◇ネリマールクエスト 第六章
武蔵さま作


 ハーブの湖から数キロ離れた所に一つの村があった。ジョケツ族は男を毛嫌いしているというので乱馬は女になり、あかねと一緒に村に入った。
 その途端、数十人の女達が2人を取り囲んだ。
「おまえ達、何しに来た!?」
 1人の女が言った。周りにはその女を守るように数人警護に付いている。その感じから察するにどうやらこの女がこの村のリーダー的存在である事がわかった。
「別に争いに来たんじゃない。話し合いをしに来たんだ。」
 らんまがその女に言うとその女は暫く腕組みをして考えていたが、承諾したのであろうか、らんまとあかねを連れてこさせた。
「話とはなんだ?」
「ハーブの湖の近くに住む村人達と争うのをやめてもらいたいの。」
 あかねはなるべく言葉にトゲがないように言った。しかし突然女は怒りだした。
「ふざけるな!強い者が弱い者を支配する。これのどこが悪い!私達ももう人が増えすぎた。この狭い土地では生きて行くのに苦労する。私達にはあの土地が必要ね!」
 女は感情的になって言う。その目からは涙が見え、村人の事を考えているのは一目瞭然であった。
「たしかにおめぇの言う事もわかる。だがやり方が間違ってるぜ。そうやって闘って土地を奪えればおめー達はそれでいいかもしれねぇ。だが!あの村に住む人達はどうなるか考えた事はあるのか!?」
「らんま・・・」
 常に国民の気持ちを考える一国の王子であるからこそらんまにはその気持ちが痛い程よくわかる。だがそれを力で奪うという事は絶対に間違っているという事をらんまは示したかったのだ。
 女は暫くらんまの話を聞き黙っていたがやがて立ち上がりらんまに言った。
「確かにおまえの言う事は間違っていないね。だけど 私には他にどうしようもない。こうなったら私と勝負するね。もし私が負けたらおまえの言う事を聞いてやるね。だが、私が勝ったらおまえ、私のする事に口を出さない。よいか?」
「ああ。どうやらその他に方法はねーみたいだからな。」
 らんまにとってジョケツ族は未知なる相手である。相手の力量を知らずに闘うという事は非常に危険なのであるがらんまにとっても他に方法はなかった。
「らんま、大丈夫?」
 あかねもやはり心配なようだ。だがらんまが負ければ村人も危険に晒される。さらには青龍との約束を果たせず青龍玉をもらえない。となると八宝斉を倒せずに世界は八宝斉に支配されてしまう。つまりはどうしても勝たなければならない闘いなのだ。
「あかね、ちょっとこれ持っててくれよ。」
 らんまはそう言って剣と盾をあかねに渡し、鎧を脱ぎ捨てた。
「ちょ、ちょっと!まさか素手で勝負するつもり?」
「あったりめーだろ。女相手に剣を使うわけにもいかねぇし、それに俺を誰だと思ってるんだ?一応格闘家最高称号の『拳聖』だぞ。」
 確かにらんまは拳聖の称号を持ってはいるものの、実際にあかねはらんまが剣を使わずに闘う所を見た事がない。だからこそらんまの実力がどのくらいのものなのか見当が付かなかった。


 試合は村の中心の闘技場で行われる事になった。闘技場といっても二本の柱で丸太を宙に固定し、その上で闘うといった形式であった。
「この上から落ちたら即負けね。あとはおまえと私、どちらが強いかという事ね!」
 らんまと族長の女、双方が丸太の上に乗り互いに構えた。
「それでは始め!」
 ジョケツ族の審判の号令と共に族長がらんまに向かって行く。連続攻撃を繰り出すがらんまはその攻撃を全て見切って避ける。
「ハーー!」
 族長の右足の上段蹴りを軽く左手で受け、即座に左足を後ろから回転させて相手の足を払う。宙に浮く族長。だが丸太の上に倒立するように受け身を取り、その反動でらんまに蹴りを浴びせる。しかしらんまは既に空中に飛び、族長の背後にまわっていた。
「しまった!」
 慌てて振り向くが既に遅く、らんまの闘気を纏った双掌により腹部に衝撃を受けた族長は場外となった。


「まずは村へ行って話し合え。そんでもってもう村は襲わないと誓ってもらおう。」
 勝者のいう事は聞くことを条件にした闘い。ジョケツ族全員はハーブの湖付近の村へ行き、話し合いをした。
 話し合いの結果、驚いた事に村長と族長が相思相愛の仲になってしまった。そしてハーブの湖を中心とし、ジョケツ族の村と一つになることになった。結果としてよい方向になった為、らんまとあかねは安心して青龍の元へ行った。
「さあ、約束通り青龍玉をもらうぜ。ついでに俺と勝負して契約もしてもらう。」
「よかろう。うぬの力、我に見せてみよ!」
 らんまはお湯をかぶり、剣を構えた。あかねも援護に応じるべく既に詠唱をしていた。
 青龍が口をあけるとそこから大量の水が一直線に飛んでくる。あかねの魔法を遥かに上まわった攻撃である。その点に関してはあかねも理解しており、すぐに攻撃魔法から防御術に切り替えた。
「乱馬っ!持久戦になればこっちが負けるわ!急いで決着つけてちょうだい!」
 あかねは白虎の時と同じように乱馬に補助呪文をかけ、乱馬の身体能力を上げた。
「いくぜっ!」
 乱馬が青龍に向かってまっすぐ突撃していく。青龍はその軌道上に水の攻撃を仕掛けた。地面を伝って水が乱馬を襲う。
「いまだ!地の剣!」
 白虎の指輪が光り、黒い刀身の巨大な剣が出たと同時に乱馬はその剣を地に突き付ける。その途端、大地は割れ、水はその割れ目に吸収された。
「お次はこいつだ!風の剣!」
 今度は玄武の指輪が光り、羽のような形の剣が出る。乱馬はすぐさま青龍の頭上に飛び上がる。
 青龍の攻撃が再びくる。まともに喰らっては確実に大ダメージである。風の剣で真空波を生じ、その水を分散させた乱馬はそのまま青龍に攻撃を仕掛けた。朱雀の指輪が光り、火の剣が出た。風の剣で分散させた水を薙ぎ払うとたちまちその水は蒸発してしまった。水蒸気で空気中に霧が発生し青龍の目から自分の姿を隠す。
 その瞬間を見計らったようにあかねの魔法が炸裂した。
「サンダーボルト!」
 水は電気をよく通す為、青龍にとっては雷系呪文は弱点であった。
「これで終わりだ!」
 先ほどの状態で青龍の頭上にいた乱馬は剣を振り下ろす。青龍の額を捕らえた乱馬の剣。青龍はうめき声をあげその場に倒れた。あかねはすぐさま青龍に回復呪文を唱えた。
「ふむ。うぬ等の力、とくと拝見させてもらった。特に乱馬。うぬは剣の使い方を熟知しておる。うぬとならば我も契約いたそう。」
 早速青龍と契約する為に乱馬は神殿に向かった。
 青龍との契約を終えると乱馬の右手の小指には青い指輪がされていた。と思うと緑、白、赤、青の指輪は光を放ち、一つの腕輪になった。
「一体どうなってんだ?指輪が腕輪になっちまったぞ。」
 乱馬が腕輪を見ていると腕輪の中心にはめられている宝玉から青龍の姿が映し出された。
「うぬは我ら四聖獣全てと契約を交わした。四つの指輪は一つの腕輪となり、うぬの力になるであろう。」
 青龍はそれだけ言うとすぐに姿を消してしまった。
 4つのアイテムは揃い、乱馬とあかねはネリマール大陸に戻る事にした。


−−−リョーガの街−−−

 乱馬とあかねが旅をする前とは違い、街は賑やかと言うよりもむしろ大騒ぎであった。
「なにかあったのかしら?」
 乱馬とあかねは不思議に思い、近くの人に話を聞いた。
「あの〜、なにかあったんですか?」
 話し掛けた人は少し人の善さそうなおばさんであった。
「なんだい、あんた達知らないのかい?なんでも天道王国の第三王女が八宝斉にさらわれたらしいのよ。それを助ける為に早乙女王国の王子が出ていったまま戻ってこないんですって。両国もこの事を秘密にしていたのだけれどついさっき両王国から正式な発表があったのよ。」
 この事を聞いて、乱馬とあかねは固まった。まさか自分達がいない事がこんなにも国民を巻き込んでしまったとは思わなかったのである。
「あの爺、遂に下着だけじゃ飽き足らず、人間にまで手ぇ出しやがった。はやく王女を助けねぇと大変な事になるぜ!」
 乱馬は拳を握ってあかねに言った。しかしあかねは乱馬の誤解を解く為に必死になった。
 よもやその王女が目の前にいるとは乱馬はおろか、国民の誰1人として気付きはしなかった。
「き、きっと何かの間違いよ、王女様がさらわれたなんて。第一八宝斉のいつもの要求は国民の下着100枚でしょ?いくら何でも人間を、それもいきなり王女様をさらうなんてことは・・・それより私は早乙女国の王子が心配だわ。戻ってこない以前に連絡が取れないとなると危険な状態になってるかもしれない。急いで助けなきゃ!」
 あかねは杖をしっかりと握り乱馬に言った。今度は乱馬があかねの誤解を解こうと必死である。
「だ、大丈夫だって。俺の国の王子はそんなにやわじゃねぇって。とにかく、八宝斉の城に行くしかなさそうだ。」
 乱馬とあかねはまだ騒ぎの続く街を飛び出し、ユニサスに乗って宙に飛び上がった。
「でもどうやって八宝斉の城に侵入するの?」
「まずは俺が女になっておまえと一緒に八宝斉の手伝いに来たって言えばあのスケベ爺の事だから門番にも怪しまれずに城に近付ける。後はこっそりそれぞれの方角にアイテムを置いて結界を解けば爺に攻撃ができる。」
 城への侵入方法は乱馬の案に決まったが、問題は城へどう行くかである。邪気の為ユニサスで移動は出来ないし、城の周りは海に囲まれている。かといって好んで八宝斉の城へ行く船などはない。八方塞がりである。
「問題はどうやって海を渡るかだな。・・・・もしかしたら水の剣が使えるかもしれねぇな。」
 乱馬は意識を集中させ、剣を構えた。腕輪が青く光り、液体の刀身ができた。
 その水の剣を振り下ろすと、たちまち海は割れ、八宝斉の城へと続く道が開かれた。
「すっご〜い。」
「やっぱりな。どうやらこの剣は剣では斬れない物を斬ることができるみてぇだ。」
 乱馬は自分でも感心したが、眼前に見える八宝斉の城へ向かってあかねと歩き出した。


「待て!貴様らは一体何者だ!」
 城の前には門番がいて2人を問いただした。
「えっと〜、私達は八宝斉様のお手伝いをしに来ました。いわゆるメイド希望です〜・」
 水をかぶったらんまは門番にありったけのブリッ子を演じた。あかねもさすがに引いてしまうほどの演技である。
「ふむ、それとは別にしてこの海を割ったのは貴様らか?」
「いいえ。何故だか今日に限ってこの道ができてたんです。」
 門番の質問を取り繕うあかね。ここでバレてしまっては闘うしかないのだ。闘わないのですむならば極力それは避けたいのが本心である。
 暫く門番は黙っていた。その沈黙があかねを不安がらせたが、門番から許可が降り、らんまとあかねは城に近付いていった。
「よし、そろそろいいだろう。」
 あかねにお湯をもらい男に戻る乱馬。早速作戦に取りかかる。
「俺は東と南に青龍玉と朱雀翼を置きに行く。おまえは北と西に玄武甲と白虎牙を置きに行け。間違えんじゃねぇぞ!」
 乱馬の指示に従い各自別れて行動する乱馬とあかね。2人は数分後、門の入り口で待ち合わせた。どうやら無事に結界は解けたらしい。
「問題はここからだ。結界が解けた事に爺もすぐ気が付くだろう。おそらく警備を固める。俺達は常に共に行動して八宝斉を倒すんだ。いいな!?」
「わかった。」
 いよいよ最終決戦である。2人の息が合わなければ確実に助からないのが現況である。
「いくぞ!」
 乱馬とあかねは城内の広間に行った。さほど広い城ではないので迷うという事はない。だが逆にいえば逃げ道もないのである。
2人が歩いていくと広間には大きな闘技場が置いてあった。
「ふっふっふ。待ちわびていたぞ。」
 その中心に誰かが立っていた。
「爺か!?」
 影であまり見えないがあきらかに敵である事がわかる。
『ピカッ!』
 突然天井のライトが付き、闘技場の人物がはっきりとわかった。しかしその姿は八宝斉ではなく、また、乱馬とあかねにも面識がない人であった。
「そこの男、貴様一体何者だ?」
 男が剣で乱馬を指し、名を尋ねた。それに対し乱馬は自分の顔に右手の親指を向けて言った。
「俺の名は・・・」
「人に名を問う時は自分から名乗るのが礼儀だな!よし、僕から名乗ろう!!僕の名は九能帯刀。人呼んで、ネリマール大陸の蒼い雷だ。」
 乱馬の言葉を遮った九能と名乗るその男は、鎧の中からバラを取り出し、あかねに投げた。
「ここは男と男の勝負の世界。あなたのような可憐な女性には相応しくない。暫し下がっていてくれ。この男を倒した暁には君を僕の側室として迎える事を約束しよう。」
 乱馬とあかねは口をポカンと開けて呆然としていた。こちらが何も言わないのに勝手に出てきて勝手に喋り出しているのだから無理はない。
「おっ、俺の名は乱馬だ。え〜っと一応『剣煌』と『拳聖』の称号を持っていて・・・」
「『剣煌』だとーー!!ふっ、僕をバカにしてもらっては困る。剣煌の称号を貴様みたいな若い男に与えられるわけがない!」
人指し指と中指を額に当てて目を瞑る九能。またもや自分の世界に陶酔しているようだ。
「まあ、信じる信じないはそっちの勝手だけどよ、俺達は八宝斉の爺に用があんだ。さっさと通してくんねぇか?」
こいつを相手にしていたらキリがないと判断した乱馬は九能に呆れて言った。
「ふっ、それはできんな。あの爺は世界征服をした暁には僕に交際相手を好きなだけくれるという約束をしているのでな。」
 さすがに乱馬とあかねの呆れも絶頂に達した。
「はぁ〜、とにかくおめぇを倒せば先に進んでいいんだな?」
「そういうことだ。」
 リング中央に剣を構える乱馬と九能。九能の目は先ほどとは別人であった。
「へぇ、まともなツラもできんじゃねぇか。どうして剣煌選抜大会にでなかったんだ?」
 九能の強さを目で判断した乱馬は九能に聞いた。
「ふっ、あのような大会では僕が優勝するに決まっている。それにあの爺と手を組んだからにはそのような称号など必要はないわ!」
 九能が剣を振りかぶって乱馬に攻撃する。乱馬はそれを見切って避けた・・・はずであった。
 避けたと思った九能の剣先は乱馬が後ろに下がった瞬間乱馬を追うように伸びたのである。辛うじて盾で防いだが乱馬は驚きを隠せなかった。
「剣が・・・伸びやがった!」
「ふっふっふ、我が神剣、『満願丸』の切れ味はどうだ?その盾が神具でなかったら貴様の鎧など貫いていたぞ。」
 なんと九能の剣までもが神具であったのだ。装備者の思ったように形を変える満願丸、これは乱馬にとっては厄介であった。ある程度の武器ならばその武器の特徴を見切って乱馬は攻撃できるのだが、満願丸はありとあらゆる武器に変換するのだ。
「くそっ!厄介なもん持ちやがって。こうなったら風の剣だ!」
 乱馬の腕輪が緑色に光り刀身が形を変える。
「くらえ!火中天津甘栗剣!」
 玄武の甲羅を貫いた乱馬の猛烈な突き。九能は一瞬焦ったが満願丸を盾状にしてその攻撃をすべて防いだ。
「なにっ!盾にもなれるのか!?」
 攻撃を防がれた乱馬はすぐさま腕輪に集中した。腕輪が白く光ると刀身の黒い巨大な大剣になった。
「この地の剣ならどうだ!」
 乱馬が地面に剣を突き立てる。その瞬間にリングに亀裂が入り地割れがおきる。
 砂煙りによって九能の姿は確認できない。だがあの一撃は防ぐ事はできない。乱馬は勝利を確信した。
「へっ、奴の満願丸もやっぱり俺の飛竜には勝てなかったようだな。」
 乱馬があかねの所へ行こうとすると剣撃が乱馬の頭上から襲ってきた。それに気付いた乱馬は身を捻ったが避けきれずに腕に擦ってしまった。
 手甲との隙間にある生身の場所であった為、乱馬の腕からは血が流れ出した。
「バカな!地の剣を確かに放ったはずだ。これで無事なはずが・・・」
 乱馬が剣撃の繰り出された方向を見ると九能は満願丸を頭上で振り回して飛んでいた。どうやら満願丸の形を変え、刀身をプロペラ状にして浮いたのである。そして瞬時に形を変え、乱馬に攻撃を仕掛けた後、再び形を変えてゆっくりと降下してきたのである。
「どうした?もう終わりか?剣煌もたいした事はないな。」
 見下したような態度で乱馬を見る九能。あかねは魔法を唱えて援護しようとした。
「止めろ、あかね!」
 突然乱馬が叫んだ事に驚き、あかねは詠唱を唱える事ができなかった。
「どうしてよ!あんた、負けてるじゃない!」
 あかねは乱馬に反発する。血を流しながらも闘いを止めない乱馬を見てこのままでは乱馬が危ないと思ったのだが援護を乱馬に止められてしまったのだから仕方がない。
「これは一対一の男同士の闘いだ。出しゃばったマネすんじゃねぇよ。」
「なによ!心配してるんじゃないの!それがそんなに迷惑なの!?」
 あかねは今にも泣き出しそうな顔で乱馬に言った。
「いいから!黙って俺を信じろ!こんなやつに梃子摺(てこず)ってるようじゃ八宝斉の爺なんか倒せやしねぇ。とにかくおめぇはそこで俺を信じてろ!いいな。」
 言葉に重みがあった乱馬の言葉だが最後に乱馬があかねに笑いかけるのを見るとあかねはどこか安心できた。
「わかった。乱馬を信じる!」
 あかねは杖を地面におき、両手を組み合わせて乱馬の闘いを見守った。
「別れの挨拶はすんだようだな。それでは僕が貴様を冥土に送ってやろう!」
 九能が近付いた瞬間、乱馬の腕輪画赤く光り、炎の刀身が剣から出た。今までのような燃えているだけの火の剣とは違い、明らかに大きく燃え広がっている。まさに炎の剣と呼ぶに相応しい剣である。
「これで、どうだーーー!!」
 乱馬が剣を振り下ろす。炎が九能を捉え、一気に燃え広がる。九能はすぐさま満願丸を回転させ防ごうとしたのだが乱馬に近付く為間合いを詰めた為反応が遅れてしまった。例え間合いが離れていたとしてもこれだけの巨大な炎を受けきる事はできなかったであろう。
 九能が倒れたのを確認するとあかねは詠唱し、水系の魔法を力を弱めて九能に撃った。九能を包んでいた炎が消え、倒れている九能を助けた。あかねの治療により命はとりとめたものの、暫くは目を覚ましそうになかった。もし覚ましたとしても闘える状態ではないのであかねは安心して乱馬の治療にあたった。
「ちっ、あんな奴助けやがって。」
 回復呪文をかけてくれているあかねに乱馬は不貞腐れながら言った。
「何言ってるのよ。乱馬だって殺すつもりはなかったんでしょ。私達の目的はあくまで八宝斉にあって、無益な殺生は好まない。でしょ?」
 乱馬の治療も終わり笑いかけるあかね。
「まあ、そうだな。」
 その笑顔に顔を赤くしながらも乱馬は答えた。
「さて、恐らくこの上の階に爺はいるな。」
 闘技場の奥へは上の階に通じる階段があった。その階段の長さから見て城の頂上へと続いているとみられた。
「いよいよ八宝斉と闘うのね・・・・その前にちょっと休憩しようか。」
 緊張感が一気に解けた。乱馬はあかねの突然の提案にずっこけていた。よりにも敵の城内で休憩をとろうと言い出すあかねに乱馬は苦笑いしかできなかった。
 しかし、あかねの休息の本当の理由は乱馬を休ませる事であった。九能との闘いで傷は完治する事ができた。しかし精神力、すなわちMPの方はかなり減っていた。MPの回復はアイテム、もしくは休息以外はないのだ。
「ねえねえ、折角だから何か食べようか。」
 あかねは休息と同時に食べ物で少しでも乱馬の精神力を回復させようとしたのだ。しかし休息はまだしも食べ物まで食べようとするあかねはある意味度胸があると言ってもいいぐらいだ。
 事実、乱馬も疲れが溜まっている上、腹もすいてきたためあかねの提案には賛成した。
「さてと。じゃあ、何か作るわね。」
 詠唱して別空間から食材やら調理器具を取り出すあかね。それを見た乱馬は立ち上がろうとして言った。
「さて、時間もない事だし、早く八宝斉の爺を倒しに行くぜ!」
 あかねの料理が一種のトラウマと化した乱馬は逃げ出したい一心で何とか逃げ出そうとした。
 しかしそれを見たあかねは乱馬に魔法をかけて動きを止める。
「ダメよ、まだ動いちゃ。まっててね、すぐにできるから。そうしたらMPなんてすぐに回復しちゃうって!」
 いつもは乱馬にとっては暗黒の世界さえも光で満たしてしまうようなあかねの笑顔も、この時ばかりは地獄へと誘う死神の嘲笑に見えた。
 グツグツとなにかを作ってはいるが、動けない乱馬からは何かを作っているあかねの背中しか見えない。
 しかもその姿は乱馬にとって怪し気な儀式を行っている魔女のように見えた。
「できたーー!!」
 あかねの料理がついにできてしまった。逃げ出したいけど逃げ出せない。乱馬は涙が溢れそうになりながらどうしようもない事を悟り、遂には諦めた。
「動けないだろうから私が食べさせてあげるね。」
 動けないのはあかねが魔法をかけたからなのだが、あかねは乱馬の口へ料理を運んだ。首から上は動く為、
 乱馬は首を必死で横に振っていたが、あかねに料理を無理矢理食べさせられやむを得ず料理を口にした。
「ムグムグ・・・」
 観念して料理を食べる乱馬。しかし不思議な事に今までの不味さは感じられなかった。
「ふっ、普通だ。むしろ・・・うまい・・」
 あかねにかけられた呪文の抗力が消え始め、乱馬はやっと動けるようになった。
「でしょ?カレーっていってジュセン大陸の南から伝わった料理なんですって。世界が一度滅ぶ前から伝わっている料理なのよ。コロンのお婆さんから教えてもらったの。」
 乱馬はあかねの話しをあまり聞いていなかった。それというのもあかねの料理に驚きと感動を味わっていたからである。
 敵の陣地での一時の休息。この時だけは乱馬もあかねも八宝斉の事は忘れていた。



つづく




作者さまより

ジョケツ族・・・説明するまでもないですね。族長と闘った丸太の上、本編と同じ造りです。
村長と族長が相思相愛になった・・・・殺されそうになっておきながらそんなバカな話あるか!と言われるかも知れませんが以前にも書いた通り、その場でのインスピレーションによって物語の構成がなされている為、私が悪いのではなく、そういった方向に持って行く私のインスピレーションが悪いのです。
本編でもシャンプーは乱馬の命を狙っていながらも正体がわかった時の変わり身の早さをそのまま重ねてみたと考えてくれれば幸いです。
契約の指輪を一つの腕輪に変えたのは実際四つも指輪をしている乱馬の手が不格好に見えたからです。
九能・・・出しちゃいました。実は彼はあかねと繋がりがあります。後でわかる事ですが・・・
あかねの唯一まともな料理、カレーです。最後ぐらいまともにしてやらねばと思いました。

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