◇ネリマールクエスト 第五章
武蔵さま作


 玄武甲を手に入れ、玄武と契約をした乱馬達は次なる地、ピコレットの洞窟に向かった。
「お次は『白虎牙』か。やっぱりこの辺にも村とかあんのかな?」
 ムースの谷から北西へ行き辿り着いたピコレットの洞窟。しかしそこには神殿はあるものの、白虎の姿はどこにもなかった。2人は情報収集の為、村を捜したところ、案の定そこの近くには村があった。
「おっ、やっぱりあった。あそこでちょっと聞いてみようぜ!」
 乱馬が颯爽と村に入ろうとするのをあかねは制止した。
「ちょっと待ってよ。玄武甲の時みたいにまた村人が逃げ出したらどうすんのよ!ここは慎重に行くべきだわ。」
 あかねの意見ももっともだと思った乱馬はアイテムの事は切り出さずに村に入った。
 村の中は何やら活気づいていた。なにか祭りのようなものが開催されるらしい。司会者が台に上ってなにか叫んでいた。
「さーさー、他に参加希望者はいないかい?優勝者には村長自ら白虎様を呼び出してもらえるぞ。白虎様に会えればその人は今年一年御利益があるよ。」
 白虎という言葉に2人は過剰に反応した。四聖獣はどうやらその近辺の村の人に呼び出してもらえなければ会えないらしい。玄武は自分の土地を守る為に自ら姿を現していたのだ。
「おいっ、なんかわかんねーけどこれに参加して優勝すれば白虎に会えるってことか?」
「そうみたいね。でも何の勝負なのかしら?」
 あかねが垂れ幕を見るとそこには大きく『ピコレット村名物 料理王決定戦』と書かれていた。つまりは料理勝負である。それを見た瞬間、乱馬は青ざめた。
「ダメだ!白虎には永久に会えない。」
 膝をガクッと落とし頭を抱える乱馬を見てあかねは少しムッとした。
「何よ!私じゃ勝てないって言うの?」
「当たり前じゃねぇか!なにが『今回は大丈夫』だ!オコの実のときと何にも変わってねぇほど不味いじゃねーか。おまえの作る料理じゃ審査員を殺すだけだ!」
 情け容赦ない乱馬の言葉。しかし実際に乱馬は村に来る前、あかねの料理を食べて酷い目に遭ってきたのだ。その凄まじい味に苦しんだ事は一度や二度どころではない。そう、言わば何度もあかねの料理を食べた乱馬だからこそ断言できるのだ。
「そこまで言うならいいわよ!私、参加してくる。そして優勝して私の料理の腕を証明してあげるわ!」
 あかねは負けず嫌いという事を乱馬は忘れていた。止めるつもりがかえってあかねを参加させてしまう事になった。


「では料理勝負の簡単な説明を致します。試合は全部で5試合、1試合につき料理を1品出し、審査員に評価してもらいます。5試合それを行い総合で評価が高かった者が優勝です。なお5試合のうちで審査員全員が納得のいくものを出した場合、その場で優勝となります。つまりは1試合目で勝負がつくこともあり得ると言う事です。それではクッキングスタート!」
 参加者の大半はやはり女である。どうやら村以外からもこのイベントに参加する者は多い為、村中は人々でいっぱいであった。あかねもその中に入り、一生懸命料理を作っていた。
審査員は全部で5人。4人が料理評論家でそのうち1人は村長である。この5人を納得させる料理が出来ない限りあかねに勝ち目はなかった。


「クッキングタイム終了!それでは審査員の方々、それぞれの料理人の所へ行って下さい。
 料理人達は自分の料理をテーブルに置き、審査員はそれを少しずつ食べて紙に何かを書き込んでいた。
 暫くしてあかねの料理に審査員が辿り着いた。その料理の見た目の悪さで乱馬だけでなく審査員も少し戸惑っていた。しかし審査を公平に行う為にはあかねの料理を食べなければならない。青ざめた審査員に対し、あかねは自身たっぷりに笑って料理を薦めていた。
 審査員があかねの料理を一口食べた瞬間、顔は驚きの表情に変わった。
「おおっ、この味は・・・・・!!」
 あかねの料理を飲み込んだ審査員は全員旗を揚げた。
「勝者、あかね!」
 司会者があかねの名を言った。なんと第1試合で審査員の納得のいく料理を作ってしまったようだ。驚きと歓声が飛び交う中、あかねは表彰台に上がった。そんなあかねを目を丸くし、口をポカンとあけた乱馬が見ていた。あまりの出来事に乱馬自身、信じる事が出来なかったのである。
 あかねはそのまま村長に連れられ、洞窟に向かったので乱馬は正気を取り戻し急いで後に続いた。
 乱馬とあかねが去った後、審査員達はひそひそと何か話をしていた。
「いやぁ、あんな不味い物、私は初めて食べましたよ。」
「私もですよ。あんな物を5試合も食べていたら命がいくつあっても足りませんよ。さっさと優勝させて良かったですね。」


−−−ジュセン大陸西方・ピコレットの洞窟−−−

「ここじゃ。暫しそこで待っておれ。」
 村長は杖を振り翳し、なにやら呪文を唱え始めた。すると洞窟の中から唸り声が聞こえ、白い虎が現れた。
「これはこれは白虎様。この者が今回の優勝者でございます。」
 村長があかねを紹介する。どうやら白虎は村の人達とは付き合いが良いようだ。
「ふむ、では汝の願いは何だ?豊作か?それとも安産か?」
「私はあなたの持つ『白虎牙』を取りに来ました。私に譲ってもらえませんか?」
 あかねは恐れる様子もなしに白虎に言った。それを見て慌てて乱馬が出てきてあかねに言った。
「バカ!率直すぎるぞ。もうちょっと後先考えて・・・」
「何よ、乱馬だって玄武に同じような事言ったじゃない。」
 いつの間にか白虎を他所に喧嘩を始める2人。白虎はそれを制するように言った。
「なるほど、玄武の言っていたのは汝達か。清い魂を感じる。よかろう、白虎牙は汝達に渡そう。だが契約となると私と闘ってもらうぞ。」
 白虎は先ほどの穏やかな目とは違い、明らかに殺気を持つほど恐ろしく感じる。村長は逃げ出してしまった。
「おもしれぇ。おめぇの力、見せてもらうぜ!」
 乱馬は剣を構えて闘気を高めた。すると玄武の指輪が光り今までとは形が違う刀身が現れた。
「いくぜっ!」
 乱馬が地を蹴り、剣を振った瞬間、ものすごい速さで剣撃が繰り出された。風の剣の効果である。
「す、すげぇ!」
 乱馬自身も初めて味わう剣の感覚に驚いていた。
「玄武の風の力か。面白い、ならば私の地の力を受けてみよ!」
 白虎が地を叩くと地面が割れ、地震が起きた。
「これは、アースクエイクだわ。乱馬、跳んで!」
 乱馬はすぐにあかねを抱え宙に跳ぶ。あかねは抱えられた状態で詠唱し白虎に攻撃する。
「トルネードサイクロン!」
竜巻きが白虎を襲う。しかしその竜巻きの大きさは今までの比ではない。玄武との闘いで技がパワーアップされたのである。
「これでどうだ!」
 乱馬が白虎の首元を捕らえる。剣を寸止めした状態で乱馬は止まった。
「ふふふ、私の負けだ。私は四聖獣の中では一番攻撃力が高いのだが防御力はない。さすがに汝達と闘っては無事ではすむまい。確か乱馬といったな。私も汝が気に入った。契約を交わそう。」
 玄武の時と同様、乱馬は白虎と契約を交わし、中指に白い指輪の地の指輪を手に入れた。
「さて、汝達と行動する前に私は優勝者の料理を頂きたいのだが、あかねとやら。汝の料理を食べさせてはくれぬか。」
 白虎は毎年優勝者の料理を食べてきた。しかし今回に限ってはなぜあかねが優勝したのか知る由もなく、肝心の村長は逃げ出してしまっている為、この数分後死にかける事は言うまでもなかった。


「ったく、たいした奴だぜ。四聖獣すら死にかけるような料理を作りやがって。」
 ユニサスに乗りながら乱馬は呟いた。あかねはその後ろで拗ねている。
「でも、ちゃんと優勝したじゃない。」
 あかねは自分の料理が認められない事がよほど悔しいのか自分の料理の味については決して譲らない。
「まあ、とにかく残すは東と南だけだ。どっちに行く?」
「そうね、じゃあサフランの山に向かおうか。その方がここからだと近いし。」
 進路が決定しユニサスは地上から空へ舞い上がった。普通に山を上るのであれば膨大な時間を費やすのだがユニサスがいればものの数十分で着いてしまう。


−−−ジュセン大陸南方・サフランの山−−−

「それにしてもここの山は暑いわね。」
 あかねの言う通り本来ならば山の頂上は気温が低いのであるがここの山は朱雀の影響なのであろうかものすごく暑かった。
「おや、お客さんかい?」
 突然頭上から声がした。2人が見上げると羽の生えた人間がこちらを見下ろしていた。
「なっ、何で人間に羽が生えて・・・」
 乱馬は驚きの表情を隠せなかった。
「何でって言われても俺達の種族は皆羽を生やしているぞ。」
 その少年の話を聞くと彼らは鳥人と呼ばれる種族で鳥の習性があるのだ。
 乱馬とあかねは朱雀の事を訪ねると気前よく案内してくれた。少年の後をついて行くと山の頂上に案内された。
「おお、そなたたちか。待っておったぞ。」
 そこには巨大な赤い鳥がいた。その羽は炎に包まれていて近付くだけで火傷しそうなほどの熱であった。
「早速本題に入るが俺達は『朱雀翼』を求めて・・・」
 乱馬の言葉を朱雀は遮るように言った。
「その前に一つ頼まれ事をしてもらえぬか?」
 朱雀の顔は少し困ったようだった。
「実はここ数日、日照り続きで困っておる。民達は水不足やらで作物は採れないやら喉の乾きは酷いなどという有り様でな。玄武や白虎に聞いたところあかねという紋章術師がこちらに向かっておると言っておったのだ。すまぬが民達に水を与えてやってはくれまいか?」
 朱雀は申し訳なさそうに言った。どうやら四聖獣の中で一番穏やかな性格らしい。
 あかねは快く承諾し、水源に向かって詠唱した。
「アクアスプレッド!」
 水の塊が水源に降り注ぐ。たちまち水源は水で溢れかえり、山に住む人々は歓喜の声をあげた。
「誠になんとお礼を言ったら良いか。実を言うと私がいると水は干上がるし民達は暑さで苦しむやらで困っていたのだ。かといってこの地を離れるわけにもいかんし適当な者と契約するわけにもいかん。そなたたちが来てくれて助かった。私は闘いたくないから早く契約してくれ!」
 乱馬とあかねは拍子抜けした。確かにそんな理由があろうとは思わなかったがまさか朱雀の方から契約を頼まれるとは思いもしなかったのだ。
 朱雀との契約も終え、乱馬達は最後の場所であるハーブの湖に向かった。


「やれやれ、まさかこうも簡単に朱雀と契約できるとは思わなかったぜ。」
「ホント、でも役に立ててよかったわ。私達も助かるし一石二鳥じゃない。」
 乱馬はまだ信じられないといった様子で右手の薬指にはめられた赤い指輪を見ていた。
「こりゃ案外青龍も楽に契約できるかもな。」
「だといいわね。」
 乱馬達が話しているうちに目的のハーブの湖が見えてきた。
「この近辺に村があるだろうからそこに向かうか。」
 乱馬とあかねは青龍を呼び出す為に村へ入った。


「何よこれ!!」
 あかねは思わず叫んだ。その村は酷く荒んでおり、怪我をした人々でいっぱいだった。
「助けてくれーー!!」
「痛えよーーー!」
 あらゆる苦痛の叫びが村中に広がっている。あかねは思わず目を覆った。
「一体何があったんだ。」
 乱馬は一人の男に駆け寄って聞いた。
「ジョケツ族のやつらにやられた。俺はまだ死にたくねぇ、助けてくれ!」
 あかねはその男に法術をかけた。すると男の傷は癒え、男は元気になった。
「ありがてー、おーい皆!この人が治してくれるぞ!」
 男は叫びながら怪我人達に声をかけた。
「あかね、まさかここにいる全員を治すつもりか?」
 乱馬が心配するのも無理はない。村とはいえそこにいる怪我人の数は数百人に及ぶのだ。
「仕方ないじゃない!このままにはできないわ!」
 あかねは凛とした態度で答え、1人1人順番に治療を施していった。
 100人を超えた頃、あかねに疲れが見え始めた。
(ダメだわ。もうMPが持たない。)
 あかねが限界を感じた時、乱馬が近くに来てあかねの右手を取った。
「乱馬?」
 あかねが不思議に思っていると乱馬は顔を赤らめて言った。
「俺のMPをやるよ。」
 あかねはすぐに理解した。乱馬にマジックドレインをかければメンタルポイントはマジックパワーに変換され、あかねのMPになるのだ。
「だけど、そうしたら乱馬の方が倒れちゃうよ。」
 MPの消失は死を意味する。少なくとも乱馬はあかねよりもMPの値が少ないのだ。
「いいから!俺だって役に立ちてーんだ。」
「乱馬・・・わかったわ。ありがとう。」
「礼には及ばねぇぜ。」
 乱馬の意志が本気だという事がわかったあかねは右手から乱馬のMPを受け取り、左手で怪我人の治療にあたった。
 重傷者には回復力の高い『キュア』を、軽傷者には『ヒール』と極力MPの消費を押さえてあかねは全ての人に治療が行き渡るように頑張った。
 全ての人の治療を終えた頃、乱馬とあかねは気力を使い果たしその場に倒れてしまった。


 翌朝、乱馬とあかねが目を覚ますとそこは家の中だった。
「ここは・・・?」
 2人がキョロキョロと周りを見回していると村人達が駆け付けた。
「おおっ、目を覚ましたのかい?いやー、あんた達のおかげで昨日は本当に助かった。村の連中も感謝してるよ。」
 昨夜乱馬が最初に声をかけた男が村人を代表して礼を言った。まだ若いがどうやらこの男が村長らしい。
 周りの人々もまるで神でも祈るように感謝の念を込めて2人に手を合わせていた。
「そんなことよりあんた達、こんな村に何しに来たんだい?俺達を助けに来たようには思えなかったが・・・」
 乱馬とあかねは立ち上がるとこれまでの経緯、そして青龍について話をした。
「そうか、青龍様なら湖で禊をしていれば現れてくれるはずだ。」
 村長の説明を真剣に聞いていた乱馬であるが実はよくわかっていなかった。こっそりとあかねに耳打ちして聞いていた。
「『禊』ってなんだ?」
「バカね。身を浄める事よ。簡単に言えば水浴びみたいなものよ。」
 小さな声で話す2人を他所に村人は話を続けた。
「だが、青龍様は清らかな心を持つものにしか会わないと言われておる。俺達の村でも巫女以外はだれも会った事がないんだ。」
 村長の話を聞いた乱馬は横目であかねを見た。
「『清らかな心を持つもの』ね〜、不器用でガサツな誰かさんの前には決して現れないのかもな。」
 その言葉にムッとしたあかねは自分も乱馬に皮肉を言った。
「あ〜ら、少なくともどこかの変態オカマさんよりは会う権利があると思うけど。」
 この言い争いの後にはお馴染みの喧嘩腰である。
「だ〜れが変態オカマさんだって!?」
「そっちこそ!不器用のうえガサツで悪かったわね!」
 2人の周りに異様な空気が発生する。村人達もさすがにこれには身の震えを感じ、さっさと家から出てってしまった。
「ま、まあまあ落ち着いて2人とも。とにかく一度湖に行ってみてはどうだね。俺はそのお嬢さんなら大丈夫だと思うけど。」
 2人の険悪な雰囲気に負けないように村長は頑張って2人の仲を取り持つかのようにお膳立てした。
 いつまでもこのままという訳にはいかないので乱馬とあかねは湖に向かった。


−−−ジュセン大陸東方・ハーブの湖−−−

「いい!?絶対に覗かないでよね!」
「誰が覗くか!」
 そう言いつつも乱馬は胸の動悸が治まらなかった。
 あかねは法衣を脱ぎ、湖の中に入っていった。
「はぁ〜、気持ちいい〜。」
 あかねはすっかり青龍の事を忘れ、水浴びを楽しんでいた。暫くして、水面が光りだした。あかねはようやく本来の目的を思い出し、急いで法衣を着て青龍の出現を待った。
 光は徐々に広がって行き、水面全てが光に包まれた時、水面に青龍が現れた。
「うぬ等の事は他の四聖獣から聞いている。だが我とて易々とうぬ等を認める事はできぬ。そこでだ、聞いた通り我が祀られているこの近くの村はジョケツ族と敵対している。もしうぬ達が双方の仲違いを止める事ができたならば我の持つ青龍玉を授けよう。だが、契約は我と闘い、我の認めし者ならばうぬと契約を行おう。」
今までの四聖獣とどこか違い、圧倒的な力を感じた乱馬とあかね。しかし、とりあえずはアイテムを得る
 為にジョケツ族の村に行く事になった。
「あいつ、かなり強いな。」
 乱馬は呟いた。
「ええ、ものすごいMPを感じたわ。今までの四聖獣の中で一番魔術に長けているわ。」
実際、四聖獣はそれぞれ長けている物が違う。玄武は防御力、白虎は攻撃力、朱雀は機動力、そして青龍は精神力である。魔術を連続で使い、MPを消費してもまだまだ余力があるということが一番厄介である。
 乱馬はアイテムの事よりもどうやって青龍に勝つかを考えていた。



つづく



作者さまより

実は私、こういった話を作る時には起承転結の『起』と『結』しか考えてません。それまでの話の進み具合はその時に感じたインスピレーションのみです。
だからこそあまり考えていなかった四聖獣との闘いは短くなってしまいました。
実際に長ったらしくクドクド書くつもりはなかったので勘弁して下さい。
アイテムはそれぞれ四聖獣の特徴の部分です。
尚、四聖獣はこんなんじゃないと、よく知っている人が疑問を感じようがどうしようが、当方は一切責任を負いません。

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