◇強さを求めて 1
武蔵さま作


日曜日、あかねはいつものように早朝ランニングをしていた。決められたコースを一周して天道家に向かって走っているところ、天道家の近くに何かがあった。
(何かしら?ひょっとして人?)
近づいてみるとそれは少年であった。あかねは驚いて声をかけた。
「しっかりして!大丈夫?」
とりあえずあかねは家の中にその少年を連れて行った。その少年は端正な顔立ちをしていたがまだ幼さが残っていた。赤いハチマキを巻いていてこの辺では見かけない顔であった。
しばらくして、少年は目を覚ました。
「うっ・・・・ここは・・・?」
辺りを見回すとそこには天道家の面々が並んでいた。
「よかった。目を覚ましたのね。」
おっとりした声でかすみが言った。
「俺は一体・・・」
未だ状況が理解できていない少年に、早雲が事情を説明した。
「君が天道家の近くに倒れていたものでね、娘のあかねがここに運んで来たんだよ。」
「本当にびっくりしたのよ。でも大丈夫そうでよかったわね。」
少年は事情を察したようであった。
「そうでしたか・・・危ない所助けて戴き、ありがとうございました。」
そこへあかねのいいなずけの乱馬がでてきた。
「おっ!目を覚ましたのか?おめえ、なんであんなところに倒れてたんだ?」
突如現れた少年や天道家の面々に驚かされつつ、少年は経緯を語り出した。
「恥ずかしい話なんだが・・・・あっ!申し遅れました、俺の名前は不知火 結希(しらぬい ゆうき)といいます。不知火家の希望を結ぶという意味でつけられたのですが・・・」
「で、恥ずかしい話がどうなのよ!」
自己紹介に入った少年になびきが痺れをきらした。
「おっと、そうだった。実は俺、武者修行の旅に出てもう5年になるんだけど、今まではなんとか食ってこれた。しかしついに金も底をついてここ数日何も食べないでいたんだ。それでここの近辺まで歩いてい
たんだけどそのまま意識を失って・・・」
「それで倒れてたってことか。」
「それにしても5年間も武者修行の旅とは・・・1人でたいしたもんだ。」
いつのまにか玄馬が話に入っていた。しかしそんなことはお構い無しに普通にしているのが天道家であったため、早雲はなにも突っ込むことなく結希と話をしていた。
「武者修行ということは君も武術をやるんだね。もしなんならうちにしばらく泊まってはどうかね。」
早雲の提案に結希は驚いた。
「とんでもない!助けてもらった上に住む場所まで厄介になっちまったら申し訳がたたないぜ。」
「遠慮する事はない。なにせうちには大食らいの居候が3人(玄馬、乱馬、八宝斉)もいるから1人ぐらい増えたってどうってことはない。それに稽古の相手がいるとなにかと助かるものだからね。」
早雲の太っ腹な行動に、結希は苦笑いして言った。
「本当にいいんですか?」
反対の声はなく、全員一致で可決する事になった。そして夕飯までに時間があるということで結希は乱馬達と稽古する事になった。早雲、玄馬、いつの間にか来た八宝斉は結希の実力を見る事にし、まずはあかねが結希と闘う事になった。




−−−道場−−−


「てやー!」
あかねのするどい突きを結希はうまく避ける。そしてあかねが攻撃を繰り出す直前に間合いを詰めた。
「攻撃は鋭いが、防御がまだ甘いな。」
間合いを詰められて焦ったあかねが後退した瞬間を、重心移動で結希が足払いをかけた。床に叩き付けられると思いきや、衝撃は全くなかった。倒れる瞬間に結希が上体を掴んでいたからであった。
「私の攻撃が全く通じない?」
唖然とするあかねに代わって乱馬が出て来た。
「次は俺の番だな。」
次いで出て来た乱馬は結希の強さを見抜き、闘気を爆発させた。
「くらえ!火中天津甘栗拳!」
乱馬の猛烈なラッシュが結希を襲う。さすがに避ける事はできずに20発ほど、乱馬の攻撃を受けて吹っ飛んだ。
周りではその闘いを見て早雲達が感嘆の声をあげた。
「ほほう、乱馬君さすがだね〜。」
「わっはっは。天道君、なにせわしの息子だからね〜・」
浮れている2人に比べ、八宝斉だけはいつになく覗きと同じくらい真剣になっていた。そして小さき体でありながら飛び上がって早雲、玄馬の2人をキセルで殴った。
「おろかもーーん!あやつはかろうじて急所だけは避けておる。並み大抵の武道家でなければできぬ事、それが見抜けんとは・・・それでもわしの弟子か!」
乱馬もその事に気付いていて八宝斉と同じ意見を出した。
「さすが腐っても爺だ。よくわかってやがる。」
「だれが腐っても爺じゃ!それより乱馬、よいのか?わしの見た所、あやつかなり出来ると見た。油断しておると負けてしまうかもしれんの〜。」
乱馬が目をやると結希は既に立っていた。
「痛って〜〜。急所は外したとはいえ、かなり効いたぞ。すごいなおまえ!」
やられながらも結希は乱馬の凄さを認め、とても嬉しそうな顔をしていた。
「今度はこっちの番だ。くらえっ!!」
結希の姿が乱馬の目の前から消えたと思った瞬間!乱馬の背後に現れ、最初の正拳突きがヒットする。そのまま蹴り上げられ宙に浮いた所を肘撃ちが入る。さらに追い討ちをかけようとする結希に、乱馬はすぐ
に受け身をとって構えた。
「くっ!・・・・」
思わぬ連続技に乱馬はかなりのダメージを負った。
「ふーむ。やはり世の中にはおるもんじゃの〜。わしを含めて『天才』と呼ばれるものが・・・」
(な〜にをぬかすか。しょせん貴様のようなエロ妖怪には『天才』と呼ぶよりも『変態』と称するほうが似合っておるわ。)
心の中で全く同じ考えをもつ早雲と玄馬であったがあえて口には出さないのであった。
その後も乱馬と結希は闘ったが乱馬が有利だったり不利だったりなど決着は着かなかった。




−−−天道家居間−−−

道場での闘いで、乱馬と互角の力を持つ結希を早雲はとても気に入っていた。
「いやあ、結希君。さっきはすごかったね〜。君、何をやっているんだい?」
「格闘スタイルですか?・・・まあ、空手、ムエタイ、カポエラ、テコンドー、ボクシング、剣道、槍術、合気道、棒術、サンボ、マーシャルアーツ、ルチャ、不知火流古武術、それから中国拳法をやってる。中国拳法ではカンフーに蛇拳や酔拳、太極拳、八極拳、詠春拳を覚えたんだけど、全部我流なんだ。」
「・・・・こりゃまたすごいたくさん覚えたもんだ。どうりであの型にはまらぬ独特な闘い方や臨機応変に適しているわけだ。無差別格闘に近いものだな。」
「しかし、乱馬もかなり強かったな。俺、これでもかなり修行してきたのに・・・乱馬も相当修羅場をくぐり抜けてきたんだな。」
結希は乱馬の強さに感心していた。決して手加減したわけでもなくそれでいて決着が着かなかった。だからこそ乱馬の強さを認めたのである。
「ま〜それほどでもあるけど。」
「しかしおぬしもなかなかやるの〜凄まじき天賦の才じゃ。修行次第ではおぬし、まだまだ強くなるぞ!」
「へへっ、お世辞でも嬉しいぜ。」
「なんならわしの弟子にしてやってもよいぞ!さすればギャルにもてもてじゃ。」
無気味に笑う八宝斉を横目で身ながら乱馬が忠告した。
「やめとけよ。爺の弟子になったらそれこそ下着泥棒の手下になっちまうぜ!」
八宝斉の下着コレクションを乱馬に見せられて結希は八宝斉の弟子になることを心からきっぱりと拒否した。
「結希君、お風呂どうぞ。」
かすみが風呂を勧めて来た。しかし結希はまた遠慮した。
「俺、最後でいいです。おじさん達、先に入って下さい。」
「なにも遠慮することはない。君も稽古して汗をかいただろう。汗を流してさっぱりしてきなさい。」
結希は最後まで遠慮していたがかすみに連れられて風呂場に行った。
結希が風呂場に向かった後、玄馬が乱馬に言った。
「乱馬、おまえも一緒に風呂に入ったらどうだ?技についていろいろ結希君に教えてもらうがよい。」
「要するにとっとと風呂に入れって言いてえーんだろうが!」
ぶっきらぼうに応えながらも玄馬の言う事にも一理あると考え、風呂場に向かった。
『ガラッ』
「邪魔するぜ。」
乱馬が勢い良く開けたその扉の向こうにはいるはずの結希の姿はなく、代わりに小柄な少女がシャワーを
浴びていたところだった。
「えっ・・・・?」
振り向いた少女と乱馬の目が合う。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
しばらく2人は止まったが乱馬は何事もなかったかのように扉をゆっくり閉め、服をきて風呂場を出た。
そして次の瞬間!
「わ〜〜〜〜!!」
乱馬の驚きの声が家中に響き渡った。その声を聞き付けて家中の人達が集まった。
「どうしたんだね、乱馬君。」
早雲が乱馬を落ち着かせながら尋ねた。
「風呂場に変な女が・・・・」
「おかしいわね、お風呂には結希君が入ってるはずだけど・・・」
「あの〜〜。」
乱馬の後ろの扉から先程の少女が恐る恐る顔を出した。
「君は一体・・・?」
「驚かせてすみません。不知火 結希です。」
結希と名乗る少女にあかねは言った。
「あなたがあの結希君なの?」
「はい。」
とりあえず説明してもらう為、一同は居間に集まった。
「俺の本当の姿は男なんだけど、実は中国に渡った時に呪泉郷というところで娘溺泉という泉に落ちてから水をかぶると女になる体質になっちまったんだ。」
「呪泉郷!?」
「偶然ってあるものなのね。」
「まさか結希君も呪泉の被害者だったとはね。」
訳がわからないという様子の結希に乱馬と玄馬は水をかぶってみせた。たちまち乱馬は女の姿に、玄馬はパンダに変わった。
「まぁこういうわけだ。俺も親父も呪泉の被害者って訳だ。親父はパンダになるけど俺はおまえと同じ娘溺泉に落ちちまったんだ。」
「ぱふぉ。」『同じ仲間だよ〜ん・』
突然のかわいらしい女の子とプラカードを持ったパンダの出現にゆうきは最初は驚いていたが、状況を把握すると嬉しくなってらんまに飛びついた。
「おい、こらっ!よせっ、抱きつくな!」
「だってまさか俺と同じ奴がいるなんて・・・今までこの体質を見てきた奴は俺の事、変な目で見て変態扱いするもんだから・・・俺と同じ境遇に遭った奴に会えて俺、嬉しいんだ。」
とても嬉しそうにしているゆうきに八宝斉が飛んできた。
「ゆうきちゃ〜ん。このブラつけてくれんかの〜?」
「「己は状況が見えてないのか〜〜!!」」
早雲とあかねの攻撃によってお空のお星様になる八宝斉。
呪泉郷に落ちたという同じ境遇は乱馬にとってもよき理解者ができて嬉しかった。
その夜、2人はすっかり打ち解けて話をして楽しんでいた。
「へえ〜、乱馬も小さい頃から修行の旅をしてたのか。」
「まあな、それなりに充実して修行できたもんだ。」
「それで今はあかねのいいなずけとしてここに居候ってわけか。」
「誤解すんなよ!いいなずけったって親父達が勝手に決めた事だからな!」
「わかってるって。しかし、乱馬はあかねの事どう思ってるんだ?」
興味津々で乱馬にの返事をきこうとする結希。しかし乱馬はいつものようにあかねの悪口を言った。
「へんっ、あいつは寸胴だしガサツだし、素直じゃねえし、かわいくねえし、色気もない、おまけに空前
絶後、日本一の不器用ときたもんだ。」
「へー、好き合ってると思ったのは俺の勘違いか。乱馬はあかねが好きじゃないんだ。」
結希のあっさりとした答えに乱馬はちょっと戸惑った。
「いや、そうあからさまに否定されても・・・」
「じゃあ、あかねが好きなのか?」
否定すれば納得されてしまい、かといって否定しなければ認めてしまう事になってしまう。また自分の性格上人に本心を打ち明ける事もできず、どうしようもない乱馬はかなり己自身の中で葛藤していた。
「なあ、どうなんだ?」
追い討ちをかけるかのように、結希は乱馬の答えを追求する。さすがの乱馬も困ってしまった。
「いやっ、その、・・・・もう寝るぞ!」
逃げる事にした。結希もその対応を見て大体の事を理解し、それ以上は聞かなかった。



つづく




作者さまより

お約束パターン、主人公に似たものが出てくると言った話です。名前の由来は乱馬と同じように男でも女でも通じる名前と言う事でいろいろ悩み、これにしました。


男溺泉に溺れた少女の登場に、大波乱の予感が。
次の展開がとっても気になるところ・・・。
力も技も乱馬と拮抗しているようですし、生い立ちも似たようで?
(一之瀬けいこ)

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