◇ネリマールクエスト 第四章
武蔵さま作


「さて、そろそろジュセン大陸だ。まずは婆さんの言ってたシャンプーの村にでも向かうか。」
「そうね、薬草や必要な物も準備しなくちゃ。」
 ユニサスに乗った乱馬とあかねはジュセン大陸上空に近付いていた。

−−−ジュセン大陸・シャンプーの村−−−

「ここか、婆さんの故郷は。婆さんに紹介状を書いてもらったから今日は宿にタダで泊まれるぜ。」
「それじゃ、今のうちに道具を揃えなきゃ。」
乱馬とあかねは店を捜しに出かけた。村はそんなに小さくはなく、活気溢れるその様子は町に近い様子だった。
「ここはネリマール大陸よりも物価が安いな。薬草一つで50ガルドだってよ。」
「本当、あまりにも安いから私なんか食材をたくさん買っておいたから。これでいつでも旅の途中休めるね。」
「え゛・・・!?」
 乱馬の血の気が引いてゆく。顔面蒼白の如く今にも逃げ出したいという感情がヒシヒシと伝わってくるほどだ。
「おまえ、料理今度はちゃんと作れるんだろうな?」
 不安げに聞く乱馬。以前のオコの実を使った料理ではあかねを除く全員が毒を帯びたぐらいである。むしろ敵に有効な料理、称するなら毒料理である。
「大丈夫よ。前回は使った事のない食材だったからたまたま失敗しちゃっただけよ。今度は大丈夫、安心して食べられるわよ。」
 にっこり笑うあかね。その笑顔に一瞬気を取られる乱馬。その為料理に関しては深く聞かなかった。
「あっ!宝石商だって。ちょっと見ていってもいいかな?」
 紋章術に関してはスペルマスターというすごい称号を持つあかねでもやはり女の子である。綺麗な物には興味があるのであろう。
「わぁ、すご〜い!これみんなおじさんが作ったんですか?」
 あかねが目を輝かせながら商人に聞いた。商人は無精髭を生やしていてとても宝石関係とは合いそうもないがなかなか良い人であった。
「俺の作ったのもあるけどほとんどが錬金術師の造ったものさ。どうだい、欲しいんなら隣の彼氏に買ってもらったら。」
 商人の言葉に乱馬とあかねは赤面する。
「別にこいつとは彼氏ってわけじゃ・・・」
 否定するあかね。いつもなら喧嘩腰になる乱馬が今日に限って何も言わない。
「買って・・・やろうか?」
「えっ!?」
 突然口を開く乱馬。顔はあかねとは逆の方向を向いていてあかねからは顔が見えないが赤面しているのはバレバレであった。
「どれがいいんだよ。」
 照れ隠しのせいかぶっきらぼうな言葉遣いで言う乱馬。あかねは照れながらも一つの赤い宝石のペンダントを指差した。
「それじゃ、これください。」
 相変わらずあかねとは目を合わせない乱馬。よほど自分の行動が恥ずかしいのであろう。
「いいの、乱馬?」
 あかねが尋ねる。嬉しいのではあるが少し気が引けるのであった。
「べべ、別におまえの為ってわけじゃなくて、ただ金が余ってるから。だから、その・・・」
 言い訳は下手なようだ。だがあかねにはその心中を察している為、乱馬の気持ちがわかっていた。
「ありがとう、乱馬!」
 ちらっとあかねの顔を見た乱馬だがあかねの笑顔を見てまた目を逸らしてしまった。
「毎度、1200ガルドになるよ。それとサービスでこのペンダントとペアのもう一つのやつもあげるよ。」
 商人はそう言ってあかねの選んだ赤い宝石のペンダントと一緒に全く同じ模様の青い宝石のペンダントを乱馬に渡した。
「赤い宝石の方はルビーが埋め込まれている。紋章術の力を上げてくれるはずだ。青い宝石はサファイアだ。格闘家の攻撃力を上げる物さ。ま、商品の説明はこんなもんだ。お幸せに!」
 気前の良い宝石商を後にして乱馬とあかねは宿屋に向かった。
「ね、着けてみようか?」
 あかねは乱馬に宝石の事を言った。
「あ、ああ。」
 先ほどの事をまだ気にしているのか乱馬はあかねに対してぎこちない態度で返答した。
「どう?似合うかな?」
 乱馬に自分のペンダントを着けた姿を見せるあかね。
(かわいい・・・かも)
 一瞬そんな考えが乱馬に巡ったがすぐに己の考えを首を振って掻き消した。
「ま、まあまあだな。」
 本音が言えず口に出したのは捻くれた言動であった。
「なによ!素直に言えば良いのに。男だったらはっきり言いなさいよ!」
「・・・へっ!かわいくねぇ奴がそんなアクセサリーつけたって馬子にも衣裳ってやつだな。」
 売り言葉に買い言葉。乱馬は思ってもみない事を口に出した。さすがのあかねもこれには激怒した。
「乱馬のバカッ!!!!!!」
『バッチーーーン!!』
 村中に響く頬を叩く音。乱馬は吹っ飛ばされ、戻ってくるのに少し時間がかかった。


−−−宿屋−−−

 険悪なムードが続いている2人。だが、部屋に入れば互いに顔を合わせなくてすむということで早めに宿の手配をしようと考えていたのだ。
「確かにこれはコロン様の紹介状。わかりました。お部屋に御案内致します。」
  乱馬とあかねは微妙な距離をおいて案内人の後をついて行った。
「こちらの部屋でございます。」
 案内されたのは一つの部屋であった。
「あの、もしかして部屋は一つですか?」
 恐る恐るきくあかね。それに対して案内人は淡々と答えた。
「はい、あいにく本日は満員でして。コロン様のお知り合いという訳でかろうじて空きのあったこの部屋に泊まって頂く事になっております。」
 さらに中に入って2人は驚いた。大きな装飾されたベッドには枕が二つ置いてあった。まさしく新婚さん用の部屋である。
「ちょ、ちょっとこの部屋・・・!!」
 焦って言葉がうまく出ない乱馬。それに対しても案内人は平然として行った。
「コロン様の紹介状によりますとあなた達は夫婦ということになっておりますが・・・?」
 どうやらコロンが一芝居うったらしい。
「冗談じゃないわ!だれがこんな奴と・・・!」
 いつもなら赤面してしまうあかねだが今回は乱馬に対する怒りが勝っているのか怒りながら否定した。
「しかし、ここ以外は部屋がございません。」
 部屋がないのではここ意外に利用できる場所はない。乱馬とあかねは仕方なくこの部屋で一晩過ごす事になった。と言えども2人は気まずい状態であった。リョーガの街の宿では同じ部屋ではあったがベッドは隔離されていていたため、今回のような事は初めてだ。しかしコロンの紹介状がなければ満員の為、野宿もやむを得なかっただろう。コロンがこのような事態を見越して夫婦という関係をでっち上げたのか、またはおもしろいからかはわからないがとにかく、2人にとっては有り難く思わねばならなかった。
「俺、そこのソファーで寝るからおめーがそっちのベッド使えよ。」
「あ、ありがと・・・」
 喧嘩しているせいなのか、または単に恥ずかしいからなのか、2人はぎこちない雰囲気だった。
「さっきは・・・悪かったな。」
 乱馬が口を開く。どうやら先ほどの喧嘩の一件の事を切り出して謝っているらしい。
「本当は、似合ってねぇなんて・・・・嘘だからな。」
 普段本音を言わない乱馬が珍しく自分の意見を言ってくる事に驚いたあかねだが逆にそれが嬉しかった。
「いいわよ、別に。私だって乱馬の事引っ叩いちゃったから・・・これでおあいこよ。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 再び沈黙。
「さて、明日は早いし、そろそろ寝るか!」
 沈黙に耐えかねた乱馬が言った。あかねもそれに同意する。
「それじゃ、おやすみ。乱馬。」
「ああ。おやすみ。」
 あかねはベッドに入り、乱馬は鎧を脱いでマントに包まってソファーの上に寝た。


−−−次の日の朝−−−

「さて、まずはどこに向かうか?」
「そうね、じゃあ最初は北のムースの谷に向かわない?確かお婆さんの話によるとそれぞれ4つのアイテムはそれぞれの能力と属性を持っていて、『玄武甲』は風属性だって。」
「ああ、そういやそんな事言ってたな。よし、じゃあまずは南に向かうか。あかね、P助を呼んでくれ。」
 P助はPちゃんと呼ぶのが嫌で乱馬がつけたユニサスのあだ名である。
 あかねの召喚によってユニサスが現れる。
「今回は空を飛んで行くより地上から行った方がいいな。知らない土地での飛行は目立つからな。その分こいつはユニコーンの特性も持っているから結構速いぜ。」
 乱馬とあかねはユニサスに乗って北に向かった。空を飛ぶのとは違って振動が大きく、さらには普通の馬の数十倍の速さの為、振り落とされないように必死であった。しかし、その速さ故にものの数時間でムースの谷に着く事が出来た。


−−−ジュセン大陸北方・ムースの谷−−−

「ここがムースの谷か。」
「お婆さんの話によるとこの近くに小さな村があるんだって。そこで話を聞いてみない?」
 あかねの言った通り、谷から数百メートルの所に小さいながらも家がたくさん並んでいた。
「あの〜、お尋ねしたいんですが・・・」
 あかねが1人の老人に話しかけた。
「なんじゃ?」
「『玄武甲』についてなにか御存じないですか?」
 あかねが玄武甲について尋ねた時、老人だけでなく、その場にいた人たちが驚愕の声を上げ、一目散に家の中に入ってしまった。
「一体、どうなってやがんだこの村は・・・」
 静かになった村で乱馬が周りを見回していると、幼い少年が1人、こちらに向かってきた。
「お兄ちゃん達、玄武甲を手に入れにきたの?」
 この少年だけは他の者と違って隠れたりはしなかった。
「そうだけど、君、何か知っているの?」
 なるべく驚かせないように優しく聞くあかね。乱馬は子供にこういうことはできないのであかねが代わりに聞く事になったのだ。
「あのね、おかあさんが誰にも言っちゃダメだって言ったんだけどね、谷底の玄武様と闘って勝てば玄武甲をもらえるらしいよ。」
「負けたら、どうなるの?」
 あかねがそこまで聞いた途端、少年は黙ってしまった。どうやら村人が恐れていたのは玄武甲を手に入れようとした今までの人たちの経緯だろう。
「負けた時の事なんて考えてられるか!いくぞ、あかね!」
 乱馬とあかねは谷底へ向かって行った。


「頼むぜ、P助!」
 普通の人ならば、この谷を下りるだけでも危険が伴う。道具も重装備でなければならない。だがユニサスのいる乱馬達はほんの僅かな時間で谷底へ下りる事ができた。
「なんか、薄気味悪い所ね。」
 あかねの言う通り、その場所は谷底の為、光はうっすらとしか差し込まず、所々風が吹き付けていた。
「ここか。」
 乱馬が止まった所には神殿らしきものがあった。しかし、そのまわりには冒険者と思われる者達の白骨化した遺体が無数にあった。
「きゃーーー!」
 あかねが悲鳴をあげる。あかねは王女として育てられてきたので王国から出た事すらない。そんなあかねが初めて見る人骨を見て悲鳴をあげるのは無理もない。
「貴様ら、何をしにこの地へ来た?」
 低く、そして大きな声が谷底に響いた。威圧感のある声だ。そして足音が聞こえたかと思うと、神殿に突如、巨大な魔物が現れた。亀の甲を持ってはいるが亀ではない。明らかに別の生き物である。
「おめぇが玄武か。」
 乱馬は動じず、面と向かって玄武に言った。
「いかにも。貴様らの目的は何だ。」
「おめぇのもつ『玄武甲』が必要だ。だから取りに来た。」
 乱馬は例え相手がどんなものであれ、怯む事はなかった。
「強大な力を感じたものだからもしやとは思ったが・・・やはり貴様らも愚かな人間共と変わらぬ。」
 玄武は口を開き唸り声を上げた。その瞬間、口から竜巻きが発生し、乱馬とあかねを襲った。
「あぶねぇ!」
 乱馬は叫ぶと同時にあかねを抱えて竜巻きを避けた。
「口で言ってもわかんねーみたいだな。あかね、全力で行くぞ!」
 あかねが詠唱している間に乱馬は剣を振りかぶり攻撃を仕掛ける。しかし玄武の甲羅は乱馬の剣撃をもいとも簡単に防いでしまった。
「愚か者め!貴様の攻撃など我が甲の前には無に等しいわ!」
 玄武が先ほどとは比べ物にならないくらいの巨大な竜巻きを吐き出した。さすがにこれは乱馬も避けられるものではない。
「トルネードサイクロン!」
 あかねの詠唱が終え、風属性の魔法が玄武の攻撃にぶつかり相殺される。
「このままじゃキリがねぇ。あかね、俺に補助呪文をかけて後は防御呪文で身を守ってろ!」
 あかねは言われた通りに補助呪文をかけ、自分の周りに結界を張った。
あかねに補助呪文により攻撃力、素早さ、防御力が上がった乱馬は玄武に向かってまたもや剣撃を繰り出
した。
「無駄だと言う事がまだわからんか!」
やはり攻撃を受付けない玄武。
「なら、これならどうかな!?」
乱馬は跳躍をし、凄まじい程の速さで玄武の甲の一点を突いた。
「俺が前世で使ってた技の応用、火中天津甘栗拳もとい『火中天津甘栗剣』だ!」
 滴り落ちる水でも長年かければ石に穴をあけるように、乱馬の剣撃が常に玄武の一点を突いた為、ついに玄武の甲羅にヒビが入った。
「これで、どうだーーーー!」
 渾身の一撃を繰り出した瞬間、玄武の甲羅に穴があいた。
「今だ!あかね!」
 以心伝心と言うべきか、あかねはすでに詠唱を終えいつでも攻撃できる状態であった。
「ファイアーストーム!」
 火の渦が玄武の破損した甲羅の一点に襲い掛かる。
「グオオオオオッ!」
 唸り声を上げその場に倒れる玄武。乱馬とあかねは少しずつ歩み寄った。
「さあ、玄武甲を渡してもらおうか。」
「くっ、悪しき者に利用されるのなら我が身が滅びた方がまだ良い。さあ、とどめを刺せ!」
 敗れながらも誇り高き四聖獣の1人として死を選ぶ玄武。しかし乱馬とあかねは玄武が誤解している事に気が付いた。
「『悪しき者』って俺達は八宝斉を倒す為に玄武甲が必要なんだぜ?おめー勘違いしてるぞ。」
「何!?私利私欲の為ではないと言うのか!すまぬ、どうやら我の早とちりであった。」
「いえ、いいんです。そういう人達から守っていたのはわかります。とにかく傷を見せて下さい。」
 あかねは玄武に近寄ると治療呪文と回復呪文をかけ玄武の傷を塞いだ。
「主は魔術と法術が使えるのか?」
 さすがの四聖獣もあかねの能力には驚いていた。しかしすぐに本題に戻った。
「これが玄武甲だ。」
 玄武が差し出した物。それはとても小さく直系やく3センチ程の六角形の物だった。
「玄武甲ってこんなに小せぇのか?」
 乱馬が驚くのも当然であるが、玄武は笑みを浮かべて答えた。
「それぐらいの大きさでも十分な力はある。さて、勘違いをしてしまった詫びと言ってはなんだが。貴殿の名はなんと申す。」
 玄武は乱馬を指差し尋ねた。それに対し乱馬は真直ぐ玄武を見据えて言った。
「乱馬だ。」
「乱馬か。我は主が気に入った。我と契約を行おうではないか。」
 玄武の言葉に乱馬は首を傾げた。四聖獣の存在すら知らない乱馬にとって契約なんてものは全く知らないのであった。
「契約?なんだそれ?」
 そんな乱馬を制するようにあかねが口をはさんだ。
「あんた、何にも知らないのね。契約は魔術には欠かせない物なのよ。私達紋章術師は四精霊と呼ばれる四大元素の精霊と仮契約を行いその力を出す事ができるの。四精霊と違って四聖獣は世界に1人だけ、それも心技体それぞれの条件が揃った選ばれた物としか本契約を行わないのよ。」
 あかねは自慢げに話す。もっとも後半はコロンから聞いた話なのだが。
「つまり俺が選ばれたと。まあ、俺って完璧な人間だからな!」
(ちょっとナルシストで口が悪いけどね。)
 心の声は口には出さず思うあかね。しかし現に玄武が契約を行うと言った手前上乱馬は間違いなく選ばれた者なのだ。
「では剣を我の前に翳し、神殿に書いてある文字を唱えよ。」
 結界の中に入ると乱馬は言われた通り剣を翳し呪文を唱えた。
「北方に在りし風を司りし四聖獣の玄武。その力、我が名に於いて従え。我が名は乱馬!」
 言い終えた瞬間、目の前の玄武の姿は消え、乱馬の右手の人指し指に緑色の指輪があらわれた。
『指輪の力を解き放ち、念ずれば風の剣が使えるであろう。四聖獣全てと契約を交わせば間違いなく、貴殿は世界最強の剣士になるだろう。』
玄武の声が指輪から聞こえた。
「じゃ、次の場所に向かうとするか。」
 乱馬とあかねは次なる聖獣に会う為また旅するのであった。



つづく




作者さまより

四聖獣、四神など色々呼び方はありますが、これらは日本の方位の守護神と呼ばれている物です。
当然の如く見た事はありませんので姿は想像、というよりも亀と鳥と虎と龍って事はわかってるので書きました。
とりあえず基本的な自然界の四大元素をそれぞれ属性として当てはめました。


四聖獣とは玄武(亀・北))、朱雀(鳥・南)、白虎(虎・西)、青龍(龍・東)です。
最近再調査された「キトラ古墳」の壁面にも鮮やかに描かれているそうです。
(はみ出し、一之瀬けいこ)


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