◇戦場の息吹
   5TH MISSION 真実と別れ

武蔵さま作


「う・・・ん」
翌日、あかねは目を覚まし、上体を起こした。そのとき、自分がいつのまにかベッドに寝ている事に気が付いた。
「あれ・・・確か私、ソファーで寝てたはずなのに・・・」
自分が寝ていた所に目をやるとそこには腕をダラリと下げて寝ている乱馬の姿があった。
「もしかして私にベッドを譲ってくれたのかな・・?」
周りを見ると良牙とムースもまだ眠っていた。あかねは起こさないようにゆっくりとベッドから抜け出し、寝室を出た。
それから暫くして、乱馬がまだ眠たそうに目を擦りながら起きた。そのまま立って大きく伸びをすると、いつものように眠気覚ましに軽く筋トレを始めた。
「よし、目も覚めたことだし・・・そういえばあいつ、どこ行ったんだろ?」
乱馬は頭が冴えると同時に、あかねの存在を思い出した。
「外でも散歩してんのかな?」
乱馬は捜しに行こうと思ったが、取り敢えず汗を流す為に浴室に向かった。
「ふぁ〜あ。」
シャツを脱いでタオルを肩に掛け、浴室の扉を開けた瞬間、そこにいた着替え中のあかねと目が合った。その場の時間は止まり、二人は状況を理解する為に多少の時間を必要とした。
「キャーーーーー!!」
一瞬乱馬より早く意識が戻ったあかねは部屋に響き渡る大声で叫んだ。その声で正気に戻った乱馬は慌てて扉を閉めた。
「ご、ごめん!」
謝ってみたものの、状況が状況故に許してはくれないだろうと乱馬は覚悟を決めた。
「何で入って来るのよ!」
扉の向こうからあかねの声が聞こえてきた。乱馬は反省しながら答えた。
「悪い、まさかあかねが入ってるなんて思わなかったから・・・」
あかねの口調からは多少強い言い方ではあるがそんなに怒ってはいないという事が感じられた。
「わ、わかったから早く服着てここから離れてよ。」
「あ、ああ。」
お互いに動揺したままだが、乱馬は言われた通りに服を着て寝室に戻った。
「何だ!?敵か!?」
「早く格納庫へ急ぐだ!」
寝室にはあかねの悲鳴を敵襲と勘違いした良牙とムースが、寝ぼけ半分で混乱していた。



「さっきは悲鳴をあげてしまってごめんなさい。」
あかねは頭を深々と下げて良牙とムースに謝罪した。
「いや、君が謝る事はない。元を正せば勝手に入った乱馬が悪いんだからな。」
乱馬は何も言わず、ただ黙って机の上に並べられた『ある物』に注目していた。
「あの、お世話になったお礼に作ってみたので食べて下さい。お口に合うかわからないけど・・・」
テーブルの上にはあかねが作った料理が並べられていた。見栄えが悪いだけに、乱馬も食べる事を躊躇してしまった。
「のう、乱馬。食べられると思うか?」
ムースが小声で乱馬に話し掛けてきた。乱馬は相変わらず黙って料理を凝視していた。
「まあまあ、案外見た目は悪くとも結構旨いかもしれないじゃないか。」
良牙が小声であかねをフォローする。手を付けずにいるのもあかねに悪いので、三人は同時に口に料理を運んだ。
「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」
「どう、おいしい?」
三人にはあかねの笑顔が悪魔の笑いに見えた。少なくとも口に入れた瞬間の味によって飲み込む事もできない状態でとにかく固まっていた。本能的に毒物だと判断したようだ。
「・・・んぐ。・・・っぷはーーっ!」
乱馬と良牙はなんとかその一口だけを飲み込んだ。
「おめー、味見したのか?」
乱馬が疑惑の眼差しであかねを問いつめた。
「ううん。せっかくみんなの為に作った料理だから先に食べちゃいけないと思って・・・」
悪びれた様子もないあかねに乱馬は自分も食べるように薦めた。
「げほっ、何この味!」
口に入れて初めて味の酷さに気付いたあかねは噎せ返るように言った。
「それはこっちの台詞だ!俺達を殺す気か!?」
乱馬が感情を表して文句を言う。あかねはその言葉にムッとして反論した。
「なによ!ちょっと失敗しただけでしょ!?」
「『ちょっと』じゃねーだろ!ムースなんか口から泡吹いちまってんじゃねーか!」
言い争いになるとあかねは顔を俯かせて呟いた。
「お礼をしようと思っただけなのに・・・」
そんなあかねを見た良牙は優しく声を掛けた。
「なぁに、これから頑張ればいいじゃないか。少なくともその気持ちだけは嬉しいよ。」
「良牙君・・・」
あかねを元気づけようとした良牙はあることを思いついた。
「そうだ!あかねさんにやって欲しい事があるんだけど・・・」
良牙の発言に乱馬は思い当たる事があって良牙に言おうとした。
「まさか・・・」
「そう、そのまさかだよ。」
乱馬の言葉を最後まで聞かずに良牙はあかねをつれてリビングの方へ行った。


−−−屋外−−−

「今日は紹介したい人がいる。俺達のバンド『HALF』に新しくヴォーカルとして入った天道あかねさんです。」
良牙に紹介されると、あかねは人前で礼をした。良牙の提案とは、あかねをヴォーカルとしてバンドに加える事であった。
観客からは様々なざわめきがあった。女性陣からは嫉妬の文句のようなもの、男性陣からはあかねを応援する声が聞こえてきた。実際音を合わせて演奏したわけではないのであかねの歌を乱馬達も聞いてはいない。ただ楽譜と歌詞を渡して少し練習しただけである。乱馬にとっても期待半分不安半分であった。
「料理のあの不器用さからはちと期待できねーがな。」
一言呟くと、ムースに合図して演奏が始まった。それに合わせてあかねがマイクを握り、大きく息を吸った。
「♪〜〜♪♪♪〜〜♪♪♪〜♪♪」
あかねの歌声がスピーカーから発せられると同時に、それまで文句を言っていた女性や歓声を送る男性は一人もいなくなった。ただ呆然と口を開けた状態で歌声を聞いていた。
透き通るような優しく綺麗な歌声が乱馬達の曲に完全に合っていた。歌声を聞いた瞬間、乱馬達ですら驚きでリズムがズレそうになった程である。それでもその場の雰囲気を壊さないように持ち直したところは凄かった。
「おい、もしかすると・・・」
「ああ。そうかもしれねーな。」
音楽の鳴り響く中、良牙は乱馬に囁いた。乱馬も気付いたらしく、演奏が終わりに近付くに連れ、あかねに声を掛けた。
「最後のフレーズが終わったら耳塞いでおけ。」
乱馬の言葉にあかねは不思議に思ったが、歌い終えた後に耳を塞いだ。次の瞬間!呆然と聞いていた観客の声が一斉に来た。想像以上のあかねの歌唱力にショックを受け、呆然となってしまったのだ。
「キャーー!ステキーー!」
「最高だぜーー、あかねちゃーん!」
様々な歓声の中、あかねは照れながらそれに応えた。



「いやあ大成功だったな。」
一息付いて良牙が乱馬達に話し掛けた。
「それにしても驚かされただ。まさかあかねがあんなに上手いとは・・・」
ムースの賛辞にあかねは眼前で手を振って言った。
「そんなことないよ。みんなの音が凄かったんだよ。それと良牙君の歌詞も・・・」
「いや、それだけじゃ観客をあそこまで湧かすのは難しい。あかねの歌唱力が凄かったんだよ。」
乱馬の言葉にあかねは照れて俯いた。良牙とムースは驚いていた。
「珍しい事もあるんだな。おまえが女性を誉めるなんて。」
悪戯な笑みを浮かべて良牙は言ったが、乱馬は顔を背けて言った。
「それにしても観客のアレは久々だよな。最初にあったのは確か俺達が初めて人前で演奏した時か?」
アレとは観客が呆然として、その後演奏終了後の凄まじい歓声の事である。
「ああ、そうだな。それにしても今日の演奏を聞いちまったあとじゃ、あかねさん抜きの演奏は無理だな。」
「うむ。へたをすれば暴動が起きかねんからの〜。」
さすがにあかねは俯いてしまった。自分の歌をここまで評価してもらえるとは思わなかったのだ。
「いっその事ずっと俺達と一緒にやっていかないか?明日はちょうどレコーディングの日だし、上手く行けばこの戦争が終わった後もこのバンドでやっていけるって!」
良牙の言葉にあかねはピクリと反応した。乱馬以外は気付いていないが、あかねは敵国のパイロットである。戦争が終わったとしても生き残れるかどうかわからない。バンドを組むなど到底できることではないのだ。
乱馬はそのあかねの反応をすぐに読み取った。
「話はそれぐらいにしてそろそろ部屋に戻ろう。休める時に休まないといざという時に困るぞ。」
乱馬なりに気を遣ったのであろう。あかねはその事がわかったのか、乱馬に軽く頭を下げた。
「あかねはどうする?一応部屋は用意するけど・・・」
さすがに男共の中に女が一人という状況はマズイだろうと判断した乱馬は部屋を用意しようとしたが、あかねはそれを遠慮した。
「ありがとう。でも気を遣ってくれなくてもいいわよ。私、今の乱馬達の部屋で十分よ。いろいろ話が聞きたいし・・・それに家事ぐらい私がやるから・・・」
あかねの言葉に乱馬達は一瞬硬直した。心境としてはあかねが同じ部屋にいることは嫌ではないが、家事を任せるとなるとさすがに困るといった複雑な感じであった。
「わ、わかった。だが家事はしなくてもいいぜ。食事や衣類は全部支給されるから・・・」
「そう?じゃあお世話になるわね。」
こうして暫くの間、あかねは乱馬達の世話になる事になった。


−−−翌日−−−

「何〜!二人乗りだ!?」
乱馬達の小隊は真之介に呼び出され、整備工場内の格納庫にやってきた。その時、自分達のアーマーが二人乗りに改造された事を知らされた。
「そうだ。どうもおまえ達の操縦には無理があり過ぎるということでもう一人サポート役の人を入れる事になった。」
淡々と理由を話す真之介。乱馬は納得のいかない様子で反論した。
「誰がそんな事決めたんだよ!?」
「サフラン元帥も承認した。考案者は早乙女司令官でそれにハーブ総督も同意した。」
さすがの乱馬もこの言葉には反論できずにいた。なにしろ上層部の命令というからには軍人として従わねばならないのだ。
人選はある程度決定していた。ムースのサポートはシャンプー、良牙のサポートはあかりである。シャンプーは狙撃手としての腕もあり、近眼のムースのサポートには適役だという事だ。あかりは救護班であったが、本人の立候補した時の気迫に圧倒された玄馬が決定した。乱馬のサポートは右京本人が強く所望したのではあったが、彼女は優秀なオペレーターであった為、パイロットとしては不採用にされた。だから実際、乱馬のサポート役はまだ決まってはいなかった。候補としては紅つばさが挙がっているが、まだ可決されてはいないので、決定はしていない。
「ちっ、仕方ねーな。だが俺はサポートなんぞいらねーよ。」
乱馬がぶっきらぼうに言った瞬間、背後から声が聞こえてきた。
「それはならん!なんとしてでもおまえにはサポート役をつけてもらう!」
振り向くとそこには乱馬の父である玄馬が立っていた。
「お、親父!」
「バカもん!早乙女司令官と呼ばんか!」
突如現れた玄馬に戸惑いを見せる乱馬達。玄馬は乱馬達の方へ足音を響かせながらゆっくりと歩いてきた。その周りの整備士達は玄馬に向かって敬礼をし始めたことから、あらためて玄馬の凄さが読み取れた。
「おまえ達には致命的欠陥がある。それは甘さだ!戦場ではその甘さを捨てねばならん。だからこそその為のサポート役は必要不可欠なのだ。響中佐とムース少佐のサポート役は女性だが、彼女等とて一軍人としてはプロだ。だからこそ可決したが・・・」
相変わらず話が長くなりそうだと、溜息をつく乱馬達。
「まあ、サポートの件はまた後日にしよう。今日はわしの機体の様子を見に来たのでな。」
玄馬はそのまま格納庫の奥へ向かっていった。玄馬に付いてくるように命令された乱馬達も渋々と後に付いていった。
「ここです、早乙女司令官。」
『第18格納庫』と書かれた扉を開く真之介。ここには前線を退いた上層部の使っていたアーマーが格納されている。乱馬達は驚愕の声を漏らした。ここには許可なく入る事ができない為、乱馬達自身、見た事のない機体ばかりであった。その中でも一際目立った機体があった。白いボディーに所々黒い模様が見える。玄馬の機体であった。
「ふっふっふ、どうじゃわしの『熊八』は!今でもまだまだ性能は劣ってはおらん。確かに今のおまえ達のような素早い動きなどは無理だが、バランス性能の良さではまだまだいけるぞ!」
玄馬のその機体は軍人の中でも知らない人はいないとまで言われる程有名であった。開戦から玄馬が引退するまでの僅か2年間、その独特な色合いと戦闘センスから無敵のアーマーと称されるぐらいの名機である。変形後の姿もある意味印象的で、BAのマニュアルにもその映像が使われるぐらいであった。乱馬も実物を見るのは初めてで、少し感動すら覚えた。しかし、すぐにその機体の隣にあった無気味なアーマーに目を奪われた。
「親父、これは・・・?」
その機体はまさにガイコツのアーマーであった。右手には恐らく武器と思われる鎌を持っており、見ているだけで恐怖感が出てきた。
「ああ、それか。それは東風先生・・いや、かつて小乃大将の機体だ。その禍々しい様子と敵の背後に素早く廻り込んで鎌で頭部を破壊する事から『死神ベティー』と呼ばれていた。彼が敵でなくて本当に良かったと思っている。それにしても彼程の実力があれば今の最高権力者は彼かもしれんな。」
玄馬は懐かしむように呟いた。
「なるほどな。だから今でも大将の座は空白なのか。にしても東風先生がこんな機体に乗っていたとはな・・・正直驚かされたぜ。」
乱馬は機体を見あげながら言った。
「実際の所は彼のある癖が原因で大将以上の階級にはなれなかったんだがな。」
玄馬がポソッと呟いた言葉を乱馬は不思議に思って尋ねた。すると玄馬は誤魔化すように真剣な顔で乱馬達に向かって言った。
「彼が前線を退いた理由を聞いただろう。彼にはおまえ達と同じ甘さがあった。其れ故に戦争に耐えられなくなったんだ。まあ、わしも似たようなものだがな。」
遠い目をして玄馬は言った。乱馬達も黙ってそれを聞いていた。
その後、玄馬は自分の機体を見上げた後去っていった。乱馬は気になる事があって玄馬を追いかけた。
「親父!」
後ろから呼び止められて玄馬は振り向いた。
「だから司令官と呼ばんか!」
玄馬の言葉も気にせず、乱馬は気になった事を尋ねた。
「さっき言った東風先生の癖ってなんだよ。階級が上がらなくなるような事なのかよ!?」
興味本位、心配半分で乱馬は玄馬から聞き出そうとした。玄馬は少しの間腕組みをして考えていたが乱馬に耳打ちするように言った。
「実は、東風先生には想い人がいてな・・・その人を見たりその人の事を考えるだけでおかしくなってしまうんだ。一度、彼女が東風先生に会いに来た時、急に機体に乗り込んで危うく我が軍の拠点を大破するところであった。」
だからマニュアルには東風の機体が存在しないのかとやけに納得した乱馬。玄馬はそんな乱馬に気付かずに、悔しそうに言った。
「それがあんな事にならなければ・・・わしも、東風先生も・・・」
乱馬は初めてみる父のその表情に戸惑い、声を掛ける事もできずに去っていく玄馬を見送った。
その直後、良牙とムースが乱馬に声を掛けた。
「どうするんだ、サポートのパートナーの件。一応今日、試しに模擬演習をするんだぜ?」
良牙の問いに乱馬は少し考えたが、相槌を打って答えた。
「いい考えがある!」


−−−演習本番−−−

「正気かおまえ!?彼女は民間人なんだぞ!」
乱馬のいい考えとはあかねをパートナーに選ぶ事であった。みんなには黙っているが、あかねの機体操縦の腕は乱馬も身を持って体験済みである。
「こうでもしなきゃ親父は納得しねーだろ。それに保護性能はばっちりだ。危険はねーよ。」
そう言うと乱馬は発進に備えるべくコクピットのハッチを閉めた。
「乱馬・・・私を乗せてもいいの?一応このアーマーは機密でしょ?なのに敵国の私を・・・」
あかねは後ろのメインシートに座っている乱馬に戸惑いながら話し掛けた。しかし、乱馬は笑いながら答えた。
「んなこと気にすんなよ。それにおめーは別にスパイでもなんでもねーだろ?」
乱馬の言葉にあかねは頷いた。
「だったら問題ねー。サポート、よろしく頼むぜ!」
乱馬はあかねを前に向き直らせ、ベルトを閉めた。すると二人の周りが外部の景色と同化した。
「んじゃ、行っくぜーー!」



「あ〜〜、終わった終わった!」
演習は無事終了。あかねの操縦テクニックによって乱馬の機体の動きは今まで以上の冴えを見せた。よってあかねは乱馬のパートナーに正式に決定した。レコーディングが終わり、乱馬達は一息付く為に休憩室に入った。レコーディングといっても完全自動で機械が行う為、室内に入って演奏するだけで録音されたディスクができるのだ。だからすでにもうコピー元のマスターはできていた。乱馬はその内の一枚を拾い上げ、自分の腕に装着されている機械に入れた。
『ネリマー』という名称で、少々大きい腕輪のようだが、メールから通信、音楽やデータの送信など、様々な事に活用される。これは軍だけでなく、一般にも普及されている為、もちろんあかねも持っていた。ただし、あかねの場合はハッポウ軍から通信が入って来る可能性もあるので電源を切っていた。
乱馬はそのまま細かいボタンの操作を行った。すると、目の前に映像が映し出された。普通のディスクと違い、演奏している映像まで映し出されるので、聴覚だけでなく、視覚でも楽しめ、その場にいるような雰囲気にもなれる。
「へ〜、なかなかいいんじゃねーの?」
四人で自分達の演奏している姿を見ていると、ドアがノックされて声が聞こえてきた。
「僕だけど、入ってもいいかい?」
東風の声だとわかった乱馬は一言『どうぞ』と言った。
「調子はどうだい?バンドで新人が入ったそうだから一目見たくてね。」
そう言うと東風は乱馬達に近付いていった。良牙はあかねの方に手を向けて紹介しようとした。
「こちらが新しいヴォーカルの・・・」
「あかね・・・ちゃん?」
まだ名も告げていないのに、東風の口からあかねの名が出てきた。
「東風・・・先生?」
あかねの方も同様だ。明らかに二人は知り合いだという事を意味していた。
「かすみさんは!?無事なのかい?早雲さんはどうしたの!?いや、それより早乙女司令官に報告を・・・悪いが一緒についてきてくれないか!?」
東風は今までにない慌て様で混乱していたが、あかねを連れてその場から出ていった。ただ事ではないその様子を残された三人は不安げに見ていた。


それから一時間ほど経過した時である。乱馬は玄馬に呼び出しをされた。通された部屋には深刻な表情の玄馬と東風、そして元気がない様子で立っているあかねがいた。
「事の次第はあかね君から聞いた。乱馬にも話しておかねばならんこともあるのでな。」
玄馬は乱馬とあかねをソファーに座らせ、順序を追って説明し始めた。
「わしがアーマーの開発に貢献した事は知っておるな?」
「ああ。親父の設計が元で今のBAが作られるようになったんだろ?」
玄馬の言葉に真剣に答える乱馬。玄馬はいい難そうに言葉を続けた。
「ふむ。実はわしの他にもう一人、設計者がいたんだ。それは天道早雲といってな、わしの親友、そしてあかね君の父君でもある。」
乱馬は知らされる真相をただ黙って聞いていた。天道家の人達が強制的にハッポウ軍に拉致された事。そして家族の解放を条件にあかねがパイロットになった事など驚くべき事ばかりであった。
全てを聞き終えた上で、乱馬は玄馬に訊いた。
「あかねは・・・・どうなるんだ?」
あかねの素性がバレたことがあかねに対してどんな扱いがあるのか、それが乱馬の気掛かりであった。捕虜として扱うにはこの軍では無理がある。情報を得る為ならば自白するまで男女問わず、拷問も行われるからだ。
「その事だが、あかね君には今夜、この軍から去ってもらう。逃亡したことになればハッポウ軍に戻るまであかね君が逃げ切れば大丈夫なはずだ。だが・・・」
玄馬はその先を躊躇って言おうとはしない。代わりに東風が口を開いた。
「だが、そうなればあかねちゃんを連れてきた乱馬君が責任を負う事になるんだ。」
東風は申し訳ないように言った。しかしその言葉を聞いて乱馬は明るく言った。
「な〜んで〜、それだけかよ。しょっちゅう命令違反してるんだ。それぐらい大した事ねーよ。」
自分が責任を負う事であかねの無事が確保されると聞いた乱馬は安心して答えた。玄馬はそんな乱馬に呆れたが、嬉しそうに笑みを漏らした。
「おまえ達二人はわしと天道君で決めた許婚どうしだ。乱馬もあかね君が安全地帯に入るまでしっかり護衛しろよ。」
「「は?」」
どんな言葉にも動じなかった二人だが、玄馬の最後の言葉には驚きを隠せなかった。
「俺と、あかねが・・・許婚だと〜!?」
「そんなことって・・・・・」
顔を見合わせては赤面して俯く二人。
「なんじゃ?天道君から聞いておらんのか?まあ普段は女に愛想のない乱馬だが、どうもあかね君の前だと感情をすぐに表しておる。案外あかね君の事好きなのではないのか?」
ニヤリと笑う玄馬を殴って黙らせた乱馬は言葉にならない様子であかねを連れて部屋から去っていってしまった。
「玄馬さんも遊びが過ぎますよ。」
堅苦しい呼び方を止めた東風が玄馬に向かって呟いた。


−−−深夜−−−

「それじゃ・・・私行くね。」
「ああ。」
乱馬はあかねを連れてうまく抜け出す事に成功した。ジュセン軍からだいぶ離れた所で遂にあかねと別れる事になった。
「許婚の事・・・あまり気にすんなよ。」
「い、言われなくてもわかってるわよ!」
お互い本当はかなり気にしているのであろう。だが敢えて気にしないようにした。
「次会う時はまた敵として・・・か。早く家族を助けられるといいな。」
残念そうに言う乱馬にあかねは慰めるように言った。
「短かったけど乱馬達とバンドを組めて楽しかった。響中佐とムース少佐にも宜しく伝えておいてね。」
あかねは手首にあるネリマーのスイッチを入れると、ハッポウ軍に向かって通信を発信した。
【あかね大尉!御無事でしたか!】
ハッポウ軍のオペレータールームへ通信が渡り、映像が映し出される。もちろんこちらの映像も送られるので、乱馬はあかねの傍を離れて自分の姿が映らないようにした。
【それでは早速迎えの者を出します。場所はポイントD−α1356ですね。】
通信が切れると、あかねは乱馬の方を振り向いて別れを告げた。乱馬も黙って頷き、その場を後にした。


乱馬がジュセン軍の本部に着くと、遠くの夜空に小さな光が見えた。あかねを迎えに来た小型機であろう。
「あかね・・・」
乱馬は一言呟くと、その光が消えるまで見つめていた。



つづく




作者さまより

あかねをヴォーカルとして使うということを一度やってみたくて書いてみました。
今回は「熊八」と「ベティ」を出しました。この二つはあまり使われないので名前だけでも出そうと思いました。
原作での男の乱馬とあかねの初対面の場面を演出しました。あまりないシーンですが、結構あの場面は気に入ってます。


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