◇戦場の息吹
   1ST MISSION 運命の遭遇
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武蔵さま作


 西暦××××年、地球総人口が100億を突破し、人類は宇宙移民を開始した。この年から西暦から宇宙世紀へと移行する事になった。
 U.C.(宇宙世紀)0050年、人類が太陽系の惑星全てに旅立った。と同時に総人口の70%の宇宙への移住が完了した。
 U.C.0055年、八宝斉が公王となりハッポウ軍として独立国家を宣言した。そしてその年から土木工業用ロボットを改造した『アーマー』と呼ばれる人型兵器のロボットが造られた。それに対抗すべく地球連邦政府はジュセン軍を結成し、人型兵器の開発に勤しんだ。
 そして翌年U.C.56年、ハッポウ軍は独立戦争を開始した。




 命令違反は日常だった。殺せと言われても殺す事はしなかった。命あるものは守ってきた。敵も味方も・・・
 守ると言っても意識した感情はなかった。ただ、あいつだけは違う。俺が守りたいと心から思った。

 女なんて意識した事なんてなかった。俺に近付く女達、知り合いだから拒絶することはしなかったが逆に言えば友達感覚で、それ以上に発展した事はない。仲間はみんな『女に対しては無愛想』と言うが、俺はそんなふうに接した覚えはない。もしあいつらの言う事が本当なら、俺はやっぱり女といる事を望んでいなかったんだと思う。だけどあいつと会ってからは違った。あいつがいる事だけが楽しくて、嬉しかった。

 そんなあいつも今はもうここにはいない。だけど俺はあいつを助ける。
 この最後の戦いで俺は死ぬかもしれない。だけどあいつだけはどんな事があっても助ける。
 この身を賭してでも・・・


−−−U.C.0060年−−−

「やっと帰れるぜ。今回の任務は結構長引いたな、良牙。」
 おさげをした少年は右隣にいるバンダナの少年に話し掛けた。
「あ、ああ。」
 ぎこちない返事を不思議に思う少年に、左隣の挑発で眼鏡をかけた少年が代わりに答えた。
「乱馬も鈍いの〜、良牙は地球にいる恋人に会える事でいっぱいなんじゃ。少しは気を使ってやらんか。」
 乱馬と呼ばれたおさげの少年は今気付いたように相槌を打って納得した。
「そっか、そういえばあかりちゃんと離れて三ヶ月経つもんな。そういうムースだって早くシャンプーに会いてーんじゃねーのか?」
 眼鏡の男、ムースはいきなり話を振られて多少照れながらも笑って言った。
「そうじゃな。シャンプーもおらの事心待ちにしてるに違いねーだ。」

 今三人は任務を完了し、地球へ帰る為に宇宙船に乗っていた。小型の為、三人以外はいないが気楽に話をしながら地球に向かっていた。
 明日には地球に帰る事ができるという事ではしゃいでた乱馬達ではあるが突如その浮かれ気分は消し飛んだ。
すぐ近くで閃光が辺りを照らしたからだ。
「敵か!?」
 軌道を変え、すぐさま乱馬が叫ぶ。ムースはそれに応じてレーダーで確認する。
「どうやらハッポウ軍との抗争があるようじゃ。今やられたのはジュセン軍の部隊じゃ。あと一機おるが敵の方が一枚上手じゃ、もうダメかもしれん。」
 呟くムースに乱馬は叫んだ。
「俺は援護しに行く!」
 操縦席から立ち上がる乱馬を良牙が引き止めた。
「ダメだ!今回の任務で俺達の機体はもう動けない!あるのは偵察用の小型機だけだ!」
 乱馬は良牙の手を振り解いて振り向きざまに言った。
「仲間が苦戦してるのを見て見過ごせるか!その偵察機で俺は支援に行く。おめーたちは直ちにこの場から離脱してくれ。」
 乱馬はそう言うとまだ制止しようとする良牙とムースの声も聞かずに後部座席のすぐ後ろのハッチを開け、偵察機に乗り込むと一気にブーストを噴射させた。たちまち後部の筒から青白い光が出てくる。乱馬はその瞬間、機体の操縦レバーを一気に押し出した。と同時に小型船の後部から飛び出していった。
ピー、ピー!
 乱馬の乗った偵察機に無線の呼び出し音が響いた。発信源は小型船からだった。
「こりゃ良牙かな。」
 表情を変えずに無線をオンにする乱馬。そこから聞こえてきたのは予想通り良牙の声であった。
【乱馬!このバカ野郎が!その偵察機でどうやって敵の機体と戦うつもりだ!】
 機内に良牙の声が響き渡る。ヘッドホンで直接良牙の声を聞いていた乱馬はその声の大きさに驚いて無線をオフにした。

「あの野郎、無線を切りやがった!」
 船内の良牙は深い溜め息をついた。
「そう興奮するな、良牙。乱馬ならあの機体でも何とかするやもしれんぞ。」
 ムースの慰めに良牙は暫く黙っていたがまた溜め息をついて言った。
「ああ、そうかもしれねーな。」

 その頃乱馬はいよいよ敵との戦いの場に近付いた。
「まともにやっちゃぁこっちに勝ち目はねぇ。ここは背後から廻って・・・」
 ジェットの出力を抑え、少しづつ近付く乱馬。先ほどまで戦っていた味方のアーマーは破損状態が激しく、武器の残弾も尽きたようだった。
「よし!これでもくらいやがれ!」
 背後に廻り込んだ乱馬はミサイルを敵機に向けて発射した。ミサイルはそのまま敵の背を捕らえた。
「やったぜ!」
 乱馬が安心したその時!爆発の中からアーマーの手が乱馬の偵察機を両手で掴んだ。人型のアーマーと違い、球状の乱馬の偵察機はガッチリと挟まれ、動く事ができない状態であった。
「まずい!まだ戦えるのか!?」
 敵は手に力を加えていく。乱馬の偵察機の装甲はミシミシと圧力を受けていく。
「こんなところでやられてたまるか!」
 乱馬はコクピットの下の部分からワイヤーを出し、相手の機体に付けた。乱馬がボタンを押すとそのワイヤーに電流が流れ、相手のアーマーを破壊した。乱馬の機体から手が離れるのを確認すると、乱馬はそのまま脱出し、偵察機を敵アーマーにぶつけた。すると敵アーマーのエネルギー源でもある小型核融合炉が大爆発を起こした。爆風に吹き飛ばされる乱馬。ふと見ると近くにもう一人宇宙服に身を包んだ人間がいた。自分達軍の宇宙服とは違う事で直感的に先ほど自分と戦っていたアーマーのパイロットだと乱馬はわかった。
 乱馬に背を向けて逃げるパイロットを乱馬は追いかけた。敵は壊れて宇宙空間に漂っている船の中に入って行った。
「逃がさねーぜ。」
 乱馬も後を追うように船内に入って行った。しかし敵のパイロットの姿はなく乱馬は慎重に捜した。船内を隈無く捜していると突然銃声がした。それと同時に乱馬の頭のすぐ横に銃弾が当たった。
「うわっ!」
 急いでその近くにあった柱の陰に身を潜める乱馬。銃声は乱馬の隠れている柱を正確に撃ち続けている。ちょっとでも顔を出せばすぐに撃たれてしまうと判断した乱馬は自分も持ってきた拳銃で相手の場所を威嚇射撃した。銃撃戦が続く中、遂に相手の弾が尽きた。トリガーを引くが撃鉄はただ音も立てずに動くだけだった。乱馬は銃撃が止むのを確認すると、暫くの間迷っていた。
(ここで飛び出せばうまく相手を捕まえられるかもしれねー。だけどこれが罠で相手が予備の弾倉を持ってたらこっちがやられちまう。)
 柱の陰で目を瞑って考える乱馬。しかし決心がついたのか柱から出てきた。
「だ〜!考えてても仕方ねえ、いくぜ!」
 乱馬は壁を蹴って相手に飛び掛かった。幸い相手は本当に弾切れで狙い撃ちされる事もなく、突然の乱馬の行動に逃げる事もできなかった。
「捕まえたぜ!さ〜て、面見せてもらおうか!」
 相手の肩に手を掛け、無理矢理自分の方を向けさせた乱馬は驚いた。
「お、おんな〜?」
 宇宙服のバイザーから見られるその顔立ちは明らかに女の顔であった。近くで見ると宇宙服も男用とは違い、腰元が括れ、何といっても胸が出ていた。
「くっ!」
 女は乱馬から逃れようと拳を握って殴ろうとしたが、乱馬に容易く止められてしまった。
「まさか女だったとはな・・・・」
 乱馬はそう言って女を見ると、宇宙服が破れかかっているのを見て、怪我をしているのがわかった。
「こっち来いよ。」
 乱馬は女を連れて大きなハッチの前に立った。女は抵抗していたが乱馬は構わずハッチを開けた。すると中からものすごい勢いの風が出てきた。正確には風ではなく、真空状態の宇宙空間にハッチ内の空気が吸い出されたのである。気圧が同じになって落ち着いたハッチの中に乱馬は女を連れて入った。
「さて、もう取ってもいいぞ。」
 そう言うと乱馬は自分のヘルメットをその場に置いた。既に使われていないとはいえ、船内には酸素があった。黙っている女に乱馬はまた話し掛けた。
「そうしてると酸素がどんどんなくなってくぜ。少しでも温存しておくべきだ。」
 女は乱馬をチラリと見ると言われた通りヘルメットをはずした。
「腕、見せてみろよ。」
 女は乱馬の行動を怪しく思いながら黙っていた。すると乱馬は女の腕を掴み、傷の場所に綺麗に包帯を巻いていった。突然の行動に女は驚いたが自分とは敵である事を思い直し、また険しい顔になった。
「どうしてこんな事するのよ。」
 包帯を巻きながら乱馬は初めて聞く女の言葉に耳を傾けた。
「あんたと私は敵なのよ!?私が女だから?情けをかけたつもり!?」
 感情的に言う女に対し、乱馬は冷静に言った。
「別に、敵だからとか女だからとかは関係ねーし、情けをかけたつもりもねぇよ。ただ俺は戦争だからって無闇に人を殺したくねーだけだ。」
 乱馬の言葉に女は目を丸くした。そして笑い出した。
「ふふっ、あんた、他のジュセン軍とは違うね。」
「そうか?」
 乱馬はわからないといった顔をした。
「ええ、全然違う。私も本当は戦争なんて大っ嫌い。もちろん戦う人も・・・でもあんたみたいな人は別よ。」
 笑い出す女を見て乱馬は胸が熱くなるのを感じた。
「おめー、笑うとかわいいな。」
 乱馬の言葉に女は笑いを止めて驚いた。
「さっきまでホント険しい顔してたけど、やっぱ笑ってる方がいいぜ。」
 乱馬はそこまで言ってハッとした。本来自分はこんな事を言った事はなかったからだ。それどころか女と話す時に笑った事などなかったのだ。
 2人は少しの間沈黙していたが、女の方からその沈黙を破った。
「私の名前はあかね、天道あかねよ。あんたの名前は?」
 先程から敵意は失せているあかねに対し、乱馬は気軽に話す事ができていた。
「俺は乱馬、早乙女乱馬だ。そういやあかねはなんで女なのにアーマーのパイロットなんてやってんだ?」
 乱馬の問いにあかねは明らかに困惑した表情を見せた。
「なんかまずい事訊いちまったか?」
 ちょっと困った乱馬にあかねは気を遣うように言った。
「ううん、私、パイロットとしての素質があるんですって。最初はテストパイロットだったんだけど段々戦場にでるようになって・・・・」
 確かに先程の戦いで乱馬もあかねの実力はわかっていた。そこまでの実力を持ち、戦いを好まないあかねがなぜハッポウ軍にいるのかがわからなかった。思いきって訊いてみようと乱馬は思ったが少し前に見せたあかねの困惑した表情を思い出すとおそらくあかねが言いたくないだろうと思った。その後も二人は少し話をした。暫くして、乱馬は脱出法法を考えた。
「さて、これからどうするか。ここの酸素はまだ持つといっても脱出できるとは限らねーし、かといってこんな所で暮らすのも無理がある・・・」
 乱馬は考え込んだ後、良牙とムースの乗った小型船を思い出した。しかし連絡がとれるような無線はなく、取り敢えず何か役立つ物を捜すことにした。
「おそらく無線関係の物はみんな壊れちまってる。後は照明弾か爆発できる物があれば・・・」
 今いる場所を離れて光を放つ物を捜そうとしてヘルメットを冠ろうとする乱馬にあかねは近付いた。
「髪、解けそうだよ。」
 乱馬があかねに言われて自分の髪を見ると結んでいた紐は切れかけていた。ただ束ねただけのおさげなので簡単に解けてしまったのだ。
「この紐じゃもう使えないね・・・・そうだ!」
 あかねは懐から小さな筒を取り出した。中をあけるとそこから黒い紐が出てきた。
「これ、『龍の髭』っていう私の家に伝わってきた物なの。以前私、髪が長かったから使ってたんだけど、髪を切ってからはお守りとして持ってたの。」
 そう言うとあかねは乱馬の髪をその龍の髭で結び始めた。三つ編み状に束ねていく事で解けないようにした。
「これでよし。」
「いいのか?そんな大切な物・・・」
 少なくとも家に伝わるぐらいだからただの紐ではない事がわかった乱馬はあかねに尋ねた。
「いいのよ。傷の手当てもしてもらったし。」
 髪を結び終え、あかねは乱馬にそう言ってヘルメットを冠った。


「乱馬!これ、使えるんじゃない?」
 無重力の為に紙やペンなどが宙に浮く中、 船の操縦席のところであかねは照明弾を見つけた。
「ああ、使えるかもしれねーな。」
 早速2人は船の外に向けて照明弾を撃った。鮮やかな閃光と共に暗黒の宇宙が照らし出された。すると遠くの方から巨大な影が近付いてくるのが見えた。
「あれは・・・船じゃねぇ!ハッポウ軍のアーマーか!」
 乱馬が言い終えるや否や、敵のアーマーは乱馬とあかねの前に止まった。
【あかね中尉!無事か?】
 外部スピーカーで声が宇宙服内に通じる。その声は近くにいる乱馬にも当然聞こえた。
【隣にいるのはジュセン軍の兵士ではないか!】
 敵アーマーは銃口を乱馬に向けた。しかしそれをあかねは制した。
「やめて!今は帰還を急ぎます。九能准将、どうかお願いいたします。」
 あかねの意志を承諾したのか敵アーマーのパイロットはあかねを手に乗せ、自分のコクピットに入れようとした。
「乱馬はどうするの?もしよかったら私達と一緒に・・・」
 あかねの言葉を乱馬は遮って言った。
「悪いが俺はジュセン軍のパイロットだ。ハッポウ軍の捕虜になるつもりはねーよ。それに仲間ももうすぐ来るだろうしな。」
「そう、また・・・会えるかな?」
「ああ、この戦争が終わったらな・・・」
 乱馬が言い終えるとあかねは操縦席に入れられ、その場を離脱して行った。その直後、乱馬を迎えに良牙とムースの小型船がやって来た。


「ったく、無茶しやがって。あの照明弾の合図がなかったら諦めて地球に帰還する所だったぜ。」
 船内に入った乱馬に良牙は文句を言った。
「しかし無事でよかっただ。それにしても乱馬、おまえを助ける前に見たあのアーマーは一体何者じゃ?」
 ムースの質問に乱馬は深刻な顔で答えた。
「わからねぇ、ただわかっているのはあいつの機体は量産型とは違う高性能のアーマーだ。それといずれ戦わなくちゃいけねー相手だって事だな。」
「そいつ、強いのか?」
 乱馬の深刻な顔を見た良牙は文句を言うのを止めて乱馬に訊いた。
「ああ。あかねが言うには階級は准将だ。」
「「あかね?」」
 良牙とムースは初めて出てくる名に顔を見合わせて乱馬に尋ねた。乱馬はそれにはあまり答えず、ただ要点だけを話した。
「ふ〜ん、とりあえずその場を何とかする為に力を合わせたってことか。」
「なんじゃ、つまらんの〜。」
 期待外れだと言わんばかりにガクリと肩を落とす二人に、乱馬は不服そうに訊いた。
「な、なんなんだよおめーらは!」
 両隣りの良牙とムースを交互に見る乱馬を見て二人は乱馬を見て言った。
「いや、おまえが遂に女に興味を持つようになったのかなって思ってさ。」
「まったくじゃ、結局何もなかったとは・・・」
 溜め息をつく二人に乱馬は呆れて寝そべった。
「あれ、おまえおさげが変わったな。」
 三つ編みになったおさげを見て良牙は思わず口に出した。
「ああ、これか・・・・」
 乱馬は自分のおさげを見たまま嬉しそうに微笑んだ。その顔を良牙とムースは見てお互いに顔を見合わせたが、これは何かあったに違いないと判断した。
「さ〜て、あとは自動操縦に切り替えてさっさと寝るとすっか。」
 明日には地球に到着する船内で、三人は規則的な寝息をしながら眠りについた。



つづく




作者さまより

俗に言うロボットものですね。良く使われるパターンでしたが、主人公とヒロインが敵として出てくるようにしました。最初は短いですが、かなり長くする予定です。


 今度は装いも新たに、SF風味豊かなパラレル作品の登場です。
 どんな乱馬とあかねに出会えるか。それが、二次創作パラレル作品の醍醐味ですね。
 壮大な宇宙スケールの作品になることを楽しみに…。
(一之瀬けいこ)

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