◇戦場の息吹
   3RD MISSION 蒼い雷

武蔵さま作


【只今、高度4000メートル。アーマー投下します。】
輸送機のハッチが開かれ、乱馬達の機体が落下する。
【着陸体勢に入る。高度1000メートルに到達次第、ブースターの噴射用意。着地と同時に臨戦体勢に移行する。】
乱馬の声が良牙とムースに伝わる。二人は了解し、ただ自分達の機体が落下する状態で落ち着いていた。
コクピット内はモニターが外部の風景と同じになるのでパイロットにしてみれば自分の座っている座席が宙に浮いているような錯覚を感じる。乱馬達にしてみれば座席の下を見るだけで遥か遠くに地上が見えるのだ。慣れていないパイロットなら恐怖心で身体が竦んでしまうが、乱馬達はもはや慣れてしまっていた。
【高度1000メートル到達。各アーマー、ブースター噴射!】
機体の後部から一定の青い炎が出る。と同時に落下速度が段々と緩んでいき最終的にはほとんどコクピットに衝撃を与えず着地した。
「ムース、敵はいるか?」
乱馬の指示に従うようにムースの機体は片膝を地に付け、腰元から出てきた棒状の物を地中に向けて発射した。パッシブソナーと呼ばれるものであり、地中に埋め込まれ地表を伝わる微振動を検知するものだ。この振動波を解析する事で敵アーマーとの距離、進路方向、数、種別などを割り出す事ができる。
ムースはソナーに耳を傾けつつ、レーダーに映し出された映像を見た。
「10時の方向に量産型アーマーが二機。距離は5000メートルじゃ。」
「へー、今回のムースのアーマーはレーダーも最高らしいな。そこから射撃は可能か?」
乱馬に答えるようにムースは銃身の長いキャノン砲を組み立て、敵の方向に向かって構えた。ムースの機体は歩く武器庫と呼べるほど武器を所持している。その中の多くが組み立て式なので大量に持つ事ができる。乱馬と良牙の機体の武器もムースが所持している。
「まず一発撃ってみるだ。」
銃身の横に付いているグリップを握り、威嚇射撃のつもりで相手を狙い撃つムース。
ドーーン!
人間の使う大砲のような巨大な音と同時にムースの機体が少し後ろに下がる。
砲弾は遠くの敵に向かっていき、脚部に命中した。
「あ、当たっただ。」
ムースは驚いたがもっと驚いたのは乱馬と良牙であった。
「何〜!あのド近眼のムースがこの距離で当てやがった。」
「あいつのアーマー、遠距離に関しちゃ凄すぎるぜ!」
「取り敢えず、一機撃破だな。」
アーマーは体重50トンを超えるものであり、その重さは二本の脚部に全てかかるので脚部を破壊すればその機体は戦闘不能と言っても過言ではない。乱馬達は必ず腕、脚、頭のどれかから破壊している。胴体への攻撃が一番当てやすいのだがそれでは中のパイロットの保証はできない。だからこそ初めはムースの遠距離射撃が一番役に立つのだ。
「敵の奴等、どこから砲弾が飛んできたのかさえわかっちゃいねーぜ。ムース、後一体は任せたぜ。俺と良牙はムースの射撃後、敵拠点に突入する。」
「了解!」
またもやムースが相手の脚部に狙いを定める。スコープが相手をロックオンし、ムースが一撃撃った。
相手に着弾するや否や、乱馬と良牙は拠点に向かって全速力で移動した。後部からのジェットにより、飛行機の加速のように一直線に拠点に向かう。その速さは凄まじく、5キロの距離が数秒で縮まった。コクピット内は工夫がなされ、今のようなスピードで動いたとしても通常、急激なGによって引き起こされる呼吸困難はなかった。
僅か数秒でいきなり現れたアーマーに敵の兵士達は驚いてパニックに陥った。
「まずはあそこだな。」
良牙の機体は持っていた銃で敵の弾薬庫を撃った。銃口から赤いビームが発射され、命中した瞬間に爆発が起きた。その騒ぎを聞き付け新たに敵アーマーが出現する。それを待っていたかのように乱馬は機体の腰元から筒状の物を取り出し、しっかりと握って構えた。握った瞬間にビームでできた刀身が姿を現し、乱馬はそれを振り降ろした。敵機は瞬時にして破壊されていった。
「すげー威力だぜ、このビーム兵器は・・・」
一息付く間もなく、ハッポウ軍の基地からは警告音が鳴り響き、兵士達がたくさん出てきて銃器で乱馬達のアーマーを攻撃し始めた。
「くっ、どうする乱馬!?」
攻撃を受け始めた良牙はモニターで乱馬に援護を求めた。
「この新型アーマーならこの程度の攻撃は効かないはずだ。今ここで敵機以外に攻撃すれば民間人にも被害が及ぶ可能性もある。ここは作戦通り敵基地の破壊、及びアーマーの撃破を遂行する。」
乱馬の指示に従い、良牙も兵士達には構わず被害の少ないように攻撃を開始した。
「乱馬、良牙!前方に敵機が三機やってきただ。距離にしておよそ一分で到着するだ。どうするだ?」
「まだ作戦は完遂していない。敵アーマーの種別はわからないがおそらく新型だろう。俺達も任務を完遂でき次第、戦線を離脱する。」
敵機の数に備え、ムースも敵拠点にやってきて敵を迎え撃つ事になった。
「来たぞ!上だ!」
メインカメラを上方に向けると絶壁の上に立ち並ぶ三機のアーマーの姿があった。その内の一機、深い蒼色をしたアーマーは乱馬達に見覚えのあるものだった。
「あれは!宇宙にいた機体!」
乱馬達がそう思った時、その三機の機体から声が聞こえた。どうやら外部スピーカーで話しているらしい。
【はっはっは!貴様等か、我が拠点を解放しようとする愚かな奴等とは。ここは我がアーマー『蒼い雷』で成敗してくれよう!】
高笑いと共に機体でポーズをつける蒼い機体。乱馬も外部スピーカーに切り替えて言った。
【おめー、九能とかいう奴だろ。確か階級は准将だったな。俺の名は早乙女乱馬。大佐になったばかりだが宜しくな、せ・ん・ぱ・い!】
最後に皮肉を言った乱馬だが、九能は全く気にせずにいた。
「ほう、僕の名を知っているとは・・・僕も有名になったものだ。」
九能が自惚れているとその隣の機体が口を出してきた。姿的に見て、女性を想像させるような機体だが、その色合いは派手で、全身に黒いバラの絵が描かれていた。
「お兄様、独り占めは良くないですわ。ここは私の『ヘベレケ』にお任せください。」
上品な言葉ではあったがどこか我の強さを協調する話し方であった。しかし更に隣の最後のハワイを思い出させる柄の機体までもが口を出した。
「OH!タッチーもコッチーもわがままで〜す。ここはミーの『ウクレレ』に任せなさ〜い。」
「小太刀、ダディー!ここは僕の機体の見せ場だ!邪魔をするでない!」
とうとう三機で向かいあって口論し始めてしまった。そんな彼らを見て乱馬達は呆れてしまった。
「良牙、ムース。作戦は終了。只今をもって本部へ帰還する。」
乱馬達のアーマーが敵に背を向けて帰ろうとした時、九能の声が響いた。
「待てい!貴様等どこへ行く!」
九能の呼び止めに乱馬達は足を止め、振り返った。
「やれやれ、あのまま続けてくれればいいものを・・・」
良牙が溜め息を付いた時、絶壁から敵アーマー三機が飛び下りてきた。
「まずい!近くでは動きが取れない。各自距離を取りつつ一対一で闘え!」
乱馬達は間合いを取り、乱馬が九能と、良牙が小太刀と、ムースがハワイ男と戦う事になった。
攻防一体で戦闘に臨む乱馬達だがまだ新しい機体の扱いになれていない為思うように動かせなかった。それを見抜いたのか九能達は動きを撹乱しつつ、攻撃を仕掛けてきた。
「愛の障壁粉砕剣!」「千手こん棒乱れ打ち!」「九能流木刀ささら崩し!」
三機による武器をもっての連続突きに乱馬達は苦戦していた。
「このままじゃいくらこの装甲が丈夫でも持たないぜ!」
攻撃が当たる度に中にいる乱馬達はその衝撃によって首をガクガクと揺らした。オートバランサーによって機体が倒れる事はなかったが、乱馬達のアーマーは新品だった面影はなく、傷付き装甲が溶けかけていた。
「このやろう!」
乱馬のビームブレードが九能に襲い掛かる。しかし九能は剣でそれを受け止めた。乱馬達の使うビームとは違っていたが、九能達の扱う武器は熱によって武器をビームに近い性質にしてあった。
電荷を帯た粒子は電磁場によって収縮されているため乱馬のブレードは剣の形に留められている。その剣が九能の剣とぶつかり合う事によって反発力を生じ、バチバチと大気が燃える音がした。
「ほう、僕のヒートブレードを受け止められるとは・・・その武器、なかなか良いものだな。」
九能が鍔迫り合いをしながら外部回線を使って乱馬に話し掛けた。
「だが、武器は良くともそれを扱うパイロットの腕が悪くてはな・・・」
そう言うと九能は乱馬の機体の腕を下からすくうように跳ね上げた。その途端乱馬の腕からブレードが弾き飛ばされた。機体の手から離れたブレードはエネルギーの供給を絶たれ、ただの筒に戻った。
すかさず九能の攻撃が乱馬の機体の首元に打ち込まれる。切断されるような事はなかったが、頭部はメインカメラになっているので九能の攻撃で壊れてしまい、乱馬からはコクピット外が真っ暗になり、外の状況が見えなくなってしまった。人間でいう目の部分のカメラからは光を失い、それと同時に乱馬の機体は動かなくなった。
「さらばだ、早乙女乱馬!」
乱馬の機内に九能の声が響く。それでも乱馬は諦めずに計器を動かそうとしていた。
「くそっ!動け、動いてくれ!」
両拳を機械に叩き付ける乱馬。その拍子に何かのスイッチを押した。
『サブエネルギー』
内部の液晶パネルに文字が浮かび上がった。その瞬間乱馬の機体の目に光が戻った。突然戻った視界に現れたのは今まさに剣を振り降ろそうとする九能機体の姿だった。
「武器はない!それなら・・・」
乱馬は一瞬にして九能の機体の腕を掴んだ。急に動けるようになった乱馬の機体に九能は驚いた。
「バカな!貴様はもう動けないはず・・・」
九能が驚いているのを見た乱馬は手が振り降ろされる前に九能機のコクピットを蹴り上げた。その後反対側の腰元からもう一本の武器を取り出し、相手の腕を片方切り落とした。立場が逆転した事に乱馬は勝利を確信し、もう片方の腕を破壊しようとした。。しかし剣を振り上げた瞬間、またしても機体の動きが止まってしまった。限界稼動時間を過ぎたのだ。
「くそっ!後少しだっていうのに!」
乱馬同様、良牙やムースも後一歩という所でエネルギーが切れてしまったようだ。試作機なのでまだ整備は万全に行き届いていなかったのだ。
「ふっふっふ、天はどうやら我らに味方したようだ。今度こそさらば!」
乱馬は目を閉じた。巨大な熱された九能の武器がコクピットを直撃すれば忽ち乱馬は一瞬のうちに蒸発してしまうであろう。
『バチバチバチ!』
コクピット内にまたもや嫌な音が響いてきた。乱馬は外の状況は見えないがおそらく装甲が溶けているのだと思った。しかし内部の通信で外から声が聞こえてきた。
【大丈夫か、おまえ達。】
その声に聞き覚えのあった乱馬は驚いた。
「ハーブ総督!何故ここに・・・」
中からでは様子が見えないので乱馬はコクピットのハッチを開けた。そこには間違いなくハーブの機体が九能の攻撃を止めていた。
「く、先ほどの攻撃のせいで万全ではない。ダディー、小太刀!ここは一旦引くぞ!」
九能はそう言ってハーブから逃れると離脱して行った。
敵が去った後の静けさを破るようにハーブの部隊が遅れて到着し、乱馬達の機体を輸送機に乗せた。


「危ない所だったな。」
ハーブは飲み物を乱馬に差し出して言った。
「はい、ありがとうございました。」
乱馬は飲み物には手をつけず、黙って深刻そうな顔をしていた。
「気にするなと言ってもおまえは気にするだろう。だったらせめて気には病むな。それとサフラン元帥から報告は聞いている。別におまえ達の考えに反対はしない。だが今回のように本来ならばあそこまでやられるような事にならなかったはずだ。もしおまえがあの蒼い機体の腕ではなくコクピットを破壊していればそれで今回は死ぬような目には逢わなかっただろう。」
ハーブの言葉を黙って聞く乱馬。しかし表情は納得のいった顔ではなかった。そんな乱馬を見てハーブはまた言葉を続けた。
「私も昔はおまえ達と同じ考えだった。しかしその過ちで仲間を失いそうになった。そんな時サフラン元帥に言われたよ。『これは個人的な怨恨ではない。戦争である。例え敵機のコクピットを破壊しようともそこにいるパイロットを想像してはいけない。さもないと殺人の罪悪感が生じてしまう。我々は敵の姿を知る必要はない。』とな。」
ハーブはそう言うと乱馬の肩を軽く叩いてその場から去って行った。
ハーブが去った後、良牙とムースが柱の影から現れた。
「悪いと思ったが立ち聞きさせてもらったぜ。乱馬、おまえ・・・どうするんだ?」
良牙の問いに乱馬は黙っていたが、立ち上がって言った。
「そんなの・・・俺にもわからねーよ。ただ出撃前に言ったように俺は今までのやり方でいきたい。だがそのせいでおめー達に危険が・・・・」
『バキッ!』
項垂れていた乱馬は何が起きたのかわからなかった。首が揺れたかと思うと天井を見上げた状態でいたのだ。頬からは熱いような痛みが込み上げてきて良牙とムースに殴られたのだとわかった。
「バカやろう!俺達に危険があるだと!?俺達がその方法を望んだんじゃねーか!」
「その通りだ!おら達の危険はおら達で対処する。乱馬に守ってもらおうなんて考えてねーだ!」
頬を押さえながら上半身を起こす乱馬に良牙とムースは怒りをぶつけた。
「本当にいいんだな。またサフラン元帥に呼び出されるかもしれねーんだぞ!?」
立ち上がって乱馬はもう一度良牙とムースに尋ねた。
「当たり前だ!何度言われても俺はやり方を変えねー!」
「まったくじゃ。呼ばれたらまた怒られればいい事じゃ!いい加減しっかりするだ。リーダー!」
リーダーと呼ばれて乱馬は微笑んだ。
「確かに、リーダーの俺がしっかりしないとな!」
どこからか笑いが込み上げ、三人はその場で笑い続けた。


−−−本部−−−

「おまえら〜!」
本部に戻るや否や、真之介が怒りながら乱馬達の方に向かってきた。
「な、なんだよ。」
しかし真之介は乱馬達の前に立ち止まると急に殺気が抜けたような顔になった。
「あれ、何を怒っていたんだっけか?」
必死で思い出そうとする真之介に乱馬は言った。
「大方新型アーマーを破壊された事だろ。」
乱馬の言葉で思い出したように相槌を打つ真之介。と同時にまたもや怒った表情になった。
「そうだ!アーマー一体に対しどれだけの費用がかかるか知ってるのか?大体機体のテストでいきなり敵のエースパイロットと戦うか?まだ試作段階だとあれほど言っておいただろうが!」
一気に捲し立てる真之介に乱馬はある方法を思いついた。
「そう言えばトランスフォームの件はどうなったんだ?」
「ああ、それならつばさ中尉が明日帰還するはずだから早速その鉱石を組み込むつもりだ。」
「そうか。ところで俺達何の話をしてたんだっけ?」
「・・・忘れた。」
乱馬の問いに真之介はまた深く考え込んでしまった。
良牙とムースは拳の親指を立ててグッドサインをした。
「そういや俺達、東風先生のところへ行くように言われてたぞ。早く行こうぜ。」
その場で乱馬達は医務室に向かった。
「こんちわ〜、東風先生いますか?」
ドアから顔を覗かせて乱馬は東風の姿を捜した。
「ここにいるよ。そんなとこにいないで入っておいでよ。」
三人は室内に入ると東風に指示され、上半身裸になってベッドの上に仰向けになった。
「ははー、大分痛手を受けたようだね。三人とも胸に痣があるよ。」
三人とも同じような攻撃を受けた為、傷も同じような痣であった。
「君達の事は上層部から連絡が入っているよ。元帥にまた逆らって敵を逃がしたんだって?」
東風は乱馬達に尋ねた。しかしその口調は軽蔑するわけではなく、笑って共感していた。
「ふふふ、君達らしいね。信念を貫き通す君達が少し羨ましいよ。」
そう言うと東風は眼鏡を外し、遠くを見つめた。乱馬達は服を着てベッドに腰掛けた。
「そういや、東風先生は昔アーマー部隊にいたって親父から聞いたけど・・・」
乱馬は以前玄馬から聞かされたその話で、なぜ東風が救護班に廻ったのかがわからなかった。
「あれは・・・もう4年前になるかな。U.C.56年で戦争が始まった最初の年だった。それまで僕は小さな接骨院をやっていてね、戦争に駆り出されるなんて夢にも思わなかったよ。とにかく人員不足で才能さえあればすぐに階級があがった。僕は乱馬君のお父さんと同じ隊だったんだ。隊長の玄馬司令官に継ぐ大将機として僕は援護に就いた。当時僕には好きな人がいたんだ。早乙女司令官の親友の娘さんでね、かすみさんといってとても優しくて聖母のような人だった。だけどある時、彼女の住む街がハッポウ軍に襲われたんだ。僕はその時の任務で彼女を救う事ができなかった。戦火が消えた後も彼女を捜しにいったが、遂に彼女の姿は見つからなかった。」
東風は拳に力を込めながら話した。乱馬達はそれを黙って聞いていた。
「たくさんの人が死んだし、行方不明者も数えきれないほどいた。僕はそれでも彼女を捜し続けた。いや、今もまだ捜している。だけどその時以来、僕はアーマーに乗る事を止めた。玄馬司令官も親友を失った理由で前線を退いたんだ。」
東風がパイロットを辞めた理由を知った乱馬は東風の心情を察して聞いた。
「辛かったはずなのにどうやって立ち直ったんですか?」
乱馬の言葉に東風はまた眼鏡をかけながら言った。
「確かに辛かった。ハッポウ軍を憎んだよ。だけどそれ以上に何もできなかった自分を恨んだ。だけど彼女が前に言った事を思い出したんだ。『あなたが人を一人救う度に私も救われた気がする。』ってね。だから僕はこの戦争を早く終わらせて欲しいと願いながら彼女との約束を守ろうと決心したんだ。」
気丈な東風に尊敬の眼差しを向けながら乱馬はあかねの事を一瞬思い出した。
「さて、僕の話はこれでおしまい。そろそろ司令官の所へ行った方がいいんじゃないのかい?」
東風は思い出したように言った。その言葉に乱馬達は時計を見ると既に長い時間が経っていた。
「それじゃあ、失礼しました!」
乱馬達は医務室を出ると、急いで玄馬の元へ向かった。


「遅い!何をやっとったのじゃ!」
「はっ!我々第一アーマー小隊は今回の任務での負傷を東風医師の元で診てもらいました。」
乱馬は固い口上で玄馬に報告した。
「ええい、言い訳をするでない!」
理由を聞いておいてそれはないだろうと乱馬達は思いながら玄馬の言葉を聞いていた。
「今回の任務でのアーマーの破損は敵の新型という予想外の事態故に大目に見よう。だが!サフラン元帥から話は聞いておるぞ!またおまえ達は甘い考えで自らを窮地に立たせたのだぞ!大体乱馬、おまえは・・・・・・・」
「やれやれ、また始まったぜ。」
玄馬の長話は良牙やムースも知っている。こういう場合は下手に逆らうとよけい長くなる事を知っていた三人は黙って聞いている振りをした。
「だからこういう結果に・・・・・」
「まだ続くのか?」
小さい声で良牙は乱馬に尋ねた。
「後少しだから黙って聞いてろ!」
乱馬の言葉を信じた良牙だが、話はまだ続きそうである。
「大体わしがアーマーに乗ってた頃は・・・・」
玄馬が昔の話に入ったところでムースが乱馬に呻いた。
「乱馬、おらはもうダメじゃ・・・」
4時間以上も話を聞かされてムースが遂に膝を落とした。倒れるのを防いだ乱馬と良牙だが良牙ももはや限界であった。いつもより長い話に乱馬も限界を感じた時、一本の電話が彼等を救った。
「なんじゃ、こんな時に・・・もしもし?おお、のどかか!」
妻からの電話に乱馬は心底感謝した。
「ナイスだ!おふくろ。」
玄馬は電話をとると話はまた今度と言い、乱馬達を手で追い払った。


「やれやれ、乱馬の親父さんの話は長いワリに内容がないからな。」
「まったくじゃ。しかも今回は一段と長かったの〜。」
部屋を出た後、三人は肩を回しながら呟いていた。
「さて、これからどうする?」
「トレーニングルームでも行くか?」
体を解そうと良牙は提案したが、どうも乱馬は乗り気じゃないらしく首を横に振った。
「いや、俺はやめとく。気分転換に散歩でも行ってくるよ。」
乱馬はそう言うと建物の外へと出て行った。
「ま、確かにトレーニングルームで乱馬に適う奴はいないからな。」
良牙がそう思うのも無理はなかった。トレーニングルームではパイロットの為にありとあらゆる武道をやらされるのだが、乱馬はどの種目においても負ける事はなかったのだ。そのことがベテランのパイロット達の反感を買うのでもあった。
「しっかし、もうちょっと愛想ぐらい持った方がいいな、あいつは。」
良牙が呟く頃、乱馬の姿はもはや見えなくなっていた。



つづく




作者さまより

正直、書いてる自分の方がややこしくて混乱します。ほとんど御都合主義ってやつですかね。
今回は戦争について書きましたが、東風先生の話で大体先が読めちゃったかも・・・


Copyright c Jyusendo 2000-2005. All rights reserved.