◇お互いの想い   ムースの場合
武蔵さま作


−−−猫飯店−−−

「シャンプー!おらとデートするだ〜・」
いつものようにおらはシャンプーにデートの申し込みをするだ。
「ムース!仕事さぼって何をやっているか!」
シャンプーがおらに罵声を浴びせる。しかしおらはわかっておる。こうやって怒っているのは照れているからじゃ!きっと仕事が終わったらシャンプーから声をかけてくるだ・
「ムース。」
来ただ!やっぱりシャンプーはおらの事が・・・
「ムース、私乱馬の所へ行くね。留守番よろしくある。」
・・・なぜじゃ!?なぜシャンプーはおらより乱馬を選ぶだ?おらの気持ちをわかってくれたのではないのか?
「こらっ!何をしておるムース!」
突然背後から嗄れた声が・・・しかし何も見えん。眼鏡をかけたおらの目の前には・・・
「猿の干物!」
ドカ!バキ!
「誰が猿の干物じゃ!」
むぅ、コロンであったか。しかしその顔は誰が見ても妖怪じゃ。
「何の用じゃ?」
おらが聞くとコロンは封筒をおらに渡してきた。まったく、これを渡すだけなのに何故こんなに殴られなくてはならんのじゃ!まあいい。これを読んだら早くシャンプーを追っかけるだ。しかしおらに手紙をだすとは、一体誰からじゃ?
「・・・母ちゃん・・・」
その手紙はおらの故郷、中国の母ちゃんからきていただ。
『ムース、元気にやっているだか?ここのところ連絡が来なくなって心配していただよ。はやくシャンプーを嫁にもらって母ちゃんを安心させておくれ。』
母ちゃん・・・おらは決めただ!一刻も早くシャンプーを嫁にもらってはやく母ちゃんを安心させてやるだ!
「おらはどうすればシャンプーに好いてもらえるだ?」
おらは焦っただ。シャンプーと結婚する為ならおらは努力を惜しまないだ。コロンに聞いてみたがやはり答えはいつもと同じじゃった。
「女傑族の掟は絶対じゃ。それにお主は昔シャンプーに負けたではないか。幼き時とはいえ掟は掟。従わねばなるまい。それにシャンプーは婿殿と結ばれた方が幸せじゃて。ほっほっほ!」
「ならばおらが乱馬よりも強ければシャンプーはおらの嫁になってくれるんじゃな!」
おらの決意は固いだ!早速乱馬の所へ行って決着を着けてくるだ!


−−−天道家−−−

「乱馬!私の料理食べるね・」
「だ〜〜っ!しつこいぞシャンプー!」
あれはシャンプーと乱馬の声!おのれ、早乙女乱馬!天道あかねという許嫁がありながらシャンプーを誘惑するとは、何という姑息さ!やはりシャンプーの目の前で乱馬の息の根を止めてやるだ!
「早乙女乱馬!おらと勝負するだ!」
おらは勢いよく天道家に乗り込んだ。そして乱馬の胸ぐらを掴んだだ。しかしおらは驚いて手を離してしまっただ。おらの目の前には巨大な体のパンダが・・・
「早乙女乱馬!少し見ないうちにどうやら熊猫溺泉に落ちたようじゃな。シャンプーを誘惑した罰じゃ!」
おらが高笑いをしながら話しておると後ろから声がした。
「それは俺の親父だ!ムース、俺はこっちだ。」
なんと!乱馬が2人?なるほど、おらを騙そうとしたわけか。まあそんなことはどうでもいいだ。
「勝負じゃ、乱馬!おらが勝ったらシャンプーの事は諦めるだ。」
決まっただ!早速学校のグラウンドに決闘場所を決めて乱馬と勝負するだ!
「場所は風林館高校のグラウンド。時間は正午じゃ!」
おらは格好良く服を翻して猫飯店に戻った。闘いの準備をしなければならないからじゃ。


勝負までは時間があるからおらは道をぶらぶらしていただ。するとそこにシャンプーがいただ。なんという運命の巡りあわせ、おらとシャンプーはやはり運命の赤い糸で結ばれているんじゃ〜。
「シャ〜ンプ〜〜。」
「どういうつもりか?ムース。」
駆け寄ったおらに対してシャンプーは問いかけてきただ。
「どういうつもりも、おらは乱馬を倒してシャンプーと結ばれるだ!」
おらのこの決意は決して変わらないだ。
「おまえ、いつも乱馬に負けてるね。今回も酷い目にあうに決まってるね。それにしても何故急に決闘する気になたのか?」
・・・・言えぬ、前も母ちゃんからの手紙が来た時、おらはシャンプーをかけて乱馬と決闘することになっただ。それで負けた時はおとなしく中国へ帰ることになっておったんじゃが・・・確かあの時はシャンプーは気兼ねなくおらを見送ろうとしていた。今回はそうであってはならんのじゃ!
「・・・訳は言えぬ。じゃがおらが勝ったらシャンプーはおらの嫁になってくれるだか?」
「乱馬に勝つ、これありえないね。もし勝ったらムースと付き合ってやってもいいね。」
交渉成立じゃ!あとはおらが乱馬に勝てばシャンプーはおらの・・・
「よーし!おらは絶対に負けないだ!シャンプー、おらと乱馬の勝負、しっかり見ておるのだぞ!」
「そのかわり、ムースが負けたら私の事諦めるよろし。」
ふっふっふ、今日のおらは一味違うだ!
「わかっただ。万が一おらが負けるようなら潔く、中国へ帰るだ。」


シャンプーとの約束を果たし、おらは決闘に向けて作戦を考える事にしただ。以前は乱馬が女じゃったからおらが少し有利じゃった。しかし今回はそうはいかんだ。そのあとの闘いはたしかシャンプーの作った武器のせいで酷い目に合っただ。しかしこうして考えるとおらはいつでも乱馬に負けておるのう。今まで暗器使いとして腕を磨いてきたというにいつも負けっぱなしじゃった。ふーむ。もしかするとおらは暗器に頼り過ぎていたのかもしれん。乱馬にはいつも卑怯と罵られておった。よし、今回の決闘はおらも体一つで勝負するだ。以前みたいに暗器は体の一部とは言わん!そうすればシャンプーも見直してくれるはずじゃ。
よーし、それでは作戦を練って乱馬と勝負するだ!


−−−風林館高校−−−

ここで全てが決まるだ。負ければ中国へ帰る事に・・・いーや、闘う前からこんな事を考えていてはいかん。おらは絶対に負けんのじゃ!
おらが決意を固めた時、乱馬が現れただ。いつの間にか周りにはたくさんの観客がおった。全く、いつの間に決闘の事を嗅ぎ付けたのじゃ?
「全く、勝手に決めやがって。俺は決闘するとは言ってないぞ!」
この期に及んでまだそんなことを言っておるのか。おらは本気だというのに・・・しかし乱馬をやる気にさせる方法など幾らでもあるわ!
「ふっ、臆したか!早乙女乱馬!おらが怖くて仕方がないというのならこの勝負、おらの不戦勝ということでよいぞ。」
「ぬわにぃ〜〜!そこまで言うなら決闘でも何でもやってやろうじゃねえか!」
ふっふっふ、やはり単純じゃ!こんな手に引っ掛かりおって。まあこれでおらとの決着は避けられなくなっただ。
「それでは完全ノックアウト制無制限デスマッチ、はじめーー!」
天道あかねの父親の掛け声と共に、おらたちの勝負は始まっただ。
「どうしたムース、今日はやけに本気じゃねぇか。得意の暗器は使わねえのか?」
やはりおらが暗器を使うと思っておるようじゃ。だがそうはいかないだ。今日のおらは違うという事を思い知らせてやるだ。


「火中天津甘栗拳!」
乱馬の素早い無数の拳がおらを襲ってくるだ。じゃがおらとてその技は知っておるしスピードではおらの方が上じゃ。躱す事ぐらい造作もない。すかさず乱馬の攻撃を躱し、反撃に出る。これぞおらの作戦じゃ!
「いまじゃ!白鳥拳!」
・・・・そうじゃった。おらは暗器を持っておらんかった。おらの攻撃は乱馬には届かず、難無く避けられてしまっただ。全く、習慣というものは恐ろしいものじゃ。
「けっ!暗器の使わねえムースなんざ俺の敵じゃねえよ。大人しく素直に負けを認めたらどうだ?」
うぉのれー!言わせておけばーーー!こうなったらおらの実力を見せてやるだ!
「うりゃうりゃうりゃ!」
乱馬の攻撃がおらを休ませることなく襲ってくるだ。ひとまず間をとって攻撃に移るだ!
「秘技!鷹爪拳!」
暗器はなくともおらにはこのスピードがあるだ。おらの攻撃は乱馬をしかと捕えただ。
「うわあーーー!」
やっただ!おらは遂にやっただ!そう思った矢先、乱馬はすぐに起き上がってきておらに攻撃を加えようとしただ。やはりそう簡単にはいかぬか。
「なかなかやるじゃねえか。だけどな、俺だってそう簡単にはやられないぜ!」
そうこなくてはいかん。おらが暗器無しでも闘えるという事を骨身にたっぷり染み込ませてやるだ!今日は勝てるかもしれんのう・
「隙あり!」
油断したおらの体に乱馬のパンチが鋭く抉り込むように入っただ。
「まだまだ!猛虎高飛車!」
すかさず掌から繰り出される気弾がおらを撃つだ。さすがのおらもこれにはひとたまりもない。もはやここまでなんじゃろうか?・・・・いや!ここで終わってしまったらいつものおらとなんら変わる事はないだ。今日こそ乱馬に勝ってシャンプーを嫁にするだ!確かにおらには乱馬のような強い技や力はないだ。じゃがシャンプーを想う気持ちだけは絶対に誰にも負けんのじゃ!
「白鳥拳!」
今度はしっかりと乱馬に当たっただ。しかしここで油断してはさっきと同じじゃ。すかさずおらは攻撃を続ける。
「鷹爪拳!」
白鳥拳で空中に浮かせたおらはそのまま鷹爪拳で乱馬を叩き付けただ。暗器がない分体が軽く、スピードが増しただ。じゃがこのままで終わるとは思っておらん。乱馬は絶対に立ってくるだ。
シャンプーがこっちを見ているだ。おらは負けないだ。シャンプーを勝ち取るために、この勝負、おらの全てを賭けるだ。
「くっ・・・!こうなったら俺も全力を尽くして闘うしか勝ち目はねえな・・!」
やはり乱馬は立ってきただ。しかし何故かそのことがおらには嬉しく感じるだ。これが本当の闘いというものなんじゃろうか?しかしこの勝負、負けるわけにはいかんのじゃ。おらの闘気全てを持って決着を着けるだ!
「早乙女乱馬、覚悟!」
おらは乱馬に向かってありったけの闘気を乗せた拳で向かって行っただ。しかし乱馬は攻撃をかわすばかりじゃ。何を考えておるのじゃ?さっきからぐるぐると・・・・・・まさか!!!
「喰らえ!飛竜昇天破!」
気付いた時には遅かっただ!おらの体は宙に舞っていただ。この技を喰らうのはこれで2回目じゃな。この竜巻きの中ではどうする事も出来ん。しかしこのままではおらは地面に激突して勝負は決まってしまうだ!
「おらは・・・おらは・・絶対に負けねえだ!」
地面にぶつかる瞬間、おらは全ての闘気を使って竜巻きを掻き消しただ。しかしもうおらには力は残っておらん。やはりおらには始めから勝ち目はなかったのかもしれないだ。
「ムース・・・まさか飛竜昇天破を受けて立っているとはな・・・だがもう立っているのがやっとだろう!もう俺の勝ちは決まったな。」
仕方あるまい。これもおらの実力じゃ。それに暗器なしでここまで闘えた事にむしろ爽快感すらある。
「おらの・・・・負けじゃな・・・」
もう思い残す事はないだ。あとは中国で母ちゃんの手伝いでもして平和な日々を送るだ。
「これでようやく中国へ帰る決心がついただ。乱馬・・・本気で闘ってくれた事を感謝するだ。」
シャンプー・・・さよならじゃな・・・
「ムース!」
おらが帰ろうとしたその時、シャンプーがおらを呼び止めただ。
「ムース!なぜ、こんな闘いをしたか?なぜ、中国に帰るのか?」
シャンプー・・・なぜ泣いておるのじゃ?おまえの泣き顔を見るのはこれで2回目じゃな。
「シャンプー、今朝母ちゃんから手紙が来て決心した事なんじゃ。乱馬と闘って、負ければ中国へ帰る。そう決心したんじゃ。じゃからもう・・・・・さよならじゃ。どうか最後は笑って見送ってほしいだ。」
もうおらはシャンプーに会う事はないんじゃな・・・もし、シャンプーが里帰りしても、シャンプーの心にはおらはいない・・・この日本ともお別れじゃ・・・
「この国にシャンプーを追って来てからおらは幸せじゃった。乱馬にも会えた。喧嘩したり、協力したり、いろいろあったが今はどれもみんな良い思い出じゃ。じゃがシャンプー!おらはおまえだけを好きじゃった。そしてこれからもじゃ!これがおらの気持ちじゃ。シャンプーは幸せになるだ。それでは別了!」
ここにいるのはもはや辛い。はやく気持ちの整理をして諦めねば・・・



−−−歩道−−−

「ふう、あとは猫飯店で荷物をまとめて船に乗るだけじゃな。ここの景色も見納めじゃ。ゆっくり歩いてかえるとするかのぅ。」
おらが道を歩いていると突然おらの近くの地面が盛り上がっただ。そして破壊音とともに現れたのは・・・
「一体ここはどこなんだーーー!」
良牙じゃった。まったくこいつの方向音痴ときたら困ったもんじゃ。
「むっ!そこにいるのはムースじゃねぇか。どうした?元気がねぇな。」
おらは一通りの説明をしただ。
「そうか・・・おまえ、中国へ帰っちまうのか。まあ、その、なんだか寂しくなるな・・・」
良牙の一言がおらの胸を熱くするだ。おらとて正直寂しい。乱馬や良牙とは一緒に闘った仲じゃからな。
「おらとて心残りじゃ。良牙、おまえとは共に乱馬を倒すということに共通があったからの。」
「ああ、そうだな。・・・・・・・どうしても行くのか?」
おらを見る良牙。これが友というものなのだろうか。
「それじゃあおらは行くだ。」
ここにいてはおらの決心が鈍りそうじゃ。
「また・・・会えるよな?」
「もちろんじゃ!」


良牙と別れて数時間、やっとの事で港についただ。この近眼のせいで散々違う方向をみていただ。良牙の方向音痴のことは言えんな。シャンプーの事で日本に来て、シャンプーの事で中国へ帰る、皮肉じゃの。
「夕焼けが綺麗じゃ。まるでおらの心を慰めてくれているようじゃ。この船に乗れば日本ともお別れじゃ。」
「ムース!」
夕日を眺めていると後ろから呼び止められただ。振り向いたおらの前にはシャンプーがいただ。
「シャンプー・・・おらを見送りに来てくれただか?」
泣いてはだめじゃ!ここは笑って日本と、そしてシャンプーと別れるだ。
「ムース・・・・・でほしいね。」
「なんじゃ?よく聞こえんが何をしてほしいんじゃ?」
俯いて話すシャンプー。一体どうしたというんじゃ?
「行かないでほしいと言ったね!」
一体どういう事じゃ?さっぱりわけがわからん。しかしシャンプーはおらに確かに行くなと言っただ。
「私、変あるな。昔だたらおまえが帰る事別になんとも思わなかた。だけど今は違う!おまえが帰る言た時、とても苦しかた。だから行かないでほしいね。」
涙目になって話すシャンプー。あの気の強いシャンプーが・・・・
「じゃがおらは幼き頃おまえに負けただ。じゃからシャンプーを倒した乱馬を倒せばいいと思っておった。しかし結果はさっきの通りじゃ。中国の掟によっておらはもうシャンプーを諦め・・・・」
「そんな事どうでもいいね!」
おらの言葉はシャンプーの言葉に消されただ。
「ここは日本ね、中国と違う。それにおまえは乱馬に勝ているものある。だから問題ないね!」
「おらが乱馬に勝っているもの?」
そんなものあるのじゃろうか?少なくともおらはずっと乱馬に負けておった。そんなおらに乱馬に勝っているものなど・・・
「ムース、おまえ私の事好きと言ったね。」
たしかにおらはシャンプーの事が好きじゃ。
「乱馬には私に対して恋愛的感情はないね。だから私一生懸命乱馬に好かれるようにしてたね。でもそれは無駄だた。乱馬にはあかねがいるね。本当はもっと前から諦めはついてた。」
「シャンプー・・・・・」
「私を好きという気持ち、ムースの方が乱馬より上、違うか?」
「そうじゃ!おらは誰よりもシャンプーの事を愛してるだ!」
おらはシャンプーを抱き締める。
「おらで、いいのか?」
「今さら何言うてるか。」
夕日が沈むその港で、おらはシャンプーと抱き締めあった。
おらは絶対にシャンプーを幸せにするだ−ー−!








作者さまより

4年ほど前に書いておいたモノです。こういう形式で書いたのはこれが初めてなのですが、それと同時に同時リンクしているのも面白いと思ってその他のやつも書きました。乱馬編に時間がかかってしまい、そのまま忘れていたものです。
ムースの話はアニメ版での『ムース故郷に帰る』の続きといった形に書きました。原作でもアニメでも、ムースは悲惨な扱いなので、活躍させてやろうと思ったのがコレです。


 ムースというのは、らんまキャラの中で実は一番美形ではないかというのが、私の友人の娘さんの説です。確かに顔は乱馬よりも素敵かも。
 喋らなければ良いのに…の典型かもしれませんね。
 空回りばかりしているムースですが、シャンプーも本当は追いかけられて嬉しいのかもしれません。原作を読んでいても、ムースが不埒だと、ヤキモチを焼くシャンプーというのが多数お目にかかれます。
 でも、いつも不思議に思うのですが、シャンプーもムースも誰に日本語を習ったら、あんなになまるのでしょうか?
(一之瀬けいこ)


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