◇ネリマールクエスト 第七章
武蔵さま作


−−−城内−−−

「さて、生まれてはじめてあかねの食事らしい食事を喰ってMPも回復したところで、いよいよ八宝斉を倒しに行くとするか!」
 一言余計だと言わんばかりに乱馬の腹部を一発殴るあかね。だがある事に気が付いた。
「ねえ、この九能っていう人どうしようか?」
 闘いでの傷の為いまだ眠り続ける九能。当分目を覚まさないとはいえ、このまま放置しておくわけにはいかない。
「しかたねーな。この城の邪気も失せた事だし、P助も呼ぶ事ができるだろ。こいつも色欲に目が眩んで爺に手を貸したけど実際に剣の才能は結構あるしな・・・ひとまずはトーフー大病院に運んでもらうとするか。」
「へぇ、結構優しい所あるじゃない。」
「バッカやろう。俺はいつも優しい男でぃ!」
 照れているのかあかねから目を逸らす乱馬。そんな優しさを知っている為あかねは黙って微笑んだ。
 九能をユニサスの背に乗せた乱馬は何やらメモを書き、九能の鎧に貼り付けた。
「よし、P助。こいつをトーフー大病院まで運んでおいてくれ。くれぐれも落とさねーようにな。」
 ユニサスは一声鳴くと翼を広げ海の上を飛んでいった。
「ねえ、あの人になにを貼ったの?」
 あかねの質問に乱馬は悪戯な笑みを浮かべて答えた。
「別にたいした事じゃねーけどな。ただ『治療がすんだらツバサの館に連れていってくれ』って書いておいたメモを貼っただけさ。」
 乱馬の言葉にあかねは驚いた。ツバサの館は普通罪を犯した者が反省する為に送られる刑務所のような場所である。だが実体はそんなものとはかけ離れている。
「ツバサの館っていったら、あの束縛された環境と男だけの生活のあまり女装するものがたくさん出てくるといわれているあの場所!?」
 ツバサの館に入れられたものはその出所した七割が女装癖をもって出てくるといわれている為、ある意味刑務所よりも恐ろしい場所である。
「まあな、それでまともに出てこれたら早乙女騎士団長の権限において部下に加えてもいいけどな。ま、コナツの館よりはいいだろ?」
 コナツの館、言わずともツバサの館よりも恐ろしい場所である。ツバサの館で反省しなかった者、または脱走を企てた者がいた場合にのみ送られる場所である。恐ろしいのはその出所した九割が心までもが女性になってしまうといわれている最大の場所である。
「たしかにコナツの館よりは良いと思うけど・・・ってまさかあんた!コナツの館出身・・・だから身も心も女に・・・」
 手で口を押さえ、驚いて乱馬の方を見るあかね。当の乱馬は本当に怒っている。
「あのなー!俺のは呪いだって言ってんだろ!」
 この2人、確実に当初の目的を忘れていた。


−−−数十分後−−−

「はっ!そうだ、こんな事してる場合じゃねぇ!早くあの爺を倒さねぇと!」
「そうだったわ。急いで行きましょう!」
 かなり休んだ為か2人の体力、気力は全て回復していた。
 階段を駆け上がるとただならぬ邪悪な妖気が漂っているのを感じた。2人がいつでも戦闘できるように構えているとどこからか声が聞こえてきた。
「がははは、待っておったぞ!というよりも何しておったのじゃ!九能を倒したのならばさっさと上がってこんか!」
 キレていた。大魔王八宝斉と呼ばれている威厳はどこにも感じられなかった。やがて明かりがつくとそこには小柄な老人が立っているのが見えた。
「うっそー!このお爺さんが八宝斉なの?」
 人々から邪悪な妖怪、大魔王などと呼ばれている為にあかねはもっと邪悪な存在を想像していたのだ。だがよくよく考えればそんな凄そうな人物が下着の要求をするはずがないと思い、一人で納得していた。
「さて、俺にかけた呪いを解く方法とさらってきた天道王国第三王女の場所を教えてもらおうじゃねーか!」
 マントを翻し八宝斉に近付いて言う乱馬。
「はて、なんのことじゃ?呪いやら王女とやらは?」
 八宝斉は目を丸く開いて首を傾げていた。この態度が乱馬を怒らせた。
「おもしれぇ!力ずくでも思い出させてやるぜ!」
 乱馬は剣に力を込めた。楽京斉と闘った時と同じぐらいの大きさの 巨大な刀身が現れる。すかさず攻撃に転じ、八宝斉に斬り掛かる。だが八宝斉はその小柄な体格を活かした素早い身のこなしで軽々と避けてしまう。
「ふむ、この太刀筋。御主、玄馬の息子の乱馬じゃな。」
 幸いあかねは詠唱中で八宝斉と乱馬の話は聞こえていない様子だったので乱馬も躊躇いなく八宝斉と会話した。
「ようやく思い出したか。わかったらさっさとこのふざけた体質、治しやがれ!」
 剣撃を繰り出しつつ言う乱馬。だが八宝斉は避けながらもまだわからないと言った様子だ。
「ふざけた体質?なんのことじゃ!?わしは玄馬の地位を利用して下着を集めておっただけじゃ。」
「この爺!もう勘弁ならねぇ。これでもくらえ!」
 風の剣で火中天津甘栗剣を繰り出す。しかしその攻撃でさえも八宝斉は易々と避けてしまった。
「乱馬、離れて!」
 あかねの詠唱が終わったようである。乱馬はすかさず横に跳び、柱で壁をつくった。
「サンシャインノヴァ!」
 光系最大呪文があかねによって発せられる。巨大な球体が城の上空から落とされる。城の半分は抉れるように吹き飛んでしまった。これにはさすがの八宝斉もひとたまりもないであろう。
「やったーー!」
 飛び跳ねて喜ぶあかね。だが乱馬はあと数センチメートルで自分も巻き添えを喰らっていた事を考えると青ざめてしまった。
「おまえなー、俺まで殺す気か!」
「いいじゃない、無事だったんだし。」
 確かに無事だったから良かったものの、もし無事でなかったら乱馬は今ここにはいないのである。サラリと言えるあかねはやはり凄いと思う。
『ガラガラッ』
 天井の瓦礫が動いたと同時に中から八宝斉が出てきた。
「まだまだ!これぐらいじゃわしは倒せんぞ。」
 なんと魔法を直撃しながらも八宝斉は倒れなかった。さすがは初代拳聖である。
「あの攻撃をくらって生きてやがったか。」
 乱馬自身、あの攻撃を受けて無事でいられる自信はない。敵ながら八宝斉の凄さを感心してしまった。
「さ〜て、今度はこちらの番じゃ。受けてみよ、我が神具『八宝大華輪』の威力を!」
 八宝斉が手を眼前に翳すと青白い光が集結し、具現化された。八宝斉はその具現化された物質を乱馬に投げつけた。
「なんだ?」
 乱馬に投げつけられたその物質は空中で爆発を起こした。直撃は免れたものの、爆風で吹き飛ばされる乱馬。なんとか受け身をとったが八宝斉の妖気の球が乱馬に向かって放たれる。妖気の球は魔術のようなものであり実体化されてはいない。その為、盾などで防ぐ事はできない。
「こんなもの!」
 乱馬は水の剣でその妖気の球を切断する。斬れないものを斬る剣だからこそできる芸当だ。
 ホッと一息ついたのも束の間、再び八宝大華輪が炸裂する。装備者の力によっていつでもどこでもどんな大きさでも花火が出せる、それが八宝大華輪の能力であった。
「くそっ!こうなったら正面突破あるのみ!」
 乱馬は炎の剣を出し、八宝斉に向かって突き進んだ。八宝大華輪が乱馬の目の前に投げられる。
「こんなもの!」
 反射的に八宝大華輪を切断する乱馬。しかし花火は火気厳禁である。気付いた時には既に遅し。爆発によってせっかく詰めた間合いもまた離されてしまった。
「こうなったら遠距離攻撃だ。あかね、頼んだぜ!」
 あかねの詠唱と同時に乱馬が地の剣を出す。
「くらえ!」
「アースクエイク!」
 乱馬とあかねの地系の合体技が炸裂する。その威力は自然に起こる地震を遥かに上回るほどの巨大な揺れであった。
もはや城は原形をとどめてはいなかった。海に囲まれた小さな孤島で瓦礫の上に立つ乱馬とあかね。八宝斉はまたもや瓦礫の下敷きになっていた。門番は危機を察して船でこっそり逃げていた。


「終わったか・・・」
「そうみたいね・・・」
 太陽の日が差し込むこの小さな孤島で乱馬とあかねは全てが終わった事を悟り、島から出ようとした時!
「がははは、まだまだじゃの〜。」
 八宝斉、またしても復活!しかも傷は一つもない。
「かつて武道の神様と謳われたこのわしを倒す事など不可能じゃ!」
「バカな!なんでまた復活できるんだ!?」
 乱馬は疑問に思ったがふと八宝斉の懐に目がいった。
「まさか!」
 一瞬にして八宝斉に近付き、懐から何かを盗んだ。
「これか!てめぇの力の源は!」
 懐からズルズルとでてきたのは下着であった。色欲の塊である八宝斉。こんなものを持ったからといって力が出てくるのはある意味凄いと言える。
「わ〜!返せ返せ、わしの宝じゃ!」
 泣きながら乱馬に訴える八宝斉。正直、情けない。
「どうせ盗んだもんだろ!」
「わしのじゃ、わしのじゃ!わしの命よりも大切なコレクションじゃ!」
 八宝斉の言葉に乱馬はなにやら思い付いた。
「ほ〜う、命よりも・・・ねぇ。」
 乱馬は下着を高く放り上げた。たくさんの結ばれた下着がゆっくりと落ちてくるのを確認すると乱馬は炎の剣を取り出し、それを振り下ろした。瞬間的に火がつき、そこを始点として燃え広がる下着。
「あーーー!!なんて事を!わしの・・・わしの命が〜〜!!」
 ガクリと項垂れて地面に突っ伏す八宝斉。乱馬はいい気味だとばかりに笑っていた。
 暫くすると、項垂れていた八宝斉から青白い妖気が発せられてきた。
「うぉのれ、乱馬!わしに対する非礼の数々、断じて許せるものではない!」
 発せられた妖気は次第に量を増し、それに包まれた八宝斉はみるみる巨大化していく。
「な、何〜!爺が巨大化しやがった。」
 乱馬は八宝斉の力を奪うつもりであった。しかし逆に龍の逆鱗に触れてしまったようだ。
 巨大化した八宝斉は乱馬に向かって妖気の球を撃ってくる。巨大化されただけあって球まで巨大である。
「このままじゃやられちまう。なにか良い方法は・・・」
 乱馬が焦って周りを見回しているとあかねが何かを見つけたらしく乱馬を呼んだ。
「ねえ、瓦礫の中から出てきたんだけど、これってもしかして召喚具じゃない?」
 あかねがもっている物は確かに召喚具の模様が刻まれていたが、ユニサスのように天界から呼び出す召喚具の銀色ではなく、禍々しい黒い色をした召喚具であった。
「この召喚具は危険だ!恐らく神獣と違って魔界から魔獣を呼び出す召喚具だ。召喚師にどんな影響を与えるかわかんねぇぞ。」
 乱馬の言う通り、魔界の召喚具を用いて魔獣に殺された召喚師もいるのだ。
「でも、このままじゃどうせ八宝斉にやられるのも時間の問題だわ!私、やってみる!」
 確かにこのまま召喚具を使わなければ八宝斉に倒されるであろう。しかし召喚具を使っても危険があるのだ。乱馬とあかねは一か八かの賭けに出た。残された柱の陰に隠れ、作戦を練った。
「俺が爺を引き付けるからその間に召喚してくれ。召喚具の模様からして牛のようだが、危なくなったらすぐに逃げるんだぞ!」
「わかった。乱馬も気をつけて!」
 乱馬は柱から離れ、八宝斉に自分の存在を気付かせた。しかし島といってもそんなに広くはない。威力の高い攻撃を受ければあかねにまで被害がいってしまう。確実に八宝斉に攻撃されない場所が必要だった。
 乱馬は極力あかねから離れた。するとそこには見るも華やかな色とりどりの花畑・・・・ではなく多色の下着畑があった。八宝斉が大陸中から盗んだもの、または貢がせた下着をコレクションとしていた事を乱馬は知っていた。だからこそどこかにその隠し場所があると思っていたのだ。幸いここはあかねからかなり離れていた。
「どうだ、ここじゃうかつに攻撃できまい!」
 たちまち乱馬の強きが戻り、八宝斉を見上げる。
「うぬぅ、なんと卑劣な!わしのコレクションを盾にするとは・・・見損なったぞ乱馬!」
「おめぇにそんな事言われる筋合いはねぇだろ!」
 両者はそのまま睨み合が続いた。共に動けない状態なので仕方がない。だが、乱馬としては時間稼ぎの為に都合が良かった。


一方あかねは・・・
「暗黒の世界より来たりし魔なるものよ。今我の前に姿を現し、その力を示せ!牛鶴鰻毛人(ニウホーマンマオレン)!」
 あかねの呼び出しに地が震え、黒い光が空を覆った。明るかった空はたちまち夜のようになり、無気味さを感じさせた。
 割れた地面からは巨大な魔物が現れた。体は牛なのに人間のように直立し、背には羽があり、尾は鰻であるというものであったが、体の大きさは間違いなく巨大化した八宝斉に匹敵する。
「あ、あなたを呼び出したのは私よ。だ、だから私の言う事を聞いてくれるわね?」
 多少恐がりながらも勇気を出して言うあかね。恐怖心を無くす為に敢えて強がっている事は明白である。
「グオオオ!」
 魔物はあかねの言う事を聞かず、なんとあかねに襲い掛かってきたのであった。
「きゃあーー!」
 必死で逃げ惑うあかね。全力疾走で乱馬のいる下着畑に行った。
 驚いたのは乱馬であった。ただでさえ八宝斉に苦戦しているのに新たに敵が増えたのである。
「おおっ!おまえはわしの召喚獣の『パンスト太郎』ではないか!」
 魔獣、もといパンスト太郎は八宝斉の召喚獣であった。もともと八宝斉の城にあった為、当たり前ではあるが、召喚師の命令には必ず従うものだと信じていた為、乱馬とあかねには油断があった。
「さ〜て、どうしてくれようか。のぅ、パンスト太郎。」
 巨大な妖怪達が乱馬とあかねを見下ろす。
「まさか召喚獣までもが敵になるとはな・・・」
 万策尽きた乱馬達。八宝斉が乱馬に攻撃を加えようとした瞬間。パンスト太郎が八宝斉を攻撃し始めた。
「な、何をするんじゃ、パンスト太郎!」
 突然の攻撃に驚く八宝斉。
「まさか、私の命令を聞くようになったんじゃ・・・」
 あかねが近付いてパンスト太郎に命令したがパンスト太郎はあかねにまで攻撃しようとした。かろうじて乱馬に助けられるあかね。 あかねは不思議でしょうがないといった顔である。
「一体どうなってやがんだ。」
 乱馬が疑問に思う中、パンスト太郎は八宝斉に攻撃していた。
「やめるんじゃパンスト太郎!」
 八宝斉が叫ぶ度、パンスト太郎の攻撃が増す事に疑問を感じた乱馬はあかねに尋ねた。
「まさか・・・あかね、あの召喚獣の本当の名前はなんていうんだ?」
「えっ?確か・・・牛鶴鰻毛人だったような・・・」
 あかねの答えを聞き、乱馬は確信した。
「やっぱりな。あの召喚獣、爺のつけた名前が気に入らねぇみたいだ。」
 乱馬は何かを思い付いたらしく、パンスト太郎に呼び掛けた。
「お〜い、おめぇその名前が気にくわねぇんだろ?俺達の言う事聞いて八宝斉と闘ってくれんなら召喚師のあかねがおめぇの望む名前をつけてやるぜ!」
 たちまちパンスト太郎の目の色が変わり、八宝斉に攻撃を仕掛けた。どうやらこれは承諾の意味ととっていいと判断した乱馬は攻撃に加勢した。
「うぉのれー!わしを裏切りおって、一体パンスト太郎のどこがいけないんじゃ〜!」
 普通の人ならば絶対に気に入らない名前であるが可哀想な事に究極のエロ妖怪八宝斉にとってはこの名が物凄い素晴らしい名だと信じて疑わないのである。
 八宝斉に攻撃を仕掛けるパンスト太郎。そこに乱馬の攻撃とあかねの魔法が加わったのだからひとたまりもない。
「こうなれば、究極の必殺奥義!八宝大華輪スペシャル!」
 巨大化した八宝斉から今までとは比べ物にならないほどの八宝大華輪が作り出された。
「まずい!あかね早く結界を・・・」
 乱馬の指示にすぐに従いバリアーを張るあかね。その1秒後に大爆発がおきた。後少し反応が遅れていたら危険な状態であった。  しかし、バリアー内に入れなかったパンスト太郎は黒焦げになって倒れていた。
「なんて威力だ!下着畑が吹き飛んじまったぜ!」
 乱馬が八宝斉を見上げると、八宝斉は大粒の涙を流していた。どうやら自分の攻撃で大切な下着を吹き飛ばした事に気がついたのである。
「わしの命が・・・おのれら!よくもわしの大切なコレクションを・・・」
「けっ、てめーがやったんだろうが!」
 乱馬の言う事は正論であるがもはや八宝斉の耳には届かなかった。
 何発も八宝大華輪を繰り出した。あかねはその度防御魔法で防いだが、何回か防いだ時、あかねの杖が吹き飛ばされてしまった。
「しまった!」
 慌てて杖を取りに行ったが杖を取った時、既に遅かった。
「遅い!これで終わりじゃー!」
 巨大な八宝大華輪が乱馬達に襲い掛かる。今から詠唱したのでは間に合わない。あかねは目を瞑った。



つづく




作者さまより

ツバサの館、コナツの館。これがもし本当に現世にあったなら犯罪もぐっと減ると思う。
パンスト太郎も出したはいいけどあっけなさすぎでしたね。しかししつこいようですが私のインスピレー
ションの問題であるので・・・・・
次回、最終話ッス。それにしても『牛鶴鰻毛人』漢字変換に大変でした。

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