◇戦場の息吹
   4TH MISSION 再会

武蔵さま作


乱馬達が新型の機体で任務をこなすようになってから一ヶ月が経過した。任務達成率100%を誇る実力は伊達ではなく、相変わらず他の部隊のパイロットからは反感をかっていた。
特に乱馬達が行動しなければならない任務がない為、乱馬達は上層部から特別休暇をもらった。しかし任務以外することはあまりないので、乱馬達はいつものように楽器を持ち出して演奏をし始めた。
「さて、またいつものように演奏でもするか。」
良牙の一声で乱馬達はそれぞれの楽器を運び、人前に立った。
音楽を三人で演奏するというのは、最初はただの気紛れだった。乱馬がエレキギター、良牙がベース、ムースがドラムというただ音楽を演奏するという単純なものだった。ヴォーカルがいない為、初めは三人の趣味といった感じであったが、外で演奏して見たところ民間人を初めとする多くの人に好感を与えた。おそらく『戦争』という乾いた日常の中で乱馬達の音楽が人々に潤いならぬ楽しみを与えたのであろう。
バンド名は『HALF』といい、本人達は知らないがファンクラブまであるらしい。
「今日も俺達の為に集まってくれてありがとう!戦争はまだ続いているけど俺達の曲で今だけはそんな戦いの日々を忘れて楽しんでくれ!」
このバンドでもリーダーは乱馬なのだが、無愛想で口下手な彼に代わっていつも良牙が観客の声援に応える事になっている。
初めは声援を送ったり騒いでいる観客も、ムースのドラムが始まると同時に静かになった。演奏されるスローバラードに観客は口を閉ざし酔い痴れた。いつもは何かと突っかかってくるベテランパイロットもこの時だけはただ黙って曲を聞いていた。
バラードが終わると今度は乱馬のギターソロに入る。その途端先程まで静まり返った観客達は曲に合わせてその場で踊りだした。ノリの良い乱馬の曲はその場にいる人達の不安を一気に消し去った。
その後もムースの端切れの良いドラミングや良牙と乱馬の名演奏などで常に観客を興奮させた。


「ふ〜、さすがに疲れた。」
四時間ぶっ通しで演奏し続けた乱馬達は部屋に戻るとベッドに倒れ込んだ。
「まったく、休暇にもならないな。」
呆れたように乱馬が言った。もともと乱馬は人前で演奏するという事には反対であった。いつ死ぬかもしれないという緊張感の中、何かに夢中になっている時だけはその不安を忘れる事ができた。それが音楽であったのだが、民間人の不安も消してやろうという良牙の提案に乱馬はやむを得ず承諾したのだ。
「のう、良牙。おら達のバンド、何か華がないの〜。」
ベッドに仰向けになったままムースは思いついたように良牙に話し掛けた。
「女がいないってことか?それなら良い提案があるんだが・・・」
良牙はベッドから身体を起こすと、荷物の中から一枚の紙を取り出した。
「俺達のバンドに女のヴォーカルを入れようと思って歌詞を書いてみたんだ。どうだ、乱馬?」
良牙は乱馬にその紙を渡して反応を窺った。乱馬は暫くその紙を見ていたが良牙の方に放りながら覇気のない声で答えた。
「別に歌詞自体は悪くないが・・・女じゃないとダメなのか?」
良牙は乱馬の答えを予想していたのかすぐにそれに応じた。
「この曲からいくと女の声の方がいい。どうしても嫌ならおまえが歌うか?」
乱馬はふっと苦笑した。自分の性格を良く知っている良牙だからこそ冗談だとわかっていたからだ。
「右京なんてどうだ?」
顔馴染みの女性の方が良いと判断した良牙は取り敢えず乱馬の幼馴染みの名を出した。
「いや、ウっちゃんは大阪の訛が強いからな・・・・」
「なら、シャンプーはどうじゃ?」
バンド内にシャンプーを是非と薦めるムースだがやはり中国の訛があるという事で却下された。
「だったら最後はあかりちゃんか?」
最終的に残ったあかりの名を出すが良牙はそれを首を横に振って却下した。
「いや、あかりちゃんはそういう人前で歌うのが好きじゃないんだ。」
結局話は持ち越しという形になった。話が一段落ついた時、部屋のドアからノックの音が聞こえてきた。
「誰だ?開いてるぞ。」
ガチャリと音を立てて入ってきたのは作業服を着た真之介の姿であった。
「よう、何の用だ?」
乱馬が話し掛けると真之介は暫く黙った後、首を傾げた。
「なんだっけ?」
そんな真之介を見兼ねた良牙は溜息をつきながら言った。
「おまえが来るという事は俺達の機体の事だろ?」
良牙の言葉に今思い出したと相槌を打つ真之介。そんな様子に乱馬達は殆呆れてしまった。
「そうだった。遂に新機能が完成したぞ。早く格納庫に来てくれ!」
嬉しそうに案内する真之介を見た乱馬達はあまり大した期待もせず真之介の後を追った。


−−−格納庫−−−


「今から遠隔操作するから見てろよ。」
そう言うと真之介はいろいろなコードをまず乱馬の機体に取り付けた。要するにトランスフォームの実験である。
「乱馬の機体はハーブ総督と同じヒューマノイドタイプだ。見てろよ。」
真之介の操作によって新たに取り付けられた乱馬の機体の『おさげ』が光り出し、音を立てながら変型していった。
「どうだ!機動性重視したこの機体なら攻撃力は下がるが機動性は格段に上がったはずだ。」
その変型したアーマーを見て乱馬は苦笑した。
「やっぱりな。ハーブ総督と同じでこれじゃ女だ。」
乱馬の言う通り一回り小さくなったその機体はどちらかというと女性を想像させるような形であった。ハーブ自身もあまり好きではないらしい。
「続いて良牙とムース。おまえ達は玄馬司令官と同じくアニマルタイプだ。それじゃいくぞ!」
乱馬同様新パーツ『バンダナ』と『眼鏡』が光り出し、形を変えて行く。新パーツはそれぞれパイロットの個性から採ったものらしい。
その変型した機体を見てやはり良牙とムースも乱馬同様苦笑せざるを得なかった。
「「やっぱりな。」」
良牙の機体、それは真之介曰くその機体の名の通り『獅子』なのだそうだがその所々黒い機体から見るその姿は紛れもない黒ブタであった。ムースも同じように白鳥をイメージしたらしいがその首の短さから巨大なアヒルにしか見えなかった。
「そういや親父の機体も本当は熊だったらしいけど・・・・あの色じゃパンダにしか見えねーしな。」
この変形の設計は機動上仕方なくこういう形になったわけでは決してない。真之介にしろ、玄馬の機体の設計者の真之介の祖父にしろ、機体の機動性を重視するあまりに外見は問題ないという考え方なのだ。
「それじゃ、ヒマだし試運転でもしてくる。」
機体の胸部から垂れ下がっているワイヤーのペダルに足を乗せると自動的にワイヤーが巻き上げられ、乱馬は機体の前を昇っていった。
「何してる!戻れ!」
真之介の忠告も聞かずに乱馬はコクピットに座り、そのまま外へ出て行ってしまった。
「ったく!何を考えてるんだ、あいつは!?」
突然の乱馬の不可解な行動に腹を立てた真之介は帽子を地面に叩き付けた。
「まああいつだってバカじゃない。きっとすぐに帰ってくるさ。」
良牙の言葉によって落ち着きを取り戻した真之介は軽く頷くとそのまま機体の整備に取りかかった。




−−−ハッポウ軍・整備工場−−−


「あかね大尉、今から新型のテストとは本当か?」
パイロットスーツに着替えたあかねを見て九能は声をかけた。
「はい。ジュセン軍本部より離れていますがそこの拠点を制圧せよとの命令です。」
あかねは九能の目を見てはっきりと答えた。しかし本心としてはあまり関わりたくなかった。
「そうか。僕の機体もようやく直ったので一緒に行ってやりたいのだが、まだ整備が終わっていないのだ。」
残念そうに言う九能とは対極に、あかねはホッとしたような表情をした。
「それにしても僕の機体に深手を与えたあの赤い機体のパイロットだけは許せん!」
性格はどうであれ九能は紛れもなくエースパイロットである。その九能を退却させた敵のパイロットはもはやハッポウ軍の中でも有名になった。
「それではそろそろ時間ですので・・・」
あかねは適当に話を切り上げ、コクピットに向かった。
「計器チェック完了。システムオールグリーン。試作アーマー『ハンマーガール』出撃します!」
機体の強力なジェット噴射により、あかねは座席に吸い付けられるような錯覚を起こしながらなんとか基地を後にした。



「外見はともかく、スピードは格段に上がってやがる。」
一時間後、乱馬は調子に乗って本部から大分離れた場所までやってきた。すると少し離れたところで救援信号を発見した。アーマーを識別するとそれは友軍の物と判った。その場へ向かおうとするとちょうど無線が入りモニターにハーブの顔が写し出された。
【乱馬か!許可もなしに出撃したようだな。だがまあいい。その近辺で戦闘が起こっている事は知っているな。至急救援に行ってくれ。すぐに良牙とムースも向かうそうだ。】
「了解!」
ハーブに事が知れた時は大目玉を喰らうと思っていた乱馬だが不問にしてくれる事を知ると、急いで戦闘区域に向かった。
現状に辿り着いた時は既に銃撃戦やらアーマー同士の戦いが始まっていた。拠点を攻撃されるのは軍にとっても大きい打撃なので何としても死守せねばならなかった。
「ここは俺に任せてみんな避難してくれ!」
武器を装備した乱馬が人を誘導しつつ敵の攻撃を防ぐ役割をしていた。しかしいつもは良牙とムースの援護があり、チームでの行動を取る為一人でたくさんの敵と戦うのは不利であった。
それでもうまく変形機能を生かし、一体、また一体と撃墜していき、全てのアーマーを行動不能にした。
「よ〜し、なんとか守りきったぜ!」
安心したのも束の間、レーダーが上空から敵がやってきた事を知らせてきた。
「くそっ!新手か!距離6000、上空1200・・・・あと30秒ってとこか。」
乱馬の予想通り、10秒足らずで目視できる距離にまで敵の機体が近付いてきた。巨大な大槌を持った敵の機体は既に人が避難した工場を狙って攻撃し始めた。
「ちっ、また新型かよ!ハッポウ軍の奴等よっぽど生産コストに余裕があるみてーだな。しかし工場を破壊されちゃたまんねーからな。」
乱馬はすぐに新型アーマーの背後に廻ると、巨大な大槌を切り落とした。切れたハンマーの先は音を立てて地面に減り込んだ。敵機は武器を破壊されたが乱馬の機体に目掛けて攻撃を仕掛けてきた。
「おっと、足を狙ってやがるな。さすがに向こうとしても核爆発は起こしたくねーってか?だけど俺もやられるわけにはいかねーんだ!」
乱馬が敵機の腕を切り落とそうとすると敵は盾でそれを受け止め、乱馬の武器も弾き飛ばした。
「こいつ・・・できる!」
暫く機体同士での格闘戦が続いた。乱馬としては機体の掌からでさえビームを放出し、武器に変換する事もできるのだが、敵のパイロットの命を考えて敢えて攻撃はせず、取っ組み合いの形になった。
すると敵機のパイロットから回線を開いて通信をしてきた。接触回線なので機体同士が触れあっていれば装甲を伝わる振動で敵味方関係なく通信ができるのだ。
【私はあなたと戦うつもりはありません。ここの拠点を私達に空け渡し、すみやかに降伏して下さい。私個人としても無益な殺生は避けたいのです!】
乱馬はその声を聞いて驚いた。
「女なのか!?待てよ、この声どこかで・・・・・」
一瞬聞き覚えのある声に動きを止める乱馬。すると敵機も乱馬に対して攻撃をしなくなった。
【わかってもらえましたか?】
乱馬の機体から手を離した敵のアーマーの手首を乱馬はまた掴み、話し掛けた。
「あかね・・・あかねだろ!?」
敵機は暫く止まっていて、乱馬はパイロットの応答を待った。
【・・・乱・・馬?】
自分の名を返す敵に乱馬はあかねだと確信した。するとあかねの乗った機体は方向転換して戦域を離脱し始めた。突然の行動に乱馬は少しの間止まっていたがすぐにあかねを追いかけた。



「どうして乱馬が・・・」
あかねは上空を飛行しながら一刻も早くその場から離れたかった。しかし後方から乱馬がやってくるのを確認すると、機体の速度を速めた。
「どういうこと?出力が下がってる。」
コクピットに警告音が響き、脱出しなければ危険な状態にあった。しかし方向修正も効かない上に、この高度で脱出するには危険であった。下方には剣山のような山脈が見えていた為、少なくとも今脱出すれば命がないことは目に見えていた。
「待て!あかね!」
かなり上空まで追い続けた乱馬だが、前方に見えるあかねの機体から煙りが上がっているのが見えた。
「なんだ、故障か!?高度が下がってる。このまま落下すれば山に激突するぞ!」
事の重大さを知った乱馬は機動性を重視した体型に変型すると、あかねの機体の前方に廻り込んだ。
案の定スピードを緩める事もできないらしくあかねの機体は乱馬に激突し、さらに勢いを止める事はなかった。あかねの機体の方が出力としては大きい為、乱馬の機体でも支えるのが精一杯だった。
【離れて!あんたまで死んじゃうわよ!】
接触回線であかねの声が聞こえてきたが乱馬は耳を貸そうとはしなかった。変型した状態から元に戻り、ブースターを噴射させたが勢いは僅かに弱まっただけであった。そうしている間に乱馬の機体は山に激突した。あかねの機体と山で挟まれた乱馬には物凄い衝撃が伝わった。装甲が拉げる音まで聞こえた乱馬はあかねに通信をした。
「早く、俺の機体の手に脱出しろ!このままだとお互い潰れちまう。」
乱馬は機体を支えていた手を片方離し、あかねのコクピットに近付けた。するとあかねの機体からハッチが開かれ、パイロットスーツに身を包んだあかねの姿が出てきた。
あかねが手に乗ったのを確認した乱馬は最大出力であかねの機体を振り解き、ゆっくりと地上に着地した。
あかねの無事を確認した乱馬は自分もコクピットから出てあかねの元へ駆け寄った。
「どうして・・・」
「えっ?」
乱馬が近付いた時、あかねは乱馬に向かって声を漏らした。乱馬はよく聞き取れなかったのかあかねにもう一度訊こうとした時、またあかねから同じ言葉が発せられた。
「どうして助けたのよ!」
あかねの顔は感謝の気持ちとは反対に、乱馬に対して怒ったような表情であった。
「どうしてって言われてもな・・・」
人指し指で頬を掻きながら乱馬は返答にこまったように目を逸らした。
「宇宙であった時も同じ・・・あんたと私は敵なのよ!」
あかねの気迫に乱馬は少し驚いたような表情を見せたがすぐに軽く微笑んだ。
「確かに俺達の軍とおまえ達の軍は敵対している。だけど俺達個人が敵対する理由はないと思うんだが・・・それに前にも言った通り、俺は無闇に人を殺したくねーし、人が死ぬのを見るのだってまっぴらだ。」
そんな乱馬の顔を見ていたあかねの顔からは怒りが消えていき穏やかな顔になった。
「やっぱり、あんたって変わってるわ。」
「これでも同僚以外からは好かれてねーんだけどな。それよりこのままあかねを軍まで連れてくけど構わないか?」
乱馬の質問にあかねは困惑した表情になった。その表情を見て乱馬は何かを察したのか笑いながらあかねに言った。
「安心しろよ。捕虜としてじゃなくて民間人として連れてくから。っと、その前にそのスーツだけは脱いでおけよ。」
乱馬は簡単な服装になったあかねに自分の予備のトレーナーを着せると、そのまま本部へ直行した。



−−−ジュセン軍本部−−−

基地に着くと、乱馬は機体の手からそっとあかねを降ろして格納庫に自分の機体を収納させた。
「あかね、ついてこいよ。」
乱馬はあかねを自分達の部屋に案内した。
「あかねはこの部屋で待ってろよ。俺は戦闘報告をしてくるから。」
乱馬はあかねを残し、玄馬の元へ向かった。残されたあかねは乱馬に言われた通り部屋で待機する事に決めた。
自動でドアが開けられたその部屋には若い男が二人、良牙とムースが楽器をチューニング(調音)をしながら座っていた。
「よう、乱馬。先に帰還してるぜ。」
二人は楽器に夢中な為、入ってきたのがあかねだということも知らずに楽譜をただひたすら見つめ続けていた。
「今日は乱馬一人で拠点を守ったようじゃな。おら達が着いた頃には戦闘は終了しておったからの〜、大した奴じゃ。」
「あの〜。」
遂にあかねの方から気付いてもらうべく話し掛けた。すると突然女の声がした事に良牙とムースは手を止めて入り口の方を見た。
「乱馬、おまえいつからそんな女子みたいな体型になっとったんじゃ?」
ムースの言葉を良牙は驚きながら殴って制止させた。
「バカ、近眼にも程があるぞ!本当の女の人だ!」
ムースを小突きながら良牙は丁寧な口調であかねに話し掛けた。
「君は、誰だい?」
「あ、あの・・・私は天道あかねといいます。先程の戦闘で乱馬パイロットに助けられて・・・」
乱馬の階級を知らないあかねは呼び捨てはまずいと思いながら、乱馬の名を出した。
「民間人か。じゃあ乱馬が来るまでここで待つといい。」
あかねは一礼して部屋に入ると少し周りをキョロキョロしながらソファーに腰をかけた。
「俺の名前は響良牙。それで、こっちがムースだ。それから乱馬も含めて俺達は階級で呼ばなくてもいい。ここにいる俺達と気の合う奴等は上官以外みんな呼び捨てに呼んでもらってる。寧ろ俺達もその方がいいから。」
「は、はい。ありがとう。」
あかねが頭を下げるのを見た良牙達は笑いながら手を振って部屋から出ていった。
「久し振りだわ。こんな暖かい気持ち・・・みんながいた時はいつもこんな感じだったな・・・」
あかねは疲れが出たのか、ソファーに腰掛けるとそのまま眠りに付いてしまった。



つづく




作者さまより

ちょっと変わった趣向で乱馬達のバンドの様子を書きました。実際キャラにあった楽器だと思うんですが・・・
取り敢えず、あかねと再会させて話を少しまとめました。

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