◇BOUNTY HUNTER  序章編
   赤の章  3つの使命を持つ女

武蔵さま作



ここは急速に文明が発達した世界。機械文明が主要となり、人々の生活はほとんどが機械によって保障されていた。しかしそれでも犯罪件数は一向に減らず、賞金首、賞金稼ぎ、警察機構の3つによって世界は成り立っていた。

女性の遺伝子が強いため、人口比率は女性が多く、女尊男卑とまではいかないが、女性が権力を握っていることだけは確かであった。当然聖騎士団もほとんどが女性で構成されている。白い布地の服の上に白金の鎧をつけて行動する彼女達を、人々は『白騎士』と呼んだ。


―――聖暦118年―――


「大聖堂が消えました!」
「今度は大聖堂なの・・・」
慌しい現状、そこはコンピュータールームの中で起こっていた。
「プログラムによりますと、消滅時刻は今から120秒前です。」
「わかったわ。すぐにプログラムを書き換えて。」
「了解。名称、場所、その他の詳細の登録完了。」

この町、リンバーグでは物が消えるという奇妙な出来事が起こっていた。『壊れる』のではなく、文字通りこの世から『消滅』するのだ。
そしてその消滅した物に関する記憶も人々の脳裏から消し去られてしまう。例えば今、大聖堂が消えたということは、あと数時間もすれば人々の記憶から消され、大聖堂があったという事実すら忘れ去られてしまうのだ。だからここにいる人達は、記憶のあるうちに消滅したものの情報を登録しておくのだ。


「さ〜て、それじゃそろそろ食事にしようか。」
「うん、賛成。」
ぞろぞろとその場から女性達が去っていく。しかしただ一人だけがその場に残っていた。
「・・・なんでみんなそんなに気楽でいられるのかしら・・・」
まだ少女のようなあどけなさが残る一人の女性は深刻な面持ちで溜め息を吐いた。

彼女の名前はあかね。まだ若いのに、騎士団では殲滅部隊の隊長である。
あかねは消される町並みを見て、不安に感じていたのだ。
「このままじゃいずれは・・・・」
全てが消滅し、忘れ去られてしまう。そんなことを考えていたのだ。確かに今の技術をもってすれば、今消え去った大聖堂でさえ、数週間もあれば復興することが出来る。しかしまた消されてしまえば結局はイタチゴッコである。資源にも限りがある。あかねはそんな考えを振り払うように、自分の頬を両手で挟むようにして叩いた。
「あかね、何してるん?早よせんと、食事なくなってまうで?」
「右京・・・うん、すぐ行く。」
右京と呼ばれた女性は、あかねがなかなか来ないのを心配して様子を見に来たのだ。そのまま二人は食堂へ向かった。

「それでね、九能隊長ったら――――」
「うっそ〜。良かった、私久遠寺隊長の隠密部隊で。」
食堂ではたくさんの女性達が話していた。この場にいる全てが騎士団員なのだが、この状況を見るととても規律が守られているようには見えない。
「あかね、今日は何食べるん?」
「う〜ん、じゃあ右京に任せるわ。」
「よっしゃ、任しとき!」
右京はすぐさま厨房の方へ行き、料理を持ってきた。
「ありがと。そういえば今日はシャンプーが調理の日だったわね。」
「せや、明日はうちの番やから楽しみにしてってな。」
目の前に置かれた中華料理を食べながら、あかねと右京は会話していた。
「あ、そっか。じゃあその次はあたしの番か。」
ピシッ!
一瞬空気が凍りついたように感じると、賑やかだったその場は一転して物静かな場所に変化した。
「あれ、どうしたのかな?みんな急に黙っちゃって・・・」
あかねは心底不思議な顔をしたが、周りのみんなの顔は引きつっていた。そう、あかねの料理はとてもではないが、食べられる代物ではない。もちろんあかね一人で全てをやるわけではなく何人かのグループでやるのだが、以前、あかねの味付けした料理を食した騎士団員は全員謎の腹痛に襲われ、その場に昏倒してしまったのだ。それ以来、あかねの料理は誰もが食べなくなった。
「・・・あかねは料理せんでもええんちゃう?」
「えっ、なんで?」
「いや、だから、その〜・・・」
右京が言葉に詰まっていると、そこへまた別の女性が声をかけてきた。
「料理のことは私と右京に任せるね。あかねは黙って座ってるよろし。」
「シャンプー・・・料理の方はもういいの?」
「後は曾婆ちゃんに任せたね。」
シャンプーは右京の隣に腰を下ろすと、あかねに向かって真剣な顔つきで言った。
「私は諜報部隊、右京は隠密部隊。私達二人とも隊長の立場にあるが、比較的戦闘は少ない。だが、あかねは違う。殲滅部隊、戦うこと第一。」
「せや、だから体を十分に休ませなあかん。」
「えっ、大丈夫よ。そのぐらい。」
右京とシャンプーの必死の説得も、あかねには気を使ってくれる友達の思いやりとして受け取られたようだ。
周りでは他の団員が二人を密かに激励していた。この場にいる全ての人の願い、それは・・・

「あかね(隊長)の料理は絶対に食べたくない!」

ということだった。
彼女等の悲痛な願いが届いたのか、あかねは仕方ないと言ったふうに納得した。
「わかったわよ。二人の心遣いを無下にしたくないしね。ありがとう。」
ホッと胸を撫で下ろす一同。
「じゃあ今度あたしの番が来たらとびっきりの料理をみんなに作るね。」
ガターン!
みんなが椅子から転げ落ちる。こうしてまた次回もあかねの説得に及ぶのだ。



―――コンピュータールーム―――

ピーッ、ピーッ!
警告音が室内に響き渡る。モニター画面を見ると同時に自動アナウンスが流れた。
「犯罪発生。犯罪発生。」
アナウンスを聞きながらあかね達は性格にコンピューターを操作している。
「場所、グリード街。C級犯罪。首謀者、Cランク賞金首王叉焼(ワン・チャーシュー)。」
次々と情報がモニターに映し出される。
情報収集が終えたら、今度は各部隊の隊長が集まって作戦を決めるので作戦会議室にあかね達は移動した。
「今回の任務は敵の戦力が不明につき、少数精鋭で行動することが得策かと思うわ。」
「せやな。じゃあ今回は団員は周辺警備及び敵の捕獲のために町外れにて待機でええか?」
「問題ないね。私達は突入及び王の確保重視ね。」
「そう言えば九能先輩は?」
各部隊長が集まる会議なのに九能の姿がないことに気が付いたあかねは周囲を見ながら尋ねた。
「ああ、九能先輩なら小太刀と別任務を行動中って聞いたで。」
「そう。」
ホッと胸を撫で下ろすあかね。正直、あの九能兄妹には迷惑をかけられっぱなしであるので、同じ団員としても関わりたくないのが本心である。
「ま、せやから気楽にいこうやないか。」
「そうね。あんまりない機会ね。」
作戦はあかね、右京、シャンプーが突入するということに決定した。作戦指示をマイクで団員に伝えると、皆は一斉に戦闘準備を整えるべく、ロッカールームに移動した。
胸部に白金の鎧を装着し、手甲(ガントレット)をつけると、団員達は壁にかけてある武器を手に取った。
さすがにこういう時の対応は、特殊訓練を受けただけあるしっかりとした動きであった。


―――グリード街―――

「ここが元スラム街だった町とは・・・」
「・・・とても思えんな。」
活気づいた町、グリード街。かつては荒れ果てた地であったが、亜人であるグリード人の手によって数十年で立派な街へと姿を変えたのだ。
「どうでもええけど、気に食わんな〜、あの銅像。」
右京が指した銅像とは、街の中心に置かれている巨大な剣を構えた1人の男の像である。
「まあ、確かにね。どうして好き好んで犯罪者の銅像なんか置いてあるのかしらね。」
銅像の下にある説明には『B・D この街の英雄』と彫られていた。
「よりにもよって100年前のS級賞金首を銅像にして祀ってるとは、信じられない行為ね。昔の人も変わたことするね。」
「だけど、マスクしててよく顔がわからないわね。」
「当然やろ。B・Dの素顔は誰一人見たことないんや。この銅像だけでも大したもんやで。」
今は任務を優先することが第一。右京とシャンプーは早く現場に向かおうと催促した。
ただ、あかねは銅像を見ながら不思議な感覚に駆られた。
「あかね、なにしてるのか?早くしないと置いてくね。」
「あっ、今行く!」
あかねが感じたこと、それは『B・Dに会うかもしれない』という感覚だった。
(まさかね。こんな奴に会いたくもないし、100年前の人間と会えるはずないものね。)


「各部隊はここで待機。あたし達はただ今をもって突入!」
団員を待機させると、あかね達は犯罪が起きた場所に突入していった。
現場には乱闘の痕跡があったものの、犯人達の姿はなかった。
「騎士団の者です。犯人達はどこへ・・?」
倒れている人を助け起こすと、あかねはそのまま犯人の手掛かりを尋ねた。
「金品を奪って・・・西の方へ・・・」
男はそのまま意識を失った。あかね達は一部隊を被害者の救出に向かわせると、犯人を追跡した。
「あかん、何もわからへん。」
手掛かりは途中で途切れ、犯人がどこへ逃げたかもわからなくなった。少なくとも街の外へ逃げることは不可能なので、まだこの街にいることは確かだった。
「一体どこに・・・」
あかねが壁に手を置いた瞬間、その部分が窪み、中へと繋がる通路が現れた。
(なるほど、隠し通路ってわけね。)
あかね、右京、シャンプーは互いに顔を見合わせて一度頷くと、そのまま中へ突入した。


カツーン、カツーン
薄暗く、狭い通路を三人のブーツの音が響いた。
「それにしてもとても、古い場所ね。」
「そうね、確かにここだけ人の手が加えられてないわね。」
「あ、扉や。」
扉を開くと、中からざわめいた声が聞こえた。扉の奥へ三人が入ると、そのざわめきは沈黙に変わった。
「誰だ?」
1人の男があかね達に尋ねた。
「私達に聞いているのか?」
「格好見てわからんのか?」
「いや、でも暗くて見えないのかもしれないわ。」
あかね達のやりとりを見た男達は再び騒ぎ立てた。
「まさか・・・聖騎士団か?」
「そのとおり!」
光に照らされて姿が認識したと同時に、あかね達は臨戦態勢をとった。
「いくで!」
右京が懐から小さな透き通った玉を取り出す。そして意識を集中させるように目を瞑ると、玉の形が光りながら変わりだした。棒状に伸びていくかと思えばそのまま先端が大きく広がって固定された。その形はまさに巨大なヘラであった。
「どうりゃー!」
そのままその武器で相手を薙ぎ倒していく右京。跳ね飛ばされた男は後ろの男に当たってもなお止まらず、そのまま数人を跳ね飛ばして倒れた。
「どや?うちの『ヤキ一文字』の味は?」
先制攻撃が終わった右京は武器を肩に担いで言った。
「ずるいね、右京!」
シャンプーが次いで自分の持っていた玉にに意識を集中させる。シャンプーの武器は元の形状も右京より若干短めではあるが、二本一対の棒状の武器になった。先端に丸い球体が付いた二つの武器は、右京同様打撃専用の武器であった。
「私の『女傑棍』の方が強いね。」
シャンプーもその武器でどんどん敵を倒していく。あかねもそれに続いて武器を戦闘用に変化させた。あかねの武器は突き技に優れているレイピアであった。(武器名『雷鳴』)その撓(しな)る剣先から繰り出される突き技は強烈なものである。あかね自身、不殺を心掛け、基本的に急所を狙うようなことはしなかった。それは右京とシャンプーも同様である。


10分は経過しただろうか。300人近くいた敵は残すは賞金首のリーダー、王叉焼の姿のみあった。あかねは王にリモコンのようなものを向けると、ボタンを押した。
ピーーーッ!
機械音が鳴ると、あかねはそのまま王の方を向いて言った。
「Cランク賞金首、王叉焼に間違いないわ。」
王は戦意喪失してしまい、武器を取ろうとも逃げようとも思わなかった。
「C級犯罪行使によって逮捕します。」
あかねが手錠をしようとすると、王はブツブツと呟き始めた。
「ここは俺達一家の縄張りだったんだ・・・あいつさえ、あいつさえいなければ・・・」
「なんのこっちゃ?」
言っていることはわからなかったが、取り敢えず王の逮捕を完了したあかね達は、留置所に王を入れると、再び仕事に取り掛かった。


「さっき、王が言ってたことって何なんや?」
「うん、ちょっと気になって調べて見たらわかったんだけど・・・」
あかねがコンピューターを使って何やら調べていると、右京とシャンプーが近づいてきた。
「どうも100年ほど前に、王ファミリーっていうマフィアグループがあったの。そのマフィアは今のグリード街を仕切っていたみたいね。王叉焼はその子孫にあたるわ。」
「なるほどな、それであないな事言うてたんか。」
「マフィアの子孫も落ちたものね。」
面白そうに色々とデータを見る右京とシャンプー。
「せやけど何でそいつらマフィアはいなくなったん?」
「ええ、今調べてたら分かったわ。グリード街の中心に置いてあるあの銅像と関係があったのよ。」
「銅像っていうとあの『B・D』の?」
「そう、記録によると、B・Dが当時のマフィアを仕切っていた王坦麺(ワン・タンメン)を捕まえて、財産をグリード人に全て渡したらしいわ。まあその際、マフィアは壊滅状態になったそうよ。」
事の真相が段々とわかって納得する3人。
「ほならそいつ、ええ奴なんちゃう?」
右京の意見に同意するように隣でコクコクと頷くシャンプー。あかねはそれに対し、怒気を含みながら言った。
「何言ってるのよ!そんな訳ないじゃない。だったらなんでSランク賞金首の位置にいるのよ。罪状の中には大量虐殺だってあるのよ!?当時、政府からもDEAD OR ALIVE(生死問わず)に指定されたって記録もある。憶測だけで判断しないでよ!」
「わ、わかったって、うちらが悪かった。せやからそないに怒らんでも・・・」
人一倍正義感の強いあかねにこの言葉は禁句だったと思い直す右京とシャンプー。あかねも落ち着いたのか、もうその事には触れなかった。
しかし、あかねの中には渦巻く気持ちがあった。

(もし、100年前にあたしがいたら、当時政府と関わっていたマフィアを捕まえることができただろうか・・・?法に縛られているあたし達にはどうすることもできなかったかもしれない。腕に自身のある賞金首だからできた事だ。だけど自分の特にならないことをなんでやったんだろう?)

あかねは自分の持つ疑問を掻き消すように頭を振った。
「関係ないわ!どうせ自分に掛けられた賞金額を上げるために決まってる!」
あかねは余計なことを考えないように次の仕事に取り掛かった。


―――数日後―――

あかねの父である早雲は、聖騎士団の団長であった。早雲は各隊長を招集すると、深刻な面持ちで話し出した。
「連日起こっている物の消滅するという奇怪な事件、あの真相がわかった。」
早雲の言葉を黙って聞く各隊長。その中には当然、あかねの姿もあった。
「物事には『起源』があるのは知っていると思うが、その起源のポイント、すなわち起源点を操作している人物がいるらしい。」
早雲の言葉に皆驚きの声を上げた。
「そんなことが可能なんか?」
右京の質問に早雲は黙って頷き、言葉を続けた。
「その人物は今からちょうど200年前の時代にいる。そこからわかることは、その人物は時空間転移能力を持っているということだ。このことから、私はこの人物は我々よりも未来からやってきたと推測している。」
「なるほどな。確かに未来を都合良く変えるには相当の技術が必要だ。その技術は我々でさえもまだ難しい。すなわち未来人の仕業だということか。」
1人の男が顎に手を当てながら推測した。すると隣にいた女性が彼を讃えた。
「さすがお兄様ですわ。確かにそれなら理に適ってますわ。」
この二人は九能帯刀と九能小太刀という兄妹である。しかし騎士団の中ではその変態ぶりに迷惑しているものは数多い。
「九能君の言うとおりだ。しかしその者が何者であれ、これは立派な重罪だ。そこでそれに対抗すべく、我々の時代からも時空間転移能力の適性者を発見することができた。」
早雲の説明では、その時空間転移能力の適性者がまず過去に行くことが第一の目的とすることだった。
「では、その適性者を捜し出せばいいのね?」
あかねの質問に早雲は首を振った。
「いや、もう適性者は見つかっている。」
「「えっ!?」」
驚く隊長達を他所に、早雲は一言はっきりと言った。
「あかね、おまえだ。」
一瞬その場の空気が静まった。
「あたしが・・・・適性者・・・?」
「詳しいことは女王陛下より話があるそうだ。」
そのまま会議は終了し、皆それぞれの任務についていく中、あかねは女王の待つ宮殿へ足を運んだ。


この国を統治しているのは女王である。女性の権力が強いので、自然とそうなった。しかしこの女王は宮殿内に幽閉されているといっても過言ではない状態にあった。
宮殿の外へ出ることは許されず、一部の者しか会うこともできなかった。
「女王、聖騎士団長の早雲に御座います。あかねを連れて参りました。」
早雲が扉の外で礼をしながら言うと、中から優しそうな声が聞こえてきた。
「ご苦労です。どうぞ中へお入りください。」
あかねも女王に会うのは初めてなので、緊張しながら部屋の中に入った。
「お初にお目にかかります。天道あかねです。」
あかねは精一杯失礼のないように礼儀正しく挨拶した。
「こちらこそ初めまして。あかねちゃんと呼んでもいいかしら?」
女王はにっこり笑うと、あかねの方をしっかりと見ながら言った。
「は、はい。」
王位という立場にも拘らず、くだけた感じの女王にあかねは戸惑いつつも、好感を持った。
「そんなに緊張しなくてもいいのよ。女王なんて肩書きだけで、あとは普通のおばさんなんだから。」
ニコニコと笑う女王に、あかねはすぐに落ち着くことができた。
「それじゃ、早速説明しようかしら。」
女王はあかねが落ち着いたのを見ると、明るく話し出した。
「あなたが時空間転移能力の適性者であることは聞いたはずよね?」
「はい。突然だったので驚きましたが・・・」
「ええ、では任務内容を伝えるわね。あなたはこれから100年前の時代に行ってもらいます。」
「は?」
あかねは訳がわからないといった表情をした。自分が適性者であり、過去へ行く方法があるのならば、そのまま200年前へ行き、その起源点を操作している人物を捕まえればいいだけの話なのだ。100年前には全く関係ないと思ったのだ。
すると女王は赤い石の埋め込まれたペンダントを首からはずすと、あかねに手渡した。
「これは・・・?」
「これはパワーストーン。過去へ行くために必要な物よ。ただしこれを使って行くことができる時代はちょうど100年前のみ。それ以上もそれ以下の時代も行くことは不可能なのよ。」
「じゃあ、200年前に行くことはできないのですか?」
あかねの言うことはもっともである。100年前にしか行けないのならば、問題は何も解決しないのである。
「そうね、だからこそ100年前に行ってほしいの。」
「どういうことですか?」
女王は静かに言葉を続けた。
「100年前にはこのペンダントと対を成す、青い石のペンダントがあるはずよ。それとこのペンダントを合成させればそれ以上の時空移動は可能なはずよ。」
女王の説明が終わると、今まで黙っていた早雲が喋りだした。
「そういうことだ。おまえの任務は3つ。1つはそのペンダントを捜すこと。2つ目はその時代の適性者を捜すこと。3つ目はペンダントと適性者をこの時代に連れてくることだ。」
「でも、適性者って・・・」
「大丈夫だ。今その時代の適性者を調べているところだ。」
あかねが安心していると、女王が深刻そうな面持ちであかねに言った。
「適性者だけがこのパワーストーンを扱うことができるわ。でも適性者は世界にただ1人だけだから、見つけるのは困難よ。」
あかねが驚いた表情をしていると、女王は言葉を続けた。
「実は私があかねちゃんの前の時空間転移能力者だったのよ。」
「ええっ!?」
さらに驚くあかね。しかし女王は少し寂しげな表情で言った。
「いつのまにかその能力がなくなってしまってね。そしたらあかねちゃんが次の後継者だってわかったのよ。」


その後も女王から色々話を聞き、あかねは任務を遂行すべく、準備を整えた。


―――コンピュータールーム―――

「何〜!適性者が3人だと!?」
早雲の驚愕の声が響き渡った。聖暦18年の時空間転移能力者の候補が3人もいたのだ。実際はありえないことだが、事実、そう出てしまったことには仕方がない。あかねはその全ての人物を当たることとなった。
1人はあの『B・D』、2人目は聖騎士団殲滅部隊長『R』、3人目は賞金稼ぎ、コードネーム『D・A』(ダークエンジェル)である。
「なんかえらい事んなってもーたな。」
あかねはその日、たくさんの人に見送られた。なにしろ、100年前に行ってもペンダントが見つからなければ戻る方法さえないのだ。危険な旅を承知したあかねに街の皆は励ましながら見送ってくれた。
「100年前は色々と犯罪が起きているらしいわ。あたし、男として行動した方がいいかも。」
あかねはそういうと、肩下まであった長い髪をバッサリ切り落とした。
「それじゃ、行ってくる!」


天道あかね、18歳。聖騎士団の殲滅部隊長であり、その実力は世間に名を轟かすほどである。時空間転移能力を持ち、過去へ行くという重大な任務を遂行する事になる。

しかし、無事に戻って来れる保障はどこにもない。



つづく




作者さまより

 あかねサイドです。別に王(ワン)さんに怨みは御座いません。本当にこの名前の人がいたらすんません。
 武器ですが、あれの説明は後日話に書きます。最初は玉ではなく、剣でした。この時点である事に気付く人もいるでしょうが、基本的には原作の武器を使用しました。乱馬とあかねのみ、自分のオリジナルです。



 原作をベースに、オリジナル色を出して話を作っていく。パラレル二次創作の醍醐味でもあります。
 聖騎士団の殲滅部隊長。肩書きを見ただけでも、凛々しく崇高なイメージが…。
 どんな邂逅が乱馬とあかねを待ち受けているのでしょうか?

 なお「DA」は一之瀬のDARK ANGELからの創作だそうであります。
 楽しみにお待ちしております。


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