨院−−−

「おやぁ、乱馬君にあかねちゃん。えらく仲が良さそうだけど一体どうしたんだい?」
「俺だって好きでこんな色気のねぇ女とくっついてるんじゃねーよ。」
「色気が無くて悪かったわね!」
腕が固定されているため動けない乱馬は、あかねから水月に肘撃ちを喰らいながらも乱馬は東風に事情を話し、解穴を頼んだ。
「どれどれ、ちょっと乱馬君、後ろを向いてくれるかな?」
言われるがままに乱馬は後ろを向き、東風に背中を向けた。
トンッ
東風が乱馬に解穴を施したが、乱馬の手はあかねを抱き締めたままだった。
「乱馬君、もう自由に動かせるはずだけど・・・」
「えっ!あ・・・」
急いで手を離したのだが、時既に遅し。
「あんた、本当はわざとやってたんでしょ!」
あかねが拳を握って乱馬の方を睨み付けると、乱馬は慌てて弁解した。
「わわっ!ちょっとタンマ!本当にさっきまでは動かなかったもんだから半ばそのまま硬直を・・・」
「聞く耳持つかーーーー!」
あかねのビンタ炸裂!吹っ飛ばされた乱馬の顔には痛々しい赤いあざが残った。
「それにしてもその結希と言う人はよほど経絡秘孔に詳しいんだね。」
「「経絡秘孔?」」
「そう!古来から東洋の医学として今でも伝えられているいわゆるツボ療法なんだけれどもね。人体にはおよそ708つの秘孔が存在していて古来から病を治すのに役立っていたけれども、病を治すほかにも反対にたった数点を突くだけで相手が死んでしまうという『死穴(しけつ)』というツボも存在するんだ。」
「ツボを押されただけで死んじまうのか?」
今まで格闘意外に興味を示さなかった乱馬もさすがに驚いた。なにしろ闘って敗れるのではなく、ツボを突かれるだけで死んでしまうという東風の話に内心恐怖すら覚えた。
「そこが経絡秘孔の摩訶不思議な所さ!以前乱馬君が押された猫舌のツボや江戸っ子じいさんのツボも
その経絡秘孔の1つにすぎないんだ。」
確かに乱馬としては以前の猫舌のツボには酷い目にあわされた。その効果は乱馬が良く知っていたため、経絡秘孔の恐ろしさを嫌という程理解した。
「とにかく、俺をこんなにしてくれた結希に借りを返しにいかなきゃな!」
あかねにそう言いながら話し掛けた乱馬は笑ってはいるものの、口調から言って怒っているのはよくわかった。


−−−天道道場−−−

「やいっ、結希!てめえ一体何のつもりだ!」
乱馬とあかねは急いで結希のもとに行き、まずは理由を聞く事にした。
「そんな〜、2人とも怒らないでよ〜・」
いつの間にか女の姿になっていたゆうきは笑いながら2人の前に立っていた。
「誤魔化さないで!どうしてあんな事したのか説明してちょうだい!」
あかねの口調はどことなく早雲の『説明してもらおうか!』に似ている。妖怪化はしないのだが、声に凄みを感じる。
「いや、その、2人の最後の記念にと思って・・・」
「はあ?最後の記念だ〜?」
「そ!もう一度確認しておこうと思うんだけど、乱馬はあかねが好きか?」
いきなりの質問に乱馬は少し驚いた。まさかこちらの質問に対し、こういう質問で返してくるとは予想もしなかったのだ。
「だっ、だれがこんな色気もなくてかわいくなくておまけに不器用で寸胴な女なんか!」
それを聞き、怒りをあらわにしながら乱馬に近付くあかねを制止つつ、ゆうきは同じような質問をあかね
にもした。
「あかねは乱馬の事が好きか?」
これまたあかねも驚いたが、乱馬にあてつけるかの如く、心底反発して言った。
「だれがこんな粗忽で乱暴でおまけに優柔不断の変態なんか!」
2人ともお互いの性格を的確に突いた暴言ではあった。
「よし!それなら問題ない。乱馬、あかねを賭けて俺と勝負だ!」
突然のゆうきの発言に2人は顔を見合わせ、唖然とした。
「ちょ、ちょっと待ってよ!なんで私を賭けて乱馬とゆうき君が勝負するわけ?だいたいそんな事お父さんが承諾するかどうか・・・」
「それならノープロブレム。早雲おじさんにはちゃんと許可を得ている。それに2人とも好き合っている訳じゃないし、むしろ嫌いなら俺があかねのいいなずけでもなんら問題はないと話し合ったんだ。」
乱馬は今朝の天道家一同の怪しい行動を思い出した。既にあの時、着々と計画は進められていたのだった。
「その事に親父も承諾したのか?」
あのすちゃらか玄馬が承諾するはずがない。そういう自信は乱馬にはあった。いいなずけをやめる事、則ちそれは居候を止めて天道家を去ると言う事に繋がる。それをあのお気楽パンダが望むはずはないと思っていたのだが・・・・
「それもモーマンタイ。玄馬おじさんにも承諾を得ているから。」
ゆうきが話している最中、天道家が集まって来た。もちろんその中には早雲と玄馬の姿もあった。
「そう言う事だ、あかね、乱馬君。おまえ達の仲があまりにも悪いのでな、もういいなずけをやめた方がいいのではないかと相談してな。かと言って、それではあまりに突然すぎるから乱馬君といいなずけの座を賭けて勝負し、勝った方があかねのいいなずけとする事にしたのだ。」
「乱馬、おまえが負けたらわしらは天道家を去る事にした。その事を肝に命じておけ!」
早雲、玄馬の2人の言葉はいつになく重々しく、乱馬とあかねは黙って2人の言葉を聞いていた。
「勝負は一週間後の午後1時、場所は風林館高校のグラウンドにて。まあ最初からいいなずけに興味がないんだったらこの勝負、俺の不戦勝でもいいんだけどな。」
ゆうきの見下したような態度に乱馬は乗って来た。
「おもしれえ!俺は格闘と名のつくもんに負けた事はねぇんだ。なんならこの間の稽古の決着着けてやってもいいんだぜ!」
闘志を燃やし、ゆうきに向かい合う乱馬はもはや闘いの事でいっぱいであった。
「ちょっと待ってよ!そんな簡単にいいなずけをころころ変えられて、私の意見はどうなるのよ!それに私が結希君を好きになるかはわからないじゃない!」
顔を真っ赤にしながら、反発するあかね。まあ、当のあかねにとっては、急にいいなずけが変わった事や一週間後の勝負で乱馬が負ければ早乙女親子が居なくなると聞けば黙っていられなかったのであろう。
「なんだ?やっぱ乱馬が好きなのか?」
「そうじゃなくて、私が言いたいのは・・・」
結論から言うとそうなのだが、ハッキリと言葉が出せないあかね。言葉を続けようとするが、それはゆうきによって遮られてしまった。
「だったらいいじゃねえか少なくとも乱馬の事が嫌いならいいなずけになる必要もないし、あかねのことだって乱馬みたいに傷つけたりしないぜ!それに元の鞘におさまりたいなら乱馬が一週間後の勝負に勝てばいいっていう話だろ?」
もはや言う事はなかった。一週間後の勝負で全てが決まってしまう。そんな状況下、乱馬とあかねはどうすればいいのか、それは本人達にしかわからぬ事であった。



つづく




作者さまより

いらない部分を削除していったら短くなってしまった。
4話目は長いです。乱馬とあかねの心情を巧みに操る結希を書きました。
補足:ノープロブレム、モーマンタイ。どちらも『問題無し』の意

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