◇戦場の息吹
  FINAL Mission 新たなる時代へ
武蔵さま作


「良牙!ムース!」
乱馬は再び二人に声をかけた。しかし、機体の頭を狙う武器は一向に下ろされなかった。
「ムース、何してるか!」
「良牙様、一体何を!?」
良牙とムース、両機のコクピット内でパートナーであるシャンプーとあかりの声が回線を伝って聞こえてきた。しかし二人はパートナーの言葉に耳を貸さず、乱馬に話しかけた。
「おまえがあかねさんを助けに行くのなら・・・俺達はここでおまえのアーマーを破壊する。」
「だから止まってほしいだ。おら達におまえを攻撃させないでほしいだ。」
沈黙が続く。暫くして乱馬が重い口を開いた。
「・・・・上層部に命令されたのか?」
乱馬には思い当たることがあった。乱馬がスパイ容疑で審問会にかけられたとき、入れ違いに良牙とムースが部屋に入ったことだ。
「ああ。おまえの思ってる通りだ。俺達はあの時・・・」

―――二ヶ月前―――

「入りたまえ、響中佐、ムース少佐。」
承諾を得て、二人は中に入った。後ろには審問会を終えて去っていく乱馬の姿があった。
「さて、君達には特別任務を与える。」
参謀長官が話を切り出す。良牙とムースの二人は驚いた。
「えっ?俺達が呼ばれたのはハッポウ軍のパイロットとの関わりについてでは・・・」
良牙の意見にムースも同調した。それを覚悟でこの場にやってきたのだ。
「いや、その事はもうよい。今は新たなる指令を遂行してもらいたい。」
二人はいささか拍子抜けしたが、気を取り直して任務内容を聞いた。
「任務内容は・・・・」
参謀長官が手渡された資料を読もうとするが、どうも様子がおかしい。サフランと玄馬の顔色を伺っているのだ。
「どうした、早く続きを読め。」
参謀長官は今初めて任務内容を知ったように、言葉を躊躇っていたが、サフランに催促され、言葉を続けた。
「に、任務内容は・・・『早乙女乱馬大佐が今後、軍の命令に背いた場合、第一アーマー小隊隊員が抹殺せよ。』ということだ。」
ざわめく法廷。玄馬が驚いている様子から察するに、この指令はサフラン独自が行ったものらしい。
「意義あり!」
法廷に声が響くと同時に、東風が立ち上がった。
「なんだ、東風医師。いや、今は小乃大将であったな。」
東風はあかねからかすみの生存を知り、軍に復帰した。もちろん空位であった大将の座にだ。だからこそ上層部の会議など、軍に関わることには出席しているのだ。
「早乙女大佐がこの軍に齎(もたら)せた功績は非常に高いものであると考えられます。現在の第一アーマー小隊の勲功によって我々ジュセン軍の戦力が大いに向上したと言っても過言ではありません。今一度、指令内容の変更を・・・」
「ならん!」
東風の言葉はサフランによって遮られた。
「確かに早乙女大佐の秀でた才能は認めよう。だからこそ、敵として我等の前に現れたとき、確実に勝利を得ることが危うくなる。これは決定事項だ。」
サフランの言うことはもっともであった。しかし東風は納得していないらしく、再び抗議を続けた。
「しかし早乙女大佐が今回の容疑に関する問題、つまりはハッポウ軍のパイロットとの関係ですが、彼女は天道家の人間です。言うなればハッポウ軍に強制労働させられている捕虜と同じです。事実、彼女は我々に直接攻撃を仕掛けたり、仲間を殺害したりはしていません。」

あかねはテストパイロットである。さらに天道家は開戦前、人の好い貴族として有名であった。だからこそ東風の意見も正しかったが、サフランは聞き入れようとしなかった。
「小乃大将の言う通り、天道家は確かに敵ではない。天道早雲博士は早乙女玄馬司令官とアーマー開発に功績を残したことは知っている。それ故にジュセン軍が勝利した際には刑罰を与えようなどとは考えてはいない。捕虜ならば問題はない。しかしパイロットとなれば話は別だ。戦場においてそれは敵だ。捕虜でもなんでもない。」
「しかし・・・・!」
東風はまだ納得いかなかったが、玄馬が小声でそれを制した。
「それ以上言ってはならん。わし達があかね君との関わりを明確にすれば、罪を甘んじて受けた乱馬に申し訳が立たん。わし等は天道家の捕虜の救出という目的があることを忘れてはならん。」
「玄馬さん・・・・」
東風は落ち着き、唇を噛み締めながら抗議を終えた。
「出過ぎた発言でした・・・・申し訳ありません。」
東風の意見は通らず、結果、任務は変更されることはなかった。となれば納得いかないのは良牙とムースである。


「おら達には・・・・できないだ。」
二人は俯いて答えた。
「何故、できぬと申すか?」
「俺達は生死を共に戦ってきた仲間です。確かに戦争中に人を殺すことができない俺達は軍命に背いてきました。だけど、今回の任務はどうしてもできません。」
「おらも・・・響中佐と同意見だ。」
普通ならば、『命令に背いたら』ということなので、乱馬が命令に反さない限り、今回の任務が遂行されることはない。しかし、二人には乱馬が確実に命令に背くということがわかっていた。
「どんなに優れたアーマーであろうと、ウイルスが入ればそれはどんどん感染して行き、やがて修復不可能となる。そうなったアーマーはもう使えない。廃棄処分だ。」
サフランの言葉に言葉を失う二人。乱馬のことを言っているのだとわかったからだ。
「おまえ達はまだ感染していない、と余は思っている。」
座っていたサフランが立ち上がり、二人に近付いていく。二人の傍まで来ると、サフランは二人の間に立ち、肩に手を置いた。
「まだパートナーと別れたくないであろう?」
決定的な言葉であった。呟くように発せられた言葉。その瞬間二人の体に電気が走ったように震えた。つまり断ればパートナー、つまりは自分が想いを寄せる人がどんな目に逢うかわからない。そういった脅しが含まれていたことを瞬時に理解した。
「わ、わかりました。」
二人は同意し、その任務を承諾した。乱馬が命令に背かないことを願って・・・



良牙とムースはその事を乱馬に伝えなかった。伝えれば乱馬を苦しめることになるからだ。乱馬の性格上、あかねを助けに行くだろう。しかし良牙達の事を知れば躊躇ってしまう。だからこそ、二人はせめて乱馬の機体を行動不能にし、自分達であかねを助けるつもりでいたのだ。


「俺を・・・行かせてくれ!」
「ダメだ!」「通すわけにはいかん!」
暫くして、乱馬は言葉を発しなくなった。良牙とムースが機体の頭部を破壊しようとしたときだ。
「確かに頭部を破壊すればメインカメラが壊れて俺は何も見えなくなる。・・・・だが俺はそれでも行くぞ!」
乱馬はそう言うと、二人の武器を掴んで強制的にコクピットに向けさせた。
「俺を本気で止めたいならここで俺を殺すしかない!おめーらには悪いと思ってる。俺1人の我儘(わがまま)でとばっちり受けさせちまって・・・だけど俺は行かなきゃならねーんだ。」
ビームの粒子は簡単に人を殺す能力をもっている。例え直撃しなくても、乱馬のコクピット付近を撃てば確実に乱馬を殺してしまうことも二人はわかっていた。そしてどちらともなく武器を下ろした。
「良牙・・・ムース・・・すまねぇ!」
乱馬がそのまま去ろうとしたとき、二人が背後から呼び止めた。
「待てよ!」
「おら達も一緒に行くだ!」
乱馬は言葉を濁しながら頷いた。二人がこうなった以上、どんなことをしてでも止められないことを知っていたからだ。
【こちらオペレータールーム、右京です。第一アーマー小隊、聞こえますか?】
和解と同時に通信が入る。
【これより作戦指示を伝えます。これより北方100キロ地点にて、早乙女大隊と合流して下さい。ハッポウ軍への奇襲の後、早乙女司令官と小乃大将は捕虜救出。第一アーマー小隊はハーブ総督と共に敵BAを破壊せよとのことです。】
「ちょうどいい。リーダー!指示を頼むぜ。」
「ああ。各機体、整備チェック!これより最終出撃をする。」
乱馬の命令に、即座にあかりとシャンプーが機器のチェックを行う。
「システムオールグリーン。スタンバイ!」
「ちょっと待つだ!」
いざ出撃という時、ムースが乱馬を止めた。
「乱馬、今回は輸送機がない。目的地到達までおらに作戦があるだ。」
ムースの作戦とは、乱馬の機体をノーダメージ、ノーリスクで運ぶことにした。ムースは簡潔に作戦内容を伝えると、乱馬は同意し、支持を変えた。
「各機体、機動力重視機体に変形。その後はムースの作戦通りに任務遂行する。」



―――ハッポウ軍―――

「これが最後の戦いになりそうね。」
あかねは発進すべく、格納庫に向かった。すると、自分の機体の近くで何やらごそごそやっている小太刀の姿を発見した。
「小太刀大尉、何をしているの?」
あかねと同階級である小太刀はどうもコクピットに入り込んでいたようだ。
「何でもありませんわ。ただ最後の戦いですから準備を怠っていないか確かめていたのですわ。」
(だったら自分の機体の整備でもしてなさいよ。)
あかねは勝手に入り込んだということに不快感を覚えたが、小太刀は謝りもせず、そのまま去っていってしまった。
「ま、いいわ。天道あかね、出撃します。」
コクピットに入り込んだあかねは、流れるような作業でキーを入れ、レバーやボタンを使って格納庫から出て行った。


「八宝斉様、こちら小太刀。例の物、シート下に設置いたしました。」
『ご苦労。ではお主も直ちに出撃せよ。』
残った小太刀は無線で八宝斉に連絡を取っていたことをあかねは知らない。





巨大なアヒルに乗った女と黒豚、もとい乱馬達の機体は、ハッポウ軍の本部へ向かって攻撃をしながら進んでいった。
「ムース、2時の方角に敵ね!」
「わかっただ、シャンプー。」
ムースとシャンプーのコンビネーションはなかなか良かった。実際、ムースは正反対の方を向いているのだが、シャンプーが補佐しているので問題なかった。
「良牙様、後方より敵の増援です。」
「わかった、あかりちゃん。」
「良牙様、そっちは前方です。」
良牙もあかりのおかげでかなり助けられている。
「やれやれ・・・ホントに大丈夫かよ。」
乱馬が呆れていると、レーダーに敵影が映った。
「ここはおら達に任せるだ。」
ムースの作戦通り、今度は良牙の機体の背に乗る乱馬。ムースはそのまま敵と戦いに臨んだ。
今度は暴れ馬ならぬ暴れ豚に乗って戦場を走り抜ける乱馬。暫く行くと大きな建物が見えてきた。
「そろそろ早乙女大隊と合流だ。ここは俺達に任せて行ってこい!」
良牙の言葉に、乱馬は頷いた。
「死ぬなよ。」
「バーカ、俺とムースはもう『お守り』もらったから死なねえよ。」
モニターに良牙の悪戯な笑みが映る。
「な、何〜!」
驚く乱馬は半ば強制的に弾き飛ばされ、良牙との通信は途絶えた。
「くそ、あいつら〜。」
乱馬は悔しがっていたが、すぐさま気を取り直し、玄馬と東風の場に合流した。



「バカな!あれは『熊八』と『死神ベティー』!何故ここに!?前線を退いたはずだ。」
敵軍はパニックに陥っていた。ただでさえ苦戦を強いられているのに、2つの巨大勢力が加わったのだから無理もない。
「待っていろ、天道君。」「今助けに行きますよ、かすみさん。」
二人はとてもブランクがあるとは思えない動きで敵を次々と撃破していった。
捕虜救出は二人に任せても十分だと感じ取った乱馬は、敵の撃破に向かった。すると、数キロ離れた地点に見覚えのある機体が目に入った。その機体はこちらに向かってくるのだ。
「あかね!」
思わず乱馬は叫んだ。それは紛れもなくあかねの『ハンマーガール』であった。
あかねは乱馬の目の前で止まり、回線を開いてきた。
「乱馬・・・」
闘わねばならないのか、あかねがそんなことを考えていると、乱馬が機体の手を差し伸べて言った。
「俺と・・・一緒に来い!」
乱馬の機体は以前のまま、二人乗りである。前のように機体の手に乗せて運ぶことはしなくても、十分スペースは取れる。
しかしあかねは一向に動こうとしない。乱馬が再び声を掛けようとすると、あかねの方から話しかけてきた。
「私が裏切れば、お父さんやお姉ちゃん達の命が危ないのよ。」
「それなら大丈夫だ。今親父や東風先生が捕虜救出に向かってる。」
乱馬の言葉にあかねは驚きの声をあげたが、まだ乱馬の方へ行こうとはしない。捕虜救出は絶対ではないのだ。
あかねが戸惑っていると、乱馬はハッチを開けて直接呼びかけた。あかねもそれに応えるようにハッチを開放した。
「あかね!俺を信じろ!」
乱馬の一言にあかねの決意は固まったようだ。機体から身を乗り出して乱馬の方へ向かおうとした。すると、乱馬はあることに気が付いた。あかねの立ったシートの下に、何か赤く点滅しているものがあったからだ。
「・・・まさか!」
気付いたときには、乱馬の体は反応していた。あかねの機体に体当たりを仕掛けたのだ。ハッチが開放されていたあかねは、そのまま宙に投げ出される。あかねが驚いている暇もなく、即座にあかねの座っていた場所から爆発が生じた。
「あかねーーー!」
乱馬もハッチを開いたままだったのが幸いした。身を乗り出してあかねの手を掴む事に成功した。
「ふぃ〜、我ながらナイスキャッチ!」
そのままあかねを抱き込むようにシートにもたれる乱馬。あかねは何が起きたのかわからずに、自分の機体の方を見た。そこにはハッチから煙を出す自分の機体の姿があった。そしてあかねには思い当たることがあった。出撃前の小太刀の行動である。
「間一髪ってとこだな。」
あかねは乱馬がいなかったらと思うと、背筋が震えた。ハッポウ軍は最終手段としてあかねの機体を自爆させる気でいたのだ。
乱馬も大方気持ちを察したのであろう。その事については何も言わなかった。


「なあ、俺達、この戦いが終わったらこのままどこかへ行って二人で暮らさないか?」
「えっ?」
ショックで言葉を失っていたあかねは突然の乱馬の言葉に驚いた。
「俺も軍の命令に背いてどちらにしろ戻れない。」
「それってもしかして私のせい?」
乱馬は首を振った。
「いや、俺がしたかったことだ。気にすんな。それと、家族に会いたいあかねの気持ちもわかるけど、きっと軍はそれを許さない。だから・・・」
乱馬の言葉は途中で遮られた。
「わかってる。パイロットだからね。皆が無事なら私はそれでもいい。乱馬と一緒にどこまでも行くよ。」
思いがけない返答に乱馬は喜んだ。
「ただし、私からも一つ条件があるわ。」
喜びも束の間、乱馬はあかねの条件を聞こうと、あかねの方に向き直った。
「・・・!!」
その瞬間、乱馬とあかねの唇が触れ合った。
「な、何を・・・?」
ほんの一瞬の出来事だったが、乱馬は気が動転してしまった。
「お守り!良牙君から聞いたのよ。私の条件は『絶対に死なないこと』!わかった!?」
照れ隠しのためか、ちょっと怒ったように捲し立てるあかね。乱馬は呆然としていたが、微笑んで言った。
「お守りもらったからには死ぬわけにはいかねぇな!」



残すは敵本部の壊滅のみとなった。しかし、一息ついたのも束の間、高速で接近する敵影がレーダーに映った。
「あれは・・・九能准将!」
あかねが叫ぶのと同時に、九能の機体が目の前に降り立った。
【あかね君からの通信が途絶えたからもしやと思ったが・・・貴様!あかね君をよくも!】
九能は乱馬があかねを倒したのだと勘違いし、いきなり攻撃を仕掛けてきた。
「うおっ!」
すぐさま武器を取り出し、防御に徹する乱馬。その間に、あかねは通信で九能に呼びかけた。
「九能准将!私は無事です!」
あかねの声に、攻撃する手を止める九能。
【あかね君!なぜ君がそいつの機体に・・・・】
「あかねはもう、ハッポウ軍には帰らねぇ!俺と一緒に行くんだ!」
あかねの代わりに乱馬が応えた。すると、再び九能の攻撃が襲い掛かってきた。
【おのれぇ!あかね君を誑かしおって〜!許さん!】
頭上から攻撃が振り下ろされる。乱馬は瞬時に後方へ跳び避けた。
「くっ・・・・素直に通しちゃくれねーようだな。」
乱馬も武器をとり、臨戦態勢に入った。




―――ジュセン軍―――

「システム問題なし、いつでも起動できます!」
「よし、では『ヤマタノオロチ』これより最終決戦に向けて出撃する!」
格納庫にある巨大なアーマーに、サフランを初めとする上層部が次々と乗り込んでいく姿が見えた。



「くっ・・・・」
「はぁ、はぁ・・・」
一方、乱馬達と九能の戦いは思ったよりも長引いていた。双方ともに傷ついていたが、まだ決定打だけは食らわずにいた。
「ふぅ、時間稼ぎも済んだことだ。そろそろ決着をつけようではないか。」
「時間稼ぎだと?」
九能の自身気な口調が気になった乱馬はそのまま鸚鵡返しに九能に尋ねた。
「ふふふ、我が軍の最強兵器が完成したとの報告が入った。もう貴様との戦いもこれ以上長引かせるわけにはいかんのでな。貴様を倒してあかね君を取り戻す!」
そういうと九能は武器を上段に構えた。
「我が間合いに入ったが最後、貴様の機体を確実に捕らえるであろう!」
「なるほどな、てめぇの軍も最終兵器を持っていたとはな・・・だが思い通りにはさせねぇよ。」
そう言うと乱馬は次の一撃に備えて距離をとった。次の攻撃が最後になるからだ。
「それとな・・・・・」
言うが早いか、乱馬はブースターを全開にして九能に向かっていった。
「もらった!」
動きを予想していた九能は乱馬が自分の間合いに入るタイミングをすかさず捉えていつでも攻撃できる態勢でいた。
しかし、瞬間的に乱馬の機体が姿を変える。機動重視の型になったのだ。
「なっ!?」
瞬時に加速した乱馬の機体に驚き、躊躇いが生じた上、更には間合いを過った九能は乱馬の一撃によって頭部と両腕を切断された。
「あかねは渡さねぇよ。」



「ふはははは、どうだこの『ヤマタノオロチ』の強さは。」
敵本部の前では、サフランの乗る巨大なアーマーが暴れていた。しかし、ジュセン軍が有利になったのも束の間、今度はハッポウ軍も八宝斉の搭乗する巨大アーマー『暴れ蛸壺』を用いて応戦してきたのだ。
「ふん、若造め。これでも喰らえぃ!『八宝大華輪』!」
巨大なエネルギーの塊がヤマタノオロチに向かって降り注がれる。
「敵の攻撃被弾!出力15%低下!」
「次の攻撃がきます!間に合いません!」
目の前の暴れ蛸壺は既に次の攻撃に備え、エネルギーを収束させていた。
その時、側面から衝撃があり、暴れ蛸壺のバランスが崩れ、発射口は僅かに目標を逸らした。
「なんじゃ!?」
八宝斉は衝撃のあった方向を向いた。そこには、乱馬の機体の姿があった。
「おのれぃ!貴様か!」
八宝斉は即座に乱馬に向かって攻撃を仕掛けた。ヤマタノオロチは発射口が逸れたとはいえ、被弾して動かなくなっていた。


「くっ!」
乱馬は敵の攻撃を辛くも躱していたが、メインコクピットにかかるGの負担は大きかった。
あかねの座席にはGの影響を減らす装置があったが、乱馬の方には影響しなかったのだ。

瞬時に、乱馬の目の前が真っ暗になる。暗黒に包まれたかのように、一切の光が入ってこなくなった。
ブラックアウトだ。
機体が左右、前後、上下に揺れる度、乱馬は吐き気を覚えた。胃の中が逆流するような感覚、しかし苦しみを訴えている余裕はない。問題は目の前の敵である。
「乱馬、前方から攻撃!上よ!」
あかねの声が響く。瞬時にレバーを引いて上昇する。目の見えない乱馬に代わってあかねがサポートしてくれるので、乱馬は助けられた。

機体の活動時間が迫っている。このままでは長く持たない。そう判断した乱馬は次の一撃に賭けることにした。
武器はもうここに来るまでに尽きた。残された手段は1つだった。
「あかね・・・・危険だがイチかバチかの賭けにでる。だから・・・・」
乱馬の言いたいことがわかったあかねは頷いて答えた。
「わかってる。最後まで乱馬に付き合うよ。」
徐々に乱馬の視覚が戻ってくる。それと同時に乱馬は機体のリミッターを解除した。
「いくぜっ!」
機体の右拳にエネルギーが集まる。機体がオーバーヒート寸前に達し、軋みを生じた。


「ふん、無駄なことを!」
八宝斉は嘲笑した。コクピットである頭部は亀のように胴体に隠れることができる。その胴体の装甲は厚く、とても1体の機体でどうにかできる強度ではなかったからだ。


「これで・・・・・・・・終わりだ!」
ブースターが火を噴く。瞬時にシートに押し付けられる乱馬とあかね。それでもなお目標に向かって目を逸らすことはしなかった。
余裕を持って頭部を引っ込める暴れ蛸壺。しかし乱馬は胴体に向かって突っ込んだ。
そこは八宝大華輪の発射口であった。

バチバチッ

電気が漏電する音が響いた。乱馬の機体の拳は見事暴れ蛸壺に突き刺さっている。
しかしその直後・・・

ドーーーン!!

大砲の撃つような巨大な轟音とともに、暴れ蛸壺が爆発した。その中心点にいた乱馬達も爆風に弾き飛ばされた。


「終わった・・・・のか・・・?」
ヤマタノオロチ搭乗クルーの一人が呟いた。その言葉を合図とし、皆が歓声を上げた。ジュセン軍が勝利したことを確信したのだ。
「すごい!たった1機であの巨大な敵を撃破するなんて・・・」
「さすが早乙女大佐だ。あれ・・・でも今謹慎中じゃ・・・・」
その言葉で我に返るクルー達。
「ハッ!早く早乙女大佐の救出に行かないと!」
クルー達は直ちに通信でオペレーターの右京に連絡を取り、近くにいる友軍に呼びかけた。



―――山中―――

「イタタ・・・・終わったみたいね、乱馬。」
乱馬の機体は10キロほど飛ばされた場所にいた。それほどまでに衝突の勢いは強かったのだ。なんとか緊急用の緩衝機が働き、着地の衝撃は緩和された。
しかし機体のダメージは大きく、前方部分は跡形もなく吹き飛んでいた。
「私たち・・・やったんだね・・・」
あかねは喜びが溢れてきて笑顔で言った。しかし乱馬の返答はなかった。
「乱馬?」
あかねは乱馬を覗き込むようにシートから降りて乱馬に近づいていった。
「!!」
乱馬の姿を見たあかねは絶句した。乱馬のパイロットスーツは真っ赤に染まっていたからだ。頭部からも流血し、体に機体の破片が突き刺さっていた。
「乱馬!乱馬!」
必死に呼びかけるあかね。それに応えるかのように乱馬は目を開いた。
「よう・・・おめーは・・・怪我・・ねーみたいだな。・・・よかった・・・」
紡ぐ様に言った弱々しい言葉。それはいつこと切れてもおかしくない様子だった。
フロント位置にあるメインコクピットは爆発の影響が凄まじかった。乱馬は後部にいるあかねに被害が及ばないように身を挺して庇ったのだ。
「イヤだよ・・・・ねぇ、嘘でしょ?お守りだってちゃんとあげたのに・・・」
ふと乱馬の目が光を失ったように消え、瞳が閉じた。

「イヤーーーーーーー!!」

人気のない山中、あかねの声だけが響いた。

U.C.0060年、5年に渡る長き戦争は終戦を迎えた。




END





作者さまより
基本的に原作にちなんだギャグが好きな私ですが、ちょっと今回は人間心理を生かしたマジメな感じで・・・
これで一段落終えましたが、その後の話も考えてありますので、見ていただければ幸いです。



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